天皇賞春。京都レース場で行われる芝3200mと国内の平地GⅠ競走においては最長の距離のレースであり、大阪杯に続くシニアの王道レースの一つでもある。
故に天皇賞春でメジロパーマーを初めとするGⅠ競走を勝ったウマ娘やタマモクロスなど勢いのあるウマ娘がここに集結していた。
しかしその天皇賞春でも豪華メンバーは揃っていても全員集合したという訳ではなかった。
菊花賞を勝ったウマ娘達サクラスターオーとスーパークリークは故障や脚部不安により出走回避。
サクラスターオーの代わりに出走する筈だったマティリアル、そして大阪杯を勝ったオグリキャップは自身の適性距離でないことを理由に出走回避していた。
しかしそれでも豪華メンバーが揃っていることに違いなく誰が勝つか予想するのが難しく予想屋の大本命はほとんど一致しないという珍事態が発生していた。
「おっ、アイグリーンスキーやないか」
その中でももっとも予想屋を泣かせてきたメジロパーマーが二代目を見つけ、声をかける。
「メジロパーマー先輩、どうもお久しぶりです」
「おおきにな。この調子でレース中も応援頼むわ……って言いたいところやけど、チームトゥバンのウマ娘が天皇賞春に出走してる以上それは言えんわ。しゃーないからワシん中にいるメジロパーマーに応援頼むわ」
「ありがとうございます。メジロパーマー先輩」
「ほな、今度目を合わせる時は舞台の上で合わせちゃるわ」
獰猛類の笑みを浮かべたメジロパーマーが二代目から離れると次に近づいてきたのがメリーナイスであった。
「アイグリーンスキー、奴と何を話していた?」
「え、普通に世間話ですよ」
「嘘だな。私の作戦を話していたのを見ていたんだぞ!」
「だから話していませんってば」
「知っているよ」
「……はぁっ?」
訳がわからず頭に?マークを浮かべる二代目にメリーナイスが続いた。
「ふふっ驚いたか?」
「そりゃいちゃもんつけられたらそうなりますよ」
「驚き戸惑う顔をみるのが私の大好物でね。これは私なりのリラックス方法だ。許せ」
「そんなことをやっていると後で友達失いますよ……先輩、頑張って下さい」
「あっ、右脇にゴキがついて──」
「みぎゃぁぁぁぁっ!?」
二代目が悲鳴を上げ錯乱し、暴れまわる。
『落ち着けアホ。そんな奴はいない』
先代が体の主導権を取り、冷静を装わせて椅子に座る。
「そういうことだ。じゃあ応援しろよ」
「……」
あれだけ嫌われるようなことをしておいてしれっと応援するように告げるメリーナイス。もちろん二代目の返事は無言だった。
「仲間との慰め合いは済んだのか、メリーナイス?」
「イナリワン。そっちは、ああ……クス」
「何笑ってやがるんでぃっ!」
「慰めて貰う相手がいないってのは寂しいものね。貴女の仲間は大井にいるもの。一人ぼっちで寂しくない?」
物理的にも精神的にも見下し、笑い声を抑えた声でイナリワンを煽りまくるメリーナイス。
「てめえ喧嘩売ってんのか!?」
これに短気なイナリワンが耐えられる筈もなく早くも引っ掛かり興奮する。
「その江戸っ子キャラもこっちに来てから身につけたんでしょう? 何せ貴女は大井の出身で淋しさを埋めるには江戸っ子キャラはうってつけだものね」
そしてイナリワンがぶちギレ、腹パンをしようと拳を握り、詰め寄ろうとした。
「やめときイナリ! その喧嘩買ったらアカン!」
「放せタマ公! 売られた喧嘩買わない江戸っ子がどこにいるんでい!」
「あらあらまだ江戸っ子キャラ続けるの?」
「うがぁぁぁぁっ!!」
イナリワンが大暴れ。京都レース場で早くも混沌としていた。
「メリーナイスもメリーナイスや、有馬記念でもそうやって煽りまくって競走中止にさせられたんやから自重せえ」
「あれ? ねえお嬢さん、迷子になったの? ここは危ないから係員さんのところに行きましょうね」
メリーナイスはタマモクロスを幼児のように扱って煽る。とにかく他のウマ娘を煽りまくって興奮させて入れ込みさせるのがメリーナイスの作戦だった。
「ええ加減にせんかい!」
どこからともなくタマモクロスがハリセンを取り出して突っ込みを入れる。その際にハリセンの叩く音が響くが観客は動揺しなかった。
「ウチはイナリと違うてあんたの挑発に乗るほどアホちゃう。せやけど突っ込みなら言うで」
「さりげなくあたしをディスるなタマ公」
「あらあら……こんなちっさい子供がそんな立派なことを言えるなんて偉い──ぶっ!?」
そしてメリーナイスがタマモクロスの頭を撫でようとすると顔にハリセンが炸裂する。
「誰が子供やっちゅうねん。ウチはあんたと同じクラスのタマモクロスや。いつまでもダービーウマ娘の栄光を飾れると思うなや。このど阿呆う」
「顔はやらないでよ……痛いんだから」
顔を物理的に赤くさせられたメリーナイスが抗議の声を出すがタマモクロスは鼻で笑った。
「自業自得や、そのくらい我慢せえ」
全くその通りである。
そんなやり取りが繰り広げられ、早くも波乱の予感を感じ取っていた観客達は不安げに自分が買ったバ券や推しウマ娘を見つめる。
「それではまもなく本日のメインレース、天皇賞春スタートします」
アナウンスが流れ、観客達がゲートに入る推しウマ娘に注目する。
【天皇賞スタート!】
それまで閉ざされていたゲートが開き春の天皇賞が開幕した。
【まずハナに立ったのはやはりメジロパーマー。ぐいぐいと二番手を突き放して、これは八バ身程の差を開いて先頭をかけていきます】
「やっぱりメジロパーマー先輩らしいですね」
「いやいやあれで逃げられると思っているのか?」
「意外と逃げられるんですよアレ。メジロパーマー先輩と併せウマすれば分かりますよ」
【そして六番手に昨年のダービーウマ娘、メリーナイスがここにいます。果たしてどのように動くのでしょうか?】
「流石おちょくり大王。イナリワン先輩を挑発させることだけは天才的な才能がある」
二代目がそうコメントした理由はメリーナイスの立ち位置──もとい走り位置にある。メリーナイスの走っている場所はイナリワンのちょうど前であり、レースの最中にそれをするということは挑発以外の他でもない。
【そしてそれをマークするようにイナリワン。前走阪神大賞典では5着と遅れましたが丸地のウマ娘として期待されております】
実況の目は節穴なのか、あるいは敢えて無視しているのかイナリワンがメリーナイスをマークしていると見なして実況。実際にはメリーナイスがイナリワンを意識しているだけでイナリワンは最後方に控えるウマ娘を警戒していた。
【そして最後方に一番人気のタマモクロス。このまま連勝記録を飾れるでしょうか?】
今でこそ一番人気の支持を得られているタマモクロスだが昨年のダービーの頃は全くの無名で所謂、夏の上がりウマと呼ばれるウマ娘だった。それもそのはず、タマモクロスは日本で中心的に行われる芝のレースではなく砂、つまりダートで走っていたからだ。
タマモクロスがダートで走っていた当時、日本におけるダートの扱いは芝に適性がないウマ娘が行く場所、あるいは地方のウマ娘が走る場所であり軽んじられて見られていた。
何故そんなところにタマモクロスが行くことになったのかと言われるとタマモクロスはデビュー戦で惨敗し、芝に適性がないと思われダートで走ることになってしまったからに他ならない。
実はダートの方が苦手であるとタマモクロス陣営が気がついたのは京都大賞典と同日に行われた芝2200mの条件戦のレースだった。そのレースでタマモクロスは二着のウマ娘に七バ身差を着けて勝利しただけでなく京都大賞典を勝ったウマ娘よりも早くゴールしていた。
これによりタマモクロスを芝で走らせるように陣営が変更。菊花賞はローテーション上間に合わず別の芝2000mのレースに出走し二着のウマ娘に八バ身差を着けて勝利し、年末ではクラシック級とシニア混合の重賞を制覇し、サクラスターオーが故障したことを抜きにしてもサクラスターオー世代のトップと評価された。
またタマモクロスの快進撃はこれだけに止まらず、シニアになっても止まらなかった。京都金杯ではヤマトダマシイのように直線のみで15人のウマ娘をごぼう抜き。阪神大賞典でもメジロパーマーに同着と格好つかない形ではあるものの勝利。5連勝を飾っている。
そんなタマモクロスにも苦手な相手がいる。それはメジロパーマーを含めた逃げウマ娘だ。同じ追い込みならば自分の末脚で捻り潰せばいいだけなのだが、逃げウマ娘には大きなリードをされており、距離感が狂わされることがしばしばある。
よく逃げの穴ウマ娘が逃げ切ることがあるのは有力なウマ娘達が後方で牽制し合ってしまい、逃げウマ娘が悠々と逃げて気がついた時には既に逃げ切られてしまうからだ。
故にタマモクロスが、差しウマ娘であるイナリワンを警戒しつつも、そのような形で逃げ切ったメジロパーマーやダービーの舞台で六バ身差で勝ったメリーナイスをマークするのは当たり前のことだった。
【さあ、2000mを通過して残り1200m。まだメジロパーマー先頭だ】
「だからワシ、ここ嫌いなんや」
メジロパーマーが後ろのウマ娘達を見てそうぼやく。
それというのもメジロパーマーは通常のペースで走っておりこのままではメジロパーマーが得意とするハイペースで相手を競り潰す逃げが使えないからだ。
そうなった原因は京都レース場特有の坂にある。第三コーナーから第四コーナーにかけて坂の上り下りがあるがこれが曲者であり、ここを無理にハイペースで上ると体力が切れ、逆にスピードに乗って下ると曲がりきれず無駄にロスが増える。
故に京都レース場のその部分に関してだけは全員ゆっくり上ってゆっくり下る。これは淀の坂の鉄則と呼ばれるほどの常識であった。
メジロパーマーとてそれは例外ではなく、せっかくハイペースで逃げていたのを通常のペースに落としてまで抑えていた。通常であればそれで良いのかもしれないがメジロパーマーの場合他のウマ娘を競り潰すレーススタイルであり大差をつけ悠々と走るなどということは出来ない。
故に二回目の坂の上りまでに他のウマ娘を潰す必要があった。
【二回目の淀の坂にメジロパーマー達が上ります。各ウマ娘ここはゆっくりと上がってゆっくりと下が──あーっと! メジロパーマーが仕掛けた! メジロパーマーここで淀の坂を凄い勢いで下ります!】
「これでええんやろ? もう一人のワシ」
『そうだな』
メジロパーマーが魂のメジロパーマーに声をかけ、最後の直線に突入する。
その頃、二代目は先代に解説を求めていた。
「先代、本来の勝者はタマモクロスとイナリワンでいいの?」
『ああ。だが俺の世界でイナリワンとタマモクロス、そしてメジロパーマーは三者共に何れも戦うことなく引退している』
「つまりその三人は誰とも戦わなかったってこと?」
『そもそもイナリワンはタマモクロスが引退した後に中央に移籍してきたし、イナリワンが引退した後にメジロパーマーが活躍したんだから当たり前なんだがな』
「でもその三人がこの場で戦っている」
『その内、イナリワンとタマモクロスの二名が天皇賞春を制したが、メジロパーマーがそれ以上のタイムを叩き出していて誰が勝つか全く予想がつかん。世界の補正がどう動くかでこのレースの勝者が変わる』
「先代の言うとおり本来の勝者二人か、私と同じく覚醒したウマ娘かになりそうだね」
【メジロパーマー先頭。そしてイナリワンが上がってきたイナリワン上がってきた!】
「ワシの勝負根性について来れるか? チビッ子ども!」
メジロパーマーが更に伸び、イナリワンが必死に食らいついて差そうとするが残り一バ身の差が縮まらない。
「なんでだぁぁっ!?」
残り200mを切ってイナリワンが絶叫し、イナリワンのファンが失望する。
「イナリ、そこで大人しく見とれや」
イナリワンの不甲斐なさを見たタマモクロスが二番手に踊り出てメジロパーマーを3/4バ身、半バ身と詰め寄るがそこでタマモクロスの脚が止まった。
「な、なんや!?」
タマモクロスが足をみるとそこには草で出来た手がタマモクロスを掴んでタマモクロスの末脚を妨害していた。
「おどれ邪魔すんや!!」
その幻影を振りほどき、タマモクロスが半バ身の差から頭差まで縮め、勝利を確信した。
「これで終い……なっ!?」
そしてタマモクロスとイナリワンがそれすらも幻であることが気がつき、メジロパーマーの背中を拝みながらゴールし、唖然とする。
ちなみに二人を散々挑発しまくったメリーナイスは14着という結果に終わった。
【天皇賞春を勝ったのはメジロパーマー! またもやメジロパーマーだ! もはやフロックとは言わせないっ!】
天皇賞春を勝ったメジロパーマーだが消化不足を感じていた。
「タマモクロスもイナリワンも駄目だったか」
あのラムタラであれば、例え入れ込んでいてもメジロパーマーに最低でも四バ身の差をつけて勝利していただろう。それを考えるとイナリワンもタマモクロスも世界に届く実力ではない。
「やはり、世界に届くのはあいつしかおらへん言うことか」
メジロパーマーの視線の先には二代目がおり、世界への挑戦を託すようにウイニングライブに向かった。
後書きらしい後書き
メリーナイス……どうしてこうなった?
はい、という訳で天皇賞春はメジロパーマーが勝ちました。タマモクロスもイナリワンも本来の勝者で、メジロパーマーを含めたこの三人で誰を勝者にするか迷いましたがここはメジロパーマーに勝ってもらいました。タマモクロスファンの皆さんやイナリワンファンの皆さんすみません……
でも史実のメジロパーマーはそれだけの実力はあったと思います。タマモクロスは自在脚質ですけどこの当時は白い稲妻と呼ばれるほどの豪脚を武器にしていた追い込み馬でしたし、イナリワンも差し馬で、逃げ馬のメジロパーマーとは相性が悪かったと思い、このような結果になってしまいました。一応タマモクロスがライスやマックイーンのように先行すればワンチャンあります。
それはともかくこの第25Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。
尚、次回更新は一週間後です
次にウマ娘として出てくる青き稲妻の物語の競走馬はどれがいい?
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ボルトチェンジ
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マジソンティーケイ
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シンキングアルザオ
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アブソルート
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リセット