「いやぁ、君は普段から愉快だけど一周回っても面白いね。ハーレムでも作り上げる気かい?」
俺の前を歩く16Labの主任技術研究員、ペルシカリアがその歩みを止めぬまま首をひねり、実に殴りたくなるような絶妙な顔つきで俺に対しその言葉を投げかけてくる。何がハーレムじゃ。しばくぞ。
目の隈は相変わらずだが、これからのイベントに期待を寄せているのかその表情は明るい。そんな視線を向けられた俺の横には、最早鉄板となった鉄血製のハイエンドモデルが二人。先日招き入れたばかりの新参者をがっちりとキープし、その歩みを共にしていた。
俺の後ろには護衛として、いや付き添いと言った方がいいか? 第一部隊の四人が静かに続いている。正直護衛という意味ではハイエンドモデルの二人が居れば十分ではあるのだが、折角ペルシカリアのもとまで行くのだから何かと縁のあるAR小隊を連れて来た方が互いのためになるというものだ。とか思っていたのに、この微妙な沈黙は一体何なんだろう。こいつらもしかして役目を狩人と処刑人に取られたとか思ってたりするんだろうか。子供かよ。M16A1は無表情かつ無言を貫いているし、M4A1は言葉こそ発していないがそわそわと落ち着いていない様子。AR15は俺と視線を合わせないようにやたらと首を傾けている。お前分かりやすいな。SOPMODⅡは感情を隠すことなく、威嚇するような険しい顔付きでハイエンドモデル二人を睨んでいた。
俺たちは今、ペルシカリアの居る16Labにお邪魔している。理由は単純、ウロボロスにセーフティプログラムを植え付けるためだ。
問答の末俺の配下となったウロボロスだが、当然ながら彼女は鉄血工造製なので、I.O.P社製の人形にあるようなセーフティプログラムは備わっていない。このままでは俺をはじめとした人類に対して簡単にその引き金を引けてしまうし、いくら言葉で従うと言っているとはいえ、それを妄信出来るほど俺は落ちぶれちゃいない。そこら辺の扱いは狩人、処刑人と同じだな。戦場での口約束など何の保証にもならないのだ。
ちなみにそのウロボロスだが、なんと対ハッキングプロテクトが仕込まれていないらしい。これはペルシカリアとウロボロスの会話で判明したことなのだが、ウロボロスはその性能故、たとえ誰かがハッキングを仕掛けてきたとしても自前の防衛機能で並大抵のアタックなら全て無効化出来るそうだ。電子戦に強いという看板に偽りなしというわけである。
ただ、それはあくまでアクセスに対してウロボロス自身が排斥を決定して初めて動くものらしく、今回のように同意の下で触る分には何の問題もないらしい。だが、その言葉も無条件に信頼するわけには当然行かないので、ペルシカリアも相応の防御手段を持って電脳にアクセスするつもりだそうだ。そういうところでもやはり彼女は一流の技術者ではある。これで普段の装いが普通以上であればよかったのに。いや何がとかは置いておいてだな。
「ふむ。話を聞く限り狩人や処刑人も同じ処置を施されているようだな。ああ、別に文句は言わんぞ? 人間の指揮下に入るのならそれも理解は出来る」
両脇を固められながらも落ち着いた口調を崩さないウロボロスが紡ぐ。こいつ今までの印象からして頭のいい馬鹿ってイメージなんだが、まあ元々高性能AIを積んでいると豪語するだけあって、物事に対する理解力そのものは高い。その地頭の良さを尊大に過ぎる自尊心が全て台無しにしていたのが今までの彼女だったんだが、多少はマシになったようで、これなら何とか兵力として数えられそうで何よりだ。とは言っても、こいつはこいつでまだ様々な教育が足りていないってのは事実としてあるんだが。
「さて、じゃあウロボロスだったかな。ここに寝てくれるかい」
見覚えのある一室に足を運んだ後、ペルシカリアは振り返って言葉を投げ掛ける。受け取ったウロボロスは無言で頷き、だがしかし実際の移動は左右のハイエンドモデルに任せながらベッドへとその身を移す。ウロボロスもでかいが、単純な体躯で言えば処刑人が一番大きく、その次が狩人といった順番だ。何かデカいお子様みたいな感じだな。
がさがさと、幾つかのケーブルを取り出しウロボロスへと繋げるペルシカリア。
俺も知ったのは割と最近だが、戦術人形はそもそもがアンドロイドだ。このような外部接続端子というのは割とあったりする。普段目に見える場所に分かりやすくあるわけじゃないからそう目立つものではないが、やはりいざこういうシーンを見ると便利だなと思う反面、こいつらは人間とは違うんだなあというのを否が応にも思い知らされる。
作業中、相変わらず目に入るモニターには様々なデータが忙しなく流れているが、俺にはその内容がサッパリ分からない。狩人や処刑人の時もそうだったが、AIの蟲毒の壷とかいう意味の分からない地獄を生き残った彼女の電脳はそれはもうレアモノだろう。場合が場合なら結構な金を分捕れそうな内容にも思えるが、幸か不幸か俺にそのような不埒な思考はない。多分持ってたら今頃ここには立っていないだろうし。人間様は分相応に生きるのが長生きのコツなのだ。悪いことをしようものならこのご時世、どっから刺されるか分からん。
「はい、終わり。プロテクトがなかったから楽だったわー」
作業を眺めること数分。けろっとした顔で終わりを告げるペルシカリア。ウロボロスには些か短い夢への旅立ちだったろうが、まあそうのんびりもしていられないからな、さっさとしばき起こすとしよう。
「……んぐっ、なんだ、もう終わりか。存外呆気ないものだな」
俺の平手に驚いた声を一瞬出したものの、直ぐに自身へと気を向ける。俺がしばいたのはバレてないらしい。俺の一連の動きに一瞬ぎょっとした表情を見せる部下たちだが、誰もそれを口にはしない。大丈夫かな、こいつへの普段の扱いがちょっと酷いものになりそうなんだが。
「毎度忙しなくて悪いなペルシカ。いずれゆっくり話もしたいもんだが」
「いいって。君たちには私も世話になってるし、お互い様よ。いずれまた、ゆっくりとね」
手土産として持ってきた珈琲豆を渡しながら、M16A1が若干の申し訳なさを含ませて言葉を紡ぐ。返しを発するペルシカリアは微塵も気にすることなく、朗らかな口調だ。こういう対応もちゃんと出来るんだから普段からしっかりすればいいのに。いかん、何か考え方が親父臭くなってるな。歳には勝てないというやつか。哀しい。
ただM16の言う通り、ゆっくりはしていられない。前回と同様、ウロボロスの姿をおいそれと一般の方々に見せるわけにはいかないために、今回の訪問はすっかり夜も更けた後である。なんだかんだでペルシカリアには毎度毎度無理を言ってしまっているので、手土産以外にもいい加減何か準備した方がいいだろうか。しかし、俺程度で手に入れられるもので彼女が喜びそうなものや彼女の役に立ちそうなものに皆目見当が付かない。カリーナ、はちょっと年齢層が違う気がする。中々そういう話題は振りにくいが、ヘリアントスあたりに聞いてみるのもありだろうか。
「それじゃ、またね。君もまたゆっくり出来る時にくるといい」
最後に俺への気遣いを見せるペルシカリアの言葉を受け、彼女のラボを後にする。常に緊張を強いられる支部での生活と違い、ここで過ごす閑談の一時は確かに貴重ではある。だが、文字通りのんびり出来るような時間はそう簡単に捻出出来そうにないからなあ。周辺の状況はかなり落ち着いてきているとはいえ、T02やT03地区のこともあるし、ウロボロスのような新型も繰り出してきている鉄血相手に油断は出来ない。
じゃ、またなペルシカリア。たまには仕事抜きにまたゆっくりと話をしたいものだ。
『……だから、何故、俺の前に、そっちに行くんだ』
16Labへの訪問を終え、無事支部に帰還した俺たちはとりあえず狩人と処刑人、ナガンの居る予備宿舎にウロボロスを突っ込み、周辺警戒と明日のスケジュールを確認して床についた翌日。今回のことの顛末を報告するために、人払いを済ませた司令室の中でクルーガーに通信を飛ばした後の第一声がこれだった。
うはははは。だって仕方ないじゃーん。敵がこっちに付くって言ってきたんだもーん。大分精神にきているクルーガーの小言を右から左へといなし、淡々と報告を続ける俺。はーちょっとすっきりした。
別にヒゲ野郎を軽視しているわけじゃない。こいつと俺にどのような因縁があるとしても、今の俺はPMCの従業員でありこいつはここの代表だ。仮に部下の暴走で会社が被害を被ったとあれば、それはどのような事態であっても看過できない。その一線は勿論俺も守っているつもりだ。
逆に言えば、そこさえ守ればこいつには何をしてもいいと思っている。クルーガー自身、俺に対して一ミリも遠慮なんかしていないわけだしな。
『……ふうーー……まあ、敵勢力の鹵獲は今に始まったことではない。その点は評価してやろう。だが、くれぐれも、身勝手な行動は慎め。これは命令だ、コピー指揮官』
おっと、大分キレてるなこれ。命令と言われれば俺も黙って従う外ない。特段理不尽な命令でもないし、至極真っ当な要求でもある。逆鱗に触れてしまう前に俺も引いておこう。ただまあ、こいつはこいつで俺に対してかなり身勝手な命令を下しているのであまり大人しく従う気にもならんのだが。いつかぶん殴ってやるからなお前。
『こちらからは基本的に、狩人や処刑人と同様の扱いを求める。分かっていることだと思うが乱用は止せ』
お約束とも言えるお小言を最後に頂戴し、通信を終了させる。当初こそどうしようかと悩んでいたところだが、狩人と処刑人という前例もあるからあまり頭を捻らなくてもすむってのは正直助かるところだな。
今のところ、ウロボロスは第五部隊への組み込みを考えている。個人間の相性で言えば特に処刑人が難しそうではあるが、それ以上に武装の相性がいいのだ。
近距離の処刑人、中距離の狩人、遠距離のウロボロス。そこにコマンダーとしてナガンを添える。ウーン、性格を抜きにすれば正に隙のない布陣である。俺が前線に出る場合は俺の直衛に入ってもらうつもりだが、ウロボロスの武装なら前衛組が見つけたターゲットに対し遠距離から先手を打てるのも大きい。
そういう打算もあって予備宿舎にウロボロスを突っ込んだわけだが、ここについてはナガンのおばあちゃん力に期待している。瞬く間にヘッポコハイエンド二人を懐かせてしまったあの手腕を是非ウロボロスにも発揮して頂きたい。AIの持つ性格が違うからどう転ぶかは未知数なものの、まあそう不利な賭けでもないだろう。
さて、クルーガーへの報告も済ませたことだしヘッポコどもの様子でも見に行くか。ナガンなら大丈夫だとは思うが、ウロボロスが靡いている保証はないからな。
なんだかんだで最近、あいつらに構うことが多くなってきているように思う。単純に頼る場面が増えている一面もあるとはいえ、ちょっと小さくない差が出てきてしまっているようにも感じる。全員を完璧に平等に扱うのが勿論理想ではあるのだが、こればっかりは俺の身が一つである以上仕方がない。せめて理不尽と思われない程度には立ち回らねばならない。
「しきかぁん。ただいま戻りました~」
そう考えて席を立とうとした矢先。司令室のゲートが開くと同時、短い電子音とどこか間延びした声が響く。その先からはUMP45を先頭とした第三部隊が歩みを進めていた。
そういえばこいつら、とある地域を守っている自警団の夜間警備支援任務に出していたんだった。UMP45が復帰したと時を同じくして部隊に戻ったウェルロッドを連れ、総勢五人が顔を覗かせる。
UMP45は、普段通りである。俺が快復した頃合を見計らってお手伝いの任を解いた彼女ではあるが、それは想定していた事態のようで。特に何かを言われることもなくすんなりと受け入れられた。日常に戻った俺も彼女も特段変わったこともなく、日々を過ごしている。少しだけ、ほんの少しばかりスキンシップが増えた気がしないでもないが、まあ気のせいと言っても差し支えない範囲だ。
お疲れさん。一声労いをかけ、書類を受け取る。派遣を決めた自警団はそれなりの規模は持っているものの、PMCと言うほど組織だったものではない。そう遠くない地域ではあるが、他の支部とも幾度か交流を持っていたらしく、真っ当に地域を保全している組織であるという裏付けは簡単に取れた。というかヘリアントスに訊いてみたら自警団の名前を知っていたので、まあいい経験にもなるだろうということで第三部隊を赴かせた。
結果は上々だったようだ。ただでさえ人類の生存域が刻一刻と縮小している中で、見目麗しい戦術人形五人というのは相手方にとっても良い目の保養になったようで。書類には無事任務を遂行できた証となるサインに加えてもう一枚、感謝の言葉を綴った手紙もセットとなっていた。
こういうのも悪くないなと思う。我々人類は随分とその数を減らし、小さくなった支配域で日々元気に隣人と殴り合っている。そんな控え目に言っても地獄な様相を呈しているこのご時世、仲良く出来るところとは仲良くしておいて損はない。絵空事を言うつもりはないが、人間は基本的に脆弱であるからして、助け合える時は互いに手を取り合うべきだ。
「んふふ、しきかぁん?」
書類を受け取り結果を確認、その後退室を命じようとしたはずが、俺の目の前には何かを待っているUMP45の姿。それを見てナインが我も我もと俺との位置関係を詰め、416は一見興味が無さそうに視線を泳がせ、G11は相変わらず眠たそうで、ウェルロッドは何をしているのだろうという疑問の表情であった。
ああもう、俺にはこの後第五部隊の様子を見に行くという大事な仕事があるんだぞ。そもそも俺は指揮官であってお前らの親でも何でもないというのに、少しは遠慮しなさい。それに、こんな冴えないおじさんに一体何を期待するというのか。まっこと理解に苦しむ。
「……ふふ」
「んん~~~~ッ」
よくやったな。言葉にあわせ、UMP45とナイン。その二人の頭を乱暴に撫でてやる。毎回思うが、こんなのの何が嬉しいんだろうか。一歩間違えたらただのセクハラだぞこれ。
そんな俺の心配を他所に、UMP45は静かにその頬を緩ませて。ナインは嬉しそうに喉を鳴らす。いやまあ、決して悪い気分ではないのだが、なんだかなあ。このやり取り、つい最近もやった気がするぞ。
こいつらの電脳に、果たしてどういう変化が起きているのかは分からない。俺は技術屋じゃないからな。ただ、分不相応だと感じながらも悪くない感情を向けられていることに対し、やはり何らかの形で報いてやるべきなのだろうとも思う。その答えはまだ見つかっていないし見当も付かないが、まあどうにかなるだろう。今までも何とかなってきたんだからな。
「おお、指揮官。ここにおったか。また面白い新人が入ったものじゃのう」
「はははは、人間。I.O.P社の戦術人形にも中々分かる奴が居るではないか。どこぞのハイエンドモデルなどとは大違いだな」
「あ? 殺すぞ」
「おや、どうした処刑人? 何も貴様のこととは言っておらんぞ?」
「よっしゃ殺す。今ここで殺す。てめえ今すぐナガンを下ろしやがれ」
「落ち着け処刑人、指揮官の前で暴れようとするんじゃない」
「よさんか。ウロボロスもそう煽るでない、曲がりなりにも同じ部隊の仲間じゃろうが」
「はははは、すまないなナガン。こいつを見ているとつい、な」
何かウロボロスがナガンを肩車しながら出てきたぞ。スゴいなお前。
母は強し(ナガンは母ではない
ということでウロボロスさん周辺はこれで一旦終幕です。あとはまたいつも通り賑やかで、いつもよりちょっと違う日常が繰り広げられていくのでしょう。
明日から出張という都合、執筆を優先したため、感想のお返しが出来ておりません。申し訳ないです、一つ一つじっくりと何度も読ませて頂いております。いつも拙作をご支援頂き感謝に堪えません。
これからもどうぞ、のんべんだらりとお付き合いくださいませ。