戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

56 / 63
某楽曲とは関係ありません。


53 -アンハッピーリフレイン-

 ウロボロスさんの突然の襲撃から凡そ二週間が経過しようとしているところ。言い方を変えれば、俺が自業自得の大怪我を負ってから三週間あまりが経過しようとしているところでもある。怪我の具合は順調と言ってよく、肩はまだ満足に動かせないが、わき腹の方は大分マシになってきている実感がある。やはり弾が貫通していた分、処置を間違えなければこちらの方が回復が早い。幸い骨に異常はなかったようで、このままもう少し平穏に過ごせれば十分に元に戻る、とは定期的にうちに診察に来ているI.O.P社お抱えの医療集団の弁である。そんな連中を寄越す金と時間があるのなら俺を入院させて欲しかった。どれだけ俺を働かせたいんだよあいつら。ほんとまじでぶっころですよ。治ったら覚えとけよヒゲ野郎。

 

「おはよ、しきかぁん」

 

 相変わらずノックもなしに突如ヌルリと現れるUMP45ではあるが、三週間も付き合っていれば自然と慣れる。以前と違い、いくらか自分で動かせるようになった身体を操り車椅子を手繰り寄せながら彼女に返答となる挨拶を紡ぐ。多少は力が入るようになってきたが、まあ医療団に安静にしていろと強く念を押された以上、俺もあまり無理はしたくない。というか専門家が休めと言っているのだから休ませて欲しい。ほんまあのヒゲ。

 UMP45は相変わらずだが、別に俺を驚かせようだとかそういう雑念はあまり持ち合わせていないようにも感じる。口も手もよく動くやつだが、負傷した俺を操るその手には、普段彼女が見せないような優しさも見え隠れしている。口は変わらないけど。彼女は彼女なりに俺を気遣ってくれているのかもしれない。ただ、ありがたくはあるが非常にむず痒くもあるので早く元気になりたいというのが一番の願いでもあるんだが。

 

「ん……指揮官、起きた……?」

 

 いつもの制服に袖を通していたところ、招かれざる来客がもう一人。UMP45もこれは予想していなかったようで、僅かばかり目を細めてその視線を投げる。その先には、お前よくこの時間に起きたなと褒めてやりたいくらい眠そうな顔のG11が居た。お前はお前で何しに来たんだよ。

 

「んー……おやすみぃ……」

「おやすみ、じゃないでしょこの馬鹿。起きなさい」

 

 覚束ない足取りでこちらに近付いてきたかと思えば、G11は俺の膝に上半身を預けてそのまま寝る姿勢に入ってしまった。猫かよ。今日が完全にオフならそれも許したかもしれんが、残念ながら俺は今日も今日とて仕事なのである。というかグリフィンに就職してからまともな休みなど一日も取った記憶がない。今更だが本当にどうなってんだろうなここの福利厚生は。

 ついつい思考が飛び出してしまった俺を他所に、UMP45はすかさずG11を剥がしにかかっていた。かなり眠そうだったのでてっきり粘られると思っていたのが、思いの外あっさりとG11は俺の膝から剥がれ落ち、再び自身の足で地に立っていた。

 

「むぅ……。指揮官、早く元気になってねー……じゃ、寝てくる……」

 

 今日は第三部隊には特にタスクはないはずなので、突然の襲撃などが無ければあいつが寝ていても大きな問題はないんだが、本当に何をしに来たんだ。解せぬ。

 最近のG11にはSOPMODⅡとはまた違った行動の読めなさがある。あんな感じで時折ふらりとやってきてはちょっとしたスキンシップを図るのだが、大体が仕事中だったり他の人形を相手にしている時だったりで、少し経つとまたふらりと居なくなるのだ。ウーン、もしかしたら未だに第三部隊の宿舎にだけまともなベッドがないのを気にしているのかもしれない。遠回しの陳情のつもりか。とは言っても家具は俺の独力でどうにかなるもんじゃないんだけどなあ。コインを消費すれば家具は手に入るが、ベッドが手に入る保証がない。

 まああまり考えても仕方が無いか。俺は平凡な人間であるからして、しっかりと言葉にしてもらわないことには理解出来ないのだ。人形同士の通信規格も持ってないことだし。個人的にはあいつのほっぺたははちゃめちゃに柔らかいから、SOPMODⅡとはまた違ったセラピー効果があるとすら思っている。適度なスキンシップはこちらも吝かではない。時と場合は選んで欲しいが。

 

「それじゃ行きましょうか、指揮官」

 

 手馴れた手つきで車椅子を操るUMP45からの言葉を背に受け、俺も気持ちを入れ替える。ボイコットやストライキなんかも実はちょっと考えたりはしたが、それをしたとて支部の現状が変わるわけじゃないからなあ。俺の下で働いてくれているカリーナや戦術人形にも申し訳が立たんし。我侭が通ればいいんだが、あのクソヒゲがそれを通すはずがない。あいつ自ら病室に出向いてとっとと働けと言ってきたくらいである。

 それはそれとして、一応現状肩はともかくわき腹は快方に向かっているので、義足さえつければ自分の足で歩くこと自体は可能だ。ただ、肝心の義足を付けるのが未だにしんどい。そう簡単に外れても困るシロモノだから、付けるのにも結構なパワーが必要だ。健常時なら何も問題はないのだが、右肩が満足に動かないというのが痛い。まっこと遺憾ではあるが、もうしばらくUMP45の世話になるしかなさそうだ。

 ちなみにAR小隊をはじめとした連中からちょこちょこと指摘はあがってきているが、とりあえずはなあなあにして躱している。別にUMP45である必要は何処にもないんだが、曲がりなりにも三週間俺に引っ付いてくれているものだから、こいつも勝手が分かってきているんだよな。ただ、このままずるずると夫婦感を醸し出すわけにもいかないので、俺の体調に目処が付いたらハッキリとお断りを入れなければならない。ちょっとばかし気が重くなる。こいつ普段表情筋があまり動かないから、露骨に落ち込んだ顔をされるとおじさんのハートがちょっとしんどいのだ。この状況が続けばそれ以上に精神力が削られていくので俺も心を鬼にせねばならんのだが。

 

 しかし、本当にどうしてこうなってしまったんだろうな。AR小隊と比べて404小隊とはそこまで関わりがあるわけじゃない。付き合いで言えば本当に数ヶ月程度である。勿論嫌われるよりは好かれる方が色々とやりやすいのだが、俺はいわゆるイケメンというやつでもないし、何があいつらの琴線に触れたのかが分からん。大体、付き合いの長さだけで言えば第二部隊の連中の方が長いわけだし。

 

 束縛と、所有権か。車椅子の振動に揺られながら、ふとペルシカリアと話した内容を思い出す。

 結局、あれから特に目立った動きは無かった。UMP45が盗聴してたんじゃないか疑惑はあったものの、特段彼女の行動に変化があったわけでもなく。俺としても表立って何かが変わらないのであればわざわざその辺りを突くつもりもなかったので、現状は何ら変わりないままだ。相も変わらずヘッポコハイエンドどもはやたらめったら懐いてくるし、俺やUMP45、ナガンやハルさん辺りが体よく捌いている。AR小隊も良くも悪くも変わらず、まあちょいちょい現状に対して言ってはくるものの何か行動が変わったわけでもない。

 支部外についても、今のところは落ち着いている。ウロボロスが単騎で吶喊してきて以降は特に目立った襲撃もなく、割合平穏な日々が続いていた。そもそも随分と昔にこの支部周辺はクリアとなっているので、ハイエンドの支配下にない、言うなれば野良鉄血人形などはほぼ掃討されているのだ。小康状態と言っても差し支えないはずだ。

 T02およびT03地区についても順調である。S02改めT03地区については建物の復旧がほぼ完了し、あとは支部を稼働させるのに必要な機材や物資を運び込めばいい段階らしい。T02予定区についても、侵入者の大軍をどうにか凌いでからは主だった脅威もなく、区域の制定と支部の建設が始まったとのこと。恐らく、もう数ヶ月も経てばT02地区も完成するのだろう。

 このまま上手く事が運べば、現状最前線である俺が治めるこのT01地区が内地になるのもそう遠くない未来のように感じる。願わくばこのまま何事もなく進んで欲しいものだが、往々にしてこういう希望は打ち砕かれるものである。俺は詳しいんだ。というか、何かグリフィンに関わるようになってから俺の人生ロクなことが起こっていない気がするんだが。これもあのヒゲの呪いか何かか。純度100%の言いがかりだと自分でも思うが、そういう方向に思考が進んでもこれは致し方ないように思える。

 

「指揮官、何か考え事?」

 

 愚痴交じりに思案していると、すぐ後ろから声がかかる。UMP45の位置から俺の表情は見えていないはずだが、何故分かったのか。あまり考えたくない。戦場での気配察知は重要だが、今はそれ要らないからね。エスパーか何かかよ。

 ただまあ、前半のくだりは兎も角後半のグリフィンがどうこうは間違いなく考えても無駄なことだ。そんなことに貴重な脳のリソースを割く理由が一ミリもない。ウーン、最近俺を取り巻く環境がまた変化したせいでどうにも思考がとっちらかっている。あまりよくない状態かもしれん。半分くらい自業自得だが。

 気にするな、と短く答えて一旦思考をリセットさせる。あれだな、最近は大きい作戦もないし、俺の怪我もあってやることといえば書類仕事が大半だ。ちょくちょく訓練の様子も見ているが、この有様では指導も捗らない。うーむ、早く完治して欲しい。今はそれだけをただ望みたい。

 

「おはようございます指揮官さま!」

 

 司令室に運ばれてゲートを潜った先、今日はいつものハルさんではなくカリーナが副官としてその席についていた。直近までは彼女も多忙を極めていたが、ぶっちぎりの重たいタスクである作戦報告書周りについて、情勢が安定しているためにその量も比例して少なくなっており、俺の業務を手伝う余裕が生まれてきていた。

 ハルさんは確かに有能だが、彼女は物資状況や支援状況をリアルタイムに把握しているわけではない。そもそも戦闘面以外の決裁権はある程度カリーナに委譲している。そうしなければ俺のキャパシティを完全にオーバーしてしまうからだ。結局、俺とカリーナでしか把握出来ない、または決定出来ない事項というのが大半となり、ハルさんはそれらの重要度を理解してはいるものの決裁を行える立場ではないため、業務自体はやはりカリーナとともに行うのが一番効率がいい。いくらハルさんが有能だとしても、戦術人形にそれらの権限を引き渡すわけには行かないんだけども。それこそ誓約でもして立場を変えないと無理だ。そして俺にそのつもりが無い以上はカリーナを副官に据えるのが一番安定する。

 

「おはようカリーナ。今日もよろしくね」

 

 元気のよい後方幕僚様の挨拶に返しを一つ、その後UMP45は俺を定位置まで移動させ、自身も三人分の飲み物を用意した後にこれまた定位置となる俺の護衛としての立ち位置に就く。なんだかんだでこの光景にも違和感がなくなってきたなあ。俺の傍らに控えるポジションが板についてきたと言うか。ただ、思うだけで口にはしない。そんな情報が漏れ出たらM16辺りがまた何か言いそうだからな。俺は賢いのだ。

 

 

 

「ん……? ……はあ!?」

 

 さて、本日の業務を開始するか、と気持ちを整えようとした直後、カリーナが素っ頓狂な声を上げて固まっていた。どうやら来客センサーが反応しているようだが、既にこの時点で嫌な予感しかしない。というかこの景色見たことある。スケジュールにない来客で、カリーナがビビる襲来相手など、最早一つしかない。やめてよ、折角平穏な日々を過ごしてたんだからさあ。

 既に限界いっぱいまで気落ちしてしまったメンタルをどうにか騙しながら、支部の正面に備え付けてあるカメラの映像を回す。そこには一般的な鉄血の量産型よりも二回りは大きい、漆黒のセーラー服に身を包んだ見覚えのあるハイエンドモデルが一体、硬い表情でカメラを覗いていた。

 

 カリーナ、とりあえず第一部隊と第五部隊を完全武装で呼び出してくれ。至急な。

 

 

 

 

 

 

 

「……今度は何をしに来た、ウロボロス」

 

 正面玄関で相対するは鉄血が誇るハイエンドモデル、その一体。AIの蟲毒の壷という地獄を生き抜いた、生粋の最上位AIを搭載した曲者。そんな彼女は今、得物である一対の浮遊兵器をM16A1に押さえ込まれ、処刑人と狩人にガッチリと本体を確保された上で俺との対話に臨んでいた。俺の周囲では第一部隊の三人とUMP45がダミーも総動員して周到な警護網を張っている。うーん、この光景、見た事あるなあ。懐かしいなあ。思わず現実逃避をしそうになる俺の精神を責められる奴は居ないと思う。

 

「はははは、そう警戒するな狩人よ。今日は貴様らを殺しに来た訳じゃない……と、もう少し力を緩めて欲しいんだがな。貴様らと同様、私にも痛覚はあるんだぞ、一応な」

 

 ウロボロスを抑え付けているうちの一体、狩人が珍しくその表情を顰めながら言の葉を落とす。攻撃的とも言える第一声を受け取ったウロボロスは圧倒的不利な状況において尚、表面的な余裕は崩さなかった。

 

 さて、今回の来襲だが、処刑人や狩人の例があるとは言えその目的がちょっと読めない。あの二人と違ってこいつ友達居ないだろうし。策を弄して奇襲、ということであれば通信を通した対話で武装放棄を呑んでいないはずだ。この状態のまま一矢報いることが出来るのであれば大したものだが、たとえ口から何かが飛び出そうとも俺とウロボロスの間には幾体もの戦術人形が立ちはだかっている。最近は支部のバッテリーを使うこともなかったので、全周囲レーダーを起動しつつ第二部隊、第四部隊には周辺の警戒を命じてある。ウロボロス自身を囮とした作戦もこの警戒網の中では難しいだろう。

 かと言って、じゃあこいつが簡単に寝返るタマか、と問われればそれもちょっと難しい。何せこいつは二回もボコされておきながら尚も顔を出してきているようなやつだ。そのうちの一回は自信満々に単騎でやってくるようなやつである。こうやって直接言葉を交わすのは初めてだが、通信をちょろっと聞いただけでも相当な自信家なことは分かる。そんな奴がちょっと負けたからといって簡単に尻尾を振るとは考えにくい。

 

「じゃあさっさと用件を言え用件を。暇じゃねえんだぞこっちは」

 

 いや、お前は割かし暇だろ。なんてことは口に出さない。狩人に続いて口を動かした処刑人だが、まあウロボロスのことを嫌いだとのたまっていた通り、やはり言葉にはかなりの棘がある。狩人には勿論、侵入者に対してもここまでの不快感は出していなかった。

 

「慌てるな。今日は貴様ら二人と、人間。貴様に用があってな。どうだ、私と一緒に来ないか」

 

 何言ってんのこいつ。

 

「人間。貴様の用兵は見事なものだ。この私を二度も相手取り勝利を勝ち取っているのだからな。貴様らもいずれ私たちに殺されるのだ、その手腕を活かして生き延びようとは思わないか」

 

 うう~~ん、やっぱり鉄血製のAIって基本がポンコツなのか? 戦術人形の壁があるものだから直接ウロボロスの表情は見えないが、その口調からは特に無茶なことを言っているような雰囲気は感じ取れない。それとなく周囲を見渡してみても、誰もが何言ってんだこいつみたいな表情で固まっていた。そりゃそうだよ。どこがどうなったらそういう思考回路になるんだ。ていうか、俺が断るという可能性を考えていないのだろうか。得物を手放して拘束された上、持ちかけた提案を断られた敵性分子がどうなるか、まさか想像がつかない訳じゃあるまい。

 

「……貴様、それが本気で通じるとでも思っているのか」

 

 我慢ならんといった様相で狩人が零す。ほんとその通りだよ。何故それが受け入れられると思ったのか。あ、狩人ちょっと待って。そのハンドガンしまって。まだ殺すにはちょっと早いとおじさんは思うんだ。

 

「ま、まあ待て待て。人間、確かに貴様は優秀だろうが、鉄血勢力の情勢を分かっていないはずはあるまい。短期的な勝利を収めることは出来ても、数も質も圧倒的に差があるのだぞ」

 

 狩人の動きにちょっとビビったのか、その言葉がかすかに揺れる。そして、本当に申し訳ないがその揺らぎを見逃すほど俺は耄碌しちゃいないんだよなあ。

 

 何故かは分からんがこいつは今、死ぬことにビビっているフシがある。そもそもそこで腰が引けるのであれば二回目のあの時、単騎で突っ込んではこない。如何に自信家で勝率を高く見積もっていようとも、だ。負けて敗走するだけならまだしも、破壊されることに恐れていては前線に出るなど不可能だ。更にハイエンドモデルにはバックアップが存在する。実際こいつは一度完全に機能停止に追い込んだ上で二体目が襲ってきているのだから、一度生まれ変わったのは確定している。その状況が変わらないのであれば、この交渉が失敗して破壊されても痛くも痒くもないはずだ。

 だが、先程こいつは狩人の攻撃意思に明らかに焦っていた。表面に出てきていたのはほんの一瞬ではあるが、そこに焦りがなければそもそもその揺らぎは出ていない。何かの状況が変わった、と見るべきだろうな。それが何かまでは分からんが。

 

「誰かに使われるというのは非常に癪だが、貴様の用兵が優れているのは事実。どうだ、この私を上手く使ってみないか。貴様にはその力がある」

 

 内面の焦りは完全に鳴りを潜め、ウロボロスは言葉を続ける。うーん、どうやら話を曲げるつもりはないようだが、何か違和感を感じるんだよなあ。その正体が掴めないためにちょっとモヤモヤする。別にこいつの要望を呑むつもりは一ミリもないが、この違和感の正体は明かしておきたい。侵入者の時と違い、周囲に鉄血の反応はないし、もう少しこのくだらない茶番に付き合ってもバチは当たらないだろう。

 

「……前回から少し気になってはいたんだがな、ウロボロス。貴様、何故単独で動いている? 配下を使った搦め手は貴様の十八番だろう。それを放棄する理由は何だ」

 

 ふと、狩人が先程とは様相を変えて紡ぐ。

 確かに。ハイエンドモデルというのは通常、多量の量産型を抱えているのが常だ。今回もそうだが、奇襲をかけてきた時もわざわざ単独で出向く理由がない。前回はそれこそ殺す気で来ていただろうから、持ち得る全力を出すのは戦うための最低条件と言ってもいい。狩人と処刑人ですら、配下を使った基地への襲撃を囮にして俺の拉致を考えたくらいである。その程度の考えにすら及ばないほど、こいつのAIがポンコツだとは俺も思っていない。人間社会における常識なんかは全く持ち合わせちゃいないだろうが、こと戦闘に関してはそれなり以上に頭が働くはずだ。

 

「……貴様らなど私一人で十分だと判断したまでだ」

「最初にあれだけボコされといてかあ? そりゃまた随分な自信家だなオイ」

 

 搾り出したようなウロボロスの言い分を、処刑人が一言で切って落とす。その性格上、処刑人はどうしてもネガティブなイメージが先行しがちだが、決してこいつの頭のデキが悪いというわけではない。腐っても狩人と同じ鉄血の上位AIを搭載しているハイエンドモデルである。擬似感情モジュールの働き方こそ大きく異なるが、その思考力、判断力自体は低くない。沸点はメチャクチャ低いのが玉に瑕だが。

 

「ふん、なるほどな」

 

 何か合点がいったのか、狩人がどこか納得したような呟きを漏らす。うーん、ウロボロスがわざわざ単騎で出向いてきたことについて俺にはさっぱり理由が読めないが、同じ鉄血に所属していた者同士、何か分かることでもあったのだろうか。多分、そこが違和感の正体なのだろう。明らかに理屈に反している行動だが、あえてそれを選択する意味が見えてこない。これは単純に俺には与り知らない事情があると捉えるべきか。

 戦術人形の壁の隙間から、ふと狩人と処刑人が視界に入る。処刑人はその顔に強い不快感を貼り付けたまま、狩人はどこか勝ち誇ったような余裕の表情を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、代理人(エージェント)から切られたな?」

 

 あっウロボロスさん黙っちゃったぞ。図星かな。

 で、代理人って誰? 知り合い?




ウロボロスさん、三度登場。(おじさんにとって)不幸の繰り返し。






そろそろ本格的におじさんのメンタルが死にそうですが、筆者もおじさんに幸せになってほしいんです。本当です。嘘じゃないんです。でもどうすればいいか分からないの。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。