ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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前回の粗筋
二代目「ニジンスキー様ぁぁぁっ!!」


第30R ゴルフ場の間違った使い方

 ニジンスキーとの併走に心踊る二代目にニジンスキーが声をかける。

 

「いいかアイリ。これまでの走ってきた環境とは大違いだ。ここは日本の高速芝じゃない」

 

「はい」

 

「だからといって洋芝でもない。むしろ洋芝よりもスタミナを喰らうラフだ」

 

「それじゃニジンスキーさんもこの深い芝生でやるのは初めてですか?」

 

「ああ。だが洋芝の走り方をすればこの程度は苦でもない。これはラムタラも同じだ」

 

「ラムタラを知っているんですか?」

 

「もちろんだ。ラムタラを鍛え上げたのはトレーナーリーダーとこの私だ」

 

「それじゃ向こうからしてみれば私を鍛えることは裏切り者になるんじゃないんですか?」

 

「トレーナーリーダーの許可はとってある」

 

「あいつが……?」

 

 

 

 二代目が首を傾げ、トレーナーリーダーを思い出す。

 

 かつて二代目のトレーナーだった頃は自分のチームギエナに虐待染みたスパルタトレーニングを課す為にチームギエナのトレーニング内容を公開せず、ウマ娘達を犠牲にしていた。

 

 しかしその一方でハナ等のトレセン学園にいるトレーナーから地方などトレセン学園とは無縁のトレーナーとも交流があり、そのノウハウを教えていた。

 

 通常のトレーナーであれば自分独自のノウハウを秘密にして自分のウマ娘を鍛えようとするが、彼はその逆で、自分の知識を公然に出すことに抵抗など全くと言って良いほどなかった。

 

 良くも悪くも研究者であり、その為なら何だってする。それがあのトレーナーだ。

 

 

 

「もういいだろう。アイリ、この併走で私についてこい」

 

「は、はいっ!」

 

「サンデーサイレンス、ピストルの用意を」

 

「もう出来ている。お前達準備はいいか?」

 

「無論だ!」

 

「準備OKです」

 

「よーい、スタート!」

 

 

 

 数分後。そこには疲れ果てて横たわる二代目とそれとは対照的に汗を少し流しているニジンスキーがいた。

 

『情けねえ奴だ。俺なんか本番ぶっつけで凱旋門賞に勝ったというのに』

 

 先代があきれた声でそう呟くも二代目は疲れ果てていた為に反応を見せない。

 

「まあ高速芝に慣れきったウマ娘なら当然のことだ。それに高低差が10mもありスタミナがなくなるのは当たり前のことだ。落ち込むことはない」

 

「すみません。期待に応えられなくて」

 

「仕方ない。アイリ、今からこのコースを回るぞ」

 

「え?」

 

「1番ホールから18番ホールまでゴルフして回る。アイリ、お前はこれを持て」

 

 ニジンスキーからゴルフクラブの入ったゴルフバッグを渡され、それを受け取る。

 

「私がキャディですか?」

 

「それだけじゃない。私が打ったボールがラフに行った場合、フェアウェイに戻せ」

 

「へっ? それだと反則になってしまいますよ?」

 

「ゴルフはあくまでも遊びだ」

 

 言葉足らずにニジンスキーが一番ホールへ向かい、ゴルフティーにゴルフボールをおいてドライバーを取り出してそれを打つ。

 

 するとゴルフボールの軌跡は右に曲がりラフの中に突っ込む。

 

「と、飛びますね」

 

「フェアウェイに乗らなきゃ意味がない。アイリ、ラフから出せ」

 

「はい」

 

 ラフからフェアウェイにゴルフボールを取り出しそのボールが止まった所でニジンスキーが打ち、グリーンに乗せてホールを終える。

 

 その繰り返しを10ホールほど続けていると二代目の足取りが重くなる。

 

「アイリ、疲れが出てきたようだな」

 

「はい」

 

「無理もない。普段使わない筋肉が悲鳴を上げているだけじゃなく、疲れが出る歩き方でラフを歩いているからな」

 

「疲れが出る歩き方ですか?」

 

「そうだ。私の歩き方を見ていろ」

 

 ラフに入り、ニジンスキーが歩くと先代が声をかけた。

 

『二代目、わかるか? 奴は少しでも自分の方向に向いていなければ地面を踏むように歩いているのに対して、向いていれば後ろに蹴るように歩いている』

 

「あ!」

 

 先代の言ったことを確認するようにニジンスキーの歩き方を見ると確かに先代の言う通りの歩き方をしていた。

 

「どうだ。こうやって歩けば草に阻まれることなく歩くことが出来る」

 

「しかしそれはわかりましたが、もし草で滑ってしまったら最悪予後不良になる恐れもあるんじゃないんですか?」

 

「そうならない為にはしっかりと踏み込む必要がある。こんな風にな」

 

 ラフの草が地面にめり込み、それを二代目に見せる。

 

「ジャパニーズの芝のウマ娘が負けるもう一つの原因はパワー不足。フォームを改造しても肝心のパワーが足りないからせっかくのスピードも台無しになる。凱旋門賞に出走したシリウスシンボリはまさしくそれだった。つまりシリウスシンボリや砂のウマ娘以上のパワーが必要になるということだ」

 

「パワーね……その心配はありませんよ」

 

「何?」

 

 二代目がニジンスキーに倣って走るとニジンスキーよりも遥かに深い足跡がそこにはあった。

 

「なるほどグリーングラスのところでパワーを鍛え直したのか」

 

 それまで無言だったサンデーサイレンスが口を挟み、頷く。

 

「サンデーサイレンス先生……どこまで知っているんですか?」

 

「この学園にいるウマ娘のことなら何でも知っているぞ。シンボリルドルフが幼い頃ルナちゃんと呼ばれていたのも勿論知っている」

 

「あの厳格なシンボリルドルフ会長──ぶはっ」

 

 二代目の頭の中にシンボリルドルフがフリルを大量につけた魔法少女服を身に纏い「月に代わってお仕置きだ!」などとほざく姿を想像してしまい、吹いた。ちなみにそのセリフと魔法少女は全くと言って良いほど関係ない。

 

 

 

「まあ何にせよ、それだけパワーがあるなら問題はないか。アイリ、これで私が教えられることは全て教えた。後はアイリの努力次第だ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。ただラムタラは強いぞ。何せお前の元トレーナーがついている。お前のこともよく知っているはずだ」

 

「その心配はありませんよ。あの人が知っているのは過去の私であって未来の私ではありません」

 

「それもそうだ。最後にアドバイスしておこう」

 

「何でしょうか?」

 

「私はラムタラにも指導した立場だから勝者になれとは言えん。しかしこの言葉は言える。全力を尽くせ」

 

「はいっ!」

 

 満面の笑みで二代目が答えるとそれまで無表情だったニジンスキーが笑みを浮かべる。

 

「ではアイリ、残りのホールを回るぞ」

 

「わかりました。何番にしますか?」

 

「そうだな。ここは──」

 

 それからしばらくニジンスキーのゴルフに付き合わされる二代目とサンデーサイレンスだった。

 

 

 

「さて飯にしようか」

 

 サンデーサイレンスが二人に話しかけると二人が首を傾ける。

 

「飯って……ここ従業員さんいないんじゃないですか?」

 

「サンデーサイレンス、その通りだ。人がいないからこそ、ここを選んだのではないのか?」

 

「そう焦るな。余が何の考えもなしにそんなことを言うと思うのか?」

 

「……ないな」

 

「……ないですね」

 

「余のことを流石にわかってきたか」

 

「更に言うなら従業員がいないことを考慮すると、サンデーサイレンス先生は出前を取ったと考えられますが違いますか?」

 

「当たりだ。カモン、ニンジンカツカレー!」

 

「毎度! ニンジンカツカレー三つお持ちいたしました!」

 

 合図と共に出前が届きどや顔を浮かべるサンデーサイレンスに二人がスルーして席についた。

 

「あ、こちらにお願いします」

 

「無視かよ!」

 

「ではごゆっくりどうぞ! 翌朝になりましたら玄関のほうで皿を引き取りますので玄関に出しておいて下さい」

 

 出前店員がその場を去り業務に戻り、三人がカレーを食べる。

 

 

 

「ゴルフの後のカレーがこんなに旨かったとは知らなかった……」

 

「全くですね。私の場合、労働の後のカレーですけど」

 

 ニジンスキーと二代目が何度も同じ事を繰り返しながら昼食のカレーを思い出してはゴルフ場のラフを歩き回る。

 

「やはり深い……」

 

「ですね……」

 

 ニジンスキーと二代目が黙り、しばらくすると先ほどと同じ会話をする。

 

「お前ら近所で噂話をするおばちゃんか!」

 

 その様子をみたサンデーサイレンスがいい加減に突っ込みを入れる。

 

「旨かったんだから仕方がない」

 

「そうですよ。労働の後のカレーがあんなに旨かったなんて初めて知ったんですから良いじゃないですか!」

 

 サンデーサイレンス一人に対して向こうは二人。天敵が一人いるだけでも厄介だというのに二人もいては流石のサンデーサイレンスと言えども頭を抱えたくなる事態だった。

 

 

 

 そこでサンデーサイレンスはふと頭によぎったことを口に出した。

 

「そう言えば余が気になるウマ娘がいるんだが、ニジンスキー。お前もそいつに会ってみないか?」

 

「どんなウマ娘だ?」

 

「まだ入学こそしていないがそこにいるアイグリーンスキーと同じくらいのスタミナを持つウマ娘だ」

 

「アイリ並みのスタミナか……」

 

「余がその走りを初めて見たときは寒気を覚えた。特に最後の末脚はな」

 

「名前は?」

 

「ダンスインザダーク。そこにいるアイグリーンスキーと同期エアダブリンの妹だ」

 

『ダンスインザダークか。言われてみれば確かに強いが……』

 

「……帰国する前にその顔を見ておこう。案内しろ」

 

「その前にアイグリーンスキーをトレセン学園に帰さないといけない。そこは了解してくれるな?」

 

「そのダンスインザダークなるウマ娘、私も見たいです」

 

「ダメだ。ビワハヤヒデと会う約束があるのにその約束を破るのか?」

 

「……ああ、ニジンスキーさんと会えるのが嬉しくてすっかり忘れていた」

 

『酷え話だ』

 

「まあそういうことだ。諦めろ。そのダンスインザダークと会うのは一年後にとっておけ」

 

「ぐっ……」

 

「そうがっかりするな。ニジンスキーの動画集を後で渡しておこう」

 

「おい!」

 

「ありがとうございます。サンデーサイレンス先生」

 

 抗議の声をあげるニジンスキーと腰を90度折り曲げるくらいに頭を下げる二代目。再びカオスなこの状況に誰も突っ込む者はいない。




後書きらしい後書き
お待たせしました……


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尚、次回更新は一週間後です

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