戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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このサブタイトルは、割と昔から決まっていました。


59 -戦術人形と指揮官と-

「ねー、聞いてよ指揮官ー! 向こうの新人ったらこないださあ」

 

 とある昼下がりの午後、少し早めの昼食を終えて午後の執務にさあ取り掛かろうかといった時分。相も変わらずハルさんがその実力を遺憾なく発揮する、天国のような食堂からずっとついてきている第二部隊の隊長。特徴的な髪留めと、腕に飾られている洒落っ気のないブレスレットが午後の陽射しに照らされている。その口調と表情は人形というカテゴリからはあまりにもかけ離れていて。実に人間らしく可愛らしい仕草とともに頬を膨らませ、デスクに身体を預けながら言葉を発していた。

 いや、何を言いたいのかは知らんが俺は今執務中だから。君は今日の副官でも何でもないでしょうが。さっさと自分の宿舎に戻れ。

 

「スコーピオン、執務の邪魔よ。早く宿舎に戻りなさい」

 

 なんてことを考えていたら、本日の副官様が俺の気持ちを代弁してくれていた。俺の代わりに声をあげたそいつは昼の休憩を終えると同時に二人分の珈琲を用意し、今は積もりに積もった書類整理に精を出している。昔っからそうだったが、どれだけデジタル機器への信頼性が落ち込んでいるとは言え、ペーパーレスの時代からペーパーフルの時代へと見事に逆行しているのは如何なものかとおじさん思うの。決裁印をただ只管に押しまくるこっちの身にもなって欲しい。いや、電子機器がまともに使えない事情ってのは理解してはいるんだが。

 

「ちぇー。いいじゃんちょっとくらい。UMP45のけちんぼめ」

 

 いやちっともよくねえよ。俺の仕事の塩梅をお前が決めるんじゃない。至極真っ当な指摘を行ったUMP45に対して理屈も屁理屈もないダダをこねるスコーピオン。

 実際今は日にもよるが、そのちょっとすら捻出出来ない一日もあるくらい忙しいのだ。まともに昼食を取れている今日はまだマシである。それくらい、この支部を取り巻く環境というのは加速度的に変化し続けている。

 

 

 

 こいつらにブレスレットを贈ってから、それなりの期間が経過していた。俺が初めてこの支部に着任してからで計算すると、凡そ一年が過ぎ去ろうかといったところだ。

 まあ色々とあったと言えば色々とあったし、そのどれもが日常の延長だと言われればそうでもある。詰まるところ、俺は当初から変わらず元気に、時にイラつきながらグリフィン&クルーガー社の前線指揮官という職務を務めているということだ。

 

 正直本来の職務という点で言えば、大規模な戦闘はかなり減ってきている。元々この支部周辺の鉄血は粗方掃討していたというのもあるし、最前線であったが故に基地を留守にして長距離の遠征に出るわけにもいかなかった。最後にまともな作戦行動を取ったのは恐らく一ヶ月は前ではないだろうか。何でも新しくT04地区を制定するということで、その周辺の調査と掃討をまるっと投げられたのには流石にキレかけた。あのヒゲは相変わらず俺に対しての遠慮ってものがない。あいつ一回大怪我でもすればいいのに。

 そんなクルーガーも変わらず元気にやっているようで何よりではある。一年前と比べてグリフィンの勢力圏もいくらか拡大し、あいつも更に忙しくなっているようで直接通信を行う頻度も結構落ち込んでいる。直接面倒ごとをブン投げられる回数が減ったのは素直にありがたいことだが、日常的に面倒くさい業務が増えているので正直トントンといったところだ。身体を動かす機会が減った分もしかしたら今の方がキツいかもしれん。そういや随分と長い間前線に出てない気もする。本来出て行く立場でもないんだけどさあ。

 

 日常的に面倒くさい業務、というのは大きく分けて二つある。内政と、教育だ。

 

 現状俺の居るT01地区をはじめ、T02地区とT03地区も稼働を開始している。新しく出来た二つに関してはうちの支部に替わる最前線になるために市民の姿はないが、逆に言えばT01地区が最前線ではなくなったということだ。

 今このT01地区には、少ないながら一般民の流入が始まっている。支部の内部は流石に立ち入りを禁じているが、周囲に目立った脅威がないことから僅かではあるものの、テストランとして希望者を募った上で住民の受け入れが行われているのだ。これがまたハチャメチャにダルい。俺は前線で戦う種類の人間であってデスクワークを延々とやり続けられるタイプじゃないんですよ。クルーガー分かってんのか。

 ただ、そうも言っていられない実情というのも理解出来るからこそ、こうやって慣れもしない内政に四苦八苦しているわけだ。

 

 まず、書類の数と種類がとんでもなく増えた。本当にヤバい。一昔前の漫画や映画ではよく管理職の人間が書類の束に追われているシーンが映っていたものだが、それが比喩でも誇張でもなんでもないことがよく分かる。今までは支部の運営だけに視点を注いでいればよかったが、これからは地区の治安や情勢にまで目を配る必要が出てくる。当然そこに住まう人間が全てに満足いく訳がないので、あらゆる不平不満や陳情がそこかしこから飛び出してくる。もうほんとやだ。これ支部を増やす前に俺の補佐を増やすべきでしょ。

 で、そうなれば当然だが、うちに所属している戦力というのが鉄血人形をぶっ飛ばすだけのものではなくなってくる。いわゆる警察の真似事なんかをしなきゃいけないわけだ。人間ってのは実に脆弱なもので、抑止力が働いていなければ簡単に狂う。それら狂気のタネが芽吹く前に、あるいは火種が小さいうちに処理するのも大切な治安維持のお仕事なのである。

 まあ如何に世紀末な世の中とはいえ、ゴツい銃器を手に持った戦術人形がダミーも総出でパトロールしていれば、ほとんどの火種は燃え盛る前に潰せるというのがせめてもの救いか。繰り返すが、人間は基本が脆弱なのだ。強大な力が目の前にあると分かれば途端に大人しくなる。

 

 それに加えて、T02、T03地区の監督もある程度こなさなきゃいけないってのが辛い。これで今度T04地区が新設されたらそこも俺の管轄になるんでしょ。ほんとヤバい。

 無論、それぞれの地区には指揮官となる人間が配属されている。されてはいるがしかし、やはり如何にクルーガーと言えども早々俺のような戦闘に適正があってかつ経験のある人材ってのは中々引っこ抜いてこれなかったようだった。

 新たに指揮官となった二人はともに若く、真面目で、やる気があるってことは最初の挨拶ですぐに分かった。だが、気勢だけで務まる類の仕事じゃあない。メンタルは確かに大事だが、それ以上に技術や経験、戦闘に関する知見がモノをいう職場だ。最前線であれば尚更である。

 

 そんな目に見えて分かる不十分を、一体誰がどうやって補うのか。俺しか居ないよね。ほんとシバくぞあのヒゲ。

 と言うわけで、ただでさえ自前の土地の管理で手一杯だというのに、他所の戦術人形のみならず、指揮官を鍛え上げるための動きなんかもしているわけだ。切実に分身したい。

 

 やっていること自体は今まで俺がしてきたことと大差ない。訓練のスケジュールを立てたり、座学指導をしたり、訓練の対戦相手になったりしている。最後の役目は俺がと言うより俺の部下たちの方が出番は多いが。

 他所の支部は他所の支部で新たに戦術人形が配備されてはいるものの、予想通り彼女たちはそのほとんどが新人であった。中にはちょっと他で戦ったことあります、程度のやつも居たが、まあうちの平均レベルから言えば五十歩百歩である。孵化一日目か二日目か、くらいの違いしかない。

 ヒヨっ子どもを鍛えるのも楽しいといえば楽しい。しかしそれはあくまで、ある程度の余裕がある前提があってこそだ。今の俺のスケジュールは財政状況よりもカツカツである。

 

 そんなてんてこ舞いな毎日を送っているのだが、ある時期から他所の支部、戦術人形、住民まで含めて一つの噂話が持ち上がるようになった。

 

 腕輪付きには逆らうな。あるいは、腕輪付きには手を出すな。

 

 噂の出所は分からない。というか調べる気すら起きん。他所の支部に稽古をつけに行ったとき、跳ねっ返りの新人が調子に乗っていたのを模擬戦で30戦連続ヘッドショット一撃で沈めたのが発端かもしれないし、このご時世にありがちなヤンチャな集団に対し銃器も使わず、一対多数の格闘戦で全て片付けたのが発端かもしれない。思い当たる節が多過ぎて困る。

 あまりありがたくない類の噂ではあるが、ありがたいことにこの話が広まるにつれて徐々に治安が安定していったというのだから笑えない。今では戦術人形が周辺警備に出かけた時なんかは結構声を掛けられるらしい。それが親しみからきているのか、畏怖からきているのかは知らんけど。

 

「指揮官、戻ったぞ」

 

 おっと、噂の第一人者最有力候補のお帰りだ。様々な出来事に思いを馳せながら、一方で無心に印鑑をつき続けていたところ。司令室のゲートが短い電子音とともに開き、その先から我らがエース、第一部隊が顔を覗かせていた。

 

「今日はいい報せだ。南区の畑がどうやら軌道に乗りそうでな。まだまだ収穫量の見込みは低そうだが、あの調子で開墾できれば悪くないと思うぞ」

 

 おー、そりゃ果報だな。齎された報告に頷くと、それを返答として受け取ったM16A1はどっかと司令室のソファに腰を下ろす。続いて隣に腰を下ろすM4A1。AR-15は相変わらず真面目だなあ、座る気配を見せない。ただ、隙を見て俺の方へ駆け出そうとしていたSOPMODⅡをしっかりとガードしているのは高ポイント。悪いが今お前の相手をしている暇はないんだ、割とマジで。

 

「お疲れ様、M16。もう銃よりも鍬の方が似合うんじゃない?」

「なんだUMP45、知らないのか? 最近は銃だけを扱えても使い物にはならないぜ」

 

 やめろ。ただでさえ忙しいのに余計な負担をかけようとするんじゃない。お互い本気で言い合っているわけじゃないので俺もいちいち口は出さないが。憎まれ口を叩きながらも、しっかりと四人分の飲み物を準備している辺りこいつも認めてはいるのだろう。

 

 うちの部隊編成は、結局当初から変わっていない。AR小隊には相変わらず第一部隊として有事の際はうちの最大戦力として動いてもらっているし、404小隊も基本はウェルロッドとセットで第三部隊として活動してもらっている。ただ、第三部隊に関しては基本的に内務が中心だ。部隊柄あまり表に出すものでもないし、そこら辺は仕方ないと割り切るしかない。

 その代わりと言ってはなんだが、ある部隊には積極的に色々と出張ってもらっている。

 

「よーっす指揮官! 戻ったぞぉ!」

「はははは、これで我々の148連勝だ。まったく、やつらは成長が遅くてかなわん」

「お前たちはもう少し加減というものを知ったらどうだ。指揮官の命は撃滅じゃないんだぞ」

「まったくおぬしらは……ああ、安心せい。しっかり命令はこなしてきたからの」

 

 とか思っていたら、その出張っていた連中が帰って来た。なんか一気に司令室の密度が上がったぞ。空調も効いているからそこまで暑いってわけじゃないんだが、視覚的に暑苦しい。鉄血のハイエンドモデルが三人勢揃いともなれば単純に占有する面積がデカくなる。

 

 こいつらには昨日から、T02地区へ戦術人形の模擬戦相手として出向いてもらっていた。結果はウロボロスが言ったとおり圧勝のようだが。まあ錬度に劣る若手の戦術人形、それに加えて指揮官も未熟とあってはこいつらに勝てる道理がない。さぞボコボコにしてきたことだろう。俺は別にボコしてこいって言ったわけじゃないんだけど。

 ちなみに、ボコボコにしているというのは何も勝敗の比喩ではなく、そのままの意味である。マジでボコっている。

 ハイエンドモデルの武装はどれをとっても超火力だ。錬度に劣るヒヨッ子の戦術人形どもでは、とてもじゃないが対応しきれない。だから処刑人は基本的に素手で相手をしているし、ウロボロスや狩人は訓練用に新調した別の非殺傷武器を手にしている。それでも痛いものは痛いから、あっちのメンテナンス装置はさぞ賑やかになっていることだろう。流石に大怪我をさせる事態にまでは発展していないが、精神的大怪我を負わせるのにはそれでも十分だった。

 

 鉄血のハイエンドモデルに関して、他所の地区とも関わりを持たざるを得ない手前どうしても隠し通すのは無理だと判断したのだが、鹵獲したモデルだと伝えたら思いの外すんなりと受け入れられた。T地域自体が最前線だし、他の指揮官たちもまだ若い。戦術人形も新人がほとんどだったから、良くも悪くも先入観がなかったのだろうな。

 そんなもんだからこれ幸いと、大手を振ってこいつらを使いまくっているわけだ。

 今の第五部隊の重要性はかなり高い。I.O.P社製の戦術人形からすれば、まさに理想の訓練相手足り得る。頑丈だから他の連中も実弾で訓練が出来るし、こいつらのスピードに慣れておけばそこら辺の量産型など楽勝である。ウロボロス曰く成長速度が遅いとのことだが、それは指揮する側の違いというものもあるだろう。如何に効率よく訓練を行おうとも、それをフィードバックする側が未熟では十分な結果は得られない。それでもやらないよりはやった方が百倍マシだけどな。

 

「しかしよ、ずっと訓練の相手ばっかりだとこっちが鈍って仕方がねェ」

 

 帰投報告の後、すぐさまぶーを垂れる処刑人。そうは言っても、この支部周辺で言えばかなり情勢が安定してきているからどうしようもない。そもそもお前ら機械なんだから鈍るとかないでしょ、とも思うが、そこはまあ気持ちの問題だろう。俺だってずっと書類とにらめっこしていれば気分も滅入る。

 

「私たちが最後に動いたのは一ヶ月前だったか? 確かに少し、物足りなくはあるな」

 

 ソファに腰掛けているM16A1が、処刑人の零した言葉に呼応する。ていうかお前ら、報告が終わったなら出てけよ。こっちは仕事中なんだぞ。今日中に終わらせなきゃいけない書類がまだわんさか残ってるんだ。

 

「あら? 指揮官、通信が入っているみたい」

 

 あーもう。ただでさえクソ忙しい上にクソ喧しい中で今度は何だ。今日はやけに重なるな。

 ありがたくない情報を齎してくれたUMP45の声を聞くのと同時、間髪入れず通信機のボタンをポチっとな。最近半自動的にこの動きが出来ている気がする。わざわざ通信相手を確認したり面倒くさい気持ちを持つくらいならさっさと出てしまった方がいい。俺も立派な社畜になってしまったということか。社会の荒波は厳しい。

 

『御機嫌よう、コピー代表指揮官』

 

 通信機から響くのは、氷のような冷徹さをも感じさせる女性の声。うーん、ヘリアントスかあ。まあいきなり厄介ごとを押し付けてくるヒゲよりははるかにマシな相手だが、それにしたってその肩書きで呼ぶのやめてくれませんかね。胃が痛い。

 浮かび上がったホログラフに対し、殺し切れない苦笑いが漏れるのはもうどうしようもない。最近ポーカーフェイスがいまいち機能しないことが多くなってきている。歳なのか、それともストレスでやられているのか。どっちも嫌だなこれ。つらい。

 ただ、ついさっきまで喧しかった司令室も通信が入った瞬間一気に静まり返り、その空気が変わるのは悪い気分じゃない。やはりこいつらは優秀だ。

 

『早速本題に入るが、T04予定区の現地調査を行っていた部隊から鉄血勢力との交戦報告と被害報告が上がってきている。先般貴官が撃破した勢力の残党かと思われるが、それにしては数が多い。現地に赴き、再度の調査と敵勢力の撃破を依頼する。報酬は通常任務相当で手配しよう』

 

 割と普通だったわ。その程度ならT02かT03に任せてしまえよとも思ったが、あそこの連中はまだヒヨッ子もヒヨッ子だ。近隣の哨戒程度ならともかく、イレギュラーの可能性がある任務に向かわせるにはまだ、ちょいとばかし錬度が足りないって感じだな。

 だが、その任務を受けること自体はいいにしても通常業務はどうするんだ。昔と違って俺も戦闘だけやってりゃいいご身分じゃなくなってしまっている。丸一日空けるのはちょっとキツいぞ。

 

『無論、貴官が多忙を極めている身だということも理解している。各報告書については、作戦期間分の猶予を別途設けるつもりだ』

 

 ぬぅ。ありがたいっちゃありがたい温情ではあるが、根本的にこの業務から解放されるというのはどうやら過ぎた夢らしい。ヘリアントスはまだいい、こいつは能力も性格も内政官向きだ。でも俺はそうじゃないんですよ。自由気ままに戦場を走り回りたい性分なんですよ。

 

「おっしゃあ! 戦闘か!? 戦闘だな!? 指揮官、俺を出せ!!」

「まあ待てよ処刑人。私たちは最近訓練相手すらまともにやってないんだぜ。ここは私たちに譲ってくれてもいいだろう?」

 

 うるっせえ! 落ち着けこのヘッポコどもが! 途端にテンションが爆上がりした処刑人と、すかさずインターセプトをかますM16A1。

 ただ、残念ながらと言うか幸か不幸かと言うか、俺自身ヘリアントスの連絡で少々テンションが上がってしまっている。内地で篭っているのはいまいち性に合わん。勿論、これも必要な業務だと理解はしているが、何処まで行っても俺はやっぱり座っているより動く方が好きな人間なのだ。

 今回の任務は息抜きには丁度いいかもしれない。油断する気は更々ないが、久々の前線指揮でもある。鉄血の鉄屑どもには俺のストレス解消に付き合ってもらうとしよう。

 

 となると、後はどの部隊を使うか、だが。

 

「指揮官、ここは可愛い教え子にたまには見せ場を作るべきじゃないか?」

「はいはいはーい! アタシのとこがやる! ね、いいでしょ指揮官!」

「しきかぁん、私も最近内務ばっかりで、ちょっと退屈なのよね」

「クソッてめーらいきなり元気になりやがって! おい指揮官! ここは俺を出すところだろ!」

 

 処刑人に負けず劣らず勝気な教え子たちから、これでもかと言わんばかりのアピールが飛んでくる。こいつら俺が指揮官で、自分たちはその部下だってことをちゃんと分かってんのか。お前らに部隊選択の権限はないんだぞ。まあ主張してくる分には構わんのだが、折角の楽しい外出なのだから余計な悩みを押し付けないで欲しい。

 

 うーん、悩むのも面倒くさくなってきたな。いっそのことここに居ない第四部隊以外の全員を連れて行ってしまうか。場所的に一度掃討したエリアだから早々イレギュラーは起きないだろうし、起きたとしてもこの面子だ、多分普通に瞬殺出来る。MG5やトンプソン辺りが後ですげぇぐちぐち言ってきそうだが、今ここに居ないあいつらが悪いのだ。

 

 よっしゃ。そうと決まればちゃっちゃと準備して終わらせてしまおう。書類仕事の猶予は出来たが、仕事が減るわけでもなくなるわけでもないからな。

 

 

 

 グリフィンに来てからまだたった一年かそこらだが、随分と長い間こいつらと一緒に居るように感じる。多分、もっと歳を取って身体が思うように動かなくなるまでずっと、俺はこいつらとともに外敵を排除し、内務に精を出し、時々馬鹿をやらかしていくんだろう。

 出来ることなら、そんな忙しくも充実した時間を少しでも多く、過ごせたらいいなと思う。

 

 俺には何もない。何もないがしかし、こいつらとの間に何かを生み出せていたら、それはそれで第二の人生を押し付けられた借りも少しは返せるというものだ。もし未だ何も生み出せていないのなら、これからもっともっと頑張らなければならない。そのためにも、目の前の目に見える障害くらいはサクッと排除して前に進まなきゃな。

 

 俺の残りの人生は、俺とともに働いてくれる数少ない人間と戦術人形。そして俺の人生を救ってしまったAR小隊のためにある。こいつらが未来を見据え続けられるように、道を見失ってしまわないように。俺なんかの余生でよければ全部付き合わせるつもりだ。

 

「指揮官さま! 弾薬と配給、装甲車の準備、整いましたわ!」

 

 出撃準備のために皆が出払った司令室に、カリーナの声が響き渡る。作戦開始の用意が整った旨を、頼れる後方幕僚殿が元気いっぱいの声で伝えてくれた。

 

 オーケー、全ては整った。そんじゃあ久々の前線指揮だ、俺も気合入れていこう。

 チャンネル周波数を合わせてある通信機を手に、作戦開始となる最初のワードを紡ぐ。随分と前からだと思うが、うちの支部ではすっかりこれが定番となってしまった。まあ、これはこれで悪くない。実に俺たちらしい始まり方だと思う。

 

 それじゃ、行こうか。俺たちの非日常的な日常は、いつもここから始まるのだ。

 

 

 

「――You copy?」




これにて、指揮官おじさんのお話は一旦一区切り。
7ヶ月もの期間お付き合い頂き、誠にありがとうございました。

今後、彼ら彼女らが一体どんな道を歩んでいくのか、それはまだ分かりません。
ただまぁ、なんやかんや楽しくやって行くんでしょう。今までもそうだったんですから。







前作の「戦術人形と軍人と」からはじまり今作品に至るまで、思い返してみれば7ヶ月という短いのか長いのかよく分からない期間でしたが、随分と走ってきたなあというのが素直な感想です。
当初の予定では大体50話くらいかなあと考えていましたが、ちょっとした寄り道もありこの長さになってしまいました。最後までお付き合い頂きました読者様には感謝に堪えません。本当にありがとうございます。

書こうと思えば、もっと書ける題材はあります。しかし、私としても冗長になることだけは避けたいとずっと思っていましたので、このあたりで一旦の終幕と致します。

サブタイトルの連番が59のまま終わっているのは、私は一旦筆を置きますが、おじさんたちの物語はこれからも続いていくと考えているからです。


今後の予定は分かりません。他のジャンルの二次創作を書くかもしれませんし、変わらずドルフロを書くかもしれませんし、おじさんの続きやコラボなんかをもしかしたら書いているかもしれません。
ただ一つ、私には以前から書きたいと思っていた一次創作ものがあって、時間と気力が続けばそれを起こしてあげたいなとは考えています。どこかで見かけたら、その時はよろしくしてやってくださると幸いです。



それでは改めて、ここまでお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。
またどこかで、お会いしましょう。

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