ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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今回少し長めです

前回のあらすじ
ハナ「エアグルーヴたんがウチに入ったお!」


第24R 皐月賞とドタバタ

 皐月賞

 

 弥生賞を制覇したウイニングチケットが本命視され、次点にビワハヤヒデと二強対決の雰囲気の中、目がギラつく程に輝かせているウマ娘がいた。

 

「皐月賞はアタシが貰う」

 

 そう呟くウマ娘の名前はナリタタイシン。彼女はホープフルSを勝利し、弥生賞を二着と皐月賞出走権を獲得し皐月賞に出走にこじつけられたもののその評価はとても半年以前にGⅠ競走を勝利したウマ娘の評価ではなく、ウイニングチケットとビワハヤヒデの二強対決の引き立て役という扱いだった。

 

 それも仕方ない。だけどこのままでも勝ち目はある。

 

 そう思っていた矢先に二代目が現れ、ナリタタイシンの驕りをへし折って闘気を満たし、鬼が宿った。

 

【ウイニングはウイニングは苦しい、先頭はビワハヤヒデ、大外からナリタタイシン、ナリタタイシン差しきった! 二着にビワハヤヒデ。勝ったのはなんとナリタタイシン!】

 

 まさしく鬼脚と呼べる豪脚でナリタタイシンが粘るビワハヤヒデを大外から置き去りにして皐月賞を制覇。そのまま勝者ナリタタイシンをセンターにウイニングライブをやるかと思われたがウイニングライブをやる前にウイニングチケットがそれを止めた。

 

 

 

「おめでとう、タイシン」

 

「チケットどうもありがと」

 

「皐月賞はタイシンが勝ったけどダービーはこうもいかないよ。東京競バ場は得意文化だからね」

 

「それを言うなら得意分野だ」

 

 ビワハヤヒデが即座に突っ込みを入れると共にタイシンが笑みを浮かべながら口を開く。

 

「アタシはこのまま二冠を制してみせるよ。阻止出来るものなら阻止してみなよ」

 

「無論だ」

 

「当たり前じゃん」

 

「今度戦うときは全員が挑戦者だよ。さ、ウイニングライブやりに行こうかハヤヒデ」

 

「ああ、余り待たせると失礼だからな。今度は日本ダービーのウイニングライブの舞台で会おう。チケット」

 

 ナリタタイシンに引かれるようにビワハヤヒデがウイニングチケットと別れを告げる。

 

 ウイニングライブというのは先代の世界におけるウイニングランに相当し、GⅠ競走のみで行われるものだが、一着の馬しか行わないウイニングランとは違い、ウイニングライブは三着までのウマ娘がライブを行うというものだ。そのうち一着のウマ娘のみがセンターを務めることが出来るというものだ。

 

 今回ウイニングチケットが四着となった為にウイニングチケットが舞台に上がることなくその場を去るしかなかった。

 

「その舞台でか。今度はセンターで踊ってみせるよハヤヒデ、タイシン」

 

 ウイニングチケットはビワハヤヒデが暗に日本ダービーの勝利宣言をしたことに対して闘志を燃やし、そのウイニングライブを臥薪嘗胆の思いで見つめていた。

 

 

 

 ウイニングチケットの他にその舞台を臥薪嘗胆の思いで見つめる者がいた。

 

「私もデビュー戦が早ければあの舞台に立てたかもしれない」

 

 そう呟くウマ娘の名前はヤマトダマシイ。彼女はデビュー戦が遅れ皐月賞に間に合わずNHKマイルCに挑戦し、ダービーに出走することになっていたが皐月賞への未練が大きくこの場にやってきていた。

 

「かもしれないですね先輩」

 

 ヤマトダマシイに同行していた二代目がそれに頷く。

 

「グリーン、私のこの悔しさはNHKマイルCと日本ダービーにぶつける。その二冠を制すれば皐月賞の未練はなくなると思うんだ。だから──」

 

「協力しますよ。併せウマに」

 

「忝ない、グリーン」

 

「チームカノープスのシニアの先輩達は落ち目で頼りないですからね。途中乱入してきた私に負ける有り様ですし」

 

「……それは否定出来ないが、余り口に出すものじゃないぞ」

 

「すみません。でも落ち目かどうかはともかく、あのままじゃ勝てませんよ。メジロパーマー先輩ですら私よりも強いですし」

 

「それはいいことをお聞きしましたわ」

 

「げっ、マティリアル先輩いつの間にいたんですか?」

 

「チームカノープスのシニアの先輩達は頼りないですからね、の部分からですわ」

 

「最初からじゃないですか!」

 

「ヤマトダマシイ、こんなくそ生意気な後輩どう思う?」

 

 ここでヤマトダマシイが空気を読まず「先輩よりかは頼もしく思えます」と言おうものならマティリアルがブチ切れて大暴れすることは想像に難くない。しかし空気を読んで同調してもそれはマティリアルの為にならない。

 

 

 

「マティリアル先輩、いつからそんな情けなくなったんですか?」

 

「何ですって?」

 

「サクラスターオー先輩やメリーナイス先輩を差し置いてチームギエナのメンバーの中で最も注目を浴びていたのはマティリアル先輩でしょう。その時の先輩はとても輝いて見えました。しかしサクラスターオー先輩が皐月賞と菊花賞を、メリーナイス先輩が日本ダービーを勝利したにも関わらずマティリアル先輩は無冠──」

 

「黙りなさい」

 

「そして先日の大阪杯でメリーナイス先輩にも先着され──」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 まだライブ途中であるにも関わらず、怒鳴り声を上げそちらに全員が注目する。

 

「マティリアル先輩、落ち着いてください! ヤマトダマシイ先輩も挑発しないでくださいよ」

 

 二代目がマティリアルをどうにか宥めるがヤマトダマシイが更に挑発し、注目を集める。

 

「同じ追い込みウマ娘として恥ずかしい限りです」

 

「ヤマトダマシイ先輩!」

 

「……ふぅぅぅ~。ヤマトダマシイ、そこまで貴女が挑発するならこっちもそれなりの対応をしますわ。来なさいヤマトダマシイ」

 

 深呼吸しながらマティリアルが外に出るとヤマトダマシイがそれに続いた。

 

「貴女とは一度決着をつけたかったんですよ」

 

「ああもう、どうしてこうなるのかな?」

 

 二代目がそれを追いかけ、その場を後にした。そして会場に残されたのは皐月賞のウイニングライブの関係者とそれを見に来た観客達だけであった。

 

 

 

 そしてチームカノープスの練習場で二人のウマ娘がそこに対峙していた。

 

 片やマティリアル。かつて日本ダービーの最有力候補でありあの名門シンボリ家の出身でもある。

 

 もう片やヤマトダマシイ。3戦無敗のチームカノープスのジュニアCクラスのエースであり、今度出走するNHKマイルC、日本ダービーでも有力候補に上げられている。

 

 そんな二人の共通点、それは同じチームカノープスであること。そしてもう一つ、終盤になってから全力を出し先頭を走るウマ娘を抜き去る追い込みウマ娘であるということだ。

 

「いずれ戦う時が来るのは予想していましたがこのような形で思いもよりませんでしたわ」

 

「いいや予想していましたよ。マティリアル先輩が無様晒しているんですから」

 

「……その口を塞いであげますわ」

 

「グリーン、合図を頼んだぞ!」

 

「何故こんなことに……」

 

 殺伐とした雰囲気の中、二代目が頭を抱えウマ耳に耳栓を入れてピストルに弾を込めた。

 

「お二人とも準備はいいですか?」

 

「いつでも行ける」

 

「同じく」

 

「ではヨーイスタート!」

 

 ピストルの鳴る音がその場に響き二人がスタートした。

 

 今回行われる併せウマもとい模擬レースは宝塚記念と同じ距離2200m。本来天皇賞春に登録しているマティリアルの併せウマであればそれよりも1000m更に長い3200mにするべきだが、長距離レースを経験していないヤマトダマシイに配慮したのと、マティリアルが天皇賞春の次走に宝塚記念を登録してある為である。

 

「マティリアル先輩、無理しなくていいんですよ? グリーンに負けた情けないウマ娘なんですから」

 

「アイグリーンスキーが異常に強いだけのことですわ。見たでしょうあのタイムを」

 

「ええ、もちろん。ですがそれを差し引いてもマティリアル先輩は弱いですよ」

 

「何ですって?」

 

「最後に分かりますよ」

 

 マティリアルのペースから自らのペースに切り替えたヤマトダマシイ。それを見たマティリアルがヤマトダマシイに合わせてペースを上げようとするが、それを止めマイペースで走る。

 

「そうやっていると、より惨めになりますよ。マティリアル先輩」

 

 その呟きはマティリアルを含め誰にも聞こえることなく消えていった。

 

「ヤマトダマシイと言えども私の末脚に敵う筈がない。ましてや前を走るヤマトダマシイなど恐れることはありませんわ」

 

 ヤマトダマシイが前を走ることに安堵し、マティリアルが微笑み、最後のカーブに入る前にギアを上げた。

 

 互いに笑みを浮かべる模擬レースだが、最後に笑うのは一人だけであることは事実でもう一人は涙を流すことになることをこの場にいる全員が知っていた。

 

 

 

『下らねえ茶番劇だな』

 

「先代それは一体どういうこと?」

 

『俺の世界でマティリアルはシンボリルドルフと同じ配合──要は父親と母父が同じなんだ』

 

「つまりマティリアルの父親と母方の祖父が同一人物?」

 

『いくらなんでも血が濃くなりすぎるわ、ど阿呆う。シンボリルドルフとマティリアルは共にパーソロン産駒で母親がスピードシンボリ産駒だったってことだ』

 

「それが何なの?」

 

『まず父親が同じ時点で1/2は同じ血が流れている。そして母父が同じな時点で1/4同じ血が流れている。つまりシンボリルドルフとマティリアルは1/2と1/4を足したものだから──』

 

「3/4ね」

 

『そうそう。3/4同じ血が流れている訳だ。そのくらい同じ血が流れているとなれば誰だって期待したくなるだろ? セントライトの兄弟にあたるトサミドリですら半分しか受け継いでいないんだから尚更だ。そんな訳で、シンボリルドルフの後に生まれたマティリアルはシンボリルドルフと同じ教育を受け育ってきたんだがある問題が生じた』

 

「問題?」

 

『シンボリルドルフとマティリアルは全く別の馬だったってことだ。こっちにもあるだろ? 同じ父親母親の兄弟でも出来が違うってのは。マティリアルはまさしくそれで、シンボリルドルフにやった教育がマティリアルに合わなかったんだ。こっちの世界でもマティリアルはレーススタイル以外シンボリルドルフの真似をして努力しているが──』

 

「合わないってこと?」

 

『そういうことだ』

 

 二代目が先代の意見に耳を傾けながらレースに目を向けるとズルズルと後退していくマティリアルの姿を見てしまった。

 

 

 

「……っ!?」

 

 ヤマトダマシイとの差を縮める為にマティリアルがスパートをかけたが逆に突き放されていく、その現実に着いていけずに顔が歪んだ。

 

「だから言ったでしょう。より惨めになると」

 

 そしてヤマトダマシイが先にゴールして併せウマが終わり、マティリアルは唖然として放心していた。

 

「マティリアル先輩、今の貴女には覚悟が足りない」

 

「……覚悟?」

 

「シンボリ家の皆さんに貴女は中長距離路線のGⅠ競走を勝つように期待されている。違いますか?」

 

「……ええ。その通りでしたわ。しかし三冠の一つも勝てずに失望され、今となっては絶縁状態。今の私にあるのはこの体だけ。かつてシンボリ家の皆さんからポスト・シンボリルドルフと呼ばれた私はどこにもいません。その栄光を取り戻す為に私は中長距離のGⅠ競走を勝たねばなりません!」

 

「マティリアル先輩、その末脚はマイル戦でこそ活かせることが出来る。見てくださいよ、この上がり3Fのタイムを」

 

 2200mを走破したマティリアルの上がり3Fのタイムが38秒1と決して追い込みウマ娘が出すようなタイムとは言いがたいものだった。逃げウマ娘メジロパーマーが3000mの重賞レースである阪神大賞典で出した上がり3Fのタイムが37秒7と言えばマティリアルがどれだけ遅いか理解出来るだろう。

 

「むしろこれだけ遅いタイムなのに追い込みウマ娘と主張出来るのか不思議なくらいです。逃げウマ娘のメジロパーマー先輩の方がまだ主張出来るくらいです」

 

「ヴぅぅぅっ!」

 

「しかしマイルなら話は別です。マティリアル先輩に中距離以上のレースはスタミナが足りずに不向き……とサンデーサイレンス先生が仰っていました」

 

「私に中長距離のレースを捨てろと、そう仰るのですか?」

 

「実際気づいているんじゃないですか? マイル戦なら末脚が発揮するのに中長距離になるとまるで使えなくなる。マティリアル先輩がやるべきことは今、この場で決断することです。永遠に勝てないレースで無様を晒すのか、それともマイルで栄光を掴むかその選択肢しかありません」

 

 ヤマトダマシイが残酷に告げる。

 

「それもサンデーサイレンス先生の伝言ですか?」

 

「ええ。それとこれもマティリアル先輩に渡すように言われています」

 

「これは……ICレコーダー?」

 

「これを渡しておけと言われただけですので詳しいことは知りませんがマティリアル先輩に何か伝言でもあるんでしょう」

 

「その中身はシンボリルドルフ会長の言葉が入っていますよ」

 

 それまで空気だった二代目が口を挟み、マティリアル達の注目を集める。

 

「グリーン、何故それをお前が知っている?」

 

「それはその場にいましたから。ところでサンデーサイレンス先生はどこにいるんですか? いつもならヤマトダマシイ先輩に渡すなんてまどろっこしいことをせず自分で渡す筈なのに」

 

 いつも騒がしいサンデーサイレンスがいないことにより、違和感を感じていた二代目がサンデーサイレンスの行方を探していた。

 

「あのウマ娘なら陰陽術を学びに出掛けていますわ」

 

「アメリカのウマ娘なのに?」

 

「アメリカのウマ娘なのに」

 

 そして二代目がサンデーサイレンスが奇声を上げお払い棒を振り回して札を自由自在に操り、幽霊退治をする姿を思い浮かべると、その場にいた三人のウマ娘達が吹いた。

 

「ぶはっ」

 

 三人が吹いた理由はサンデーサイレンスが色白で見た目がホラー系なウマ娘である為に似合う、いや似合い過ぎていたからだ。

 

「確かに似合ってる……くひひ」

 

「ぐ、グリーン、そんなことをサンデーサイレンス先生に聞かれたら後でキツイお仕置きがはっ」

 

「そういう貴女こそ……ふふっ」

 

 彼女達の笑いが止まるまで時間が経過し、次の話題を出した。

 

 

 

「それでマティリアル先輩、今度の天皇賞春どうします?」

 

「キャンセルよキャンセル。出走登録取消の手続きをして安田記念に登録いたしますわ」

 

「オグリキャップ先輩がいますけど大丈夫ですか?」

 

「オグリキャップがいようとも関係ありません。彼女との勝負に中距離で負けたけどマイルとなれば話は別ですわ。それまでの私ではないことを証明してあげましょう」

 

「初めてのGⅠ制覇、期待していますよ。マティリアル先輩」




後書きらしい後書き
今回はマティリアルが中心でしたね。
マティリアルの上がり3Fのタイムはそれほど速くないのも事実でスプリングSで見せた末脚は見せかけのもので陣営はそれを捕らわれ、マティリアルを追い込み一辺倒で競馬させるようになってしまいました。
しかし京王杯AHで先行策をとり見事勝利し、さあこれからというところで骨折し予後不良処分となった悲劇の競走馬です。
そんな彼女がこの小説でどう活躍するかお楽しみ下さい。



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また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は一週間後です

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