戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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今回もモリモリ独自設定が出てくるぞォ~


47 -Still in the Noise-

「あっ指揮官だぁ。助かったぁ……」

「……申し訳ありません。指揮官の手を煩わせてしまうことになってしまって」

「いやー、何とかなっちゃったね! ありがとう指揮官!」

 

 うーん、思ったより元気そうだなこいつら。エンドポイントにて作戦目標の一つであった404小隊を発見したのだが、まあ内情と損害はどうあれ、オリジナルと電脳に大した被害は出ていないようで何よりだ。G11とナインはいつも通り、416が俺の手を借りてしまったことに申し訳なさを感じてこそいるようだが、概ねいつも通りと見ていいだろう。一先ずは大事なくてよかった、というところか。

 

 ウロボロスの撃破報告をM4A1より受け、ペルシカリアが示す地点に急行した先にあったのは、既に人が住まなくなって久しいボロ家と言っていい一軒家。その一階の隅で、お互い寄り添うように息を潜めていた404小隊の三人を発見した。発見したはいいものの当然無傷とは行かなかったようで、特に416の損傷が酷かった。全員が全員何かしらの傷を負っているのだが、彼女に関してはモロに生体パーツがめくれ上がり、一部その内部が顔を覗かせている。正直あまり見目よろしくない仕上がりになってしまっていた。端的に言って超痛そう。跡から見ても何か拷問を受けたって感じではなさそうだが、あのウロボロスのことだ、示威行為の一環でこいつらに無意味なダメージを負わせていたんだろうな。そういうところだぞ。知らんけど。

 ちなみにそのウロボロス、とどめとして見事に側頭部から撃ち抜かれており、誰がどう見てもあそこから再起動は不可能だろうなと分かる程度には綺麗に仕留められていた。ていうかなんでセーラー服なんだろうな。処刑人や狩人も中々の格好をしているが、一体彼女たちの装いは何処が目的地なんだろう。おじさん最近の若い子の感覚が分かりません。

 

 ま、そんなことはどうでもいい。障害となるハイエンドモデルは排除出来たし、周囲の量産型も粗方は破壊済みだ。こうして404小隊の救出も成功した。損傷こそあるものの自力で動けないという程ではなさそうなので、わざわざ第二部隊を寄越す必要もないだろう。何にせよ修復のため後送はせねばならんが、作戦はまだ完了していない。肝心のUMP45の行方がまだ追えていないからな。ということで君たち、何か手がかりとか情報とかない?

 

「えぇー、怪我してるのに心配してくれないのー?」

 

 割り切った俺に対してナインがその頬を膨らませてささやかな抗議をしてくるが、無視である。そもお前ら戦術人形なんだから、オリジナルが機能停止(死亡)でもしてなけりゃ全部かすり傷だろうが。それにたとえ重傷であっても、四肢をもがれた程度でくたばる程ヤワな造りしてないでしょ。なんてったって人間である俺ですら片足吹っ飛んでもこうして生きてるわけだしな。それに、こうやって不満を口に出来るくらい元気なら何も心配することがない。

 俺は戦術人形が相手でも人間が相手でも贔屓はしない主義だが、同時に人形だろうが人間だろうが戦うための人員であれば、そこに余計な感情も含ませない。助けられる者は助けるが、それが無理なら切り捨てる。そうしないと更に多くのものを失う結果になることを嫌というほど学んできた。兵士は時に死ぬことも仕事に含まれるのと同様、上に立つ者には時に切り捨てる覚悟も必要だ。それが出来てなきゃ、俺は今ここに居ないわけだしな。

 今回はたまたま、404小隊の三人は切り捨てる判断を下す前に助けられたからよかった、というただの結果論でしかない。無論、可能性を自分からゼロにしてしまうようなことはしないが、それでも俺は完璧じゃないし、どうしてもダメな時だってある。まあ、極力そうならないように常に考え、そういう事態に陥らないよう部下たちの教練を行っているわけだ。

 

「追いかけたけど、直ぐに見失っちゃったよ……方角くらいしか分かんないや」

 

 珍しく、というのは失礼かもしれないが、G11が申し訳なさそうな表情とともに情報の共有を行う。出撃前にクルーガーから聞かされたボイスデータの通り、UMP45が離反した直後はG11が率先して追跡しようとしていたようだ。ただでさえ銃種の違いから来る機動力の差に加えて、そういう類の経験値の差もあって直ぐに引き離されたようだが。

 

『はいはい、ちょっといいかな』

 

 普通ならこれでほぼ八方塞だ。消えた方角程度じゃあ追跡するにはあまりにも情報が乏しい。だが幸か不幸か今の俺にはもう一枚、切れるカードがある。そいつもその空気を感じ取ったのか、俺との秘匿通信ではなく戦術人形との共通規格の無線で俺たちの会話に割り込んできた。

 彼女、ペルシカリアには目視情報以外での追跡手段があるとのことではあったが、具体的にどうするのかってのは俺も知らない。多分聞いてもよく分からんだろう。ただ、そのためにはナインが活動可能状態にあることが前提条件らしいので、多分彼女を使ってなんやかんややるんだろうな、くらいしか理解出来ていない。お前それでいいのかと思われそうだが、餅は餅屋である。出来ない分野は出来る奴に任せりゃいいのだ。適材適所というやつである。

 

『それはいいんだけど、君も誰が何してるかくらいは理解した方がいいんじゃないかな……』

 

 完全に外野を決め込んでいたら、ペルシカリアに諌められた。心底心外である。言わせて貰うが、別に俺も理解したくないってダダをこねているわけじゃあないんだぞ。はっきり言って俺に電子戦やネットワークの知識はない。そりゃ私用で使う分には不自由ない程度の知識は持っているが、あくまでそれは製品のエンドユーザーが持つ知識と同等だ。それを仕事にしている奴にはとても敵いそうにない。

 そんなドのつく素人にペルシカリアの貴重な時間を割いてまで一から説明してもらうよりは、分かる奴だけで話を進めてもらった方が色々と早い。俺が求めているのは過程の方法ではなく結果なのだから、その方が効率もいい。そう考えての外野決め込みムーブだったのだが、どうやらお気に召さなかったご様子。どうしろってんだ。

 

『ナイン。ちょっと電子戦機能モジュールを借りるよ。……まあ、今から私が主に動かすのは手だし、作業がてら君にも分かりやすく教えてあげよう。そうだな……君は、冷蔵庫の駆動音が気になったことはないかい?』

 

 何故か知らんが今日はよく喋るなこいつ。普段研究詰めだから、こういう軍事作戦へのバックアップ作業がいい息抜きになっているのかもしれない。

 ありがたーいペルシカリア先生の講義がいつの間にか始まっているのだが、それはそれとして一応ここはまだ敵地であり、全エリアを制圧出来たわけではない。ナインはペルシカリアが弄っているから動かせないし、他の二人も損傷が酷い。とりあえずほぼ損傷のない第一部隊とウェルロッドを周囲の警戒に出し、第五部隊には変わらず俺たちの直衛に就いてもらうとしよう。

 うーむ、最近この布陣が鉄板となってきている気がする。なんだかんだで鉄血のハイエンドモデルは攻めにも使えるが守りにも使えるってのがありがたいんだよな。機動力もパワーもI.O.P社製の人形とは比較にならないくらい高いし、何より違うのはその耐久性だ。俺が人間である以上、弾丸の一発でも貰ってしまえば致命傷となる中で、文字通り盾に出来る存在ってのは非常に助かる。次点で言えば防弾ベストを持つM16A1だが、それこそ彼女を俺の護衛に回すよりはAR小隊全員で攻めに回った方が遥かに効率がいい。そして、軍事機動を行う分にはやはりそこに習熟した人材を当て嵌めるのが妥当だ。

 狩人や処刑人は、その単独での力こそ目を見張るものがあるが、いざ作戦行動となると少々どころでなくまだ粗がある。ざっくり言ってしまえば、情報伝達と指揮命令系統がまだ十全に機能し切っていない。

 例えば今回にしても、周辺で何か異常を見つけたら第一部隊の連中はいの一番に俺に無線を飛ばす。情報の共有と指示を仰ぐためだ。その精度と速度がまだハイエンドモデルに備わっていない。多分、鉄血の残党などを見つけたら我先にと処理に行くだろう。そして、処理出来てしまう。せいぜい事後報告が飛んでくるくらいだろう。それでは困るのだ。

 

 そんな訳で、今のところこいつらは俺の近くで俺を守らせ、そして直ぐに情報の共有が出来、即座に指示を出せる場所に置いておくのが一番よかったりする。特に今回は狩人も処刑人もいい仕事をしてくれているからな、無事に帰れたらまた褒めてやってもいいかもしれない。人間と違って物欲ってもんがないから、モチベーションアップのための方法にコストが掛からないのは助かっている。時々俺の精神がガリガリと削られていく気がせんでもないが、まあ必要経費だ。

 

『えーっと……聞いてる?』

 

 おっといけない、ペルシカリア先生の貴重な時間を無駄にするところだった。別に無視してるわけじゃないんだが、現場は現場で色々とやることがあるのだ、すまんな先生。

 ペルシカリアが例に出した冷蔵庫の話だが、確かに時々気になることはある。で、素直にそう答えると、ああいう家電製品のみならず、機械ってのは何かしらの動力で動いている以上は一定のエネルギーを常に放出している、とのことらしい。言われて見れば、人間も代謝を行っているわけだしな。で、それは戦術人形にも当て嵌まるらしく、彼女たちにはそれぞれ独特の周波数みたいなものがあるらしかった。通信規格なんかとはまた別で、人形として動く以上はその機能が完全に死んでない限り常に発せられていると。

 ただ、当たり前だがその電波なり何なりってのは普通に捕まえられるものではないらしい。もしそうであれば俺たちは常時身の危険に曝されるわけだし、逆を言えば鉄血人形の所在地なんかも全部割れてしまうからな。冷蔵庫の発するエネルギーを察知して置き場所を特定しろ、と言われればそれがどれだけムチャクチャなことか分かるだろう。

 それらを捉えるには、相応の技術と設備が必要だ。前者に関してはペルシカリアという個人が完璧にクリアしている。後者に関してはそれらを拾うための専用の設備と、その効力を発揮する基点が要る。いくら16Labにその設備があるとしても、実際にアンテナとなるものがなければ無意味だそうだ。で、今回みたいに特定の人形を捜索する場合、そのアンテナの役目には電子戦機能モジュールを持ち、相互間通信が出来る人形が必要だという。

 作戦現場において鉄血の所在がある程度判明しているのも、この技術の応用だとか。ただ、流石に世界全域を調べるには色々と無理があり過ぎるので、レーダーを張ったり支配地域を拡大して索敵範囲を広げたりしている。

 

『UMP45は色々と特殊だからね、測定可能範囲内にいればすぐ分かると思うけど』

 

 普段通りの、テンションの低い口調のままペルシカリアが続ける。本気を出せばかなりの距離を捜索出来るらしいが、それをしてしまうと今度はナインの処理能力が持たなくなるらしい。過負荷状態に陥り、最悪電脳が焼き付いて修復不可になるんだとか。流石にそれは勘弁して欲しい。ナインも大事だが、こいつらは正確に言えばクルーガーからの借り物でもある。そう無茶は出来ない。

 

『うーん……分かる範囲にそれらしい反応はないわね。少し移動したほうがいいかも』

 

 やはりというか何と言うか、そう簡単に彼女は捕まってくれないらしい。しばらくはG11が追いかけていた方向を中心に移動し、ナインを間借りした捜索を続けるしかなさそうだな。

 

「ぃいったい……頭がガンガンするぅ……」

 

 一度ペルシカリアとの接続を切ったらしいナインが、その表情を苦痛に歪ませて苦々しく呟く。どうやら相当の負荷がかかっているようだ。ここでナインに潰れられても困る、多用は出来そうにないし、そう高頻度で繰り返すわけにもいかないだろう。ただ、現状俺の手持ちに電子戦機能モジュールを搭載した人形はナインしか居ない。申し訳ないが頑張って欲しい。

 

「えっへへ……大丈夫だよ指揮官。45姉がかかってるんだもん……!」

 

 無理やりながらその顔にいつもの表情を貼り付けたナインが健気に発する。いつも家族家族とうるさいやつだが、その想い自体は本物なのだろうな。

 

『先に言っておくけど、これで分かるのはあくまでUMP45の所在だけよ。彼女がどういう状態下にあるのか調べるには、また別の手段が必要だわ』

 

 ナインとの接続を切り、一息ついたペルシカリアが再び無線上へ浮き上がる。実際にUMP45がどういう状態にあって、それをどう調べるのか、それこそ繰り返しになるが餅は餅屋だ。俺がその過程を逐一知る必要はないし、その手段を遂行するために必要なことがあれば行うだけである。

 聞けば、その手段というものも先程と同じく、基本は電子戦機能モジュールを搭載した人形を間借りするらしい。ただ、次の手としてはUMP45本体にアクセスする必要があるため、人形同士で短距離間通信が出来る距離まで近付く必要があるのだそうだ。

 UMP45本人へ直接接続するには、彼女がメンテナンスポッドに入るか、ペルシカリアからのアクセスを彼女が許可するか、外部から無理やり侵入するしかない。メンテナンス装置なんてこの場にある訳がないし、それがある場所まで着いて来てもらうのは非現実的。彼女への直接アクセスも同様、それが出来るなら今こうなっていない。ナインにやっているみたいに彼女の方から直接割り込めないか聞いてみたが、かなり厳しいらしい。いくらペルシカリア程の技術と設備を以ってしても、完全な外部から強行突破するには技術的に限界があるのだという。それなら人形同士の通信規格、それも強度の高いものを利用して侵入する方が断然可能性が高いそうだ。

 

 短距離間通信。以前侵入者との戦いで使った規格だな。確か、カタログスペック上での通信可能上限は50メートル。障害物なし、無風の状態でコレだから、実際はもっと近付く必要があるだろう。そしてこれは恐らくだが、その通信を行っている間ナインは満足に動けない。電子戦処理にそのリソースの大半を費やしてしまうためだ。

 つまり、この接続を行いながら彼女を追跡し続ける、というのは難しい。どこかで必ずUMP45の動きを止めるか、無力化させる必要が出てくる。

 

『ナインとUMP45で直接接続が出来れば一番確実だけど、対電脳ウイルスプログラムだった場合それはそれで危険ね。こっちの防衛も考えると、やっぱり短距離間通信の規格に乗せて侵入するのがベストだと思う。理想は20メートル圏内。侵入するのに最低1分、調べるのに3分はかかるわ。頼んだわよ』

 

 しれっと言いやがったなこいつ。20メートル圏内を合計4分以上維持するってのは相手が動いている前提ではメチャクチャ難易度が高い。というか無理である。条件的にどう考えてもUMP45を無力化するしかないじゃないか。

 

「わぁー……大変だね指揮官。頑張ってねぇ……」

 

 おめーも頑張るんだよG11、と言いたいところだが、ダミーを全て喪失し本体にも損傷があるとなっては、何時までも前線で引き摺り回すのは危険だ。ナインは仕方ないとしても、G11と416は今このタイミングで後送した方がいいだろう。404小隊を離反した時点で、G11や416を使ったネゴシエートも通用するとは思えないしな。

 

「……申し訳ありません、指揮かぁいだっ」

 

 再度の謝罪を口にする416を軽めにシバいて黙らせておく。こいつらは明確に何かミスを犯したわけじゃない。部隊長がいきなり裏切るなど一体誰が予測出来ようか。出来るはずがない。こいつらは与えられた任務を全うしようとしただけだ。そして、416のせいでUMP45が離反したわけでもない。自分に非がないのに謝るのは悪癖と言っていい。お前らは堂々としてりゃいいんだよ、そのケツを拭くために俺が居るわけだしな。

 

「G11! 416! 私頑張るから! 待っててね!」

 

 部隊のムードメーカーであるナインが朗らかに言葉を紡ぐ。言葉通り、今回の作戦はナインが肝だ。こいつに頑張ってもらわなきゃ話にならん。そして、彼女も同様ダミーを失い負傷している今、これ以上の損傷は避けたい。第五部隊には負担が掛かってしまうが、俺とナインの護衛を同時にこなしてもらうしかないな。

 

「任せとけって、一人も二人も大して変わんねェよ」

 

 うーん、この頼もしさよ。処刑人も先程のウロボロス戦で多少の被弾はあるものの、ほぼダメージは無いと見ていいだろう。狩人に至っては俺と一緒に回避してたから完全に無傷である。これなら安心して任せられるというものだ。

 

 さて、そんじゃ作戦も折り返しだ。きっちりターゲットを追い込んでいこう。




作戦もついに後半戦に入りました。
迷子の黒豹は何処をほっつき歩いているのか、それはまだ分かりません。分かるといいなあ。


今後とものんべんだらりとお付き合いください。
それでは、また次回。

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