戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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まさかウロボロスちゃんがこんなことになるとは私も思っていませんでした。


54 -ロールオブザダイス-

「代理人というのはハイエンドモデルの一人だ。エルダーブレイン……我々ハイエンドモデルをも司る最上位のAIのことだが、文字通りそれの代理として鉄血勢力のほぼ全権を握っている。主な武装は脚部のウェポンアームだが、直接の戦闘能力は私も知らない。見た事がないからな」

 

 ウロボロスへトドメの一言をブッ刺した狩人が、そのまま俺たちに向けて説明を続ける。お前そういう大事なことは最初に言いなさいよ。鉄血のハイエンドどもを纏めている更に上のハイエンドモデルが居ること自体は何となく想像出来ていたが、あまりにも遅い情報の提供に思わず脳内で毒づく。その情報があったからと言って今までの作戦に何か変化が起きたかといえば微妙ではあるが、居るかもしれない、と居る、では大きな違いがある。戦場を預かる者にとって情報は命だ。情報伝達の重要性も含めてそこら辺の教育もしていかなきゃならんな。頭が痛い。

 

「……貴様、まさかとは思っていたが本当に人間側に付いたか」

 

 狩人の説明に対し、リアクションを最初に返したのはウロボロスであった。初めて出会った時の上から目線などではなく、純粋に驚愕を表現したような口調だ。鉄血側の情報を惜しげもなく晒し出している狩人を見て、現状を改めて理解したのだろう。

 この二人の寝返りは本当にイレギュラーと言っていい。良くも悪くも擬似感情モジュールの暴走が要因ではあるのだから、予測しろというのが土台無理な話でもある。俺だってAR小隊が人類を裏切って鉄血側に回る事態など考えたくもない。普通に考えれば、何か弱みを握られているだとか洗脳されているだとか、そういう方向に思考は傾く。それは前回の侵入者が証明しているし、AR小隊が同様の事態に陥ったら俺もそっちを真っ先に疑う。それくらい予想外の出来事だと考えれば一応この驚きにも納得は出来なくはない。

 かと言って、じゃあこの状況の説明が付くかと言われればまた話は別だ。狩人の放った、代理人に切られたという言葉の信憑性も微妙なままだし、そもそもその代理人とやらにウロボロスさんが切られたのが事実だったとしても、じゃあこれからどうするんだという課題も残る。

 同時に、ウロボロスが最初から一貫して微妙な台詞回しで俺や狩人、処刑人を勧誘していた理由にも前提が揃えば説明が付く。こいつは先程から「鉄血に」ではなく「私に」つかないかと言っていた。ウロボロスが現状鉄血という後ろ盾を失っているのならば、俺が鉄血側に寝返ったとしてもこいつの味方にはなり得ない。ウロボロス個人につくしか無い訳だ。

 そして、二回目の襲撃と今回の来襲、どちらも単騎でやってきたことにも筋が通ってしまう。もし鉄血側から切られた、つまりクビになったということであれば、当然ながら鉄血に所有権のある戦力は扱えない。会社の部長がクビを切られたとして、じゃあ無職となったあとも会社に居る元部下たちを使えるかと問われれば答えは否である。まあ、どういう理由があるにせよこいつの勧誘に乗るってのは有り得ない話なんだが。

 

 ただ、ウロボロスが鉄血から放逐された理由ってのは正直気になるところだ。交戦経験のある俺から言わせてもらえば、彼女の持つ純粋な戦闘力というのは手放すには些か惜しいものがある。速射力に優れる機銃と遠距離攻撃が可能でかつ面制圧が容易なミサイルを併せ持った武装というのは、そう簡単に量産が利くものじゃあない。多分だが、ハイエンドモデルであるウロボロス専用の装備だろう。

 何より単純に、上位AIを搭載しているハイエンドモデルを一方的に切り捨てるという事態がそもそも異常だ。たとえこいつらに帰属意識や仲間意識が薄いとは言え、そう簡単に切ってお終いというにはあまりにも無理筋を通し過ぎている。余程のポカをウロボロスがやらかした、と見るのが妥当だが、敵として対応している分にはこいつが犯したミスが何なのか分からない。こいつがブッチギリでポンコツなのか、蝶事件を境に何かが起きたのか、その真相も今のところは謎のままだ。

 

「んで、代理人に見放されたから今度は指揮官に取り入ろうってか?」

「取り入る、と表現するのは少し違うな。人間に取り入るのではなく、優れた人間に私を使わせるのだ。貴様もそうだが、我々は自律人形であるゆえ、本来は扱われる側。その強みが最大限活きるのは優秀な指示を得られた時だからな。見放されたというのも間違っている。あやつが私を上手く扱えなかっただけのこと」

 

 処刑人の追撃に、間髪入れず反撃を口にするウロボロス。こいつ一々叩く口がデカいな。どんだけ自分に自信があるんだ。ウロボロスが鉄血から放逐された理由がちょっと分かる気がする。誰が扱えるってんだこんなじゃじゃ馬鹿を。発言した処刑人も含め周りの連中も皆黙りこくってしまっている。そりゃこんなこと言われて何を返せばいいんだって感じだ。言葉を失う外ない。

 一方で、この発言からこいつがただの馬鹿でもないということも分かる。言う通り、鉄血製かI.O.P社製かの違いはあれど彼女たちの基本は自律人形であり、如何にエラーやバグが起きようとその本質は変化しない。鉄血製のハイエンドモデルやI.O.P社製のM4A1など、一部指揮統制モジュールを搭載している人形も存在しているが、やはり小さくない差が出る。人形であるが故、命令をこなす精度は高いが命令を出す精度ではどうしても人間に後一歩及ばない。それが優秀な指揮官との比較となれば尚更である。いや、別に俺が優秀だって言いたい訳じゃないんだけど。

 

 しかしながら哀しいかな、どういった流れになるにせよ、俺がウロボロスを指揮する事態は起こらない。

 仮に今までの言葉が全て事実だとしても、当たり前だが俺が人類側を裏切ってウロボロスを扱うようなことにはならないし、ウロボロスをグリフィンが引き取るというのも無理がある。狩人や処刑人については多少致し方ない部分と大いなる俺の自分勝手もあったが、今のところ不穏分子となるウロボロスをあえてこちらに引き入れる理由が一ミリも存在していない。そもそも、こいつは死ぬことを恐れているのだから再生が利かない可能性が高い。ここでぶっ壊してしまえば強大な敵戦力を確実に一機葬れる。

 逆に言えば強大な戦力を引き入れることが出来るチャンス、と捉えられなくはないが、個が強いだけの自意識過剰はうちの部隊にゃ要らないんだよなあ。うちどころか何処も欲しないだろう。どれだけ強い個が居たとて、それを囲えるだけの線を作ってしまえば戦況というのは簡単に引っくり返る。単騎でやってきたウロボロスを俺の部隊が難なく撃破しているのが何よりの証拠だ。そして、その線を乱す要因を部隊に入れたくはない。

 

 だが、部隊員としての価値はないとは言え、こいつが持っている情報には価値がある可能性は残る。代理人に切られたという事実は裏を返せば、鉄血勢力の実権をほぼ掌握している上位の人形と直接繋がっていたということだ。相応の情報が与えられていてもおかしくはない。

 と、言うことで、久方ぶりのチャレンジトークと洒落込むか。侵入者の時と違い、周囲に明確な脅威はない。今更こいつを助けるために量産型がわんさかやってくるなんてこともないだろうし、安心してことに臨めるというものだ。その万が一も想定して監視網を敷いているわけだしな。

 

 さて。一応はウロボロスの提案に乗るのも吝かではない、くらいの雰囲気は出しておくか。無言の空間を利用し、俺も黙って考えている様相を醸し出す。仮にウロボロスの提案に乗り気であったと仮定しても、先ずはこいつが鉄血から離れることになった明確な理由は抑えておきたい。どちらにせよそこをはっきりさせておかないと、ウロボロスについていくのが正解かどうかの判断が付かないからな。妥当な疑問だろう。

 

「……代理人は、折角捕らえた人形どもをみすみす見逃したことに随分とご立腹だったようだな。あの時私の案に乗っていれば奴らだけでなく、貴様らも一網打尽に出来たものを」

 

 そんな疑問をぶつけて、返ってきた返答がこれである。多分、いや間違いなくこれ404小隊のことだよな。恐らくだが、あのクルーガーをも欺くような情報戦を制することが出来たのは代理人とやらの功績だろう。それでまんまと釣られてきたグリフィンの人形を捕獲、隊長格をウイルスに感染させるまでは順調だったものの、ウロボロスが代理人の命令に従わず増援にやって来た俺たちとの戦闘を敢行して返り討ち、といったストーリーかな。

 

 ウーン、馬鹿。完全に兵隊の暴走である。仮に俺が代理人の立場なら、ハチャメチャに叱責しまくった後に一発で首を切っている。

 軍事作戦というのは、想定通りにことを運んで100点なのだ。それ以上は存在しない。漫画や映画の中では時たまそういうヒーローが生まれたりするが、ところがどっこいここは現実である。作戦目標を無視して、あるいは作戦目標以上の目的を勝手に持って動くなど言語道断だ。仮にそれが成功していたとしても弩級の叱責モノである。それが嫌なら独りで傭兵でもやってろという話だ。組織に所属する以上、そして軍隊である以上は命令遵守は基本かつ絶対の理として存在している。

 一見ウロボロスの無能さを露呈しただけの何一つ価値のない情報にも思えるが、これだけでも得られることはある。代理人が、というのは推測の段階だが、何にしろ鉄血の上層部に相当頭の回る奴が居るな。あのヒゲ野郎に対して情報戦で勝ち切るというのはかなりレベルが高い。小手先の戦術であれば俺にも勝ち筋はありそうだが、盤上の戦略眼の出来では俺如きを優に超えている。

 作戦立案能力、実行能力の高さ、そして目的を達成すれば欲目を出さず撤収を選択できるクレバーさ。どれをとっても一級品だろう。そんなトップが居る組織とドンパチ続けなきゃならないと考えると頭が痛い。ただの鉄屑の集まりならメチャクチャ楽だったのに。

 

 しかし、最早この時点でこれ以上話聞いても無駄じゃね? みたいな香りがプンプン漂っている。作戦を無視した馬鹿っぷりもそうだが、恐らくウロボロスにはグリフィンの人形を捕らえた後のプランまで伝わっていない可能性が高い。

 頭の切れる鉄血上層部のことだ、そこから先の未来も十分に見据えていたはずである。それを知っていて尚作戦を反故にしたというのであればそれこそ超弩級の馬鹿となり、こいつに付いていく理由が露ほども存在しない。逆説的に作戦の先を知らなかった、ということになる。そして更に、それを知らないのであればこいつは然程重要な情報を握ってはいない。そもそもが、自分の組織から追放する奴に重大な情報を掴ませたままなわけがない。

 

 

 

 うーん、多分こいつの持っている情報の総量というのは狩人や処刑人と大差ないと見たね。つまり、利用価値がない。非常に残念ではあるが、ウロボロスさんにはここで永久に退場して頂くことにしよう。と言うことで狩人、やっちゃっていいぞ。ウロボロス、許せとは言わんが、来世はもうちょっと賢くなって出直してきな。

 

「まッ待て! 待ってくれ!! 頼む!!」

 

 狩人が武器を構えると同時、先程まで冷静に話を進めていたはずのウロボロスが突如その様相を乱す。あまりの音量に俺や狩人を含めた全員が思わず息を呑んだ。

 

 自律人形は死を恐れない。それはバックアップがあるからだとかそういう話ではなく、そもそもの死生観が人間と異なるからだ。ウロボロスも言っていたが、人形というのは基本的に使役される側の存在である。無論、その扱い方に不平や不満が出ることもあるだろうが、基本的には使役する側に従うよう出来ている。戦術人形ともなれば尚更だ。人間の代替としての戦力なのに、それが死を恐れて腰が引けてしまっては代わりにならない。そこら辺、擬似感情モジュールというのは実に上手く仕上がっている。人間とほぼ同等の感情を持ちながら、その価値観が根底から違うのだ。上手く出来てるもんである。

 そんな戦術人形のカテゴリ下にあるウロボロスは、バグったと言っていいほどに死を恐れていた。擬似感情モジュールに変異が起きた狩人と処刑人でさえ、死そのものに対してそこまで恐怖を抱いていない。対侵入者戦で自ら囮となり残ったほどだ。その前提を踏まえると、今のウロボロスの状況は立派な異常であると言えた。

 

 何故、こいつはそこまで破壊されることを恐れるんだ。確かに俺だって死にたくはないが、人形が持つ感情としては些か大き過ぎる。バックアップが取れなくなったから、という安直な理由で人形の擬似感情がそこまで揺さぶられるとも思えない。何か理由があるなら聞いてやろう。俺は狩人への破壊命令を一旦取り下げる。だからと言ってこいつの破壊自体を取り止める保証はないがな。

 

 

 

 

 

「……悔しいのだ、私は。私は……私は、ウロボロスだ……。蟲毒の壷を生き抜いた、世界を飲み込むはずの最上位AIを搭載したモデルなんだぞ……! それが……それがッ! 満足に力も出せず! 生み出された役目も全う出来ず! ただ静かに幕を閉じるなど!! それならば私は……私は、いったい何のために造られたというのだ……!」

 

 今までと違い、内に溜め込んだ感情を一気に爆発させるウロボロス。相当力が入っているのか、抑え付けている狩人や処刑人の怒声も混じって聞こえてくる。彼女の慟哭を聞いた他の連中の反応は、様々だ。だからどうした、という澄ました顔をしている者も居れば、境遇に同情でもしたのか少々その表情を歪める者、端から我関せずを貫いている者など。

 

 俺としては、まあ8割くらい自業自得じゃないのそれ、というのが正直な感想である。

 404小隊を救出した時にこいつが居たと言うことは、鉄血側はグリフィンの人形を捕らえるという重大な作戦にウロボロスを抜擢していたということになる。その当時だけで言えば、代理人は結構な期待値を持って任務に当たらせていたはずだ。それを反故にしてしまったのは他の誰でもない、ウロボロス自身だ。まったく同情出来ない、という訳ではないが、正直それだけではこいつを壊さない理由にはならない。

 

「……確かに私は、代理人から決別を告げられた。一方的にな……。鉄血という組織は私を満足させるには些か場違いだったようだ。だが、人間。貴様は……貴様なら、私を満足させることが出来るやもしれない。私は……このまま何の意味も見出せず、何の結果も出せず、ただ朽ちるのは…………嫌なんだ……」

 

 ふーむ、創造理由の否定か。最初からそういう感情を出していれば俺の対応も少しは変わっていただろうに。ただ、心情の理解は出来なくもないが、こいつは肝心な点を見落としている。組織に属していることを度外視して話を進めているのだ。

 自身の役目を全う出来ない、十分に活躍出来ないなど何処にでも在る問題だ。うちの第二部隊だって同じ問題を抱えている。そこに関しては俺の責任も大いにあるが、全員が全員最高の活躍をするってのは土台無茶な話である。エースだけで試合は出来ない。成り立たない。複数の人員で物事を進める以上、絶対に割を食うやつってのは出てくる。程度の問題もあるっちゃあるが、根本から解決するってのは不可能だ。

 こいつは今、自分が満足できるかどうかの物差しでしか判断していない。ぶっちゃけそんな奴は組織に要らんのである。傭兵でもやるか個人事業主でもやるかして欲しい。

 

 理屈で行けば、ウロボロスを生かす理由がない。ハッキリ言って組織にとっては邪魔でしかないだろう。どれだけ優秀だとしても、自分の満足度を優先して組織の命令を無視する奴なんて雇うわけがない。解雇されるのも当然だ。

 

「……そう、か……。……そうだな……貴様の言う通りかもしれん……」

 

 何てことをつらつらと聞かせてやれば、返ってきたのは気の抜けたような返事だった。まあそれを教えちゃう俺も俺で甘いんだろうなあ。

 

 

「……で、どうすんだ指揮官」

 

 数瞬の沈黙が降りた後、それを破ったのは処刑人。こいつはこいつで精神に甘いところがあるから、ウロボロスの叫びにいくらか揺さぶられたのかもしれない。その表情は先程までの硬いものではなく、どうすればいいのか分からないような、迷子の子犬のようにも見える顔だった。

 

「……ただ、やはり諦めはつかないんだ。……私につかないかといった発言は取り下げよう。貴様の下でもいい。私を、使ってくれないか。私に生まれた意味を、掴ませてはくれないか」

 

 随分と気落ちした様子で、今度はウロボロスが続ける。その内容は最早提案ではなく嘆願の部類だ。このままいけば破壊されるってことくらいは流石に分かっているのだろう。

 

 少々の想定外もあったが、それら諸々を加味して一旦情報を整理してみるか。今のところこいつの生殺与奪の権利は俺が握っている。処刑人たちも俺の号令なしで勝手に殺したりはしないだろうし、先程狩人に出した命令は一旦止めたために保留状態にある。

 ウロボロスをこの場で破壊するメリット、デメリット。逆に、ウロボロスを迎え入れるメリット、デメリット。ああ、一応破壊も迎え入れもせず、野に放つという選択肢もあるにはあるな。それも含んで考えてみよう。

 

 

 

 ふむ。よし。なんか思いの外すんなりとまとまった気がするな。

 じゃあそういうことで、ウロボロス。お前は――――




メリット、デメリット。よければ皆様も考えてみてください。

おじさんは、ウロボロスを

  • 破壊する
  • 迎え入れる
  • 放逐する
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