戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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何がって?
厄介事だよ。

活動報告の方では多数のご意見を頂き、ありがとうございました。
結果、こうなりました。


09 -二度あることは三度ある-

「…………うっ……」

 

 お、目が覚めそうかな? 支部備え付けの医務室に寝かせた拾い物が、ほろ苦い顔で眉を顰めてモゾリと動いた。今ここには、指揮官である俺と情報管理のためカリーナ、万が一の護衛として発見者でもあるM16A1が同席している。可能性は極めて低いだろうが、目が覚めるなり襲ってくることも考えられる。行き倒れの寝起き野郎なぞ返り討ちにしてくれるわ、と言いたいところだがこの足じゃあなあ。AR小隊の連中は銃の扱いは勿論、近接格闘術も俺がきっちり教え込んでいるから、近接戦闘においてもハンデを負っている俺より多分強い。護衛としちゃ適任だな。ちなみに他のAR小隊の面々は一旦下がらせ、周辺警戒にはイージーな回収任務を終えた第二部隊をそのまま充てている。頼むから今日はこれ以上面倒事を持ち込まないで欲しい。

 

 M16A1が発見した拾い物はどうやらI.O.P社製の戦術人形のようだった。見目麗しい女性であったこと、狙撃銃と馬鹿でかいボックスを携えていたこと、そしてI.O.P社製品であることを示すコードがあることから、民間人である可能性は極めて低い。身体中のいたるところに細かい傷が付いていたから、恐らく相当な強行軍で移動してきたのだろう。ただ、致命的とも言えるダメージはどこにも負っていなかったことから、昏睡状態に陥っているのは単純なエネルギーの枯渇と思われる。しかし、何があってこんな事態に陥ったのか。戦術人形である以上、所属無しのフリーというのは考えにくい。I.O.P社製であるなら尚更だ。普通に推測すれば、何かが起きてそれから逃げてきた、と考えるのが妥当だ。その詳細まではこいつに聞かなきゃ分からんが、まぁそれももうすぐ解決するだろう。

 

「……んん…………ここは……?」

 

 っと、色々と考えていたらどうやらお目覚めのようだ。医務室の電灯が眩しいのか、自分が置かれている状況に理解が追いついていないのか、薄っすらと目を開けたまま呆けているご様子。お目覚めの気分は如何かな? とりあえず声を掛けてみよう。耳が聞こえなくなってる可能性も有り得るしな。実際俺がなったことあるし。

 

「あ、ああ……ふぅ、貴方が私のラッキーマンなのかな?」

 

 ふむ、耳は聞こえているようだな。声はまだ弱弱しいが意識は明瞭、開口一番軽口を叩ける度量も十分、いいね、中々俺好みだ。まずは簡単に自己紹介と現状を説明しておこう。俺はこの支部を預かっている前線指揮官、タクティス・コピーだ。こいつは後方幕僚のカリーナ、横に居るのが戦術人形、M16A1だ。うちの支部の前でお前さんが倒れているのをこいつが発見してな、ひとまず医務室に運ばせてもらった。ここまで何か質問は?

 

「いや、ない。大丈夫だ」

 

 オーケー、理解の早いやつは好きだぞ。さて、起きぬけのところ悪いが、今度はこちらから質問させてもらう。質問は二つ。まずお前さんは何処の誰なのか。そしてお前の身に何があったのか、だ。答えられるか?

 

「ああ。私はグリフィンS02地区所属の戦術人形、ドラグノフ狙撃銃だ。作戦行動中、鉄血人形の群れに奇襲を受けてな、指揮系統が混乱したまま部隊は散り散りに撤退していたのだが……無線も壊れ、現在位置も分からぬまま歩き続けていたらここに辿り着いたらしい。グリフィンの建物を目にして緊張が解けたのだろうな、一気にスリープモードに入ってしまった」

 

 

 オイオイオイマジかよ。一大事じゃん。うーん、となるとこいつは単独で動いていたわけじゃなさそうだ。部隊の他の人形たちがどうなったかは分からんが、まぁあまり期待しない方がいいだろうな。しかしS02地区っつったら俺も名前でしか知らないが、ここからだと結構遠いぞ。気軽に歩いて行き来できる距離じゃないような。道中よく死ななかったなこいつ。

 ただまぁ、ここでこいつの言うことを全部信じちゃうのはタダの馬鹿がやることである。一応それが真実である前提では動くが、ことの裏付けを取らないことには何ともし難い。ということでカリーナ、クルーガーかヘリアントスに繋いで今の情報の整合性を取ってくれ。S02地区と連絡が取れれば一番早いんだが、俺連絡先知らないし。

 

 俺の指示を受けたカリーナは足早に医務室を後にする。日も沈んだ後だが、まぁどっちかは捕まるだろう。情報が確定するまではこいつを野放しに出来ないし、しばらく俺とのトークにでも付き合ってもらうか。情報が正しければこいつをS02地区に戻せば解決だし、そうじゃなければ楽しい楽しい尋問のお時間である。俺の身なんざどうでもいいが、俺の下にいる連中が無為に混乱の最中へ放り込まれるのは御免被る。

 そういえばちょっと気になったんだが、ドラグノフの最適化工程はどれくらい進んでるんだろうな。支部外秘項目なら無理に喋らせるつもりはないが、こいつの凡その力が分かれば敵の脅威度の目安も立てやすい。S02地区は近くはないためすぐにこっちまで影響が出るとは考えにくいが、立てられる対策は立てておきたいしな。とは言え、仮にAR小隊であれば鉄血の木偶どもに奇襲を受けたとて何事も無く返り討ちに出来るだろう。そもそも奇襲を受けるような杜撰な情報しかないエリアに突っ込ませるなんて馬鹿な真似はしないのだが。

 

 

「最適化工程……? 初めて聞いたな、それはどういうものなんだ?」

 

 は? いやいやいやいやいや、え? んんんんんん? ちょっとこれどういうこと? 思わずM16A1の方を振り返ってしまった俺は悪くないと思う。俺の視線を受けたM16も、マジかよ、みたいな顔をしている。ですよねー。君たちの最重要項目じゃないの最適化工程って。それを知らないってどういうこっちゃ。

 いや、うん、よし、オッケイ、切り替えよう。ちょっと意味が分からないが、ドラグノフが知らないのならこれはもう聞いても仕方が無い。ということで聞き方を変えてみよう、多分こっちの方が伝わると思う。ダミーは何体操れるんだ?

 

「ダミーか。1体なら動かせるが……それと先程のことが関係しているのか?」

 

 よし、何とか情報の取得に成功した。逆算すると、こいつの最適化工程は10%以上30%未満だ。はっきり言ってヒヨっ子に毛が生えた程度でしかない。実力で言えばスコーピオンたちと同程度だろう。んで、ここからは推測でしかないが、恐らくこいつと部隊を組んでいた連中も似たり寄ったりだな。そうじゃなければもっとマシな結果になっていたはずだ。これではもう他の部隊員の生存は絶望的としか言えない。ただただドラグノフの運がめちゃくちゃ良かっただけだ。しっかしよくそんな錬度で鉄血の奇襲を受けるようなエリアに突撃したもんだな。S02地区ってのはそこまでヤバいのだろうか。

 とりあえずまだ時間はあるようだし、最適化工程の簡単な意味でも説明しておくか。本来は人形自身が知っておかなきゃならんことのはずなんだが、何でこいつ知らないんだ。まだ少し喋っただけの印象でしかないが、そこまで頭足らずではないはずだ。

 

「ふむ、そういうものがあったのか。私の指揮官はそんな説明一切してくれなかったからな。今回の作戦も、鉄血人形が確認されたエリアを掃討してこい、としか言われなかったからな」

 

 はーーーーー、つっかえ。え、何? グリフィンの指揮官ってそんな無能しか居ないわけ? もーおじさんキレそう。プッツンしそうだよ。確かに戦術人形は商品だ。間違っても人間と同等じゃあない。そこに余計な情は要らないし、使い捨てる場面もあるだろう。ある側面から見て、その認識は正しい。

 だが、それはあくまでその商品の価値を十分に理解し、そして十全に機能させることが出来た上で初めて成り立つ理屈だ。人間の兵士で例えれば、支給された銃をマガジン分撃ち尽くしたら本体を投げ捨てて次の銃に手をつけるのと同じだ。そんな馬鹿な話があってたまるか。

 

「まぁ、私とて不安はあったさ。ただ私たち戦術人形は、与えられた指令に背くことは出来ない。そうプログラムされているからね。生き残れたことをラッキーだと感じるくらいしか今の私には出来ないのさ」

 

 鼻で笑いながら、少しばかり寂しそうなドラグノフの言葉が響く。

 ドラグノフの言う通り、戦術人形に搭載されているAIは、指揮官をはじめとしたあらかじめ登録されている上位者の命令に逆らうことが出来ない。商品に謀反なぞ起こされようものなら商売上がったりなので、それは当然の処置とも言える。意見や忠言は出来るが、一度命令されてしまえば拒否は出来ないのだ。それは理解しているが、だからといって好き勝手していいとは俺は思えない。S02地区を治める指揮官がどんなやつかなんぞ知らないが、会う機会があれば全力でぶん殴ってやりたい気分だ。戦場を預かる身としての教養ってもんが余りにも足りていない。そんなヤツを採用するグリフィンもグリフィンだけどさあ。ほんとどうなってんだよこの会社。

 

 んん? あれ? じゃあAR小隊の連中は何で昔、作戦命令に背けて……

 

「指揮官さま!!」

 

 思考の海に沈みかけた時、騒がしい音と声が医務室に飛び込んできた。うおカリーナか、びっくりした。どうしたそんな血相変えて。あ、分かってるおじさん分かってるから。どうせ面倒ごとなんだろ。今からS02地区までドラグノフを護送しろとかそんな感じだろどうせ。というかついでに周辺の掃討もやってこいくらい言い出しかねない。あのヒゲはそういうやつだ。

 

 

 

 

 

 

「S02地区を管轄していた支部が鉄血の奇襲を受け、壊滅、とのことです……。ドラグノフ狙撃銃はこのまま本支部預かりに……今のところ、生存者は、発見出来ていない、と……」

 

 

 ウッソだろお前。




ウッソだろお前(2回目


ちなみに、ご意見を頂く前に決まっていた内容は以下の通りです。
・☆5以外
・RF、SMG、HGのいずれか。
ちょっと悩んだ候補も居ますが、それはまた機会があればということで。



そういえば、ゲーム内では特に描写されておりませんが、グリフィンの数ある支部の中には鉄血に押し負けて潰れたところもあると思うんですよね。人形が悪かったのか、指揮官が悪かったのか、その理由までは分かりませんけれど。
で、そこを優秀な支部から人員を割いて奪還して、みたいなこともやってるんじゃないかなぁと。

ちなみに、クソオブクソ無能な指揮官が居る可能性、筆者は普通にあると思ってます。
G&Kも数あるうちの一つの会社である以上、コネやら付き合いやら表に出せない事情ってのは山ほど抱えてると思うんですよね。
更に前線指揮官っていうのは、衣食住を保証され自身は戦場に直接赴くこともない、このご時世で言えば中々垂涎ものの職業です。ついでに周りは美女だらけ。まぁ色々と裏で動く事柄もあるんだろうなーと。


あと、そろそろじわじわと世界観を広げて行きたいなと考えてます、ネタが上手く繋がればですけどね。

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