トレーナーs「我らチームトゥバン!」
チームトゥバンが新入生達を迎え終わった翌日、昨年度の最優秀シニアウマ娘、メジロパーマーがチームトゥバンに併せウマを申し込んだ。しかしチームトゥバンはある問題を抱えていた。メジロパーマーにふさわしい併走相手がシニアのウマ娘の中で見つからなかった為だ。
現在チームトゥバンを代表するシニアのウマ娘、メリーナイスとマティリアルの二人は大阪杯に出走予定があり、調整段階にかかっている為にメジロパーマーと併せウマが出来ない。その他シニアのウマ娘はメジロパーマーと併せウマをしても、実力的に不相応な者ばかりだった。
「となると、やはりクラシック級のヤマトダマシイか? あいつはビワハヤヒデとウイニングチケットに食い込めるだけの実力がある」
トレーナーのうち一人、マツがビワハヤヒデとウイニングチケットの二人に並ぶ逸材としてヤマトダマシイを推薦する。
「いやあいつもレースが近い。重賞の一つを勝っているならともかく重圧過ぎる」
「メリーナイスもマティリアルも互いにパートナーとなると……まとめて三人で走るのはどうでしょうか?」
トレーナーの三人が話し合い、会議を進めていると扉を乱暴に開けたウマ娘、サンデーサイレンスが唐突に口出ししてきた。
「むっふっふっ、お困りのようだな!」
「サンデーサイレンス」
「お前、何しに来た」
散々な言われようも無視してサンデーサイレンスが紙束をトレーナー達に渡した。
「それは昨日までにウマ娘達のデーターをデジタル化したものだ。チームトゥバンの中で今のメジロパーマーに対抗出来るのはシニアのメリーナイス、マティリアル、クラシック級のヤマトダマシイ、ジュニア級のアイグリーンスキーのみだ」
二代目の名前を出されたトレーナー達が困惑の声を出す。
「アイグリーンスキーだと? いくら何でもそれは──」
「あり得ないと言いたいのか? 言っておくがレースに絶対はない。どんなウマ娘でもチャンスはある……アメリカンドリームを達成した余のようにな!」
デビュー前のサンデーサイレンスの過去は散々たるものだった。まずサンデーサイレンスが入学したトレセン学園からは不正を疑われ、徹底的に教師やトレーナー達から嫌われてしまい、大手チームは当然中小チームからも入団拒否されてしまう。
そんなサンデーサイレンスを迎えてくれた偏屈なトレーナーのいるチームに所属してもそのチーム内でウマ娘特有のインフルエンザが流行し、サンデーサイレンス以外のウマ娘が死亡。残ったのはまともな期待すらなかったサンデーサイレンスのみだった。
そんな逆境の中でサンデーサイレンスは大手チームから厚い期待を受けていたイージーゴアを蹴散らして米国で二冠を制し年度代表ウマ娘となった。
当初こそ評価が低かったサンデーサイレンスの活躍に誰もが驚愕し、醜いアヒルの子に例えられるようになった。
「確かにレースに絶対はないのは知っているが、今回に限っては絶対だ」
「果たしてそんなことが言えるのか? チームリギルの試験ではあのビワハヤヒデの妹ナリタブライアンにアイグリーンスキーは勝ったそうだ」
「それはまあ、ナリタブライアンも同世代だから勝てる見込みもあるんじゃないのか?」
「つい先日、青森県で地方アイドルとして活動しているウマ娘二人がマッチレースをしたそうだ」
「マッチレース……まさか、アイグリーンスキーがそれをやったというのか?」
「いや地方のウマ娘、それもアイドル業を本業としているならそれほど大した相手では──」
「アイグリーンスキーがマッチレースに出走したのは正解だ。だがその相手はトレーナーをしている、いや学園の全員が知るウマ娘だ」
「一体誰なんだ?」
「あのTTGの一角であり、年度代表ウマ娘にも輝いたウマ娘、グリーングラスだ。グリーングラスに敗れたもののタイム差なしのハナ差。メジロパーマー相手には十分な相手だと思えるし、何よりも惨敗したとしても彼女はまだジュニア級のウマ娘だ。これからの成長を考えてもやるべきだ」
「……意外にもウマ娘のことを見ているんだな、サンデーサイレンス」
ハルが驚愕の声を出し、その声に同意するようにトレーナーの全員がサンデーサイレンス見つめるとサンデーサイレンスが答える。
「余を唯の穀潰しだとでも? これでもどん底から這い上がって来たウマ娘だ。レースに勝つにはウマ娘のことを観察し、論理的かつ合理的に判断するのは当たり前のことだ」
実体験をしているサンデーサイレンスの言葉は余りにも重かった。
そんなこんなで二代目がメジロパーマーの併走のパートナーと決まり、数日後。
「先代、メジロパーマーって競走馬はどんな馬なの?」
『ウマ娘のメジロパーマーはグランプリ連覇を果たしていたんだっけか?』
「うん。どっちも人気薄で逃げ切られたって新聞に書いてあったよ」
『そうか……こっちのメジロパーマーは俺の世界よりも強いかもしれねえぞ。あいつは俺の世界では有馬記念すら勝っていなかったからな』
「へぇ……もしかして先代のお兄さんが?」
『その通りだ。その時のメジロパーマーは惜しくも二着だった。だがウマ娘のメジロパーマーは二着になることなく見事勝利した。ウマ娘となった兄貴がいないとはいえこれは中々出来ることではない』
「そういうものなの?」
『ウマ娘ってのは良くも悪くも俺の世界の競走馬の成績、GⅠ競走を含めた重賞の成績は特に影響される。テンポイントはその典型例だ。故障したタイミングまで一緒だしな』
「う~ん……それじゃシンボリルドルフ会長が米国でヘマこいたのも?」
『ああ。それも俺の世界のシンボリルドルフと一緒だ。しかし俺の世界のシンボリルドルフはその後引退だったが、こっちの世界では引退していないことから故障に関しては影響力が少ない世界だ』
「それじゃヤマトダマシイ先輩を救ったのは無意味だったんじゃ……」
『無意味ってほど無意味ではない。少なくとも故障する確率は大幅に減少した。ヤマトダマシイの故障の原因は無理な調教によるものだ。それに競走中止になったウマ娘が復活した例は俺の世界の競走馬が実際に復活した例しかない。俺の世界で予後不良で死んだ馬はすべからくレースに復活していない』
「そういえば……テンポイント先輩もキングスポイント先輩もサザンフィーバー先輩も皆引退している」
『生死に関しての影響力は緩いがレースの成績にはかなり反映されている。その影響力があるにも関わらずそれを打ち破ったメジロパーマーは速さは兎も角、強さはGⅠ5勝のウマ娘にも匹敵するだろうな』
先代の言葉に二代目が気を引き締め、体を動かし暖める。
その数分後、メジロパーマーを連れたサンデーサイレンスが現れた。
「メジロパーマー、このアイグリーンスキーが相手だ」
「ほぉ、ワシん相手はジュニアのウマ娘かいな。確かに図体だけはシニアに劣らんが相手として力不足なんちゃうか?」
メジロパーマーが鼻で笑い、二代目を見る。確かに二代目の体格はクラシック級のウマ娘どころかシニアのウマ娘にも劣らないほど雄大であり、一見するとシニアのウマ娘と見間違えてしまうほとだ。それをメジロパーマーが見破った理由はシニアに二代目がおらず別のクラスのウマ娘だと判断したからだ。もっともそれでもクラシック級のウマ娘と勘違いしているのだがそれは仕方ない話だ。
「もしかしたら役者不足になるかもしれないわよ。メジロのお嬢様」
「ワシは常に挑戦する立場やからな。相手がシンボリルドルフ会長やったとしても役者不足になることはないわ」
二代目の挑戦にメジロパーマーが挑戦返し。互いに火花が飛び散る。
「……まあええ。事前に確認しておくが今回のトレーニング内容は3200mの模擬レース形式の併せウマや。それはサンデーサイレンスから聞いておるな?」
「ええ。天皇賞春を想定した練習だそうですね」
「せやから天皇賞春に出走しても勝てる見込みのあるシニアの連中に頼んでいたんやだが断られてもうた。せやけどそこのサンデーサイレンスにジュニアで見込みのあるウマ娘がおる言われて自分と勝負することに決めたんや」
「勝負ねぇ……それはやはり、メジロパーマー先輩の評価が低いからですか?」
「今度の春の天皇賞に勝つ為や。ワシはメジロ家の中でも期待されていなかったんや。宝塚記念を勝った時はマックイーンを初めとしたメジロ家関係者が応援に来ず、有馬記念を勝った時もタマモクロスのいない低レベルの戦いと評価され、有馬記念を勝ったのはサクラスターオーが故障しても影響のない逃げウマだから勝ったと評価された。そして今年の阪神大賞典でタマモクロスと同着になってもワシはタマモクロスどころか5着のイナリワンよりも劣る存在扱いや」
「だけど天皇賞春を勝てばその評価は覆される」
「そうや。昨年の菊花賞ウマ娘達が不出走でもタマモクロスやイナリワンとてそれに劣る存在やない。むしろ世間の評価はそっちの方が上や。そいつらをまとめて倒してメジロパーマー一強時代を築き上げる。それで世間をアッと言わせちゃる」
「天皇賞春を勝った程度だと一強時代は来ませんよ。せいぜいタマモクロス先輩達と同格になるだけです」
「なんやと?」
「さてその答えが知りたければ、私に勝って下さい」
「ほざきよったな。後悔しても知らへんで」
メジロパーマーが離れ、準備体操に取りかかると二代目が先代に話しかけ、作戦を取った。
「先代、それでメジロパーマーのレーススタイルはどんなものなの?」
『俺はメジロパーマーが引退した後にデビューしたからな……俺も詳しいことはわからん。俺が知っている限りではメジロパーマーは高速ラップで競走馬を引き寄せてスタミナに物を言わせて逃げ切るらしい』
「じゃあ、先代のお兄さんはどうやって勝ったの?」
『メジロパーマーの弱点は他の競走馬が高速ラップのハイペースで潰れさせないと自分だけが潰れてしまう。兄貴はそれを利用した。有馬記念で誰もがペースを乱している中、唯一ペースを乱さず走り続け、最後に追い込んで勝ったんだ』
「ペースね……ペースか」
二代目が呟きながら、スタートラインに付くとサンデーサイレンスが旗を上げた。
「位置について!」
二代目とメジロパーマーの顔が引き締まり、サンデーサイレンスの手に握られている旗に集中する。
「スタート!」
サンデーサイレンスの合図と共に二代目、メジロパーマーがスタート。併せウマという名前のマッチレースが始まった。
メジロパーマーの解説
競走馬のメジロパーマーは父親もメジロ、生まれもメジロ牧場とまさしくメジロの中のメジロなのに、父親がメジロではないメジロライアン、出身がメジロ牧場でないメジロマックイーンよりも評価が低い馬でした。ちなみに本文中にあるメジロパーマーが制した宝塚記念でメジロ関係者がいなかったというエピソードも概ね史実通りです。
追記──メジロパーマー実装化しましたがこのままの性格で続けます……なんでかって?後に引けないからだよ!
後書きらしい後書き
現時点ではメジロパーマーは概ね史実通りですが、この後どうなるかご期待下さい!
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またアンケートのご協力お願いします! アンケートの結果次第で登場ウマ娘が追加されます。5/5にアンケートは終了します
尚、次回更新は西暦2019年5/4です
青き稲妻に出てくる競走馬が主人公以外で登場して欲しい?
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ぜひとも登場して欲しい
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出さなくて良い。つーかイラネ