アイグリーンスキー
父 ニジンスキー
母 アイヴィグリーン
母父 グリーングラス
~前回の粗筋~
主人公「追放されたら魂の自分と話せる件」
アイグリーンスキー(ウマ娘)こと二代目が退院し、トレセン学園に戻るとそこで待っていたのは歓迎ではなかった。トレーニングをしようとトレーニング場に入る許可を取ろうとすればチームに所属していないので拒否され、図書館で本を借りようと手を伸ばせば他のウマ娘に横取りされ、食堂に行けば空いている席がない。
そんな彼女の居場所はただ一つ、自分の部屋だった。
「先代……どうしよう、こうも八方塞がりだと何も出来ないよ」
『座学に関しては教科書を読んで説明出来るようになればいいが、それはお前次第だ。トレーニングに関しては俺が指導してやるって言っているだろ』
「トレーニングってどこでやるの?」
『川だ』
「……はい?」
二代目がたった一単語のみで思考を停止させた。それを見たアイグリーンスキー(競走馬)こと先代が声を響かせた。
『川を泳いでとにかく体力をつけろ。確か許可さえ取れれば外に出れるはずだ』
「そんな無茶苦茶な……それに許可なんて取れないよ」
『ごちゃごちゃ抜かすな。抜かしていいのは前を走るウマ娘だけだ。気合いでも何でも外に出るように言いやがれ! どうせここの施設は使えないんだ。ならここにいるだけ無駄だ』
先代の言うことは正しく、このままトレセン学園に居ても何もすることがなくただ腐っていくだけだ。それをわからない二代目ではなく、代案を出すことにした。
「じゃあ、チームに所属出来たら別のトレーニングメニューを考えてよ! 流石にこの季節で川に入るなんてことしたくないから!」
『出来たらな。諦めの悪い野郎だ、いやウマ娘だ。そんなことは無駄だってのに』
「そんなんだからクソ爺って言われるんだよ」
『クソ爺は止めろ。クロスを思い出す』
そして先代の気配がなくなると、二代目はため息を吐き、歩き始めた。
「アイグリーンスキー!」
歩く二代目を止めたのは鹿毛の前髪にメッシュの入ったウマ娘であり、それは現在誰もが憧れる生徒会長、シンボリルドルフその人──ウマ娘である。
「シンボリルドルフ会長」
『こいつがシンボリルドルフなのか』
先代がウマ娘となったシンボリルドルフを品定めするように沈黙すると納得したように二代目の中で声を響かせる。
『確かに似ていなくもないな。セイザ兄貴を擬人化したらこうなるんだろうな』
セイザ兄貴とは誰なのか。それを先代に尋ねたかったがここで喋っても先代の声は他のウマ娘に聞こえない為に、シンボリルドルフに不審に思われるだけで後で尋ねることにした。
「なあアイグリーンスキー、私の所属するチームリギルに所属しないか? 丁度募集していたところだ」
「ぜ──」
『妙だな。シンボリルドルフほど名前が知られているならそのミーハー達が尻追いかけて所属しようとするはずだから定員割れを起こさないはずじゃないのか?』
二代目が条件反射で答えようとするとそれを防ぐように先代が脊髄反射で口を挟む。確かにシンボリルドルフの名前は学園中で知れ渡っており定員割れを起こす事態は稀にしか起こらず、そんなことが起きれば大ニュースになるだろう。
「チームリギルに何があったんですか?」
「リギルに所属していたウマ娘がとある事情で引退してな、急遽枠が出来た」
「引退!?」
「そこでおハナさん──チームリギルのトレーナー──がチームギエナを追放されたお前のことを聞いたらしく、気に掛けていた」
『リギルのトレーナーも見る目があるじゃねえか。末っ子達の時代は年間GⅠ4勝する奴はアホみたいに増えたが、俺が現役時代の時は年間GⅠ4勝するどころかGⅠ4勝出来る奴は滅多にいねえ。俺は年間GⅠ4勝したからその素質を買ったんだろう』
GⅠを4勝するだけでも超一流だというのにそれをたった一年間でこなしてしまう馬がいる。そのような馬は三冠と同じ以上の価値があると言っても過言ではなく、先代が同期の三冠馬を押し退けて年度代表馬となったのもそれが理由だ。
「私はお前を純粋に評価している。チームリギルのテストを受けてみないか?」
「わかりました受けましょう」
「受けてくれるか。明日の午前10時に東京競バ場で行われる。遅刻は厳禁だ」
「何円払えばいいんですか?」
「……罰金じゃない厳禁だ。厳格の厳に禁止の禁と書いて厳禁だ」
二代目のボケにシンボリルドルフが口元を表情筋で抑えながらツッコミを入れる。
「そっちの厳禁なんですね。わかりました。それではよろしくお願いいたします」
そして二代目とシンボリルドルフが別れるとしばらくの間、厳格で知られている生徒会長の部屋から笑い声が聞こえるという摩訶不思議な現象がトレセン学園七不思議の怪談の一つになったのは余談である。
そして翌日、そこにはチームリギルに所属を希望するウマ娘達が殺到した。
『二代目、予想以上の数だな』
「でも関係ないよ。レースは一着以外全て負け。この中で一番速いウマ娘を抜かせば勝ちだよ」
『それはそうだ』
「私が欲しいのは一番人気じゃない、一着だよ」
『どこかで聞いたことのある名言だな』
先代がそう呟くと名前を呼ばれ、二代目がそこへ向かう。
「ではこれより試験を始める」
リギルのトレーナー、ハナが声を出しここに集まったウマ娘達に説明し始めた。
「これからお前達には日本ダービーやJCと同じ条件の模擬レースを行ってもらう。簡単に言えばこの東京競バ場で2400mのタイムトライアルレースだ。その結果を参考に二名、チームリギルに所属内定を決めさせる。尚、この内定を蹴っても構わない上に今後リギルの所属テストを受けさせないというような不利を与える訳ではないので安心して欲しい」
その寛大な処置にウマ娘達が騒然とする。それもそのはず、チームの内定を蹴ることはそのチームに対する裏切り行為そのものである。裏切り行為にも関わらずそれを許すあたり、ハナは優れたカリスマの持ち主であるとウマ娘が思ってしまうのは当たり前だった。
「ゲートには奇数番号の若い順から偶数番号の遅い順に入ってもらう。1番から入れ」
「はいっ!」
一番のウマ娘が元気よく返事をすると、次々とウマ娘達がゲート入りし始める。
「8番!」
そして二代目が呼ばれ、ゲート入りするとその隣にはいつも話し相手になっているウマ娘がいた。
『二代目、右隣のこいつはめちゃくちゃ強いぞ。こいつが一番のライバルだと思え』
「うん。頑張るよ」
「?」
ぶつぶつと独り言を言う二代目に隣のウマ娘達が首を傾げる。そんなウマ娘を他所に、ハナが全員ウマ娘をゲート入りさせ終わり距離を取り始めた。
「位置について!」
ハナの掛け声に全員の顔が引き締まり、片腕と逆脚を前に、もう片腕と脚を後ろにし構えた。
「よーいスタート!」
そしてハナが合図を出すとゲートが開き、ウマ娘達がスタートダッシュを決めた。
『さて、二代目。わかっていると思うが若葉を咥えたウマ娘をマークしているんだろうな?』
「当然。ナリタブライアンでしょ」
隣のゲートにいたウマ娘もといナリタブライアンの後ろにピッタリマークする二代目が答える。
『前世ではシャドーロールの怪物と恐れられた競走馬だ。朝日杯3歳S──こっちの世界でいう朝日杯FSとクラシック三冠を勝っている。晩年はレースのローテーションが酷くてGⅠ勝利は出来なかったが、俺が最初にJCを勝つまでは最強馬と言われていた』
「それで?」
『奴の勝ちパターンは中団待機からの差しだ。差した後は手を抜かず、ひたすら千切って差を広げる豪快な勝ち方で一番相手にしたくない馬だった。おそらくこいつもそうだろう』
「……弱点は?」
『今の二代目じゃ敵う術はただ一つ、奴が加速したところでバ体を併せて競り合いをしろ。ナリタブライアンは全盛期以降ならともかくデビュー当時は臆病な馬だったんだ。今の奴もその可能性がある。それで怯まなかったら諦めろ』
「ペースとかそんなのは?」
『俺が何も言わない時点で察しろ』
「うへぇ……」
一方その標的であるナリタブライアンは二代目がぶつぶつ独り言を呟いていることに気味悪さを感じていた。
「(グリーンの奴、チームギエナを追放されてからずっとあんな感じだが一体何なんだ? まるで何か得体の知れないものと会話をしているかのようだ)」
そして二代目をナリタブライアンの視野に入れようとするとそこにはおらず、ますます不気味さが増していく。
「くそ、やりづらいな」
ナリタブライアンがカーブし視野を広げても二代目の動きは見えない。まさしく幽霊を相手にしているような感覚にナリタブライアンが悪寒を覚え、残り1000m以上あるにも関わらず仕掛けた。
『ブライアンが仕掛けた? やはり若いな』
自分が元凶とは知らずに、先代が喜びの声を出す。
『二代目、残り800mで仕掛けろ! ナリタブライアンが自滅した以上、それさえすれば勝てる!』
「了解!」
ウマ娘達が、突然二代目の声に驚き二代目に注目をする。その瞬間、二代目が下がった。
「えっ!?」
驚き二連発と言わんばかりにウマ娘達が二代目の動きを目で追いかけるが、同時に前に行き始めたナリタブライアンを捉える為にそちらに視野に入れなければならず二代目を視野に入れることをしなくなった。
「(何をしたかと思えば敢えて遅くして外に持ち出しただと? そんなもんアタシの豪脚でぶっちぎる!)」
それを唯一、一部始終見ていたウマ娘ヒシアマゾンが上がっていった二代目をマークするように仕掛ける。
「……だよね」
ヒシアマゾンのことなど眼中にないと言わんばかりに二代目が独り言をぶつぶつと呟く。それを聞いたヒシアマゾンがキレた。
「てめえ、アタシを無視すんじゃねえぇぇぇっ!」
『くそっ! まさかこいつが大声を出すとは誤算だった。お陰でナリタブライアンにバレた!』
先代の作戦がヒシアマゾンの短気によって崩され、先代が舌打ちをする。
「まだ慌てるのは早いよ!」
「何っ!?」
二代目が声を出した瞬間ヒシアマゾンが声を出す。
「私の目標はこの中で一番最初にゴールすることだよ。アマちゃんをマークしていないのはそうだけど無視していないって訳じゃないんだよ!」
二代目が声を荒げ、ヒシアマゾンを突き放し、ナリタブライアンに迫っていく。
「くそっ待ちやがれ!」
それを許すヒシアマゾンではなく、差し替えそうと捲り、スピードを上げていくがそれでも追い付けない。
「グリーンの野郎、あそこまで速いなんて……予想外だ」
自分以上の豪脚を持つ二代目にヒシアマゾンの心が折れ、三着止まりとなった。
残り200mとなったところでナリタブライアンと二代目が並んだ。
「さあナリタブライアン、勝負!」
「……上等!」
『アマゾンのせいでナリブの野郎にバレたのは痛いがナリブも自滅したから五分五分ってとこか。後は二代目の脚次第だ!』
二代目とナリタブライアンの競り合いに誰もが口を挟めない。それは三番手まで上がってきたヒシアマゾン、そして二代目の中にいる先代とて然りだ。
「まだまだっ!」
「あんたの心へし折ってやる!」
ナリタブライアンと二代目が三番手以降を突き放し、凄まじいデットヒートを繰り広げる。その様子はまさしく有馬記念のトウショウボーイとテンポイントの一騎討ちそのものだった。
「負けてたまるかぁっ!」
「絶対に勝ってやらぁっ!」
そんな彼女達二人のうち一人に勝利の女神が微笑んだ。
『今だ、てめえの闘志を力に換えろ!』
先代のアドバイスに従った二代目が脚に全ての力を込め、踏みしめると僅かにナリタブライアンより先行し、ゴールした。
はいこの第2Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2018年12/31です。
そう言えばS濃すぎさんが書かれている【STARTINGGATE-ウマ娘プリティーダービー-】で発掘作業着を着たスペシャルウィークを見た作者の感想がこんなん
作者「ミスタープロスペシャルウィークやないかい!」
以上、ミスタープロスペクター(金の採掘者)とスペシャルウィークをかけた駄洒落でした。
青き稲妻に出てくる競走馬が主人公以外で登場して欲しい?
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ぜひとも登場して欲しい
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出さなくて良い。つーかイラネ