戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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おじさん、キレる。


今回一部表現が汚いです。予めご了承ください。


24 -近未来的ドールズコレクション-

『命中、ターゲット沈黙。指揮官、次はどれを狙えばいい』

『ひれ伏せ、虫どもめ……!』

『ナイン! 戦線を押し上げるわよ!!』

『了解45姉! 消えちまえー!』

『ターゲット発見、突撃!』

『Gute! いいところに来たな、愚か者どもめ!』

『敵だろうが味方だろうが、負けてたまるかってーの!』

『奴らを殲滅するぞォ!』

『だにゃ! 追っ払うにゃあああ!!』

『狩人! そっちに流れたぞ!』

『任せろ。指示通り引き付けておいてやる』

『オラ一丁上がりィ! おい人間! 次はどうすんだァ!?』

 

 誰か教えてくれ。俺は何故、手持ちの全部隊を動員して、更には鉄血のハイエンドモデルにまで指示を出しながら突然の支部防衛戦を繰り広げているんだ。何の因果でこうなってしまっているのかはサッパリ分からんが、原因は間違いなくあのヘッポコハイエンドどもだろう。

 

 

 それはもう本当につい先刻のことだ。数日振りにいきなり押し掛けてきた処刑人と狩人。匿ってくれなどというフザけた戯言を声高に訴えてきた馬鹿どもを、最大級の不機嫌でもって追い返そうとしていたはずなんだ俺は。ついこの間お前らを直接的に援助することは出来ないと念を押して伝えたばっかりじゃん。何がどう巡り巡ってウチの支部に匿ってくれなどと言えるんだこいつらは。

 たとえどんな窮地に陥ろうとも、俺らがこいつら2体を助ける義理がこれっぽっちも無い。それくらい理解していると思っていたんだが、俺の予想の三段階くらい下を潜ってきたもんだから、呆れと怒りが丁度半々くらいの塩梅で俺の不機嫌度ゲージが許容量一杯まで溜まってしまっていた。

 何度か問答を繰り返すものの何故か今のあいつらに取り付く島もなし。いい加減怒鳴りつけて追い返してやろうと思った矢先、処刑人が先程までとは些か毛色の違った声を上げた。

 

『……げ、来やがった!』

 

 何が来たんだよ。もう嫌な予感しかしない。そもそもこの支部の位置情報は既に鉄血に割れている。だからこそあいつらもここに来れたんだが、更にあいつらが嫌がるような、しかも俺のスケジュールに予定の無い来客など最早一つしか考えられなかった。

 隣で慌てふためいている副官をどうにか宥めすかし、急ぎドローンを起動させる。程なくして基地から飛び立ったドローンカメラが司令室のスクリーンに映し出した光景は、数えるのも億劫になるほどの鉄血人形の群れだった。キレそう。

 むしろ、それだけならまだよかった。どれだけ量産型の鉄屑が集まろうが、事前に捉えることさえ出来れば敵じゃあない。しかもS02地区の時と違い、今回はこちらが守る側だ。地理的優位はこちらにある。消耗はするが、勝利するには問題のない手合い。そのはずだった。夥しい数の群れの中、どう控え目に見ても普通の量産型より二回りは大きい、周囲に浮遊兵器を漂わせた人形が複数体見当たりさえしなければ。

 

 発見と同時、全域マイクを通して支部の全部隊を戦闘装備で緊急召集。ちょっとシャレになってないぞこれ。多分あれスケアクロウだよな、何で複数居るんだよ。俺の予測が外れていたのか。いや今はそんなことを考えてる場合じゃない。一刻も早く体制を整えて迎撃に当たらないとこっちが詰む。つーか何てモノを引き連れてきてんだあいつら。マジでシバくぞ。

 処刑人が匿ってくれと言っていたのはこのことか。大方、鉄血とのネットワークを一方的に遮断したことで、向こうでは造反判定でも下されたのだろう。のこのこと基地に帰ってきた裏切り者のハイエンドを処分するためにあの大編成が組まれたと考えると、一応ストーリーの辻褄は合う。100%自業自得じゃん。キレそう。

 本部とのリンクが途切れたとはいえ、その性能は変わらない。ハイエンドモデル2体を屠るには量産型だけではあまりにも力不足。その判断を下した鉄血側は腹立たしいほどに正しい。だからこそ、量産型に混じって結構な数のスケアクロウが居るんだろう。キレそう。

 多分、あいつらだけでも相当の数は倒せるはずだ。というか、あの2体の性格からして最初は応戦しただろう。腐っても鉄血のハイエンドモデル、その戦闘能力は折り紙付きだ。だが、現状補給の目処も、修復の目処も立っていない。量産型だけならともかく同じハイエンドモデルを、それも複数相手にして無傷って訳にはいかんだろう。そうして疲弊したところをじわじわと殺される未来しか残っていない。今更ながらその事実と現実に気付いたんだろうな、それで慌ててこっちにやって来たってところか。キレそう。

 

 今すぐ帰れと言いたいところだが、ここまで来てしまっては多分こっちにも小さくない余波が及ぶ。鉄血からすれば、裏切り者のハイエンドも人類も同じ抹殺対象だ。綺麗にあいつらだけを始末してくれる保証など無い。降りかかる火の粉どころかいきなり放火された気分だが、打ち払うしか生き残る選択肢がない。はぁ、キレたわ。

 一旦大きく息を吐いて、改めてマイクに向き合う。自分でもビビるくらい底冷えた声が出たんだが、人間ここまでキレると一周回って冷静になれるんだな。この歳になって初めて知ったわ。知りたくなかったけど。

 

 こいつらを匿うことは出来ない。それは前回伝えた通りだ。だが、このままじゃウチの支部もヤバい。ということで、あいつらには殲滅を手伝ってもらう、というか、オレの指揮下に入ってもらう。オレの言うことを聞けないってんなら今すぐテメーら撃ち殺してオレたちは逃げる。死ぬか生きるか、選べボケナスども。

 

『……チッ、已む無し、だな。了解した』

 

 あ? 今舌打ちしたか? 何様だテメーは。てめーらの身勝手な行動でこっちゃ大迷惑被ってんだよ。素直にハイかイエスで答えてろこのヘッポコハイエンドどもがよ。

 

「なあ指揮官。あいつら撃っちゃダメか?」

 

 呼び出しに即応して司令室に集まったオレの可愛い教え子たち。その筆頭であるM16A1がこれまたキレそうな顔と声色で呟いた。今はまだ抑えろ、撃つなとは言わないが目の前のゴミどもを掃除してからだ。あと悪いがあいつらに予備の通信機貸してやってくれ。戦闘中指示が出せん。

 

『へぇ、こいつが人間の通信機ってやつか。わざわざ外付け回路が必要だなんて、不便な造りしてんなぁお前ら』

 

 その不便な人間に助けを求めといて何言ってんだオメーは。要らないなら今すぐ返せ。そんで勝手に死ね。ガチャガチャ一丁前に文句垂らしてんじゃねえぞオイ。自分の立場分かってんのか。

 

『わ、悪ィ。つーかこの前と性格変わってねえか』

 

 変わったよ、テメーらのせいでな。口ばっかり動かしてないで身体を動かせヘッポコが。さっさと指示した配置につけ、んでオレの指示を無視したり聞き逃したりするんじゃねえぞ、従わなくなったと判断した瞬間あのゴミの軍勢諸共撃ち殺すからな。

 

 作戦は単純。相手にハイエンドモデルが複数居るとは言え、やはりその動き自体は単調だ。ただ、前回と違うのはこちらに目立った策略も無く、がっぷり四つだということ。搦め手が嵌る隙が小さく、純粋な力勝負になる。量産型だけが相手なら楽勝だが、スケアクロウが居るのでは第一部隊以外ではちっとばかし荷が重い。404小隊を擁する第三部隊でも真正面からの勝負は勝てなくは無いが、ちと厳しいラインだろう。

 だが、S02地区の時よりも他の部隊の錬度も上がってきてはいるし、今回に限っては手駒に鉄血のハイエンドモデルが2体存在している。これを利用しない手はない。幸いスケアクロウは目立つから、ヤツの射程距離外の有象無象どもに第二、第四の前衛の合同部隊で当たってもらう。M14、ドラグノフ、ダネル、MG5は支部の屋上から狙撃と掃射を担当させる。スポッターにM1911も付けておこう。どちらにせよハンドガンタイプではこの大乱戦を切り抜けるのは難しい。適材適所をやっていかないとな。

 あの群れの目的は第一に処刑人と狩人のはずなので、あえてあいつらには前に出てもらう。そして、そこに寄ってきた連中を第一と第三が横から刺して行く構えを基本スタンスとする。処刑人と狩人には、状況的に勝てそうならそのまま撃破してもらい、厳しそうであれば引き付けつつ有利なポジションに誘導してもらう。部分的な局地戦を形成し、孤立したところを囲って各個撃破していく方針でいこう。後は臨機応変に対応していくしかない。間違いなく乱戦になるため、特定の策に拘りすぎてもダメだ。そんなことをして迎えるのは敗北と破滅だけである。

 

 よっしゃ、行くか。お前ら準備はいいか。文句を言いたいやつも居るだろう、納得していないやつも勿論居るだろう。だが一旦はその感情を捨てろ。どんな経緯があろうが、進んでしまった事態は取り消せないし巻き戻せない。目の前に障害が現れたという事実を乗り越えなければ、動かす口も愚痴を溢す相手も失うことになる。で、全てが終わったら盛大にキレ散らかせ。オレも山ほど言いたいことがある。その為にも生き残れ。分かったか?

 

『I copy!!』

 

 オーケーいい返事だ。そんじゃ、やろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵性反応無し。殲滅完了です、指揮官』

 

 ぐちゃぐちゃの大乱戦が開始されてから幾ばくかの時間が過ぎ去った頃合。M4A1のやっと一息つけたような声色とともに最後の報告が為され、無事にとは言えないが、何とか状況が終了した。

 オリジナルの損傷こそ無かったが、ほとんど全員が何体かのダミーを失う結果となった。ダミー含めて被害がないのはM4A1とAR-15だけという有様だ。M16A1とSOPMODⅡに関しては結構前に出てたから、スケアクロウの一撃で何体か削られてしまった。トータルするとひでえ出費である。どうしてくれるのよこれ。

 結局清算してみれば、スケアクロウ6体を含む大軍勢であった。ビッグハントスコアとしてはM16A1とAR-15が1体ずつ、狩人と処刑人もそれぞれ1体ずつ、416が1体、そしてダネルが1体。416までは分かるが、ダネルは今の錬度でよく仕留めてくれたものだ。流石は対物ライフル、火力に関してはピカイチだな。

 支部の方も直接狙われたわけではないが、やはりかなりの流れ弾が着弾している。場所によっては外壁の補修も必要なレベルだ。これクルーガー辺りに言って特別報酬貰えねえかな。全部ウチ持ちだと人形の修復も相俟ってかなりキツい。どんぶり勘定してみても、ここ最近勤しんでいた支援任務の報酬がほぼ全部吹っ飛ぶ計算だ。頭が痛い。胃も痛くなってきた。

 とりあえず片付きはしたので、全員に帰還指示を出す。ただ、処刑人と狩人を支部の中に入れるわけにはいかんので、俺も正面ゲートまで出よう。あの2体も流石に無傷とは行かなかったのか、割と小さくない損傷は受けている様子だ、いくらなんでもこの場で俺に牙を剥くなんて馬鹿はしないだろう。

 

「よぉ人間! お前すげえな! 少し見直したぜ!」

 

 顔を合わせた途端、外骨格の至るところに傷を抱えながらも上機嫌な様子で声を飛ばす処刑人。あ、やべ、またキレそう。いかんいかん、抑えろ俺。まだキレるんじゃない、落ち着け。

 どうやら俺の手腕を褒めているらしいのだが、ぜーんぜん嬉しくない。まあ、こいつらからしてみれば今まで組織的な団体作戦行動なんて取ったことないだろうからな、俺の指示が酷く新鮮に感じたのだろう。そこに確りとした結果がついてきたのであれば尚更である。

 

 戦闘指示を飛ばしながら見ていた限り、処刑人に関しては明らかにタイマン向きの性能だった。義体の耐久性も高い上、扱っている得物がブレードであることから予測は出来ていたんだが、まあ見たまんまって感じだな。距離を詰めた上での一対一なら、同じハイエンドモデルであるスケアクロウ相手でも断然優位だ。ただ、限定された環境であれば無類の強さを発揮するが、飛び道具がクールタイムを要する斬撃波と左手のハンドガン一丁だけってのはかなりピーキーである。本人の性格も相俟って、がっぷり四つ以外にはめっぽう弱い。今回は策略なしの乱戦だったため多少性能でゴリ押し出来たところもあるが、相手に頭の切れる奴が居たら真っ先に脱落するタイプだ。

 反対に狩人は一対多、または多対多に強い。火力こそスケアクロウにも劣るが、処刑人よりも機動力に優れており、戦場を引っ掻き回す戦闘に向いている。手持ちの武器は恐らくハンドガンに分類されるだろうが、役割としてはI.O.P社製で言うサブマシンガンタイプに近いな。まぁスケアクロウに劣るとは言っても、サブマシンガンタイプに比べたら段違いの火力なんだが。

 

「すまないな、世話になった」

 

 先程の戦闘を思い返していたら、狩人からは予想外の言葉。おお、ちゃんと迷惑かけたってことは分かっているみたいだな。だからって帳消しになるモンじゃないけど。

 だが、戦闘が終わって一息つけるのは残念ながら俺たちだけだ。狩人と処刑人に関しては何も解決していない。どうせ鉄血の討伐隊はこいつらが死ぬまで編成され続けるだろうし、隠れる場所も補給や修復を行う伝手もない。結局こいつらには、先の無い旅を続けるしか選択肢が残されていないのだ。僅かばかり憐憫の情は湧くものの、だからといって自業自得な以上俺からは何も出来ん。

 

「貴様が以前言っていたことがよく分かった。鉄血に狙われるのは想定外だったが……組織が齎す庇護は大きかったのだな」

 

 いやそこを最初に想定しろよ。どんだけお花畑だったんだよ。まあ、滅茶苦茶に遅いが、そこに気付けただけでも一歩進めたんじゃないの。進んだ先は詰みだが。

 

「まァ確かに悪いとは思ってるよ。しっかし、どうすっかなァ……」

 

 先程のテンションをいくらか抑え、ばつが悪そうに呟く処刑人。どうするも何も、だからお前らあの判断した時点で遅かれ早かれ詰みだったんだって。今更鉄血には戻れないだろうし、この議論続けても堂々巡りにしかならんぞ。着地点がこいつらの終わりだという結果は変わらない。何を言ったとしても無駄である。

 

「……ふむ、人間。提案があるのだが」

 

 お前らを俺の庇護下に入れるってのは無しだぞ。

 

「…………何故分かった」

 

 キレそう。常識で考えろよ、出来るわけねーだろ。あ、ダメだこいつらに常識を期待する方が最早馬鹿のレベルだ。そもそも人間社会というか組織というか、そういう知識や経験を一切持たずに野に放たれた野良人形だもんな。こいつらを俺が預かることによってどんな因果が回るかを想像しろって方が無理な話か。うっわ面倒くせえ。世間知らずのガキを相手にするよりダルい。

 

 

「……ねえ指揮官、ちょっといい?」

 

 俺と鉄血のやり取りを無言で聞いていた教え子たち。その中にあるUMP45が、ふと声を挟む。うーん、こいつがこういうシーンで自分から発言してくる時って、大体碌なことを考えていない時な気がする。いや、勝手なイメージで決め付けてしまうのも良くないか。何か提案があるなら聞いてやろう。俺は無言で先を促す。

 だが何にせよ、四方八方に歪を生じさせることなくこの2体をどうにか生かすってのは土台無理な話である。俺が黙って匿えば当面は大丈夫だろうが、バレないわけがない。そしてバレた時は俺がヤバい。流石にこの2体と心中する気はこれっぽっちも起こり得ないので、正直余計なトラブルを抱え込みたくないってのが本音だ。G&Kが俺を囲った時とは何もかもが違う。そもそも、そこまで裏に手を回せるほど今の俺に力も金もコネも無い。打てる手が無さ過ぎる。

 

「いや、さっき一緒に戦ってて思ったんだけど。こいつら単純に戦力としては優秀じゃない? で、今は要するに買い手のつかない不良在庫みたいなものでしょ」

 

 まあ、表現は間違ってないと思う。色んな意味で不良だけどさこの武器。

 

「じゃあいっそのこと、うちの支部が鹵獲しましたってことで報告上げて戦力化しちゃえば? 戦いで損傷したのか、AIにバグが起きて指揮官の命令だけ何故か聞くようになったとか言って」

 

 そうくるかあ。いや、正直それは俺もちょっと考えたよ。

 だがしかし、そもそもだ。こいつらは今でこそ大人しいが、今後俺たちに攻撃を仕掛けてこない保証がない。その前提が通らないから、俺も踏み込めないのだ。I.O.P社製の人形と同じく、完全に俺の言うことを聞いてくれるのならそれも一考の余地があるが、万が一にも再度謀反を起こされたらたまったもんじゃない。俺だけが死ぬならいいが、ここにはカリーナも居る。どこかで監禁するにしろ、こいつらの義体が持つパワーは相当だ。一般的な檻程度じゃ武器を取り上げたところで破壊して出てくる。誰もそんなリスクを背負いたくない。

 言うことを聞けるようにチップを埋めるなり電脳に細工なりってのも考えてみたが、こいつら自前で自身のモジュールを選択して焼き切ることが出来る馬鹿げた能力を持ってる。戦ってよく分かったが、トータルの技術力はI.O.Pより鉄血工造の方がかなり上だ。それも保険にはならない。

 

「うーん、そっかあ。ごめんね、話の腰折っちゃって」

 

 そういうことを説明すれば、UMP45は素直に一歩下がる。提案自体はありがたいが、そこらへんは既に俺も検討済みなんだよな。あいつらの高過ぎるスペックが逆に足を引っ張ってしまっている。素直に隷属化出来れば俺もここまで悩んでないんだ。

 

「おいおい、今更お前らに手を出そうだなんて考えちゃいないぜ? 一応今回の借りもあるんだ」

 

 UMP45とのやり取りを聞いていた処刑人が、少々の不服と不満の色を乗せて声を発する。俺としても、その口約束を無条件に信用出来れば色々と楽なんだがな。残念ながらそうは問屋が卸さんのだ。そもそも鉄血とのリンクを切ったとは言え、人間を襲うようになったエラーがどうなってるのかが分からん。こいつらの意思に関係なく再び襲うことになる可能性だってある。

 

「私も人間など信用していないが、貴様だけは別だ。だが、そういう問題でもないのだろうな。何ともままならんものだ」

 

 そうなのよ、そういう問題じゃないのよ。だからどう転んでも君たちが詰んでる状況は変わらないのよ、残念ながら。

 ほーら、結局堂々巡りだ。まあ俺の心情だけで言えば、なし崩し的とは言え共闘までしたし何とか出来るものならしてやりたいとは思うが、何ともならないからどうしようもない。一時の感情で指揮官である俺の判断がブレるわけにはいかない。俺にも責任があるからな。

 

「……む、待てよ。人間、要するに貴様らに危害を加えない保証、あるいは加えられる前にどうにか出来る手段があればいいのだな?」

 

 いや、まぁ言ってしまえばそうなんだけどさ。そんなものがあれば苦労しないでしょ。

 

「今ここにその手段があるわけじゃないが、方法はある。恐らく、だが」

 

 えっマジで? 突然のカミングアウトに思わず狩人と処刑人の顔に視線を注いでしまうが、処刑人の方は心当たりが無いのか、いまいち要領を掴めていない表情である。うーん、どういうことだ。言い方から察するに、確実性のある提案ではなさそうだが。

 

 

「簡単だ。貴様らI.O.P社製の人形に搭載されている、セーフティシステムがあるだろう。人間に対して攻撃できないというあれだ。あれを私たちの電脳に書き加えればいい」

「はあ!? ……あー、いや、まァ俺もお前を殺したいとは思わねえし、ただ狩人もそうだろうが、コイツだけだろ、人間でまだマシなの。他も攻撃出来ないってなるとなァ……」

「ならばこの人間限定でやればいい話だろう。どちらにせよ、このままでは我々はともに野垂れ死にだ。その事実は変わらん」

 

 おいおいおいおいおい勝手に話を進めるんじゃない。つーかそもそもお前ら電脳にプロテクト掛かってるだろ。外付けのチップや付随するモジュールなどと違って、直接電脳を書き換えるならその効果はあるのかもしれんが、対ハッキングプロテクトはお前ら自分で焼き切れるのか? スケアクロウの時は完全に電脳以外が死んでいる状態で発動したんだ、恐らくオートで発動するタイプだ。オンオフが出来るものじゃないだろう。

 

「流石に自力で解除は出来んが、侵入経路はある。だが、それを今伝えたとて理解は及ばないだろう。誰か居ないのか、貴様が信頼を置く、かつ電脳に強い技術を持った者は」

 

 そんな都合のいい奴が居てたまるか。つーか勝手に話を進めるんじゃない。思い切りが良すぎだろ。ていうか一気に俺を信用しすぎだろ、逆に怖いわ。しかも鉄血のハイエンドモデルのAIともなれば、機密事項と最新技術の塊だろう。よしんばそれらに対応出来る技術者がいたとして、元気なお前らとその技術者を対面させる時点でべらぼうなリスクが存在する。おいそれとのめる内容じゃない。やっぱりこいつ馬鹿かよ。

 秘密を守れて、高い技術を持ち、そんな酔狂を好しとするようなマッドサイエンティストがいるかも怪しい上に、俺の知り合いなどという極狭い範囲でピンポイントに存在するわけが

 

 

 

 

 

 

 

 おったわ。




そんな狂人おりゅ?



狩人と処刑人ですが、色々とはじめての経験が積み重なっているためにAIが加速度的に現状に対応しようとした結果、おじさんを信じるのがいいんじゃない? みたいな演算結果が出ました。チョロインかよ。


冒頭の台詞、君には全員分かるかな?(低難易度

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