戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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割としっかりめに用意したはずのプロットが全部迷子になりました。返して。


37 -ハウンドドッグ-

 道中のドライブは順調そのものであった。今日の天気はやや雲が広がっているものの、雨が降りそうな陰り方ではない。雲庭の合間を縫ってしっかり日も射しているし、視界不良というわけでもない。少々肌寒い気温ではあるが、活動には何ら支障の出ない温度。うーん、実に良い作戦日和といったところだな。

 支部からそれぞれの車両に搭乗して進んでいる道はアスファルトが残っていたり、未舗装だったり、本来はアスファルトがあったであろう瓦礫の道だったりと、景観としては中々の趣を齎しつつ移り変わっていた。俺とAR小隊のオリジナルが乗る1号車、第三部隊のオリジナルが乗る2号車、第五部隊の乗る3号車。そして、それぞれのダミーを乗せた輸送用車両が4号車と5号車といった感じだ。戦術人形の中にも運転できる奴は居るが、うちの支部では作戦前に余計な消耗をさせないためにそれぞれの車両には運転を目的とした自律人形が一体ずつ配置されている。

 

「指揮官。もう間もなく第三ウェイポイントを通過致します」

 

 俺が乗っている車両を運転する自律人形より声がかかる。その声を受け、手元の地図のマークと現在の時刻の照らし合わせを行う。うむ、ほぼ予定通りって感じだ。行軍に支障もないし、今のところは本当に順調だな。まあ逆に作戦区域到達前に問題が起きても困るんだが。

 いや、一つだけ問題があった。これを問題と呼ぶかどうかは人によって異なるだろうが、俺にとっちゃある意味で大問題である。

 

「……? どうかされましたか?」

 

 俺の表情を横目で確認し、今度は若干ながら不安な色を含んだ声色で自律人形が声を上げる。助手席から無意識的に横へ視線をずらして捉えた人影は、程ほどに伸ばした栗色の髪を後ろで結った、見目麗しい自律人形であった。

 

 うん。何故ハルさんが運転をしているのかな? おじさんにはサッパリ分からない。

 

 おかしいでしょ。アナタ食堂担当でしょ。間違っても戦場に向かう車を運転するタイプじゃないでしょ。カリーナのやつ何してくれてんの。そんな疑問の渦は、ハルさんの微笑によって全て封殺されてしまった。意味が分からない。

 支部の外壁で既に準備万端であった車両に乗り込んで直ぐ、なんでやねんと声を上げなかった自分を褒めてやりたいくらいだった。何食わぬ顔でしれっと運転席に座っていたが、一周回っても違和感しかなかった。曰く「料理だけでなく、もっと皆さんの役に立ちたいと思って」とのことだが、正直ハルさんは食堂に居るだけでハチャメチャに役立っている。むしろこの支部に居てもらわないと困るレベルだ。それ以上に一体何を望んでいるんだこの欲張りさんめ、とも思ったが、カリーナがちゃんと正規の手順で手配した人形である以上、俺がどうこう喚いていきなり運転手を交代させるのも少しばかり躊躇われた。ていうか電脳にインストールされてるの料理関係だけじゃなかったのかよ。どんだけ詰め込まれてるんだ。

 そんなハルさんではあるが、なんとびっくり運転もハチャメチャに上手かった。軍事車両は基本的に全てマニュアルなんだが、シフトチェンジの振動がほぼ無い。発進停止も驚くほどにスムーズだ。いぶし銀の技術バリバリである。どっから手に入れたんだそのテクは。ハルさんに限らず、支部内で働く自律人形は全てI.O.P社製のはずなんだが、何故かハルさんだけスペックが高過ぎる気がする。これ後でペルシカリアに聞いてみよう。絶対普通の人形じゃないぞこいつ。謎過ぎる。

 

 仰天のイレギュラーこそあったが、前述したとおり行軍自体は順調だ。

 俺たちの部隊は今、クルーガーから頂戴した、通信の途絶えた部隊が定時連絡を発信したポイントを順番に回っているところである。部隊の痕跡でも見つかれば御の字程度の考えだが、まあ予想通り、異常なしの定時連絡が入れられたポイントからは何も見つからなかった。一応想定ルートとしては、通信が途絶えたポイントと最後に連絡が繋がったポイントの中間地点までを車で移動し、そこからバニシングポイントまでは警戒のため徒歩で進む予定だ。機動力で言えば車両で突っ込む方が断然速いんだが、何が潜んでいるか分かったもんじゃないからな。余計な音を立てて先手を取られるのも困る。慎重に慎重を重ねて無駄ということはない。

 ちなみに俺はこういう場合、紙の地図を愛用する。軍人時代からここは変わらない。他の部隊ではタブレットを使うところが多かったし、俺の部隊でも部下には好きに使わせていた。別に機械が信用ならないとか使えないとかそういう話ではない。実際めちゃくちゃ便利だし。ただ、紙媒体はデータが破損することもなければ、液晶が割れることもない。バッテリー切れの心配もないし、長年の酷使で半導体がイカれることもない。明かりさえあればいつでも見れるし即座に書き足せる。閲覧媒体としての電子機器が極めて優秀だということは俺も十分認めるところだが、何だかんだ記録媒体として優れているのは紙だと思っている。経年劣化は逃れられないものの、それは電子機器とて同じだ。こういうところがオッサン臭いんだろうなとは俺も思うが、慣れ親しんだものは仕方が無いのだ。

 

 

 さて、第三ウェイポイントも無事通過し、そろそろ車から降りる頃合だ。第四ウェイポイントなどはない、次のポイントが消失点だからである。周りの景色に視線を預けてみれば、大きな幹線道路がただ只管に続いており、ところどころアスファルトが崩れ落ちたり破壊されたりしているが、まあ何とか車を走らせられる程度には整っている。地形的にはほぼ平地と見ていいだろう。ぽつぽつと木々が生い茂っているエリアもあり、ちらほらと低層ビルや民家の廃屋だろうか、元々人が住んでいたような面影も十分に感じ取れる。

 ざっくりまとめて、田舎街といって差し支えない風景であった。これが第三次世界大戦前であれば、さぞ平和で長閑な光景が目に入ったことだろう。見た感じ汚染もされていないし、土地も生きている。なるほど、次の支配地域候補としては十二分だ。

 手頃なビル近くに全車を寄せ、部隊を召集する。ここからは徒歩だな。見た感じ、建物の密度も高度も低い。行軍中の視界は十分に確保出来ると見える。しかしそうなると、部隊の通信が途絶えた理由が気になってくるな。鬱蒼と茂った森林などと違い、見渡す限り今と同じような景色が続いているようにも思える。アンブッシュしようにも建物の影などは場所が限られてくるし、ジャミングの有無に関係なく、この立地で一方的に奇襲を食らうシーンが想定出来ない。それこそ通信が出来ない異常を察知して引き返してもよさそうなものだ。

 試しに車両に搭載していた通信機から支部への連絡を試みるも、スピーカーから流れてくるのは不規則なノイズのみ。うーん、この位置で既にジャミングの圏内か。発生源がどこかは分からんが、調査部隊が完全に消息を絶ったと思われるポイントまではまだ距離がある。この付近に原因が潜んでいる可能性も無くはないが、もしそうであればとっくに仕掛けられているはずだ。何せ今俺たちは隙だらけだからなあ。当初の読み通り、相当な広範囲に渡ってジャミングが張り巡らされていると見ていいだろう。

 

『あー、あー。指揮官殿、聞こえるかの』

 

 周辺に目を配らせながら考えていると、耳元に響くのは喋りが特徴的なナガンの声。釣られて視線を動かすと、俺の立ち位置から10メートルほど離れた位置で手を振りながらこちらを向いていた。うむうむ、感度良好っと。問題なく通信が行えている旨を無線で伝え、テストを終える。予想通り、戦術人形間で使われる短距離通信プロトコルは生きているようだ。今俺の耳元には、その周波数に合わせたヘッドセットが装着されていた。

 如何に強力なジャミングといえど、全ての通信を妨害するような無茶は鉄血側もしないだろうと踏んでいた。技術的には全然出来ることではあるんだが、それをやってしまうと鉄血側も通信が行えなくなる。あいつらはあいつらで相互通信プロトコルを持っているはずだから、それさえも封じてしまうと味方同士で連携が取れない。正に本末転倒というやつだ。

 だが、安心ばかりも出来ない。この短距離通信プロトコルの最大通信可能距離は障害物なし、無風の理想的状況で50メートルが精々だ。行軍しながらとなると、実際には2,30メートル程度が関の山だろう。人形同士がその距離に居さえすればそいつらは通信が可能だが、俺からの指示を飛ばすためには全員がその距離に収まってもらう必要がある。陣形を広げすぎるのも問題だが、かといって全員が俺の周囲に固まっていては満足に作戦行動が行えない。範囲攻撃でも食らおうものなら一網打尽である。

 

 うーむ、致し方なし。少しばかり情報伝達の速度が犠牲になるが、最低限以上に索敵範囲を広げなければ意味がない。二段階通信の陣形で行こう。ある程度の距離を開けておかなければ、不意打ちなど食らってしまうと真っ先に俺が死ぬ。こうも障害物の少ない開けた場所では、人形と違って耐久力に難のある人間ではひとたまりもない。俺だって無駄死にしたくないしな。

 陣形はこうだ。まず進軍方向の前方にウェルロッドとナガン、ナインの三人を配置する。先鋒両翼にそれぞれM16A1、SOPMODⅡを置き左右の警戒に入ってもらう。前方からの通信を拾うため、中継地点となる陣形の中心にM4A1とUMP45を置く。そしてその二人の更に後方に俺だ。HK416とG11には俺の位置から両翼に展開してもらい、後陣の左右を警戒してもらおう。そして俺の直衛に狩人と処刑人。後方警戒にAR-15といった具合だ。

 前後からの通信を処理する中心の二人にはやや負担が掛かってしまうだろうが、あの二人ならばこなしてくれるはずである。M4A1は言わずもがな優秀だし、UMP45は電子戦に強く電脳の情報処理性能が高い。

 一応基本的な動きとしては、開けているエリアに関しては先述の通りに進む。廃屋やビルなど、アンブッシュポイントがある場合は都度前衛組からダミーを先行させて索敵。これの繰り返しだ。調査部隊が生きていて合流出来れば御の字だが、まあ可能性は低いだろうな。こんな視野が開けたフィールドで帰還出来ない理由がない。ほぼ確実に殺されているか、そうでなくとも行動不能状態に陥っているだろう。

 ハルさんをはじめとした自律人形と車両に関しては一旦待機だ。ただ、もし襲撃を受けた場合はとにかく支部まで逃げることだけを考えて動くようにと言い含めておく。いくら替えの利く自律人形とは言え、無闇矢鱈に使い潰すつもりもない。あと万が一にもハルさんを失うのはあまりにも痛い。誰だって任務を終えたら帰って美味いメシを食いたいもんな。

 

 よし、つーわけで進むか。ナイン、ウェルロッド、ナガン。頼んだぞ。

 

「はいはーい!」

「了解致しました」

「やれやれ、人遣いが荒いのう。了解じゃ、指揮官殿」

 

 三者三様の返答に頷きながら、いざ前進。さて、何が出るかなっと。

 

 調査部隊の通信が途絶したポイントまでは、警戒前進の速度で凡そ一時間強といったところだ。車でぶっちぎれば早いんだが、流石にそんなアホなことは出来ないし、まあ一時間程度であれば義足の問題もない。行軍中、恐らくナインだろうが、色々な通信が飛んでいるようだが中継地点に居るUMP45が見事にすべての無駄な情報をシャットアウトしていた。流石である。

 しかし、いざ進んではみたものの、鉄血人形のての字も見えないな。俺の予想ではポイントに至るまでに何度か遭遇戦に入るかな、程度には考えていたんだが、あまりに静かだ。逆に不安を煽る。息を潜めて襲撃の機会を伺っているのか、それとも調査部隊を殲滅した後に引き上げたのか。だが、引き上げたとするならジャミングがかかりっぱなしなのが引っ掛かる。ここまで大規模なジャマーであれば、それに特化したモデルが居るか、そうでなければそれなりのサイズの装置が必要なはずだ。鉄血側にしてもそこそこ貴重なアイテムのはずである。それらを放置したまま帰るとは考えにくい。

 しばらく進んでいくと、今まで大きな道しるべとなっていた幹線道路が急激に細くなり、そして破壊の度合いも一気に増した光景に様相が変化してきていた。同時に建物の影も少なくなっている。地形こそ変わらず平坦ではあるものの、そこそこの茂みや雑木林がそこかしこに点在する、お誂え向きのシチュエーションだ。ふむ、仕掛けてくるとしたらこの辺りかな? 念のため前方の連中のダミーを先行させてアンブッシュを警戒しておこう。

 

『……ッ! 前方接敵! 指揮官!』

 

 突如、UMP45から鋭い通信が響く。それと同時、茂みから見慣れた色合いのファッキン鉄血人形どもが飛び出してきたのが遠目に確認出来た。

 うーん、ドンピシャかあ。こうも分かりやすいと逆にその裏があるんじゃないかって考えてしまうな。すかさずウェルロッドとナガンを下げ、ナインを前に出すよう指示。あわせてM16A1とSOPMODⅡに動いてもらい、ちゃっちゃと殲滅するか。M4とUMP45は中距離から援護。狩人と処刑人には悪いが俺の盾になってもらおう。こちとら生身なんでね、流れ弾でも当たったら死んじゃうんです。

 しかし、これで鉄血側にハイエンドモデルが居ることが確定したな。今飛び出してきている鉄血人形は量産型だけだが、本当に量産型しか居ないのであれば、潜伏してタイミングを見て強襲などという芸当は出来るはずがない。誰かが指示を出している。その誰かってのは十中八九鉄血のハイエンドだろう。単純な待ち伏せではあるが、兵隊をただ前に突き出すだけの運用とは違う。スケアクロウや処刑人とはちょいとばかし出来が異なるようだ。

 ただ、それだけってのも考えにくい。敵方の策が待ち伏せからの奇襲だけであれば、調査部隊が一瞬で壊滅するとも思えない。そして、このタイミングを計れるということは、戦場を見渡せる範囲にそのハイエンドが潜んでいるということだ。つまり、こっちからも見つけられる。

 候補は二つ。前方の茂みの何処かか、少ないながら立っている低層ビルの何処か。だが、もし前方の茂みに居るのであれば量産型と一緒に襲い掛かってきた方が効率がいい。となると、建物の中に潜んでいる可能性が高いな。

 

 ふむ。よし。狩人、処刑人。お前ら俺の護衛はいいから、あそこに見えるビルに突っ込んでみてくれ。俺は下がってAR-15にカバーしてもらう。予測が正しければそこに親玉が居ると思う。

 

「おっしゃ! 任しとけ!」

「了解した」

 

 俺の指示を受けた鉄血製の猟犬が二匹、とんでもないスピードで走り出していく。特に処刑人は久々の実戦機会である。あいつ戦うの好きっぽいからテンション上がっちゃってるんだろう。しかし便利だなあいつら。強いし。今後も機会があれば積極的に使って行きたいところだ。

 

『殲滅完了よ、指揮官』

 

 とかなんとかやってる間に前方の雑魚処理が終わっていた。はえーよ。十数体は居たと思うんだが、本当に一瞬だったな。奇襲をかけようとしたとは言え、所詮は量産型だったか。ウェルロッドやナガンだけならともかく、M16A1とSOPMODⅡの反撃に耐えられる要素がどこにもなかった。

 

『おお、マジで居た。指揮官、お前やっぱすげぇな!』

『ふん。久しぶりだな、侵入者』

 

 突入を指示してから程なく、二人から無線が響いた。おー、やっぱり居たか。鉄血製のハイエンドモデルはその性能こそ疑いようがないが、戦闘における経験値が絶対的に足りていない。策を弄することが出来ない、あるいは講ずる策そのものが稚拙だ。言ってしまえばセオリーの初歩程度の知識しかないように思える。それでも極めて高い戦闘能力に、こうまで広範囲のジャミングを繰り出せるのであれば、並大抵の力では突破出来ないのも事実なんだが。ていうか、前方からの奇襲に合わせて建物からガトリングでもぶっ放せばそれだけで全然違ったと思うんだが、何故そうしなかったのか。まさかその程度も思いつかなかったとは言うまい。いくら戦術理解に浅いとは言え、俺は鉄血のハイエンドモデルをそこまで過小評価はしていない。つーかそれやられたら普通にヤバかったな。何で撃たれなかったんだろう。身を隠すことを優先してたのかな。

 

『いや、何でって言われてもなァ……』

『一言で説明するのは難しい。今の貴様では理解し難いだろうしな』

 

 うん? なんか話してる? 攻撃の音が聞こえないところからして、恐らく話し合いのターンにでも入ったのかな。まあ、いくらあの二人が鉄血側のネットワークリンクモジュールを勝手に焼き切ったとはいえ、ハイエンドモデルは自我もあるし感情もある。あいつら元々仲間だったんだし、いきなり銃を向けるって考えには至らなかったのかもしれない。

 

『待て待て待て落ち着け! 別に俺らは騙されてるわけでも洗脳されてるわけでもねぇから!』

『処刑人の言う通り、私たちは自らの意志でここに居る。そもそも洗脳されているのであれば問答無用で貴様を撃ち殺しているはずだが』

 

 あれ、何か揉め出したぞ。何が起きてるんだ。侵入者側の声が聞こえないからどういう会話になっているのかは分からんが、多分あの二人が結果として人類の味方をしてしまっていることに噛み付いてるんだろうな。気持ちは分からんでもない。あっちからすれば人類抹殺を目的とした仲間が突如寝返ったのだから、そりゃ混乱もするだろう。

 

 

『うおッ! アッブねえ!! テメェこの野郎! やるぞ狩人!!』

『ああ、已むを得ん!』

 

 処刑人の叫び声が走ったのと同時、今まで聞いたことの無いような連続的な射撃音が周囲に木霊する。狩人と処刑人が突っ込んだビルから発生したその音は、数えるのも億劫になる程の瓦礫片とガラス片を盛大に撒き散らしながらその存在を声高に主張していた。

 うーわーなんじゃあれ。多分侵入者のガトリングだと思うが、ビルの外壁が物凄い速度で解体されている。あんなモン食らったら人間どころか戦術人形でもミンチまっしぐらだ。ほんっととんでもねえなハイエンドモデルってのは。

 

 だが、ビル内に篭るという選択は誤りだったな。ガトリング砲であれば当然、開けた場所の方が強い。狭い室内では些か取り回しが悪すぎる。それに比べて処刑人は完全に近接戦闘用に仕上がっている。狩人も火力こそ比較すると低いが、扱う武器の毛色が違う。ハイエンドモデルの間で隔絶された実力差があれば話は違うだろうが、狩人も侵入者の義体性能自体はそう大したものではないと言っていた。勿論人間を基準には考えられないが、然程性能差のない人形同士、そして有利な戦場で二対一の状況であれば、あの二体が押し込まれるなんてことはないだろう。

 派手にドンパチやり始めたハイエンドモデルたちだが、俺を含めた他の連中に出来ることは今のところ見学だけだ。ビルはどんどんと崩れてきているし、この状況で増援を突っ込ませるのは自殺行為が過ぎる。理想はあの二体だけで撃破完了、あるいは程ほどに消耗した侵入者が飛び出してきたところを包囲殲滅って形だが、さてどうなることやら。

 

 

「っとぉ! てこずらせやがって!」

 

 銃撃が及ばない程度に距離を開けて、人形たちには周辺警戒を、俺はビルの解体作業の見学に洒落込んでいたところ。声を荒げた処刑人と、引き摺られた侵入者らしきハイエンドモデルが一緒にその姿を現した。わお、やっぱり美人さんじゃん。ややスレンダーな体躯ながら、出るとこはきっちり出てるし、素晴らしいプロポーションだ。その服どうなってんのって突っ込みたくもなったが、チラリと覗くお腹が大変によろしいため不問とする。いやぁ、眼福眼福。

 処刑人と侵入者らしき人形の後ろから、恐らくアレがガトリング砲だろう、どでかい得物を抱えた狩人が続けて歩を進めていた。処刑人と狩人も流石に無傷とは行かなかったのか、外骨格の至るところに浅くない傷が出来ている。特に処刑人は損耗が酷いな、それはもうガッツリやりあったんだろう。本人が満足そうだから別にいいか。多少はうちの支部でも修復出来るしな。

 

 ていうか、処刑人と狩人は何故こいつを仕留めずに連れて来たんだろうか。あいつらの性格からして、わざわざ生け捕りにするとも思えない。顔見知りかそうでないか、意志の疎通が出来るかどうか程度は加味するらしいが、基本的に鉄血製の人形に仲間意識や帰属意識といったものはほとんど芽生えないそうだ。つくづくこの二体がイレギュラーなんだなあと感じる。お互いが大切だという感情など、鉄血製の擬似感情モジュールでは通常持ちようが無い。

 そんなあいつらが侵入者をわざわざ破壊せずに無力化して連れて来た理由とは。うーん、ちょっと予測が付かないな。処刑人も、嫌いとは言わないまでも別に好きでもないと言っていたから、敢えて助けるにはちょっとばかし動機が弱い気もする。そこらへんどうなの。

 

「いや、別に大した理由でもねえんだが、コイツが勘違いしっぱなしなもんでな。ぶっ壊す前に誤解だけは解きてぇなと思って」

 

 マジでしょうもない理由だった。別にいいだろ何を誤解してても。どうせぶっ壊すなら結果変わらんし、そもそも戦闘記録なんかは引き継げても、その個体が得た感情や思考はリセットされるだろうが。ここで何言っても無駄だと思うんだが。

 心に落胆を抱えながらもポーカーフェイスを維持している俺に向けて、侵入者はそのありったけの殺意を隠そうともせずぶつけてきていた。おぉ怖。きっと普段は麗しい顔立ちだろうに、醜く歪んでしまっている。まあでもこれが普通なんだろうな。なんせ今コイツの目の前に居るのは、鉄血どもが是が非にでも絶滅させたい憎き人類様である。

 

 しかし、勘違いかあ。こいつら戦闘が始まる前に洗脳だとかなんだとか言っていたが、侵入者は俺がこの二体を操っているとでも思っているのかな。そうだとしたらお門違いもいいところだ。今お前を引き摺っているポンコツハイエンドどもは勝手に離反して勝手に窮地に陥って勝手に懐いただけだからな。おじさんなーんにもしてません。鉄血側から見れば、この二体がブッチギリでアホなだけだ。俺は何も悪くない。

 

 俺の視線が気に食わなかったのか、先程まで表情を歪ませるだけであった侵入者が、我慢ならんといった様相でその口を開いた。

 

「……ッ! お前が! お前が狩人ちゃんと処刑人ちゃんを誑かした人間なのね! 純粋無垢な二人を……非道卑劣なあの手この手で……ッ! 殺す! 絶対に殺してあげるわ!!」

 

 勘違いの方向性少しおかしくない? もう面倒くさいからブッ壊していいかな。




あーもうメチャクチャだよ(転がり




当初はもっときちっとしたプロットがあったはずなんです。ほぼ全部ぶっ飛びました。何でだよ。
ちゃんと繋がりはする予定なので多分大丈夫です。


ちなみに、イントゥルーダーさん自身、性能は優秀です。度々言ってますがゲーム本編に比べると時系列がかなり前になるので、I.O.P側も勿論、鉄血側も色々と整っていない状態だと本作内では定めています。
ただ、何故か飛び抜けた戦闘能力を持った戦術人形が早期に誕生してしまったこと、人類を追い詰めるはずであった鉄血側のハイエンドモデルが二体、何故か人類の味方についていることが、その後の歴史を大きく変えてしまっています。


一体誰がそんなことをやらかしたんだ…サッパリわからない……

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