ヤマトダマシイと共に帰ろうとすると幼きウマ娘の一人が二代目に声をかけた。
「ゴスロリ服のお姉さん、写真お願いします!」
二代目に話しかけたそのウマ娘はとらえどころがない雰囲気、世間一般でいうゆるふわ系幼女そのもの。存在感がないようである、あるようでない矛盾したウマ娘だった。
「ええっ、なんで私!?」
「お前にもファンが出来たようで何よりだ。頑張れ」
「や、ヤマトダマシイ先輩……」
「おっと、これから取材に応じる時間だ。急がなければな」
口実をつけて二代目の懇願を無視してその場を去るヤマトダマシイは、この場にいる青髪ツインテール青ゴスロリ服のウマ娘と無関係でいたいようだ。
「うわ……あのウマ娘逃げやがった」
「お姉さん?」
「えっと、その私写真は受け付けていないの。だから──」
二代目は泣き顔になったウマ娘を見て言葉を呑み込む。もしここで泣かれて騒がれでもしたら、二代目は社会的に抹殺される。ましてや不似合いな青ゴスロリ服を着ているのだから注目度は段違いに高く、二代目の渾名が「鬼畜青ゴスロリBBAウマ娘」となるだろう。
「だからね他の場所に行きましょう」
故に二代目はそれを回避するために別の場所で撮影することを提案。ウマ娘もそれに満足したのかそれに頷く。
「うん。いいよ。私カーソンユートピアって言うのよろしくねウマ娘のお姉さん」
「よろしくね。私はアイグリーンスキーよ」
『カーソンユートピアか。懐かしい名前だ……』
その名前を聞いた先代が思わず声に出す。そのウマ娘と何か関係性があったのだろうかなどと思いつつも二代目はウマ娘ことカーソンユートピアに自己紹介して公園に案内した。
某公園
「じゃあアイリ姉さん、腕をそう、そんな感じにして!」
マルゼンスキーが二代目を呼ぶときと同様にアイリと呼ぶカーソンユートピア。
「こうかなソンユちゃん?」
「バッチリ!」
二代目がポーズを取り幼きウマ娘がそれを撮影。その繰り返しを何度もして、十分ほど経過するとカーソンユートピアが自撮り棒を取り出した。
「それじゃ最後ね! 最後はお姉さんが椅子に座って私がその上に座った写真を撮るの!」
「やっと終われる……」
二代目がボソッと呟きながら公園の椅子に座り、カーソンユートピアが自撮り棒に自分の子供用の携帯を取り付けようとするが上手くいかず途中で落とす。
「あっ!」
子供用の携帯だからか角張っておらず楕円形の形状に合わせて偶々そこにいた犬の前に転がる。
「わう?」
犬がそれを咥えて拾い、ウマ娘のもとに向かうかと思いきやその場を走り去ってしまった。
「いけないっ!」
精神的な疲労こそあれども肉体的な疲労は全くない二代目が立ち上がりそれを追いかけようとするとカーソンユートピアがとっくに駆け出していた。
「待てぇぇぇっ!」
その場にトレセン関係者がいたなら誰もが認める豪脚を炸裂させ犬を追いかけ、追い詰める。
「っ!!」
犬は携帯を咥えているせいか悲鳴を上げる代わりにスピードを上げ、逃亡し続ける。そのスピードは時速70kmを軽々と超えており、トレセン学園のジュニア級クラスのウマ娘でも追い付けるかどうか怪しいものだった。しかし追いかけているカーソンユートピアは徐々に差を詰め犬も必死で逃げる。追いかけられるのが嫌なのであればその携帯を離せばいいだけの話だが犬はウマ娘とは違いそこまで考えが及ばず、ただひたすらに逃亡し続けるしかなかった。
「これで終わりだ!」
カーソンユートピアが犬を身体全体で確保する犬が悲鳴を上げ咥えていた携帯を落とした。
「よしよし。良い子」
先程まで鬼の形相で追いかけていたウマ娘とは思えないほど笑顔で犬とじゃれつくカーソンユートピア。それを見た二代目はとてつもなく微笑ましい気持ちになった。
しばらくするとカーソンユートピアが犬と触れあうのを止め、二代目に駆け寄った。
「あらわんわんと遊ぶのはもういいの?」
「うん、それよりもお姉さんと遊ぶのが楽しそう!」
「そっか。それじゃ写真とって遊びましょう……ソンユちゃん、こっちにおいで」
二代目自身も何故このウマ娘に対して母性が出しているのかわからず困惑するも、気分を害するものではなくむしろ心地好いとすら思っていた。故にカーソンユートピアが自撮り棒を子供用の携帯に合わせて設置し、二代目の膝の上に座ると二代目は自然と笑顔を見せるようになっていた。
「ふふっ……」
「えへへ……」
二代目が笑うとカーソンユートピアもそれに釣られて笑う。その繰り返しが何度も続き、ついには夕暮れになってしまう。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ!」
「ソンユちゃん、一人で帰れる?」
「大丈夫だよ。ここまで一人でこれたもん!」
「ソンユちゃん、これ私の電話番号だからもし困ったことが合ったら電話してね」
「ありがとうアイリお姉さん」
二代目とカーソンユートピアの電話帳に互いの電話番号が登録されるとカーソンユートピアが二代目に向けて手を振りながら帰っていくと二代目も学園に帰宅し学園内の自室に戻っていった。
「先代、カーソンユートピアって名前聞いたことある?」
『無論だ。俺を雷親父と呼んだ長男こそそいつだ』
「ええっ!? いつか反抗期が来たら私も雷BBAなんて言われるのかな?」
先程のカーソンユートピアはどうみても純粋で悪口や暴言を吐くウマ娘ではない。しかし成長すれば自分をいずれそう呼ぶだろうと推測し身震いしてしまう。
『さあどうだろうな。そこまではわからん。だがあいつの成績について話すとしようか』
「お願い」
『競走馬のカーソンユートピアはデビュー戦とダービートライアル以外のレースは全てGⅠ競走しか走っていないがマルゼンスキー以来8戦以上して無敗で引退した、超名馬だ。主な勝鞍は日本ダービー、天皇賞春から有馬記念までの当時の古馬王道GⅠ完全制覇だ』
「古馬王道完全制覇っ!? そんなのシンボリルドルフ会長でも成し遂げられなかった偉業をこなすなんて信じられない……」
『ちなみに同じことをカーソンユートピアの前にやった奴がいるがそいつと比べちゃならねえ。カーソンユートピアは競走馬以上に種牡馬として大成したんだからな』
「父親として有名になったの?」
『そうだ。欧州地方のリーディングサイアーに加えて欧州三冠馬を複数頭輩出するなど大活躍し、その産駒達も種牡馬としても有能でカーソンユートピア系を確立した歴史に残る大種牡馬だな』
「……あれ? 日本の種牡馬として活躍しなかったの?」
『元々あいつは日本で種牡馬として隠居生活を送るはずだった。だが馬主の意向で欧州で繁殖生活を送ることになった……俺の代わりにな』
「先代の代わり?」
『俺は欧州でもビッグタイトルを複数勝している。その為か欧州の競馬関係者は俺をなんとしてでも買い取りたかった。しかし俺の馬主が俺を絶対に売れないような金額を提示して海外に行くことを断らせた。その代わり俺の産駒が活躍したら、その産駒のうち一頭を欧州地方の種牡馬として引き渡すことになった。そのうちの一頭こそカーソンユートピアだ』
「へえ……」
『とはいえ当初はスピードもスタミナも兼ね備えているカーソンユートピアよりもステイヤー傾向の俺の方が好まれたんだが、結果を出したら掌返し。カーソンユートピアは生涯そこで暮らすことになった。もし俺が欧州で種牡馬生活を送っていたならそうはならなかったかもな』
「でもカーソンユートピアは日本生まれでしょ。先代がいなかったらカーソンユートピアは生まれてなかったんじゃ……」
『俺が日本にいようが欧州にいようがどちらにせよ、あいつは生まれていた。俺の父親が英国の種牡馬ニジンスキーなんだから、俺が欧州に行ってもカーソンユートピアの母に種付けするのは目に見えていたからな』
「納得」
二代目は先代の言葉にそう一言呟いた。
後書きらしい後書き
今回は先代の長男こと、カーソンユートピアがウマ娘となって登場しました。もっとも物語に関わるかと言われれば微妙なところですが。
それはともかくこの第16.1Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一時間後です
次にウマ娘として出てくる青き稲妻の物語の競走馬はどれがいい?
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ボルトチェンジ
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マジソンティーケイ
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シンキングアルザオ
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アブソルート
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