戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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お久しぶりです。
ちょっとお絵描きモチベーションが落ち着いたのでサクっとやりました。

リハビリも兼ねたなんてことない話です。よろしければどうぞ。


30 -福利厚生は闇の中から-

「うーん……そう言われても、特にないんだよねえ。アタシは結構満足してるよ」

「私もですね。あぁでも、強いて言えば娯楽的なものが欲しいかもしれません」

「私はもっと広いお風呂場があればいいなーって!」

「私は特に無いな。ただでさえ拾ってもらった身だ、指揮官は十分に私を使ってくれているし、それ以上は何も望まないさ」

「同じく特に不満は無い。私はまだここにきて日も浅いからな、そう我侭は言えんよ」

 

 えぇー、思ったより反応が渋い。本当に欲が無いのか、はたまた遠慮しているのか。ドラグノフとダネルは多分多少の遠慮は入っているだろうな。誰だって、部隊に入ってすぐに我侭を発揮するメンタルは持ち合わせちゃいないだろう。そういう奴は大抵協調性みたいなものを持ち合わせていない。こいつらに協調性がないとは思えないから、ちょいと時期尚早だったのかもしれん。M1911の娯楽はちょっと検討しておこう。M14の風呂場は却下だ、そんな予算はない。

 しかし、考えてみると第二部隊はそこそこ上手く回っているのかもしれないな。第一部隊や第三部隊のように元から小隊を組んでいる連中でもないし、第四のような全員がほぼ同期の新造部隊って訳でもない。隊長のスコーピオンをはじめ、M1911やM14はこの支部でも古参組だし、ドラグノフは言い方は悪いが他所からの流れ、ダネルはつい最近製造された新人だ。ここら辺もやはり人間と人形の違いってやつなんだろうか。

 これが人間の部隊であれば、数人が集まれば大なり小なりトラブルが生まれる。人間関係ってのは前提として良好に進むものじゃない。個人個人の主義趣向に開きがありすぎるのだ。それぞれの距離が希薄であればそう表面化するものでもないが、軍隊や民間軍事企業だとその関わり方は非常に距離が近い。自然と見たくないものも目に入ってしまうし、聞きたくないことも耳に入ってしまう。そこを割り切れるほど、人間の心はデキがよくないのである。

 だが、人形には多分それがない。タイプこそ違えど、そもそもが同じ目的の元で製造された兵器なのだから、そんな些細なことで諍いを起こされても使用者側が困る。そして、その前提で行くのであればこの話し合い自体が無駄なんだが、そこは俺がこいつらを兵器として画一視出来ていないってことなんだろう。うーん、難しい。誰か自律人形との適切な接し方とか教えてくんないかな。おじさんには些か難しすぎる問題である。擬似感情モジュールのせいかおかげか、そこらへんの線引きがメチャクチャ難しい。そりゃ人権団体なんかも出てくるよなと納得する。

 

 今何をやっているかというと、戦術人形たちとのちょっとした面談みたいなものだ。そんな畏まったものじゃないので、彼女たちの宿舎にお邪魔してお喋りの延長みたいな感覚だな。今更かよとも思うが、俺がこの支部に指揮官として着任して以降、なんだかんだこうやって面と向かって話が出来るほどの時間も余裕もなかったもんだから仕方ない。というか程よく暇な時間が出来ている今が正常なはずであって、これまでが異常だったんだ。ブラック企業はこれだから困る。

 で、先だって人間の労働者であるカリーナに関してはその環境を改善するためにかなり早めに動いたんだが、こいつらはカテゴリとしては兵器だ。表立った不満も出ていなかったからどんどんと後回しにしていたんだが、この支部で活動を始めてから長くはないものの、それなりの時間が経過している。いつまでもダンボールが中心の家具モドキの中で生活させるのもいい加減よくないんじゃないかと遅ればせながら考えたわけだ。ついでに人形たちが希望や不満を持っていたら可能な限りそれらも吸い上げようと思い、今第二部隊の連中との閑談に洒落込んでいるという状況だな。

 誰に話を聞くかってのは少し悩んだが、割と早く第二部隊の面々に決まった。というのも、AR小隊の意見はほぼ間違いなく参考にならない。あいつらを基準に戦術人形への理解を深めてしまうのは極めて危険だ。404小隊も概ね同様だが、あいつらは元々特殊部隊に所属しているから、宿舎や福利厚生への要望自体出てこない可能性がある。どっちにしろ、戦術人形全体で言えばあの二小隊は双方ともがイレギュラーだ。よって第一部隊、第三部隊は除外。追々話は聞くかもしれんが。

 第四部隊も考えたが、あいつらは全員がこの支部では新参だ。ここでの生活が長いわけじゃないし、それなら単純に歴の長い第二部隊へヒアリングをかけた方が合理的である。第五部隊は論外。というかあれを部隊として勘定していいのかすら分からん。使うときは使うけど。

 

 ということでちょっとした世間話がてら、この支部への要望とか不満とかがないか、それとなく聞いてみた結果がこれだ。ちょいと拍子抜けという感じ。M14の風呂場拡張は別の意味で驚かされたが、まぁあいつもそれが叶う前提で話をしたわけでもないだろう。いずれこの支部周辺一帯が完全に支配下となり、一般民の流入があれば有り得る話かもしれないが、鉄血の連中に位置が割れている以上、その未来は相当遠い。当分は諦めてもらう外ない。

 

「ねえ指揮官。これって全員に聞いていく感じ?」

 

 適当に話を合わせながらどうしたもんかなーと考えていると、スコーピオンがふと口を開く。まあ流石に第二部隊の意見だけで全てを決めてしまうわけにはいかないから、最終的に全員と話をするつもりではある。参考にする度合いは異なるがな。そういう意味ではこいつらの意見が一番重要だったんだが、精々が娯楽が少ないってところくらいか。確かに訓練と実戦以外はほぼ待機状態だからなあ、俺とカリーナが忙しい分そこまで頭が回っていなかった。

 

「それじゃさ、また聞き終わったら言える範囲でいいから教えて欲しいなぁ。皆がどういう希望持ってるのか、ちょっと気になるじゃん」

 

 ほーん。多分純粋な本音から出た言葉だと思うが、こいつやっぱり隊長に向いてるな。ムードメーカーなところもそうだが、自然な気配りが出来ている。部隊員の意見を自然に吸い上げられるやつってのは驚くほど少ない。そもそもそういう視点や興味を持つこと自体が意外と難しい。更に、言える範囲でいい、と最初から言えているところも高打点。俺の立ち位置は勿論、他の人形とのしっかりしたライン引きが出来ている証左だ。親しみやすいことと、人のプライベートにずかずか踏み込んでいくことは違う。多分無意識だろうが、そこらへんを理解しているのはありがたい。

 思い返せば、多少お祭り騒ぎが好きなところはあれど、明確にこいつが何かやらかしたことって無いんだよな。強いて言えばアルコールでバグったくらいだが、それは他の連中も同じだ。ノーカンでいいだろう。電脳ってここまで個人差出るものなんだな、ちょっと面白い。俺も時間が出来ればそこらへんの勉強もしてみるか。

 

 スコーピオンの要望に了承を伝え、第二部隊の宿舎を後にする。さて、このまま他の部隊の宿舎にお邪魔してもいいんだが、ちょっと気になるところも出てきたので一旦司令室に戻ろう。

 と言うのも、M1911が言っていた娯楽もそうだが、家具やらその他雑貨なんかのいわゆる調度品だな、ここら辺ってG&Kとしてはどんな扱いをしてるんだろうか。S02地区の指揮官なんかは酒を隠し持っていたようだし、多分ああいう類のヤツなら無駄に自室の内装なんかも凝っていたはずだ。直接見る機会がなかったから分からずじまいではあるんだが。

 間違いなく言えることだが、定期的に送られてくる本部からの支援物資にアルコールなんかは含まれていない。そんなのがあったら俺のストレスももうちょっと軽減されている。だが、S02地区の指揮官は持っていた。つまり、仕入れるルートがあると言うことだ。そして、酒以外の娯楽品や調度品なんかも、別に一切の製造が止まったわけじゃないし、世界中の在庫が無くなったわけでもない。実際軍に居た頃は上等とは言えなかったが、それなりの家具も揃っていたわけだしな。以前カリーナに冗談半分で聞いたときは別料金だと言われたが、逆を言えば対価があれば手に入るということだ。もしかしたら俺個人の楽しみも増えるかもしれないし、実際に使うかどうかは置いといて、そういうものを手に入れる手段があるのなら知っておくに越したことは無い。

 

「はいはい? あー、あるにはありますよ。大きく分けて方法は二種類。私が管理している物資を指揮官さまにご購入頂くか、G&Kで取り扱っているこちらの"コイン"をご使用頂くか、ですね」

 

 司令室に戻り、書類整理に勤しんでいたカリーナを捕まえて先程の疑問をぶつけてみると、予想以上の答えが返ってきた。おじさん困惑。ていうかコインって何。カリーナが色々と仕入れているアイテムを有料で買えることは知っていたが、後者は初めて聞いたよ俺。クルーガーも説明くらいしろ。色々と杜撰すぎるでしょこの会社。今更だけどさあ。

 で、そのコインとやらをもう少し詳しく聞いてみると、一般に流通している通貨とはまた違った、G&K内で使える仮想通貨、みたいなものらしい。この例えが正しいのかは知らん。少なくとも、外の市場なんかで使えるような代物じゃあないらしい。ただ、この通貨自体が少々特殊らしく、それ単体でもそれなりの価値はあるんだそうだ。ますます意味が分からんぞ。そんな特殊通貨があるということ自体初めて知ったし、それを何故G&Kが採用しているのかも分からん。この会社基本ブラックだが、I.O.P社と強いパイプを持っていたりと、よく分からないところで謎が深い。

 で、そのコインとやら、カリーナが今一枚持っているが、今度はその入手方法が気になる。一般に流通していないものなら、その取得手段も限られてくるはずだ。現物を改めて見ても、軍人時代には見た記憶がない。そんなに情報通でもないが、正規軍のそこそこの立場に居た俺でも知らないブツだ、世界はまだまだ広いことを痛感させられる。

 

「えーっと、基本的には本部からの指令を達成した報酬や、あとは支援任務で稀に貰えることもあります。この支部にも結構きてますよ。私が管理してますけど、多分200枚くらいあるんじゃないですか?」

 

 なんでそれを教えてくれないの君は。俺一応ここの最高位者だよね? なんで俺が把握していない謎のアイテムが200個もあるんだよ。言えよ。

 

「すみません、てっきりご存知だとばかり……指揮官さまはそのあたりにご興味を示されなかったので……あっでも勝手に使ったりはしてませんよ!? ちゃんと管理してますから!」

 

 そりゃ何よりだ。信頼を置いている後方幕僚様に知らぬ間に横領されていたとかだったら俺のメンタルが死ぬ。

 まあ、とりあえずそのコインとやらは凡そ200枚くらいあるらしい。ただ、枚数だけ教えられてもそれがどのくらいの価値なのかが分からない。そこらへんどうなの?

 

「基本的に10枚あれば、家具などの調度品が一つ買える程度に捉えていただければ大丈夫です。ですが、商品を指定して購入することは出来ません。この情勢ですから、在庫状況も常に変動しているんです。そちらのコンソールで操作することで購入手続きは完了します。コインを必要枚数分スキャンして頂ければ決済画面に移りますので、品物が届いたらそのコインを引き渡す形ですね」

 

 はー、なるほど。商品を指定できない辺り、なんだか戦術人形の新規製造を思い出す。というかそもそも指定出来ないっておかしくないか。どういう理屈でこのコインが働いているのかマジで分からない。ただまぁ、その謎を解明する気まではおきないし、どうせ分からんだろう。下手に組織の闇に首を突っ込んでも手痛いしっぺ返しを食らうのが関の山だ。実務に直接影響が出ない限り、意味不明なものは意味不明なまま放置しておくに限る。実際今までコインの存在を知らなくても全く影響はなかったわけだしな。

 

 んー。折角だし一回やってみるか。届く品がどういうものかも分からないんじゃ、今後使っていくかの判断すら下しにくい。聞くとコインには他の用途が特にないらしいので、ここで試しに使ってみても不利益を被ることはまず無いだろう。実用的なものが届けば万々歳くらいに捉えておくのが吉だな。過度な期待は大抵裏切られるもんだ。

 ということで、ピーっとな。これ枚数分スキャンするの地味に面倒くさいぞ。一回一回でそんなに時間がかかるわけじゃないんだが、これまとめ買いでもしようものなら何百枚もスキャンしなきゃいけないのか。手がしんどい。しかもこれ、決裁が必要なやつだからカリーナに代理でやってもらうのも難しい。ダルすぎるでしょ。カリーナが言うには、基本的に翌日には商品が届くらしい。何が来るか全く予測が付かないが、精々無駄骨にならない程度の結果を期待しておこう。

 

 

 

 翌日。うちの支部に妙に馬鹿でかいダンボールが届いた。届けに来たヤツにスキャンしたコインを渡した後、あまりにもでかいからカリーナにも手伝ってもらって開梱したんだが、ダンボールの山の中からメチャクチャにふわっふわな、手触り抜群の、どう見てもダブルサイズのゴシック調のベッドがシーツから枕までフルセットでその姿を現した。

 

 どうすんのこれ。




ダンボールから最高級ベッドへ、貴方に最高の一夜を。


ちなみにこの支部の宿舎はゲームでいうほぼデフォルト状態です。ダンボールがトモダチ。今までそこらへん全く手入れしてなかったので当然ですね。よく不満が出なかったものです。


しかし、少し離れている間に面白そうな新規のドルフロ小説が沢山出てきていますね。おじさんうれしい。読み専に戻ることも辞さない。



今後しばらくは、多分こんな感じの単発話が低速で続く感じになると思います。
それではまた。

今後、どうしていきましょうかね

  • どんどん時間軸(ストーリー)進めましょ
  • AR小隊とか支部の人形とほのぼのしよ
  • 新しい人形どんどん増やそ
  • サイドストーリーやスピンオフかましてこ
  • その他(メッセージや活動報告へどうぞ)

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