戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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最近ちょっと投稿時間が後ろ倒し気味になってて、睡眠時間がすこーし削れてるんですよね。
ネタを捻り出してるというより、書きたいネタが上手く書きあがらずに苦戦してる感じです。

つまり楽しい。いやあ、二次創作っていいものですね。
おじさんはキレそうですけど。


25 -忠犬鉄公-

『あっはっはっは! 本当に言ってるのそれ? あっはっはははは!! いやあ、面白いね君は本当に! いいよいいよ、私で良ければ付き合ってあげちゃうよ。というかむしろ、そんな貴重な機会を頂けるのなら歓迎ってやつさ。是非ともこちらからお願いしたいところよ』

 

 このマッドサイエンティストめ。通信機越しに、普段の様子からは想像もつかない高らかな笑い声が木霊する。

 狩人の提案した内容、自身の電脳に直接I.O.Pのセーフティプログラムを書き加えるというトンデモ案。そも前提として、鉄血のハイエンドモデルという情報を最大限に秘匿した上で進めなければならないこのプロジェクト、更には非常に高度な自律人形に関する知識、技術を持つ者が必要だ。俺の限りあるコネクションの範囲にそんなスーパーマンが居る訳がないと思った2秒後、該当者に思い当りが出て来てしまった。というか俺のコネ云々を抜きにして全世界を見渡して見ても、恐らくこの事案に適性のある人物ってのは非常に限定される。そんな稀有な人材と細くないパイプをたまたま保持していた俺の境遇は、喜ぶべきか悲しむべきか。

 

 正面ゲート前での話し合いを終わらせて、俺は一人司令室までその足を動かしてきた。狩人と処刑人についてはまだその案が採択される保証がない以上、無闇に支部内を連れ回すわけにもいかず、とりあえず外の目立たないところで待機させてある。勿論見張り付きだ。今更裏切る可能性は低いとは思うが、だからと言って警戒しないのはただの阿呆である。

 あいつらの境遇について、何とか出来るなら何とかしてやりたいってのは事実だ。そこには憐憫の情ってやつも確かにあるが、それ以上に非常に融通の利く強大な手駒、それも俺の独自保持戦力として動かせる公算が高い兵力ってのはなんだかんだ欲しいのである。今でこそ俺の指揮下にあるが、AR小隊と404小隊は何時ここを離れるか分からないしな。あとちょっとばかしの下心。ごめん嘘ついた。割とある。別にやましいことをしてやろうとまでは考えていないが、目の保養って意味ではありがたい。ただ、見た目では癒されるものの俺の胃にはまったく優しくない。吐きそう。

 

 狩人の案を実行するにあたり、とにかく実際にそれが出来る技術を持つ者の協力を取り付けなければならない。俺にはそっち関連の知識はサッパリだ。技術的に可能であっても、その技術を行使する者が居なければ意味がないからな。

 で、俺の中で唯一心当たりのある人物、16Labの主任研究員であるペルシカリアへコンタクトを取り、こちらの用件を伝えた後のリアクションがこれだ。もうほんとザ・酔狂って感じ。まあ電脳やAIと言えば聞こえはいいが、アンドロイドの脳みそを弄繰り回すのが仕事ですってやつだからなぁ。モノは言い様だな。いや、決して彼女たちの仕事を馬鹿にするつもりはないのだが。

 

『でもまあ、君と私の間で秘密の共有なんて今更感もあるし、ちょうどよかったんじゃない?』

 

 なんて言ってくるのはペルシカリアの方だ。一応機密のやり取りも含むってのと、狩人たちを見張らせておかなきゃいけないために今司令室に居るのは俺だけだ。カリーナにも席を外させてある。まぁ俺とペルシカリア、あとクルーガーについてはそこそこ重大な秘密を共有している仲でもある。彼女の言う通り、決して外に漏らせない情報が一つ二つ増えたところで同じだ。新たに秘密のコミュニティを拡大せずに済むという意味では丁度いい。

 

 いくつか細かい部分を調整し、正直一日でも早く処置をしておきたいところなので、今日の深夜に16Labへお邪魔することとなった。当然その時間だとラボ周りは閉まっているが、そこはペルシカリアの立場を利用して何とかしてもらう。今日中にどうしてもまとめておきたい研究結果があるとか言っておけば多分どうにかなるだろ。ラボ内ではかなりの権力と実績を持っているだろうからな。どう考えても無関係な他人にこの状況を見られるのはマズい。徹底して人の目に付く可能性は排除していかなければ。

 同行はAR小隊の4人にお願いする。俺の護衛という意味もあるし、ハイエンドモデルの監視という意味もあるし、ペルシカリアに久々に会わせたいという親心的な意味もある。以前SOPMODⅡは俺の用事ついでに連れて行ったが、他の皆にも会いたいと彼女も言っていたしな。前回と同じく何かのついでになってしまって悪いが、再会には違いない。今回急なこともあって手土産は用意出来そうに無いが、狩人と処刑人という2体が彼女にとっては何よりの手土産になるだろう。それで納得してもらおう。

 うーん、こりゃ今日は夜更かし確定だなあ。流石に日が高いうちにあんな劇物を連れて16Labにお邪魔するわけにはいかないから仕方ないんだが。帰りの車ではちょっと寝させてもらおう。おじさんにとって睡眠不足は大敵である。健康第一。

 

 

 

「やあやあ、久しぶりだね皆。件の鉄血人形はそちらの2人かな?」

 

 同日深夜。ただでさえ人間の数が減り、人口の一点集中が加速し、更には鉄血人形やE.L.I.Dなどが跋扈するようになった世界。その中でも、まだ人類の支配圏として確立されていない地域の暗闇になど、人っ子一人居ないのが当然だ。無事何処の誰にも見つかることなく16Labに到着した俺たちは、職員が退社し静まり返った施設の廊下をペルシカリア先導の下で進んでいた。

 狩人と処刑人は先の大乱戦の負傷もそのままに、日が沈むまでの結構な時間待機させられていた。それでも文句一つ言わなかった辺り、流石に今自分たちが置かれている立場というものが分かってきたらしい。そりゃ現状俺との関わりは唯一の命綱だからな、ここで下手に俺を刺激して全てがご破算になるような真似はしないだろう。

 

「そうだ」

「そっかそっか、私はペルシカリア。よろしく頼むよ」

 

 ペルシカリアの挨拶代わりの問い掛けに、狩人がにべもなく返す。こいつらからしてみれば、いくら俺の伝手とはいえどもいきなり現れた人間だからなあ、そりゃ初手から愛想よくしろってのも無理な話か。

 些か不躾な返答を受け取ったペルシカリアに特に変化は無い。恐らくそういうものだと予測はしていたのだろう。初めて俺と会ったときのような実に不十分な自己紹介を済ませ、彼女はそのまま歩を進めていく。

 良し悪しの判断は出来ないが、こと人間性という面において彼女は俺なんかより余程曲者だ。交友関係の経験がほとんどない鉄血の赤子とのトークなどでいちいち狼狽していてはそれこそ保たないんだろうな。胆の据わり方というか、根本のデキが違う。俺はあくまでポーカーフェイスが得意なだけであり、中身は割と普通のおじさんである。やはり天才というのは一枚も二枚も違うものか。こんなとこで改めて感じたくもなかったけど。

 

「悪いなペルシカ、久々の再会がこんなんになっちまって」

 

 歩きがてら、M16A1がばつが悪そうに語り掛ける。そりゃまぁ誰だってこんなの予想出来る訳ないでしょうよ。俺自身かなりびっくりしている。ほんと軍人時代にポーカーフェイス張り付ける癖付けといてよかった。ただの一般人であれば今頃百面相が止まってないと思う。

 

「いいって。皆が元気そうで何よりさ。頼りになる指揮官サマもいらっしゃるようだしね?」

 

 振り返りながら、相変わらず不健康そうな顔の上にある不健康そうな目を細め、ニヤリと口角を上げるペルシカリア。あーはいはいソウデスネー。俺は努めてポーカーフェイスを維持しながら無言の反応を返す。ちょっと顔が良くて頭がいいからってあまり調子に乗るんじゃない、と言いたいところだが、現状彼女の力に思いっきり甘えさせてもらっている立場なせいで何も言い返せない。つらい。俺このままじゃペルシカリアに一生頭が上がらない気がする。うわあ。

 

「おい人間。本当に大丈夫なんだろうなアレは」

 

 お前さあ。仮にも今からお世話になる身なんだぞ、そう思うなとは言わないが、わざわざ口に出さなくてもよろしい。セーフティプログラムが上手く働いていい感じになったら、こいつらはこいつらで教育した方がいい気がしてきた。大手を振って人社会に馴染ませるつもりはないが、少なくともうちの支部内での交友関係くらいは円滑にとまではいわずとも、最低限の節度をもって進めてもらう必要がある。人類に直接攻撃が出来なくなったとしても、人との繋がりは何も物理的な破壊を以て壊されるわけじゃない。そこらへんを学んで貰わないと結局こいつらを処分する破目になる。折角ここまで手間隙かけたんだから、徒労に終わらせてしまうのは避けたいところだ。

 

「はっはっは。君も大変だよねえ」

 

 この野郎、他人事だと思いやがって。いや実際他人事なんだけどさあ。手を借りるから全くの無関係って訳じゃないんだが、ペルシカリアとこいつらは今後も直接の関わりはほとんど持たない。彼女からすればいわゆる外野の立ち位置だろうからな、そりゃ好き勝手も言えるというものだ。

 

 

「さてと、それじゃあ2人はここに寝てちょうだい。それとプロテクトの件、言える範囲でいいから教えてくれるかな」

 

 程なく。様々な機械が所狭しと壁に追いやられている一室に辿り着いた俺たちに、ペルシカリアは声をかける。2人というのは狩人と処刑人のことだ。本来なら部外者は席を外すべきなんだろうが、安全の観点から現時点でそれは難しい。俺たちが外に出た瞬間、狩人と処刑人がペルシカリアに手を挙げる可能性はゼロじゃない。いくら武器を携行していないとはいえ、彼女は恐らく何の訓練も受けていない、身体能力だけで言えば普通の女性だ。鉄血のハイエンドモデルに取っ組み合いで勝てる道理がこれっぽっちも見当たらない。

 

 しばらくの間、狩人と処刑人、それとペルシカリアの間で専門的な言葉が飛び交う。プロトコルがどうとかダミーポートがどうとか、単語単語を拾うことは出来るが正直何を言っているのかちんぷんかんぷんである。意外だったのは、狩人はともかく処刑人も同レベルの会話についていけていることだ。ええー、あいつ明らかに脳筋キャラじゃん。なんかずるい。

 

「うん、分かった。セーフティ自体は表層域の書き込みでも作動すると思うから、それだけ情報があれば書き換えは出来ると思うわ」

 

 内容が纏まったのか、ペルシカリアがトークを切り上げてそのまま狩人と処刑人に何らかのデバイスを取り付けていく。一応何があっても抵抗するな、した時点でお前らぶち壊すぞ、と言っておいたので今のところ変な動きは見られない。何かこれ、セーフティが成功したとしてもこいつらに対して部下って感覚持てなさそうだな。躾のなってない猛獣みたいなイメージだわ。

 狩人と処刑人には、電脳書き換えのため一時的にスリープモードに入ってもらうとのこと。一度そうなってしまえば、後は本当に作業を眺めるだけだ。喋って邪魔したくもないし、そもそも喋るネタも特に無い。ふと視線を泳がせれば、いくつものモニターに様々な情報が流れ続けており、ペルシカリアが忙しなくそれらを確認しながらキーボードを叩き続けている。本来ならばモニターに流れている文字列やら波長やらも最大級の企業秘密なんだろうが、幸か不幸かじっくり見ても何一つ分からん。

 

 

「おっけー。終わったわよ。多分大丈夫だとは思うけど」

 

 そうやって無言のまま作業を眺め続けることしばらく、ペルシカリアが本当に大丈夫かと疑いたくなるレベルのやる気の無い声をあげてその作業は終了した。どれくらいの時間が経ったのだろうか。こういう空間でやることもなくただ待つってのは大いに体内時計が狂う。

 しかし、多分ってのはどういうことなんだろうか。出来たか出来てないかくらいバシっと言って欲しいものなんだがなあ。

 

「99%大丈夫だとは思うわよ? ログを見た限りではエラーも出てなかったし。ただ、試運転もしてなければデバッグも不十分。どれだけ理論上大丈夫だったとしても、実際に『問題なく動いた』っていう証拠が出るまでは、私たち技術者は『出来た』なんて口が裂けても言えないのよ。『出来る』と『出来た』では天地の差があるのさ」

 

 ふーむ、そういうもんか。まぁ言われてみれば何となく分かる気もする。俺たち戦争屋もそうだが、それ以上に彼女たちの世界は結果が全てだ。頑張ったけどダメでした、いけると思いました、が通じる世界じゃない。そこにベットされるのが俺の命か、彼女の立場かの違いがあるだけだ。

 そう考えてみると技術者の世界ってのもシビアだよな。話の通りであれば、100%のコミットなんて土台出来ないはずなのに、世間からは100%を求められるわけだ。そりゃ金も時間も人も食うだろう。普段ははちゃめちゃな女だが、ちゃんとそういうところも持ってるんだなあ。誰しも譲れないラインってのはあるもんな。

 

「……んお、もう終わったか?」

 

 簡素なベッドに寝かされていた2人の片方、処刑人がスリープモードから目覚めたのか、頭を掻きながらその上体を起こす。ほぼ同じタイミングで狩人も目覚めたのか、こちらは無言で身体を起こし、どうやら全身の可動部位をチェックしているようだ。

 

「おはよう。どこか違和感とかある?」

 

 短い夢から醒めた2人に、ペルシカリアが声をかける。戦闘時の損傷こそそのままだが、特に電脳に何か不具合や違和感は出ていなかったようで、ひとまずはクリアと言ったところか。ただ、実際にこいつらが俺らに対して危害を加えなくなったかどうかは正直確証はない。こればっかりはペルシカリアの言の通りで、俺も保証が欲しいんだがそれは我侭ってもんなんだろうな。

 

「いや、今んトコ特に何もねえな」

「……ふむ、私も特に違和感は感じない。本当に書き換えがあったのかも分からんな」

 

 うーん、普通の状況なら喜ぶべきところなんだろうが、これ喜んでいいのか分かんないぞ。電脳へのセーフティプログラムの書き込みが何の効力も発揮しなかった可能性も残るんじゃないのこれ。まあ、これ以上はもう手の打ちようが無いってのも事実だ。少なくとも今のところこいつらの意志で刃向かうつもりはなさそうだから、1日2日くらいは様子を見てやってもいいだろ。少しでも不穏な空気を感じればその時に改めて処分すりゃいいや。ただ、念のためカリーナはしばらく遠ざけておこう。念には念を入れておかないとな。

 つーわけで帰るか。ただでさえ酷く非常識な時間にいきなりお邪魔してしまったんだ、何だかんだ付き合ってくれてはいるが、これ以上無駄に迷惑をかけてしまうのもよろしくない。お前ら立てるか? さっさと戻るぞ。

 

「! ……あ、ああ、大丈夫だ。すまんな」

 

 なんだ? 今一瞬狩人の動きが止まった気がするが。やっぱりどこか変調をきたしているんだろうか。別にこいつがどうなろうが知ったこっちゃないが、いきなり暴れられても困る。暴走するなら誰も居ないところか鉄血のど真ん中で暴れて頂きたい。

 

「ああ、慌てなくても大丈夫だよ。どうやら上手く『出来た』ようね。よかったよかった」

 

 そんな様子を眺めていたペルシカリアが、ふいに言葉を発する。んん? まったく意味が分からんぞ。まさか今の一瞬で確証が得られたとでも言うのだろうか。ペルシカリアと狩人に交互に視線を配るものの、前者は不健康な表情をニコニコと弾ませ、後者は俺と視線が合えばふいと逸らしてしまう。何か大丈夫どころかおかしくなってない? 明らかにキャラが違うんだが。

 狩人の様子に訝しんでいると、処刑人は処刑人で無言で俺の顔をじっと見つめていた。何事かと思ってしばらく顔の向きを合わせるも、目を細めて睨んできたり、ふっと顔面の力が抜けたり、ぱちぱちと忙しなく瞬きしたりと兎角落ち着かない様子。俺の顔に何か付いてるか?

 

「ああいや! 悪ィ、何でもねえ!」

 

 問いかけてみれば、返ってきたのは慌てたような否定の言葉。いや、おかしいでしょ。明らかに何か細工されてる感じじゃんこれ。推測でしかないが、何かがおかしいというより、戸惑っているようにも見える。うーん、電脳の書き換えが余計な部分に影響を与えでもしたんだろうか。でもあいつはニコニコしながら『出来た』と宣言した。つーことは、ちゃんとセーフティが動いている確証が得られたということだ。それ自体は喜ばしいことだと思うのだが、それだけだとこの状況への説明がつかない。ペルシカリア君、説明を求める。

 

 

 

 

「セーフティプログラムを書き込むと同時に、彼女たちの擬似感情モジュールにI.O.P社製の動的感情メーンルーチンを被せてみました。その方が君も彼女たちを扱いやすいだろうと思って」

 

 なるほど分からん。つまり?

 

「めちゃくちゃざっくり言うと、感謝や恩義、尊敬といったプラスの感情と、怒りや悲しみ、恨みみたいなマイナスの感情がより働きやすくなった、とでも言えばいいのかな。君、戦術人形によく慕われてるでしょ。つまり今君の下についてる人形たちは、君にいい感情を沢山持ってるってことなのよ」

 

 なるほど、それはありがたいことだ。で?

 

「彼女たちの反応を見る限り、少なくとも君に悪い感情は持っていないみたいだね。いいじゃない、鉄血の人形にも慕われる懐の深い指揮官。素敵じゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 何してくれてんのコイツ。




なんということでしょう



今回の一連の流れは次か、その次くらいで一旦落ち着きそうです。
おじさんもきっと喜んでいることでしょう。よかったですね。










よくない(キレそう

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