まったく、面倒くさいこと押し付けやがってあのヒゲ野郎め。実際あいつの言う通りなところもあるから余計に腹が立つ。正直、狩人と処刑人に関してはまだ俺自身もその全容を掴みきれていない。訓練の様子や普段の会話から察するに、俺たちに害を為そうと考えているフシは少なくとも見当たらない。それがあいつらの思考回路からなのか、セーフティシステムのお陰なのかは分からないが、とりあえず今のところは小康状態を保てているといったところだ。俺の言うことも聞いてくれているしな。
だが、だからといってその結果があいつらを表に出していい免罪符には成り得ない。そもそも、肝心の人間を襲うようになったエラーの詳細が依然不明なままだ。ペルシカリアも、そこまで探るには電脳の相当奥深くまで入り込まなければならないらしく、そうなると流石に対ハッキングプロテクトが作動してあいつらの電脳が自死してしまう。あの二人は俺の指揮下にはあるが、同時に貴重なサンプルでもある。安易に使い潰してしまうには些か惜しい存在だ。
そんな微妙な立ち位置にいる鉄血のハイエンドモデルを、無闇に表舞台に出すにはまだまだリスクの方が大きい。ここは俺とクルーガー、そしてペルシカリアという秘密のラインを保持しつつ様子見の期間を置く方が賢明だ。だからこそあのヒゲも、情報伝達の手法を変化させる中で、俺との距離を維持したいがために俺に代表指揮官の役を押し付けたんだろう。やってることと言ってることの正当性が担保されているだけにムカつく。何か良いように転がされている気がせんでもない。流石にこれは穿ち過ぎな考えだとは思うが。
とは言え、当分は何かが変わるわけでもない。
T02地区もまだ支部の建設どころか、どれくらいの範囲をT02地区に定めるかも決まりきっていないようだし、S02改めT03地区も復興作業にはまだ時間がかかる。支部建設に当たっては新たな人員も、戦術人形も確保しなければならない。特にT地域に関しては一般民の流入が無く、戦闘の側面が強い地域だ。つまりT地域に新たな着任する指揮官には、内地で内政統治を主に行っているようなタイプではなく、俺のような前線に適正のある人材が求められる。
今日日そんなやつがフリーでウロウロしているなどとは考えにくい。戦えるやつ、あるいは戦いに適正があるやつはとっくに他の戦闘重視のPMCや正規軍に入ったりスカウトされたりしている。俺が軍に居たときも、鳴り物入りで入ってきた新人なんかも居たしな。まぁそういうのは大体半分くらいはハズレなんだが。
しかしながら、別に何もしなくていいわけでもないのは困りどころだ。クルーガーも言っていたが、新人の指揮官がT地域に着任するということは、普通に考えてその地域を代表する支部や指揮官に一度くらいは挨拶に行く。今までは地区単位で本部が見ていたからその必要性も無かったんだろうが、これからはちょいと勝手が異なってしまう。そこまで頻繁に人の出入りがあるとは思えないが、何にせよ狩人と処刑人が外部の目に映る可能性は増して行くばかりだ。一から十まで説明して全員に理解と賛同を得られるとは思えないし、隠し通すことによる違和感だけならまだしも、不信感を持たれでもしたら困る。何らかの対策はとっておいて然るべきだろう。
うーむ。かといってじゃあ何が出来るのかというと、それはそれで見当が付かず困る。まさかあの二人をずっと予備宿舎に詰め込みっぱなしって訳にはいかんだろうし、緊急時などはアポ無しの来客も考えられる。通信の頻度もこれから増えていくだろう。そうなった時に声だけならまだしも、映像が入ってしまうとそこから余計な細波が立ちかねない。
元々、鉄血工造社自体はI.O.P社と自律人形のシェアを世界で二分していた大企業だ。蝶事件で瓦解してしまったとは言え、会社の認知度、そして製造していた自律人形の認知度も高い。ハイエンドモデルともなれば早々皆が容姿まで知っているとも思えないが、知っているやつが居ても全くおかしくは無い。あの基地に居るの鉄血じゃね? みたいな噂が立ってしまうともう限りなくアウトに近い。出来る限りそういう可能性は潰しておきたいところだ。出来るかどうか分からんが。
二人の外観から魔改造するわけにもいくまいし、いやそれはそれでありっちゃありか? 別にあいつらはI.O.P社の所有物って訳でもないし、言い方は強引だが俺の所有物と言ってもいいんじゃないだろうか。あ、いややっぱりダメだな。電脳にペルシカリアの手が入っている以上はそうも主張しづらい。そもそも勝手に弄繰り回す技術も知識も持ち合わせていないからなあ。
うーん、せめて見た目だけでもパッと見誤魔化せる程度にはしておきたいんだが、何かいい方法はないものか。あらゆる物資が貴重な中、ちゃんとした服なんかは余っていないし、I.O.P社製の戦術人形の服装じゃあいつらにとって小さすぎる。着替えでも出来れば多少は印象も変わるんだろうが、さてどうしたもんか。
「あ、指揮官さま。通信は終わりましたか?」
ああでもないこうでもないと、無い脳みそを一生懸命捻りながら歩いているとどうやらエントランスにまで戻ってきてしまったようだ。俺の姿を確認したカリーナが声をかけてくる。家具争奪戦がどうなったかの結果も知りたかったし、まったくの無駄足ってわけでもないんだが、悩みのタネが頭の中に残り続けている状態ってのは経験則上あまりよろしくない。一定のリソースが常に食われる状態なので、あらゆるパフォーマンスが低下する傾向にある。どうにかしてそれなりの区切りを自分の中でつけておかないとマズいなこれ。
「45……私はずっと恨むよ……恨み続けるよ……45……」
恐ろしく底冷えした声に思わず首を動かせば、そこにはすべての表情が失われたG11が存在していた。うわぁ、キツい。多分あれUMP45がじゃんけん負けたんだろうな。んで、ベッドが取られたと。最初のビューティフルなベッドの他にもう1点そこそこのグレードっぽいやつがあったと思うのだが、計20点の家具のうちベッドはその2つだけだ。どこの宿舎に入ることになったのかは分からんが、第三宿舎でないことは確実だな。まあ、あれくらいなら許容範囲だろう。G11が本気になっていたら今頃暴れているだろうしな。
「まったく、家具の一つや二つでぐちぐち言わないでくれる?」
そんなG11を尻目に心底面倒くさそうな声を上げるのはHK416だ。聞こえてくる言葉だけを勘定すれば非常に大人らしい印象なのだが、お前その右脇にガッツリ抱えてるクッションは何だ。これ突っ込んだら負けかな。見なかったことにしておこう。
その他の部隊はそれなりに満足した結果のようで、ぶつくさ言ってるのは第三部隊……というよりはG11だけっぽい。まぁ睡眠が何よりの趣味だからなあいつ。より上質の惰眠を貪れるアイテムがとられたってのはショックが大きいんだろう。いずれまたコインは貯まるだろうし、次にベッドを引き当てたら第三部隊に融通してやるか。他の家具なら公平に扱うべきだが、新しいベッドがない宿舎に優先的に回したところで大きな不満は出ないだろうし。
「しっかしよ、こんなのどーすんだ? 暇潰しに切り裂けばいいのか?」
ふと声がした方に視線を向ければ、そこには大きな壁掛け布を手にした処刑人の姿があった。あいつらも一応うちの部隊員ではあるから、入りから不公平はよくないということで今回の争奪戦に呼んだのだが、肝心の狩人と処刑人が家具に対してまったく興味を示さなかった。ただ、だからと言って一つの宿舎だけダンボールのままというのはあまりに味気なかったため、あいつらには最後まで選ばれなかった4点を進呈することにしていた。
そのうちの1点、グリフィンのマークが描かれた大きい布を手に処刑人が何とも言えない表情をしている。そりゃまあ、クッションやらソファやら使い道のある家具ならともかく、あんな実用性皆無の装飾品を貰ったところで情緒に乏しい鉄血人形じゃ有難味もないだろうなあ。
お、待てよ。ちょっといいこと思いついた。ピンときた俺はそのまま処刑人に声を掛ける。もし使わないようなら一度その布を預からせて欲しいんだがどうかな。
「あ? 別に構わねぇぜ。俺が持ってても使わねぇしな。狩人も要らないだろ?」
「ああ、構わん。もとより指揮官の持ち物でもあるのだろう? 好きにしろ」
オッケーオッケーサンキューな。
じゃあすまないが、その布はこっちで回収させてもらおう。あ、お前ら自分で選んだ家具は自分で運べよ。配置は好きにしていいから、とりあえずこのエントランスを綺麗にしてってくれ。そんでもってカリーナ、幾つかお前に依頼したいことがある。買いたいものもあるからちょっと用立ててくれ。その分の代金はきっちり払うから。
「はいはい、なんでございましょう? ……ええ、はい、可能です、出来ます。…………ははあ、なるほどなるほど。畏まりました! そういうことでしたらこのカリーナにお任せください!」
おおっと、予想以上の好感触。プランは閃いたものの、俺一人の力ではどうにも出来ない内容でもあったからな、この反応は正直助かる。
よし、じゃあ早速取り掛かるか。いやあ、こんなオママゴトみたいなことに多少なり時間を割くことが出来るっていいな。今まで頑張ってきた甲斐があるというものだ。しかし、こんなお遊びにちょっとテンション上がってる俺も俺だなあ。如何せん軍人時代から此の方、娯楽というものからはずっとかけ離れた生活をしていたもんだから、酷く新鮮にも感じる。こういうのを童心に帰るとでも言うのだろうか、この歳になって実感したくもなかったけどさ。
そんでもって翌日。カリーナと色々と話し合ったり作業したりしてたら思ったより時間が経ってしまいちょっとばかし眠気が残っている。いかんなあ、寝不足は身体にとって大敵だというのに。特に俺の歳だとそんな無理も利かないからつらい。その点カリーナはいいよな、若いもん。
そうそう、そのカリーナだが、最初の悪印象こそあったものの今では割と狩人、処刑人とそこそこ上手くやっている。まだ少々ビビりがちなところはあるが、あいつらに危害を加える気がないと分かってからは生粋の親しみやすさもあってか、意外と話が出来ているようだ。特にここ最近では業務の合間を縫って色々と人間社会の常識や世界情勢なんかも教えているようで、あの二人からはカリンと呼ばれているらしい。そういえば、出会ったときにそう呼んでくれと言われたような気もしないでもないが、すっかり忘れていた。というか狩人と処刑人が人間の名前を覚えて呼ぶって結構凄いことじゃないのか。何か俺より仲良くなってない? いやまぁ、基地内の人間関係、いや人形関係と言うべきなのか、よくわからんが、そういう関係が良好かつ円滑になるのは喜ばしいことではあるのだが。
「いやー指揮官さま! 自分で言うのもなんですが、中々の出来ですよこれは!」
寝不足で若干テンションの低い俺の横で、ぶち上がっている後方幕僚様が上機嫌な声をあげている。嬉しいのは分かるがもうちょっとボリュームを落として欲しい。耳と頭が痛い。
実務としては俺はほとんど手を動かせなかったから、今回のプランを実際に行動に移したのはほとんどがカリーナだ。こいつほんと器用だな。後方幕僚から何でも屋にでも転身した方がいいんじゃないの。いや、だからってそうされると俺の業務量が恐ろしいことになるから出来れば勘弁して欲しいんだけど。
「んお? なんだ指揮官じゃねえか、何か用か?」
カリーナと二人で足を運んだ先は、狩人と処刑人に充てている予備宿舎の一つだ。軽くノックすると、一拍置いて処刑人が顔を覗かせる。狩人は相変わらず瞑想でもしてんのか、静かに座したままだ。あいつ真面目ちゃんなのかな。思考回路自体はかなりブッ飛んでるけど。
とりあえず宿舎にお邪魔させてもらい、持ち寄ったアイテムを狩人と処刑人に早速渡そう。つーことでお前ら、ちょっとこれ被ってみてくんない?
「うお……何だコレ、めちゃくちゃ動きにくいんだが……」
「ふむ……私たちの見た目の偽装が目的か?」
うーん、やっぱりあんまし印象は良くなさそうだな。まぁこいつら明らかに動きやすさ重視の見た目してるし、何なら露出狂一歩手前くらいの恰好だからな、こんな全身に布が纏わり付くような服装は経験がないだろう。
狩人はこちらの思惑を察してくれているようで何よりだ。まぁ些か不恰好なことは否めないが、ただの布から派生させたにしては何とか服の体を為しているだけ上手く出来たと思う。いずれちゃんとした服も準備してやりたいところだが、取り急ぎのレベルだとこの程度が限界だ。そもそも、こいつら二人にそこまで手間隙かけるのもどうなの、と思うが。
ただ、とりあえずこれで鉄血っぽさはある程度隠せるとは思う。常日頃からこの恰好をしろとまでは言わないが、来客の予定があったり、何かしら隠す必要がある時はすまないがこいつを被っておいてほしい。多分ないよりはあった方がいいだろうし、武器やら処刑人の右腕やらを隠せるだけなんぼかマシだろう。
「……まあ、カリンから色々教えてもらったしよ、必要性は分かるっちゃ分かるんだが」
不満は拭い切れないながらも、なんだかんだぶつくさ言いながらでもこっちの意を汲んでくれるってのはありがたい限りである。
「一ついいか、指揮官」
とりあえずの服モドキを一通り眺めてから、狩人が一言。うーん、何かしらの要望が出てくることは予想していたが、さて何を言われることやら。別に宿舎に居る時にまでこれを被れとは言わないから何とか穏便に済ませて頂きたいものである。つーか何故俺は鉄血の人形相手にここまで手を焼いているんだろうな。昨日はちょっとテンションが上がっていたが、冷静に考えると不相応な気さえしてきたぞ。いやまぁ作っちゃったからもう後戻りはできないんだけどさあ。
「私には人間の美的感覚は良く分からんが……有体に言って、これはいわゆる"ダサい"というやつではないのか」
「お、狩人もそう思うか。俺もそう感じた。そこらへんどうなんだ指揮官」
やめてやれ。カリーナの目が死んだぞ。
ということで、試験的に挿絵を入れてみましたがどうなんでしょうね。
かなり時間を食われるのでラフが一杯一杯なんですが、まぁこうやって偽装させるのもありかなぁと思いまして。
今後やってくかは分からないです。というか普通に文章を考える以上の労力がかかるのでかなりしんどいです。
正直個人的には目の保養ポイントがほぼ全部潰れるのであまり着せたくないです。
絵で表現したいポイントというのは確かにあるんですが、しっかり描き込むとまぁ結構な日数がかかる上に、この場で表現する本質ではないと思うので、まぁお遊び程度に捉えてやってください。
あと本文中でも書きましたが、実際T02やT03が完成するのは時間軸的に割と向こうの話なので、その間はちょこちょこほのぼのしていきたいと思います。何かいい案あったらください(乞食スタイル)
今後、どうしていきましょうかね
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どんどん時間軸(ストーリー)進めましょ
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AR小隊とか支部の人形とほのぼのしよ
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新しい人形どんどん増やそ
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サイドストーリーやスピンオフかましてこ
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その他(メッセージや活動報告へどうぞ)