戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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好き勝手書けるのが二次創作の醍醐味だってばっちゃんが言ってた。


22 -御礼参り-

 戻ったら戻ったでまぁ大変であった。支部に到着して早々カリーナには大泣きで抱きつかれるし、他の部隊の人形からは次々に大丈夫だったのかとか怪我は無いかとか色々と心配されてしまった。あのねえ、確かに俺はただのおじさんだし君たち人形より脆いのは重々理解していることだが、パッと見て無事なの分かんない? 心配してもらえることは嬉しくはあるのだが、そんな要介護者みたいな扱いされても困る。そんなこんなの大騒ぎで司令室が一時ハチャメチャな状態になってしまったんだが、なんか俺が外出する度に大変になってない? 大丈夫? あまりに心配され過ぎて一周回って身の危険を感じる。最終的にこの支部内で拉致監禁とか嫌だぞ俺は。人並みの自由は謳歌したいところである。

 で、人形たちは置いとくとして、カリーナに心配をかけてしまったのは事実なのでそこはきっちり話をしておいた。中々泣き止んでくれなかったからてこずったとも言う。次は私もご一緒しますとか言ってたけどお前後方幕僚だろ、大人しく引っ込んでなさい。カリーナが相手では多くを語れないが、俺は既に一度死んだ身であって最早G&K以外で生計を立てる手段がないから骨を埋める覚悟が持てているだけであり、彼女はまだ若いし優秀だ。脛に傷があるという訳でもないだろう、こんなところで命を懸ける必要性が全くない。俺としては真っ当な生活を送って真っ当にその寿命を全うして頂きたいものだ。カリーナは確かに組織図上俺の部下ではあるんだが、娘みたいな感覚もあるんだよな。

 

 廃工場から支部に戻る途中、俺の義足にGPS機能が備わっているなどという驚愕の事実が判明したわけだが、それはそれとして、S02地区の戦線から第一部隊が俺の救出にやってくるまで、どういう経緯があったのかを聞いておいた。勿論後で報告書も提出させるが、一次報告として口頭でも状況を聞いておかなきゃな。移動中なもんでそれ以外に特にやることがなかったとも言うが。

 

 俺との通信が途絶えた直後、斬撃を飛ばしてナインのダミーをぶっ潰した処刑人だったが、どうやら戦闘を開始する前に少々会話のターンがあったようである。曰く、やっとマシな奴が出てきただとか、他の人形は脆くてつまらんだとか、まあ絵に描いたような戦闘狂みたいなキャラだったそうだ。で、その後しばらくは削り合いが続いたっぽいのだが、ふとした拍子に処刑人が口を滑らせてしまったらしい。多分骨のある相手と戦えてテンションが上がっていたんだろうな、外骨格を大いに削られながらもそれはそれは楽しそうな顔だったそうな。それで作戦の肝をポロっと言ってしまったものだから、被弾を無視していきなり最高速まで加速したSOPMODⅡにあえなく御用となった、と。その後はなんか聞きながら気分が悪くなりそうだったので話半分に流していた。「楽しかったよー!」と無邪気な笑顔とともに事細かに拷問の内容を話される身にもなって欲しい。敵なのは間違いないから止めろとも強くは言えないしつらい。ちょっと処刑人が可哀想に思えてきた。

 ただ、そのせいで作戦そのものは潰せたものの、SOPMODⅡのダミーは3体オシャカになったそうだ。うわーん、これはこれでヘリアントスかクルーガーあたりからお小言が飛んできそう。やだなあ、あいつらのダミーちょっと割高なんだよ。そこをケチるとオリジナルと同じ運動性能が出せないから、渋るわけにもいかん。でもSOPMODⅡが吶喊してくれたおかげで処刑人を確保出来たし、結果狩人とも有利な状況でお話することが出来たので、叱るだけってのも何か違う。うーん、ここらへんの塩梅は非常に難しいな。E.L.I.D相手に人間の部隊を纏めていた時の方がその辺りは楽だったかもしれない。俺もまだまだ勉強せねばならぬ。女性の扱い方とかはノーカンで。

 

 しかし、処刑人に狩人かあ。スケアクロウなんかは喋る間もなくぶち殺されてたんだろうが、あいつら妙に人間くさかったな。鉄血人形ってのはその全てがバグってて人類絶対殺すマシーンに成り果てているとばかり思っていたが、もしかしたら一概にそうとも言えないのかもしれないな。まぁアレがただのブラフで次こそ本気で殺してやるぜなんて思われてたらどうしようもないんだけど。そうなったらそうなったで鉄屑のお掃除をするだけだから、別に今までと何かが変わるわけじゃないんだが、折角見えたチャンスなのだから、実ってくれると嬉しいなくらいには思っている。結果ばかりはそれこそ神のみぞ知るってところか、精々居るかどうかも分かりゃしない神サマにお祈りでも捧げておくとするか。

 

 

 

「し、ししししし指揮官さまァ!!?」

 

 おじさん拉致事件から数日。狩人に破壊された支部入口のゲートに復旧用の自律人形を要請し、その作業が進みつつある頃合。S02地区との戦闘で傷ついた戦術人形たちのダミーの修復も終え、緊急任務相当の報酬も頂き、同時にヘリアントスへハイエンドモデルの破壊が後一歩のところで出来なかったと適当に報告内容を調整し、幾つかのお小言を頂戴したりもしたが、まぁ特段変哲も無く過ごしていた午後の時分。支部の正面センサーが来客の反応を示し、その内容を確認した後方幕僚兼副官のカリーナが、意味の分からない叫びを上げていた。

 何事かと思いモニターを覗き込むと、そこには何だか見覚えのある人型が2体。黒と白のカラーリングを基調とし、一般的な量産型の戦術人形より二回りは大きい機械人形の片方が不敵な笑みを浮かべ、片方が能面を貼り付けたような顔でモニターカメラを睨んでいた。

 

 いやいや。いやいやいやいやいや。そりゃね、確かに俺は遊びに来るなら歓迎するとは言ったよ? そこに間違いはないし嘘もないんだが、馬鹿じゃないのこいつら。まさか言葉の額面どおり遊びに来たとか言うつもりじゃないだろうな。ちょっとあまりの事態に理解が追いつかない。いやまぁ、うちの支部の位置情報は割れているんだから、別に来ること自体は不思議じゃない。でも君たちさぁ、もうちょっとこう、何ていうかこう、あるだろ。俺らと君たちの関係はご近所付き合いするお隣さんじゃないんだぞ。

 もしかしたらこうやって俺の油断と落胆を誘いつつ奇襲してくる戦法なのかもしれない。二人ともしっかり武器は持っているようだから、どちらにせよ油断は出来ないな。とりあえず第一部隊を至急呼び出して俺の護衛に付けておくか。ただ俺も正直あまり正対したくはないんだよなあ。いくら護衛が居たとしても、ダミーとは言え戦術人形の反応が追い付かない武器を持った相手に、真正面から向かい合うなど誰が好き好んでやるというのだ。俺だって無駄死にはしたくない。

 いやしかし、敵とは言えこうやって破壊活動を行うこともなく、礼儀正しくやってきた相手を無下に扱うのも社会人としてダメなのか? いかん、よく分からなくなってきた。これが作戦なら大したものだ、敵の司令塔を大いに混乱させることに成功しているぞ。

 

 うーん、悩んでても仕方ない、か? 今のところ建物に攻撃を加えたりする様子はない。まずは第一部隊に相手をさせてみよう。いきなりオリジナルを出して奇襲でも食らおうものなら大損なので、ダミーを出させて様子を伺うことにするか。同時に、モニターカメラ越しの通話を試みる。少なくともこうやって訪ねてくる以上会話は成立するはずだ。問答無用ならこんな事態になっていないはずだしな。

 

『そちらの指揮官と直接話がしたい。少なくとも今日危害を加えるつもりはない』

 

 こちらの問い掛けに応えたのは狩人の方だった。うーむ、お話ときたか。別にそれだけならこうやってモニター越しでもいいんじゃないのとは思うが、さてどうするべきか。そうだな、とりあえず用件は分かった。ただ、こいつらも当然分かっているだろうが本来俺たちは敵同士。ハイ分かりましたとのこのこ出て行くわけにもいかない。お互いの安全のために、先ずは武器を手放してもらおう。こちらも対応のためダミーを出させてもらうが、そいつには武器を携行させない。これでどうだ。

 

『了解した。これでいいか』

 

 要望をそのまま伝えると、特に反論や不満を返されるでもなく、狩人と処刑人は素直に従った。前者は新しく作り直したのか、大型のハンドガンを二つ。後者は馬鹿でかいブレードとハンドガンをそれぞれ一つ。支部入口の地面に置き、再度カメラへ視線を向けていた。

 ふむ、従ってくれるか。なら、それと同等の誠意はこちらも見せておかなければな。宣言通りこちらも丸腰のダミーを出させよう。うーん、ダミーだから誰のでもいいんだが、M16A1のやつにしておこう。防弾ベスト着てるから隠し持ったサイドアームがあったとしても多少は耐えられるだろうし、一番動きもいいからな。

 流石にあいつらを支部の中にまで案内するわけにはいかんので、正面玄関で応対することになる。従ってくれているところで申し訳ない気持ちもあるんだが、ここで安易に迎合してしまうのはただの馬鹿だ。M16A1のダミーには狩人と処刑人の武器を見張らせておこう。俺自身は丸腰で出るが、護衛は付けさせてもらう。ただ、直接的な危害を加えられない限り、こちらから先制することは無いと約束する。信じてもらえるかは分からんが、それでもよければ直接立ち会おう。

 

『構わない。繰り返すが、今日は争いに来たわけじゃないんでな』

『わざわざこうして来てやってんだ、何時まで待たせんだよ』

 

 何だあいつ、敵のくせに随分と図々しいな。

 

「指揮官、本気で出るつもりか? 何があるか分からんぞ」

 

 至急呼び寄せた第一部隊、その部隊員であり先だってダミーを向かわせているM16A1が心配そうに声をかけてくる。いやまぁ、俺だってどうかしてると思うよ。異論は認める。がしかし、折角面白そうなイベントになりそうだからなあ、もしかしたらこの間の賭けに勝っているかもしれんし。ベットされるのが俺の命程度なら悪くない内容だと思う。それに、あいつらもAR小隊の強さは身に沁みて分かっているはずだ。丸腰の状態で自分から死地に飛び込む程馬鹿じゃないことを祈るしかない。処刑人はともかく、狩人はそこそこ話が分かりそうだしな。

 

 

 

 

「数日振りだな、人間」

 

 第一部隊の面々に囲まれて鉄血のハイエンドモデル2体とグリフィン支部の入口で正対するとかいう訳の分からない事態。そんな混沌の最中、第一声を発したのはハイエンドモデル、狩人だった。うーん、相変わらずいい身体してやがる。これが再び見れただけでも役得としておこう。処刑人もまともな姿を見るのは初めてだが、うーむ、ナイス。やっぱ胸も大事だけど女性の身体は下半身だよな。いいフトモモだ。これを設計したヤツ、やはり分かっているな。名も知らんが、惜しい技術者を亡くした。

 ていうか今更なんだが、よくこっちの要望飲んだもんだな。敵陣に押しかける方もどうかと思うが、普通敵地のど真ん中で自分の得物をあっさり手放すか?

 

「殺すつもりなら私たちはあの時既に死んでいた。今日にしても、わざわざ応対するまでもなく撃ち殺せば済む話だ。最初からそのつもりなら、貴様はこんな無駄なことはせんだろう」

 

 ふーむ、こいつ結構頭回るな。少なくとも事前の情報と現状を踏まえ、自分なりの推論を立てられる程度にはAIの思考能力が高い。俺個人に対しての分析も並行して行っているところも高ポイント。用件次第だが、これはひょっとしたらひょっとするかもしれない。そんで、肝心の用件ってのは一体何なんだろうな。まさか本当にご挨拶だけって訳でもあるまい。

 

「貴様らは敵だ。それは変わらん。だが、処刑人を生かしてくれたことに加えて貴様の言にも一理あると思ってな、修復を終えた後に話をしたんだが」

「俺はとにかく暴れたいだけだからよ、難しいことを考えるのは苦手なんだが……まァ、なんだ。俺は死ぬことなんざ怖くねえが、コイツが先に逝っちまうことを考えてみたんだわ」

 

 んー。いまいち結論が見えてこないが、多分悪い方向の話じゃあなさそうだな。I.O.P社製の人形と同じく、擬似感情モジュールがいい意味で働いていると見える。多分こいつら普段から仲良いんだろうな。今まではその性能で人類相手に無双出来ていたんだろうが、AR小隊という強敵にぶつかって、お互いがお互いを失ってしまう可能性について初めて考えることが出来たんだろう。バックアップは取れるが、自我や感情は持ち越せないデメリットを感じるようになってしまったってことか。

 いや、いいことなんじゃないか? 確かにお前らは敵だし、戦場でぶつかり合えば殺しも殺されもするだろう。俺も生身ではあるが昔はそういう場所に身を置いていたしな。たまたま俺は今日まで生き残ってしまったが、一生の相棒だとまで思えたやつが先に逝ってしまったこともあるし、可愛い部下が俺のミスで死んでしまったこともある。俺だって、何度あいつらの代わりになれればよかったかと考えたこともあるさ。

 お互いを想いやる気持ちに、敵味方も貴賎も無い。ただ、もしそこに一つだけこっちの我侭を言わせて貰うとすれば、その感情は相手も同じように持っている可能性が高い、ってところを分かっておいて欲しいくらいだ。勿論、敵を殺すなって話じゃなくてな。そういうのも飲み込んで、踏み越えて、生き残るのが戦争だ。ただの駒の殺し合いじゃないんだってのを理解してくれれば俺からは何もない。

 

「…………なるほどな。私は私が思う以上に今の個体に執着を持っていたらしい」

「難しくてよく分かんねえな。とにかく、俺が死ぬのは構わんが、コイツがくたばるのはちょっと嫌なだけだ」

「お前が先に逝くのは私が困る」

 

 ちょっとー? やっすいラブコメ目の前で見せ付けてくるのやめてくれます? しかし鉄血人形のハイエンドモデルってのは色々とすげえな。多分今までそういう切欠が無かっただけで、一度その類の感情を持ち合わせてしまえば、優秀な電脳が様々な演算を行って瞬く間にI.O.P社製の人形……というか、人間と同じような思考に辿り着いてしまう。うーん、困ったな。とは言ってもこいつらと仲良しこよしなんて出来る訳もなし、むしろ今後戦場で相見えたらやりづらい。まぁ殺さないとこっちが死ぬからやるしかないんだけどさ。こんなことならE.L.I.Dしばき回してる方が精神的に楽だったわ。

 

「で、結局どうしたいんだお前ら。今からドンパチおっぱじめるわけじゃないんだろ?」

 

 俺と鉄血の会話を横で聞きながら、今まで無言を保っていたM16A1が半ば投げやりにその声を発する。油断こそしていないが、先程まで見え隠れしていた殺気みたいなのはほぼ無くなっているな。こいつはこいつで二人の会話に毒気を抜かれたのかもしれない。いや、同じ人形だからこそ分かる部分もあるのかもしれないな。

 

「改めて話をして理解した。やはり間違ってはいなかったようだな」

「マジでやんのか? 俺は別にいいけどよ」

 

 うーん、何とも要領を得ない言葉だ。処刑人の台詞から、何かをやるらしい、ということは分かるがそれが何なのかサッパリ分からない。いきなり爆発とかはやめて欲しいんだけど大丈夫かな。

 

「……グッ!」

「くぁ……ッ!」

 

 バチン、と。何かが弾けるような音がすぐ傍から聞こえた。音のした方向では、処刑人と狩人がそれぞれ苦悶の表情を浮かべている。まさかと思い周囲を見渡すが、俺の護衛に付いているAR小隊の誰も何もしていない。勝手に攻撃を加えたという訳ではなさそうだ。あーよかった。ここまで話をしておいて先制攻撃を仕掛けました、ではどうにもケツの締まりが悪い。別に鉄血相手だからそんな遠慮も要らないとは思うが、やはり最低限の節度は持っておかなければな。それは味方だけでなく、敵に対しても同様だ。特に相手が誠意を見せているのにこっちが一方的に踏み躙るようなことは避けたい。

 謎のスパークは収まったのか、その表情を徐々に先刻までのものに戻す2体。ふるふると、両者ともが幾度か頭を振る様を眺めることしばし。すっかり落ち着いた様子の狩人と処刑人が、その口を動かした。

 

 

 

 

 

「ネットワークリンクモジュールをこちらから焼き切った。これで我々はバックアップも人形の支配権限もない、ただの一人形だ。替えの利かないオリジナルに成った、というところか。ふん、存外悪くない気分だ」

「ま、そんな訳で俺らは今からただの根無し草だ。お前らに味方するつもりは無えが、敵対するつもりも無い。適当にやっていくさ」

 

 

 んん? 今なんて?




どうすんのこれ。どうすんのこれぇ(困惑



全然脇道の話なんですが、おじさんに他所との交友関係やコネクションみたいなのはG&K関係を除いて一切ありません。正確に言えば、昔はそれなりにあったのかもしれませんが、世間的にはとっくに死亡している人間なので活かせません。
おじさんぼっち。かなしい。

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