戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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年末会議と忘年会を思いの外スッとフェードアウト出来たのでぼくは時間を手に入れました。
やったぜ。


04 -ジェットストリームファミリーパンチ-

 結論から言えば、UMP9と名乗った戦術人形は怪しくはあったものの不審な人形というわけではなかったようだ。暫定容疑者の言なんざ1ミリも信用が置けないわけで、M16A1をはじめとしたAR小隊、そして念には念をということでクルーガーにも確認を取った。監視をつけて色々と確認している間、ひたすら「信じてよ! 信じてってばあ!」などと叫び回っていたが、こちとらその言葉を素直に信じる程馬鹿じゃないし、信じるメリットもない。オトナは心も考え方も汚いんだ、覚えておけ人形ちゃん。

 ていうかそっかぁ、あの人形が俺の愛銃を使うのかぁ。ほんの少しばかりショックである。いやそりゃ分かるよ、戦術人形には銃器との繋がりがあって、その特定の組み合わせに俺の趣味趣向を反映する余地など少しも残っていないことくらい。なのでこの気持ちはきっと我侭だとか八つ当たりだとかそういう類のものだろう。深く気にした方が負けな気がするので、そういうものだと割り切って考えることにする。

 

 ちなみに本来やって来るはずの戦術人形なんだが、I.O.P社に改めて問い合わせてみたところ輸送中に人権団体の過激派の襲撃に遭い、人員諸共帰らぬ身になってしまったようである。流石の俺もこのニュースには引いた。しかも早々起こりはしないが特段珍しいことではないということまで聞いてしまい一層引いた。軍に居た頃は自律人形がどうとか人間がどうとかいう生ぬるいこと言ってられなかったしなあ、直接そういう団体と顔を合わせる機会もなかったし。しかしまぁ、権利やら思想やらだけを只管に担ぎ上げて、各々の義務を勘定しないクズってのはどこにでも出没するものなんだなと改めて感じる。お前らが今どうにかこうにかこの世界で生きていくことが出来ているのは、人間の技術も自律人形の働きもあってこそだろうに、全く以て現実を見れていない。いや、現実を見たくないからこそそんな茶番に躍起になっているのやもしれない。本当にこの世界救いがない。なんで俺生きてるんだろう。

 

 いかんいかん、最近しょうもないことに脳みそのキャパシティを奪われている気がするぞ。業務自体は軍に居た頃より格段に楽だが、これはこれでストレスが溜まっているのかもしれん。多分、単純に身体を動かすことが出来なくなっていることも影響しているんだろう。これはいよいよペルシカリアに義足の注文をした方がいいのかなどと考えてしまう。普通のやつならいいんだ普通のやつなら。あの女特製の義足なんて考えたくもない、優秀なのは嫌でも分かるんだが。

 

 そうそう、それで何故あのUMP9がうちの支部に着たかということだが、あのクソヒゲ野郎の差し金もとい計らいらしい。どうやら彼女はグリフィンの暗部らしく、「404小隊」という名の部隊員なんだそうだ。グリフィンが表立って動けない特殊な依頼なんかを秘密裏に処理する部隊、ということだが、あんなキャラでそんなこと出来るのかという疑問の方が先に立つ。ちょっとデカい犬みたいな感じだぞあれ。SOPMODⅡと同類の匂いがする。

 で、その404小隊なんだが、部隊柄一般の指揮官においそれと指揮権を預けるわけにもいかず、かといってずっと本部預かりのままではフットワークが重くなりすぎる。それで俺の支部に白羽の矢が立ったわけだ。この支部には現状指揮官が俺しか居ないし、機密漏洩のリスクも低い。今のところ指揮官業も何とか上手くこなしているから、俺に預けて様子を見ようということらしかった。ほんとあのヒゲいつもいつも好き勝手してくれやがる。お得意のゴリ押しをしてくるのは勝手だが、それを受ける立場の人間が何時までも大人しくしていると思うなよ。そろそろヒゲや頭髪だけじゃ物足りなくなってくる頃合だろう、全身脱毛でもしてやるかアイツ。

 ただ一方、AR小隊と知己であるということは結成されてからそれなりの期間があったはずなんだが、その間マトモな指揮官が出てこなかったのかという疑問も残る。詳細までは知ろうとも思わないが、クルーガーはクルーガーで人材不足に頭を悩ませているのかもしれない。そう考えるとあいつの采配にも情状酌量の余地はあるのかもしれないが、だからって出来そうなやつに仕事全部ぶん投げたらそいつが潰れるに決まってるだろ。こんなだからブラック企業は負のループから抜け出せないんだ、分かってるのか。

 

「指揮官どうしたのー? 何か難しい顔してるー!」

 

 いつの間にか俺の顔を覗きこむように距離を近付けて来たSOPMODⅡが、その表情を若干曇らせながら俺に声をかけてくる。うーむ、自分でも気付かないうちに顔に出ていたか。ポーカーフェイスを得意としている身としてはこれは非常によくない。いや、AR小隊の連中なら俺がどんな能面顔をしていても見抜いてきそうなものだが、かといって余計な心配を部下にかけていては上司の立つ瀬がない。気にするな、と声を返してその頭を軽く撫でてやれば、そこには瞬く間に満開の笑顔を咲かせるSOPMODⅡ。うん、いいな。軍人時代は縁が無かったが、ペットを飼うということはこういう感じなのかもしれない。アニマルセラピーなんて言葉もあるくらいだ、その効果も中々侮れないかもしれん。

 

 まぁ、UMP9が来たことで好転する事態もある。彼女は現状、本部から特別な任務が降りない限りは俺の指揮下で動かしてもいいらしいので、純粋に手駒が、それもある程度の教練が終わっている人形が手に入るのは素直に喜ばしいことだ。チェックを通した結果、UMP9の最適化工程は30%を超えていた。このレベルなら2体のダミーリンクを操ることが出来る。AR小隊には遠く及ばないが、秘密裏に動かしていた部隊、それも指揮官や教官を付けていなかったことから、この最適化工程は全て実戦で進められたものだろう。AR小隊の教練初日を思い出してみても、よく今まで死ななかったものである。それだけ素体やAIのスペックが優れているということだ。俺の足が健在なら、UMP9にも教育を施してどこまで伸びるか見てみたかったものだが、それは最早叶わぬ夢。名残惜しくも感じてしまうが、無いものねだりをしても仕方がない。座学と俺の指揮でどれだけ伸ばせるかやってみよう。

 

「あ、指揮官ここにいたかぁー!」

 

 なんてことを考えていたら、早速現れたのはその当人UMP9。ダミーは宿舎に置いてきたのか今はオリジナル一人だ。最初に出会った頃と同じように人懐こい笑顔を浮かべて司令室のゲートを潜ってくる。出会いの形はお世辞にも良いものとは言えなかったが、本人としては誤解が解ければ問題無かったようで、その割り切りの早さはこちらとしても助かるところだ。また、I.O.P社に発注した人形が到着しなかったタイミングの悪さもあって、俺の警戒にも理解を示してくれたのはありがたい。曲がりなりにも俺の指揮下に入るんだ、信頼関係が無いままというのは色々と困る。その辺り柔軟に考えることが出来る人員というのは貴重だ。特殊部隊所属というのも一様に否定だけは出来ないな。

 

「むぅ、ナイン何しにきたのさ」

「んー? ちょっと指揮官とお話しに来たのさー!」

 

 おっ犬の喧嘩かな? いや、どっちかと言えば小型犬が大型犬に食って掛かってる感じかな。とりあえず話があるなら聞いてやろうということで、SOPMODⅡを抑える。こいつ俺の言うことならすぐ聞いてくれるから助かる。よく躾けられてるなあ。ついでと言っては何だが、仕方がないこととは言え最初に思いっきり疑ってかかってしまったことを改めて詫びておこう。結果論にはなってしまうが、無実の人形を疑ったのは事実。物事はしっかり落とすところに落としておかないとな。

 

「いいっていいって! 無事誤解も解けたことだし。しかし指揮官は真面目だね~416を思い出しちゃうなぁ」

 

 にしし、とどこか懐かしそうな香りを漂わせてUMP9は再び笑う。

 UMP9には当たり前だが、誤解が解けた後は自由行動を許している。立場としては完全に他の戦術人形たちと同じだ。同様に、暗部に所属しているからといって特別扱いもしていない。俺は部下に対して適正に評価は下すが贔屓はしない。AR小隊のことは高く評価しているし、それ以上に働いてくれていることも事実だが、言ってしまえばそれだけだ。彼女たちは戦術人形であり俺の指揮下にある。錬度の違いや出来不出来、得手不得手は勿論あるが、配属となったからには同列に扱う。それ以上でも以下でもない。

 とは常に考えているが、まぁ俺も人間だしなあ、一律かつ完璧に扱うなんて多分出来ていないんだろう。無意識にそういう思考、行動になっていることに後から気付くなんてよくあることだ。だからと言って心掛けを辞める理由にはならないから、極力そうしないようにはしているが。

 

 そういえばUMP9は話をしにきたと言っていたな。一応だが、SOPMODⅡが居てもいいのかを尋ねると全く問題ないとのこと。ということは少なくとも極秘裏の任務といった重要度が高い話ではなさそうだ。うーむ、となると本当に世間話でもしにきたのかな? まぁこちらとしても404小隊に所属しているサブマシンガン型の戦術人形、という情報以外ろくに持っていないので、部下との親睦を深めるがてらフリートークと洒落込むのも悪くはない手か。

 

 

 

 

「さっき通信があってね、私以外の404小隊、あっ、あと3人居るんだけどね、全員こっちに来るってさー! 多分私と同じような指示が入ったんだと思うよー。明日には着くだろうってさ! やったね指揮官! 家族が増えるぞぉ!」

 

 

 よっしゃ分かった。俺はヒゲを毟りに行けばいいんだな。




お前も家族になるんだよ(ファミリーパンチ

書いてて思ったんですけど指揮官おじさん、明らか軍属時代よりストレス溜めてますね。
すべてはこのブラック企業が悪いのだ……


ちなみに前作と違い、今作品は本当に思い付いたところからペペっと書いていくスタイルなので、特に落としどころなどを定めていません。

これからものんべんだらりとお付き合い頂ければと存じます。

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