戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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正月ダー、といっても、かれこれ15年くらい独り暮らしなんで別にやることないんですよねえ。
ということで更新しちゃう。

ちなみに前話なんですが、実は割と読者を振るい落としにかける勢いで書きました。理由はどうあれ戦術人形に手をあげるって中々ないでしょうし。
でもまぁなんか大丈夫っぽいのでこれからも好き勝手のんびり書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。


08 -推定迷子一名-

 はー疲れた。久々にちょっとハッスルしてしまった気がする。足が無い以上動き回れるわけじゃないので、肉体的な疲労はそんなでもないんだが、一つ一つ腹から声を出してやっていたらまぁまぁ疲れるな。最近そういう場面も無かったから身体の衰えをひしひしと感じる。うーむ、寄る年波には勝てないということか。有機生命体な以上これはもう逃れられない運命なんだが、こういう時はちょっとだけ人形たちが羨ましくも感じる。人間であれば切断不可避な重傷も施設と人員と物資さえあれば元通りに出来るんだもんな。人形すごい。

 

 午後の射撃訓練は俺が張り切っちゃったせいか、あいつらの基準で言えば随分とハードなものになってしまったと思う。多分、今までは誰かの指示で作戦行動に入るってことはあったんだろうが、こうやって明確に上司部下の関係のもとで訓練を行うって経験はなかったんだろうな。416もずっと私たちだけでやってきたと言っていたから、彼女たちが置かれていた凄惨な環境は推して知るべしだ。良くも悪くも自己流というか、そういうものが染み付いてしまっているように感じた。

 ただ、訓練の甲斐あってか彼女たちの悪癖はあの時間でかなり矯正出来たはずである。ちなみにトータルの出来栄えで言えばやはり416が一番伸びていた気がするな。あいつはプライドこそ高いが根が真面目だ。変な対抗意識というか、潔癖の節があるのが玉に瑕だが、まぁそこまではとやかく言うまい。如何に彼女たちが人形であろうと、製造されてから今まで培われてきた感性や環境もあるだろう。それら全てを否定出来るほど俺は偉くないしな。

 

 

「指揮官……お片付けと、全員ごはん……終わったよー……ふぁ」

 

 先程の訓練を思い返しながら一日の業務のとりまとめをしていたら、正面ゲートを潜ってG11が司令室に姿を現した。おお、何だかんだこいつが自発的に動いてるところを初めて見た気がする。404小隊には訓練を終えて一段落ついたらちょっと話をする時間が欲しいと伝えていたんだが、伝書鳩にG11が来るとは予想外だった。めちゃくちゃ眠そうだが、頑張ってその役目を全うしてくれたやつはちゃんと褒めてあげないとな。ありがとな、とその頭をくしゃくしゃとしてやれば「えへへ」と眠たそうな嬉しそうな、そんな声。うーん、何かSOPMODⅡとはまた違った癒し成分を持っているなこいつ。職務時間中の居眠りさえなければ非常に貴重な存在かもしれん。めっちゃほっぺ柔らかいし。

 

 さて、それじゃあ行くとしますかね。AR小隊の時と違って、知り合って間もないおじさんが彼女たちの宿舎にこちらからお邪魔するのはいくらなんでもよろしくないだろうから、支部の食堂でも借りてお話するか。未だに掴めないのだが、人形とは言え年頃の女の子たちってどういう距離感が適切なんだろうな。独り身のおじさんには難題過ぎて困る。まぁなるようなるか、今までもそうだったんだから。

 

 

 

「やー指揮官! 今日はありがとね! 何か強くなった気がするぞぉ!」

 

 開口一番、ナインの元気な声が響き渡る。パッと見は今朝と変わらない様子で一安心ってところだな。下手にビビられたらどうしようかと思っていたが、そんな軟なメンタルではなかったようだ。いとありがたし。

 

「こんばんは、指揮官。貴方に叩かれたところ、まだ調子が悪いんだけど。これはセキニンを取ってもらわないとだめかもしれないなぁ?」

 

 うっわこいつ懲りてねえ。しかし一方で、これがUMP45のいつも通りなんだろうなと予測がついた。きっと今まで、誰が相手でもこうやって距離を近付けておきながらも自分で一線を引いてきたんだろうな。その過去に何があったかまで聞くつもりはないが、まぁこれが自身で選んだスタイルなら俺は何も言わない。大目に見るところは大目に見て、締めるところは締める。それだけだ。

 

「指揮官、今日はありがとう御座いました。また一歩、やつらに近付けたと感じます」

 

 うーん、真面目。そこが416の美点でもあるんだが、もう少し肩の力を抜いてもいい気はする。いくら人形だとは言え、常に100%フルパワーでは身が持たないと思うんだが。

 

「ふぁ……指揮官、もう寝てもいい?」

 

 お前はもうちょっと真面目にやれ。

 

 そんなこんなで、食堂に場所を移すつもりが何故かそのまま宿舎でお話をすることになってしまった。何か距離感近くない? 俺とお前ら今日が初対面のはずなんだけどな? おじさん困惑。

 

 トークのお題目は特に準備していない。この支部にきてどうだとか、まだまだ新設の支部だからお前たちを頼る場面も多いからよろしく頼むとか、訓練に何か希望はあるかとか、別段用意するまでもない、取り留めの無い話を少しばかりやるだけだ。こういうのは下手に仲良くなろうだとかお互いを知ろうだとか気構えちゃいけないのだ。まずは「俺たちは普通に話をしていいんだ」という共通認識を植えていくことが大事である。信頼関係の第一歩は会話からだ。そこで欲張っちゃいけない。話をする土台が出来上がれば、後は勝手に喋りたいことを喋ってくれるし、言いたくないことは言わないだろう。一方的な甘受も拒絶も違う、選択の余地を常に残すことが余裕を生み、余裕は安心を生み、安心は信頼を作り出す。一朝一夕で仲良くなろうなんて土台無理な話だしな、まずは一方的な嫌悪とかネガティブな感情がなくなってくれるだけで問題はない。

 とは考えていたものの、こいつらの反応を見る限りそれも余計な心配だったかな、と思う。いい意味でこいつらは今朝の印象と変わりが無い。普段通りというやつだ。曲がりなりにも特殊部隊として動いてきたんだから、そんな少々の刺激でおいそれと変わってしまうものでもなかったらしい。うーん、今回は俺がこいつらをナメていたようだ。反省。

 

 そうやって幾つか話題の種を提供しながら会話をしていると、いよいよG11が限界なのか、うつらうつらと舟をこぎ始めた。今は訓練中でもないし俺が言い出したことに時間を割いてもらっている状況だ、無理強いは出来ない。ちと早いが切り上げにかかるかな。俺は他の3人にすまんな、と視線を配らせた後、G11の正面に座る。車椅子は入り口に置いてあるからハイハイみたいな動きになってしまった。ちょっと恥ずかしいなこれ。

 

 おーいG11、起きてるかー。今日はほっぺ叩いちゃってすまんな。痛かったか?

 

「んぅ……起きてるよう……大丈夫……」

 

 そっかそっか。G11は寝るのが一番好きなのか?

 

「うん……ずっと寝てたい……」

 

 なるほどなあ。ふむ、ところでG11よ。一日って何時間あるんだっけ?

 

「えぇー……そんなの24時間でしょ? どうしたの……?」

 

 そうだよな、一日は24時間だ。で、お前の希望としてはだ。出来ることなら24時間中、ご飯の時間を除いては惰眠を貪りたい。そうだな?

 

「そだねぇ……それが一番理想かなぁ……」

 

 分かる、分かるぞーその気持ち。でも悲しいかな、俺は前線指揮官で、お前は戦術人形なわけだ。それが理想なのは痛いほど分かるが、残念ながらその理想を体現できるような現実じゃあない。そこは理解しているな?

 

「…………うん」

 

 よしよし。じゃあここで問題なんだが、6時間かかる任務があったとする。普通にやればその時間で終わるわけだから、お前は残りの18時間ごろごろ出来るわけだ。だが、お前が作戦中にダラダラしてしまったせいで、6時間で済む作戦に10時間かかってしまった。ごろごろ出来る時間が残り14時間しかない。さあ困ったぞ。

 

「えぇ……それはやだなあ……寝る時間が少なくなるのは、困る……」

 

 だがしかしだ。本来なら6時間かかる任務だが、お前がちょっと頑張ったことで4時間で状況が終了したとしよう。今帰れば、残り20時間はごろごろ出来る。さて、作戦中ダラダラして得られる14時間と、少しの努力で得られる20時間。どっちがいい? どっちも嫌だは無しだぞー。

 

「うう……どっちもやだけど、寝る時間が増える方がまだいい……」

 

 だよな。勿論俺だって、416みたいに常に頑張って気を張ってろとは言わない。ただ、頑張るポイントだけ頑張ってくれれば、後はいつもより余計にごろごろしてもいいんだ。だからこれからも、頑張らなきゃいけないところだけグッと頑張って、終わったらだらーっとしよう。な?

 

「うん……分かった……じゃあ今日はもうだらーっとしていい?」

 

 勿論いいぞ。悪いな、付き合わせて。おやすみ。

 

「ん。おやすみー……」

 

 

 俺との会話を終えるや否や、そそくさと宿舎のベッドに潜り込むG11。彼女は瞬く間にその意識を沈め、すぅすぅと静かな寝息を立て始めていた。

 ふー。とりあえずこんなところか。何か女の子相手というよりは子供だましみたいな論調になってしまったが、これでなんぼかマシになってくれることを祈るしかない。ま、ならなかったらならなかったで遠慮なくシバくんだけど。

 

「おー、すごいね指揮官! 年の功ってやつ!? お子さんでもいたの?」

 

 やかましいわ、独身じゃばかたれ。あと年の功言うな、経験によって培われた話術と言え。あ、それが年の功か。

 

「指揮官、私を引き合いに出さないで頂けますか」

 

 うお、すまんすまん。ただ身近なヤツの方があいつにも伝わりやすいかなぁと思ってな。あとついでってわけじゃないが、お前も真面目なのは良いところだが、少しくらい肩の力を抜くことも覚えた方がいいぞ。訓練をサボれとかそういう話じゃなくてな、オンとオフのスイッチを自分の中でしっかりと持っておけ。能力が同じなら、当然訓練を真面目に沢山積んだやつの方が強くなるが、何もしていない時に眉間に皺を寄せたってお前のレベルは上がらないんだからな。

 

「はぁ……努力は、してみます」

 

 休む努力とは一体。うーん、こいつはこいつで重症かもしれない。G11と違って絶対に矯正しなきゃいけないことでもないんだが、偽りだろうが折角持って生まれた自我なんだ、人並み程度には大切にして欲しいっていうのはこれもお節介なんだろうか。

 

「ふふ、話をすればするほど面白い指揮官よねぇ。昔は何をしてたの?」

 

 しがない傭兵でーす。UMP45も相変わらずだなあこいつ。俺の返答を受け取った彼女はふぅん、と一応は納得したような顔を見せたものの、目が笑ってない。んー、流石にばれてはいないだろうが、俺が何か隠してることくらいは勘付いてそうだな。まぁ、それくらい頭が回るやつの方が一周回って扱いやすいというものだ。

 

 

 

 

 

『指揮官、聞こえるか』

 

 ふと、耳元に取り付けてある受信装置が震えた。口調から声の主は恐らくM16A1。こいつは司令室にある通信用デッキと違い、個人間で通信が可能な携帯端末だ。バッテリーが勿体無いから緊急時以外は使うなと言い含めて、AR小隊にのみ渡してある代物である。

 AR小隊は今、いつも通り基地周辺の警戒に当たっている。この周辺地域一帯は既にクリアとなって久しいため、早々脅威となるものは居ないはずなんだが、この通信が入るということは何か異常事態でも起きたか。404小隊との話も丁度終わるタイミングだったので、そのまま起きている3人に緊急の通信が入った旨を伝えて車椅子へと戻る。何も言わずともUMP45が肩を貸してくれる辺り、非常にあり難い。既に寝ているG11はさておいて、3人とも先程の団欒などまるで無かったかのような顔付きに瞬く間に変わっている。やっぱこいつら優秀だわ、特殊部隊ってのも伊達じゃないな。

 

 よっこいしょ、こちら指揮官ですよっと。感度良好、ヨーソローってか。車椅子へと戻り、その向きを司令室に変えながら通信に応じる。あ、404小隊は一応そのまま第二種待機な。もしかしたら出てもらうかもしれん。さて、一体何が起きたのやら。とりあえず報告を聞こう。

 

 

『支部から方位20、距離80、倒れている人影が見える。人間か人形かまでは分からない。周囲には脅威無しと判断するが、指揮官、指示を』

 

 

 

 ウワァー厄介ごとの予感しかしねえぞ。しかし発見しちまった以上放置プレイはダメですよね。ことと場合によっちゃクルーガーに直電だなあ。とりあえずM16に比較的近い位置で配置しているはずのM4を合流させる。SOPMODⅡとAR-15は念のため周辺警戒を継続。俺が出るわけにはいかないから、夜目が利くM1911を擁する第二部隊に回収に出てもらおう。支部とポイントの距離が近いから早々事故は起こらないと思うが、警戒するに越したことは無い。スクランブルってわけでもなさそうだし、404小隊はそのまま待機な。

 

 

 さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。出来れば女神だとありがたいんだがな。




女神だったらいいなぁ。具体的にはネゲヴとかKar98kとか(持ってない

G11は可愛いですね。愛でたい。
さて、ちょっと活動報告の方で簡単なアンケみたいなものでも取ってみたいと思います。
別に面倒だったり興味がなければスルーしてもらって全然構いません。
あと、アンケート通りになるとも限りません。暇潰しの一つとでも思って頂ければ、程度です。

それでは、また次回。

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