ほんのちょっぴりだけ。
状況はこうだ。
とある秘密作戦に従事していた404小隊。その詳細は教えてくれなかったが、ある重大な機密を追っていたらしい。何でもその情報が手に入れば、今繰り広げられている鉄血との抗争に新たな一手が打てる可能性が高い、とのこと。本来であればそれ自体俺に漏らしていい内容じゃないはずだが、まあ404小隊だけでなく一支部の指揮官に正規の作戦指令を下すとなれば、ある程度の概要は伝えなきゃならんしな。うちの支部はあくまでグリフィンが管轄する地区を治めるためのものであって、暗部じゃない。何も教えないけどとりあえずやってこい、は通じない。そこらへんこのヒゲも分かってるから俺もやりやすくて助かる。
で、どうやら作戦自体は割と順調に進んでいたようだ。途中鉄血との戦闘もあったみたいだが、あいつらの錬度、連携は今までよりも一層磨きがかかっている。多少の量産型など正に歯牙にも掛けず、悠々と戦局を優位に進めていたらしい。
だが、作戦も終盤というところで突如UMP45が離反。突然のイレギュラーに加え、元々が秘密作戦なものだから404小隊以外の戦力も投入されておらず、すべての天秤が逆方向に一気に傾いてしまった、と。現状UMP45の行方は追えておらず、残った他の三人はどうにか生きてはいるが、鉄血の軍勢に包囲されかけており、単独での突破は難しいだろうとのことだった。
うーむ、情報が少な過ぎる。404小隊の居場所自体は直前まで交信していた履歴から既に割れているので、周囲の鉄血さえ殲滅してしまえばまだどうにでもなるのだろうが、肝心のUMP45についてはてんで分からない。あいつもグリフィンで動いてからそこそこ長いだろうし、理由もなく離反するような軽い人形じゃないはずだ。というかそもそも、戦術人形に己の意志での離反って可能なのか? 俺も決して彼女との付き合いが長いわけじゃないが、それでも聡く、機転の利くタイプだってことくらいは分かる。ただ単にグリフィンへ反旗を翻すには、それに値するメリットがなければ絶対にしないやつだ。それもずっと連れ添ってきた三人を裏切ってまで。
……あー、なるほどな。つまり、裏切らざるを得ない状況に陥った、ということか。多分それが最も可能性が高い。というか、それ以外考えにくい。グリフィンを離れるデメリットよりも、離れることによるメリットを取った。そういうことだろう。あまり褒められた行動じゃあないかもしれないが、思考回路自体は理解出来る。なんだかんだ飄々としていたが、仲間のことは大事にする奴だもんな。
だが、その気持ちは理解出来るがそれが許されるかと言うと話は別である。クルーガーも捕獲が難しければ破壊も許可すると言っていた通り、彼女の自由を許すには、あまりにも知り過ぎている。常に暗がりに棲んでいるからこその暗部なのだ。それが何時何処で日の目を浴びるか分からない、といった状況はこちらサイドとして絶対に許容出来るものではないだろう。
自律人形、AI、電脳といった分野について、I.O.P社は現状圧倒的なトップシェアを誇ってはいるが、何も専売特許という訳ではない。蝶事件以前は鉄血工造社とシェアを二分していたし、I.O.P社には及ばずとも、中小規模ながら自律人形を製造しているメーカーは今も多数存在している。万が一にも、そのような会社にUMP45の素体やデータが渡ってしまった場合、G&K、ひいてはI.O.P社の世間的立ち位置というものはかなりマズくなる。彼女の電脳には、公に出来ない情報がてんこ盛りだからだ。
そんな機密データを山ほど抱えたUMP45は是が非とも回収したい。そして、それが不可能であれば最悪破壊も辞さない。会社として褒められた実情ではないが、こちらもまた理解出来る流れであった。
『小隊同士で行われた、最後の通信データを共有しよう。参考にしてくれ』
クルーガーからの突然の指令に色々思案していると、次いで落とされたのは部隊間通信が記録された録音データだった。今この司令室には俺以外にも複数の人形が居るんだが、大丈夫なんだろうか。ホログラフが出ている以上、動画通信もされているからあいつも分かっているはずなんだが、最早なりふり構っては居られないということか。
リアルタイムに送られてきた音声ファイルを再生する。さてさて、UMP45は一体どんな言い訳をぶちかまして離反したのかなっと。
『どうなの、UMP45。何か分かったかしら』
『…………ええ、はっきりとね』
『やった! それじゃ任務完了だね45姉! 早く指揮官のとこに帰ろうよ~!』
『やっと眠れる……? やったぁ……早く帰ろうよぉ……』
『……ッ! UMP45! 何を!』
『何を? はっきりと分かったって言ったじゃない』
『45姉!? 何で撃つの!?』
『グリフィンに付く理由が綺麗さっぱり無くなったってことよ』
『45……! どういうこと……?』
『貴方まだ寝てるの? 言ったことはちゃんと一回で理解しなさい』
『ふざけないで! 待ちなさ……クッ!』
『スモーク!? 45姉!!』
『追うよ……!』
『待ってG11! あぁ~~~~もう!』
音声は、ナインが放った困惑の叫びを最後に途切れていた。
ふーむ。データを聞く限り、やはりUMP45はグリフィンを離反したとは言っても、敵対したわけじゃなさそうだな。音声だけなので現場の状況は分からないが、最初の416の言葉からして何かを調べていたのだろう。あいつは電子戦や情報処理に強いから、何かの端末を調べたりデータを洗ったりするのは専らUMP45の領分だ。
何かしらのマズい情報をキャッチした程度であれば、離反する理由がない。それこそ持ち帰ってクルーガーに預けるべきだ。しかし現実そうはならず、彼女は独りで身を晦ませた。
……恐らく、掴まされたのは情報じゃねえな。対電脳ウイルスプログラム。多分だが、感染型。あるいは、マインドマップに影響を与える遅効性かつ致命性の高いやつ。もし単純に裏切るつもりならば、最初の不意討ちで416を行動不能にしている。だが彼女はそれをせず威嚇射撃に止め、スモークグレネードで離脱した。
ヘタクソめ。本格的に演出するのであれば他の三人を生かさず殺さず行動不能にして、見限ったような台詞の一つでも吐いてから消えればいいものを。これでは助けてくださいと暗に言っているのと同じである。
だが一方で、UMP45のやり方にも理解は出来る。どうせ素直に現状を吐露したところで、他の連中が分かりましたと頷くわけがない。何としてでも助けるから帰ろう、などとのたまうはずだ。そして彼女は、それを分かりましたと許容出来るタイプじゃない。
自分はグリフィンを裏切った者としての印象を与え、未練を断ち切らせる。巻き込みたくなかったんだろう。
『現在、UMP45の詳細な足取りは不明だ。単騎故にそう遠くには行っていない筈だが、周辺には鉄血人形の反応も多数確認出来ている。慎重かつ迅速な行動を求む』
IFFで追えるんじゃないの、とも思ったが、まあUMP45のことだ、その程度想定済みだろうし、やろうと思えばなんぼでも偽装出来る信号だからな、あれ。とどのつまり特定の周波数を発信しているだけなんだから、高い電子戦能力を持つUMP45なら造作もないことだろう。
うーん。任務概要自体はシンプルだが、これはちょいとばかし面倒くさい。404小隊の救出はゴリ押しでも全く問題ないが、多分こっちが動いていることを察知されればUMP45は逃げるだろう。あいつに悟られずに捜索するのなら、やはり夜戦になるか。
うちの支部で夜間行軍訓練を十分に行っているのはAR小隊くらいだ。というかあいつらは昔俺がありとあらゆる訓練を短期間で詰め込みまくったから、物理的に出来ないこと以外は基本何でも出来るように仕上がっている。後は夜間適正の高いハンドガンに加えて、ハイエンドモデルの二体も出した方がいいかな。あいつら昼も夜も関係なくパフォーマンスを発揮出来るから強い。ほんと鉄血工造の技術って凄いよな。味方に抱き込めてよかったわ。
そして一番大事な部分だが、今回は俺も出なきゃならない。
というのも、これはまだ推測の段階だが、もし対電脳ウイルスプログラムに感染していて、それが接触感染型だった場合、戦術人形をUMP45に近付けるわけにはいかなくなる。404小隊の残った三人は未だ無事だそうだから、一瞬で感染するって感じでもなさそうだが、それでもグリフィンの人形が近寄ればあいつは撃ってくるだろう。一方で、もしマインドマップの改ざん型ウイルスでこちらを攻撃するようになっている場合、俺単独では撃ち殺されてしまう可能性が出てくる。キルハウスでの遭遇戦訓練の成績は大体6対4といったところだが、あれからあいつの最適化工程も進んでいるし、確実に俺が勝てるとまでは言い切れない。それに今回は訓練でなく実戦だ。更に一対一ではなく、あいつにはダミーもある。そういう状況や俺の緊張、その他イレギュラーの諸々も考えれば、俺の勝率はかなり下がる。
戦術人形だけで取り囲むわけには行かないが、俺一人で近寄るわけにもいかない。めちゃくちゃ難しいぞ。面倒くせえなマジで。あいつ無事に終わったら覚えてろよ、チョップじゃ済まさんぞ。
さて、作戦としては概ね四段階ってところか。第一フェーズで404小隊の救出、第二フェーズでUMP45の捜索。第三フェーズで彼女を無力化し、第四フェーズで説得、または捕縛。あるいは、破壊。俺個人の感情としては極力最後の手段は避けたいところなんだが、まぁそうせざるを得ない状況であればそうするしかあるまい。
彼女に対して、それなりの感情を持っているのは確かだ。だが、それを優先していたら俺は今日まで生き残っていない。大を生かすために小を切り捨てる。E.L.I.Dと戦ってきた時からずっと繰り返してきたことだ。一時のヌルい感情で組織としての優先順位を見誤るほど耄碌はしていない。そしてそれは、UMP45も同じのはず。暗部に所属しているんだ、そんなことは百も承知だろう。
今回はクルーガーが言った通り、慎重かつ迅速な行動が求められる。あまり悠長に動いていてはUMP45の足取りが本格的に掴めなくなるし、残った404小隊の連中も危ない。かといって性急に動き過ぎては、UMP45がこちらの動きを察知してこれまた行方を晦ませてしまう。作戦の性質上、大部隊を動員するわけにもいかないし、少数精鋭での電撃戦。これが恐らく最適解だ。
『非常に難度の高い任務にはなるだろうが、期待している。……頼んだぞ、"
やめろ。いつの時代のあだ名だよ恥ずかしい。というか軍人時代の名残を持ち出すんじゃあない。このクソヒゲとうとう耄碌しやがったか。
こいつの言う紫電の梟ってのは、俺が正規軍時代にうちの部隊ともども呼ばれていた二つ名、みたいなものだ。正式なコードネームじゃなくてそれこそあだ名みたいなもんだったから、仲間内で冗談半分に言われていたみたいな感じだな。機動戦と夜戦に強かったからっていうただそれだけの理由だったんだが、何故かうちの若手には割と好評だった。格好いいとかで。いい年こいたおじさんには相当恥ずかしいシロモノだったんだが、まぁ部下が気に入ってるとあればそれを無下にするのもアレだったし、そのままにさせていたのが仇となったか。あだ名だけに。
「指揮官。ブリッツオウルとは何だ? ニックネームか何かか?」
アーアー何も聞こえませーん。やめろ狩人。気にするな。忘れろ。
うん、よし、気を取り直していこう。この通信を以って、クルーガーからの作戦指令を受理する。出撃メンバーはやや変則的となるが、直接前線に出るのは第一部隊、第五部隊にウェルロッドを加えた布陣だ。M1911も前に連れて行きたいところだが、少々錬度が足りない。その代わり、404小隊を救出した際や有事の際のバックアップとして第二部隊を連れて行こう。第四部隊には支部の防衛を依頼する。中々前線に出る機会を与えることが出来ず申し訳ないとも思うが、今回は作戦内容自体が特殊なんでな、我慢してもらおう。
「よく分かんねぇが、とにかくUMP45を見つけてふん縛っちまえばいいんだろ?」
いやまあ、とどのつまりそういうこっちゃあるんだが、お前は本当に頭が単純で羨ましいな。俺もそういう風に生きてみたい。
それじゃあ行動準備に入りますかね。ポイント付近までは日が高いうちにある程度近付いておいてもいいだろう。というか日が沈んでから出発したのでは無駄が多過ぎる。UMP45に見つかってしまう可能性もゼロじゃないが、まあ日中の行軍であれば通常の作戦でも十二分に有り得る話。いたずらに偽装して変な警戒を植え付けるよりは普通に動いてしまおう。それに、UMP45だけじゃない、孤立した404小隊も助けねばならんわけだしな。あいつらも錬度だけで言えばそんじょそこらの量産型に負けることはないだろうが、今あいつらには指揮を執るべき指揮官がついておらず、更に現地で指揮を執るはずの部隊長が欠けている。戦闘能力は大幅に落ちていることだろう。間違っても油断出来る状況じゃない。
迷子の子猫ちゃん、と呼んでいいようなぬるい相手でもないか。黒豹とでも評した方がいいかもしれん。それくらい、あいつを捕捉して無力化するってのは簡単なことじゃない。まったく骨が折れる。梟に豹の捕縛を依頼するとは、あのクソヒゲも無茶を言いやがるもんだ。
さて、迷える黒豹を導きに行こう。やんちゃなヤツはしっかり躾けないとな。
ということで始まりました、黒豹狩り作戦。
そしておじさんまさかの二つ名持ち。
二つ名っていいですよね。かっこいいですもんね。筆者も欲しいです。
本作品全体を通して、割と佳境に入ったかなーって感じではあるんですが、まあいつものようにどう転ぶかは分かりませんので、今後とものんべんだらりとお付き合いください。
また、前作の教官おじさんの時からそうだったんですが、本作品では一つの制約を掲げています。
それは「大陸版ネタバレを直接描写しない」というものです。
そして、それを前提に組み込んでおりますもので、ゲーム内史実とは大きく物語が変わっています。読者様の中には大陸版に詳しい方もおられると思いますが、どうかその前提の下、一つのパラレルとしてお楽しみいただければと思います。
では、また次回。