ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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前回のあらすじ
ニジンスキー「これが洋芝の走り方だ……!」


第31R 覚醒しないタマモクロス

 サンデーサイレンス達と別れた二代目はビワハヤヒデが所属するチームマシムの本拠地に来ていた。

 

「すみません、ビワハヤヒデ先輩はいますか?」

 

「あいつなら練習量を増やすゆうとったからまだ自主トレ中や。ここにはおらへんで」

 

 二代目の言葉に関西弁の芦毛のウマ娘タマモクロスがそれに答える。

 

「それじゃここで少しお待ちしますが宜しいでしょうか?」

 

「おお、ええで。どーせこのチームマシムのウマ娘が練習する時間はとうの昔に終わっとるからな」

 

「ありがとうございます」

 

「ところで名前なんや?」

 

「アイグリーンスキーです」

 

「アイグリーンスキー……知らんな。そのグリーンがビワハヤヒデに何のようでここに来たんや?」

 

「ビワハヤヒデ先輩が何か独り言を呟くようになったとビワハヤヒデ先輩の妹から聞きましてね。その病状を診にきたんです」

 

「そういうことかいな。医者か何か目指しておるんか?」

 

「いや医者でもそれを知る者はいませんよ。むしろ医者はそれを信じませんよ」

 

「何やと?」

 

 

 

「タマモクロス先輩、メジロパーマー先輩に負けた理由はメジロパーマー先輩が強かったからですよね」

 

「……まあな」

 

「メジロパーマー先輩が強くなった理由は覚醒したからですよ」

 

「はぁ? そんなん言われんでもわかっている」

 

「正確には極限まで追い込まれ覚醒したと言うべきでしょうね。これ以上は覚醒していないタマモクロス先輩に言っても理解、いや納得出来ることではありません」

 

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

 

「ここから先はオカルト染みた話しになるんですよ」

 

「オカルトぉ~? 良いから言うてみい」

 

「タマモクロス先輩、パラレルワールドの自分を意識したことはありますか?」

 

「ぱ、パラパラ?」

 

「パラレルワールド。ざっくり言えば異世界のことです」

 

「異世界……何か胡散臭いな」

 

「じゃあ止めましょう。胡散臭いので」

 

「ちょ、待てえや! 聞かへんとは言うとらん!」

 

 タマモクロスが慌てて腰を上げてそれを止めようとすると扉が開く。

 

 

 

「何を騒いでいるんだ?」

 

 汗をかいたビワハヤヒデが丁度そこに現れ、二人を見つめる。

 

「ビワハヤヒデ先輩」

 

「ハヤヒデ、丁度良えところに!」

 

「な、なんだ?」

 

「ビワハヤヒデ先輩、妹さんからお聞きしましたけど日本ダービー以来独り言をずっと呟くようになったようですね」

 

「……聞かれていたのか」

 

「聞かれていたもくそもあるかい。ウチにも聞こえるように言うとったからな」

 

「なら仕方ない、正直に言おう。今の私は──」

 

「異世界のビワハヤヒデがアドバイスを送ってくれている──でしょう?」

 

 それを聞いたビワハヤヒデが目を見開き、タマモクロスが混乱する。

 

 

 

「何故それを知っている?」

 

「私も異世界の自分の魂の声が聞こえるからですよ」

 

「お前もか!?」

 

「ええ。極限まで追い込まれたウマ娘は覚醒し異世界の自分の魂の声が聞こえるようになり能力が伸びる。私もメジロパーマー先輩も実際に魂の声が聞こえるようになってから強くなりました。そしてビワハヤヒデ先輩も先日の日本ダービーで沈んだと思われた直線から脅威の豪脚で二着同着まで巻き返したのは覚えているでしょう」

 

「それはその通りだ」

 

 

 

「ほなら、何か。異世界の自分と話しが出来るようになったからハヤヒデは独り言を言うようになった言うんか?」

 

「正確には独り言のように話しているんですよ」

 

「どっちでもええ。グリーン、確か極限まで追い込まれたら覚醒する言うたな?」

 

「ええ。私はチームギエナの練習の厳しさから、メジロパーマー先輩の場合は私との併せウマで覚醒し、ビワハヤヒデ先輩は先日の日本ダービーで覚醒しました」

 

「ほならハヤヒデ、準備せえ!」

 

「これ以上トレーニングをすると逆効果になりますのでお断りします」

 

「ならグリーン、お前や!」

 

「私ですか?」

 

「そや。メジロパーマーを覚醒させたならウチも覚醒させろや! せやないと不公平や、不公平!」

 

 ブーイングを混じりながらタマモクロスが二代目に抗議する。

 

 

 

「まあ、メジロパーマー先輩をあんなに強くしたのは私の責任ですが、メジロパーマー先輩自身もかなり強いですから覚醒したところで勝てるかどうかまでは──」

 

「ごちゃごちゃ言わんとはよやるで! やらんよりマシや」

 

「それに今の私はトレーニングした後で疲れが溜まっています。今の状態では相手が中堅クラスのウマ娘ならともかく重賞を何勝もしているタマモクロス先輩に敵うはずがありませんよ」

 

 

 

「それもそうやな……それなら明日の放課後付き合え。それならええやろ!」

 

「わかりました。ビワハヤヒデ先輩も一緒に併せウマやりますか?」

 

「是非ともやる。明日は予定があると本来なら言うところだが、君との併せウマほど効率的なトレーニングはない。多少予定を変更してでもその価値はある」

 

「ハヤヒデ、トレーニングもエエけど飯にも注意せえ。オグリがここにやって来た直後栄養バランスの悪い食事をしとったせいで体を動かすこと出来へんかったからな。ウチが改善させたおかげで大阪杯勝てた言うても過言でもないで」

 

 どや顔で胸を張るタマモクロスに二代目が口を出す。

 

 

 

「タマモクロス先輩、まずは自分の貧相な体を──」

 

「しゃーっ!」

 

 タマモクロスが二代目に飛びかかり、爪を出して引っ掻こうとするが二代目は持ち前の運動神経でそれを避ける。

 

「タマモクロス先輩、落ち着いて!」

 

「ふーっ!」

 

 ビワハヤヒデがタマモクロスを取り押さえるもタマモクロスは興奮を抑え切れず、じたばたとその場を暴れる。

 

「アイグリーンスキー君、タマモクロス先輩の前で胸の話は止めてくれ。彼女なりにコンプレックスを持っているんだ!」

 

「私が言おうとしたのは身長ですよ」

 

「あ? 身長?」

 

「そうですよ。メリーナイス先輩じゃありませんし、からかうことはしません」

 

 

 

「ウチがちびっこいんはウチが幼い頃、何も食えへん状況だったからや」

 

『そういやタマモクロスが生まれた牧場はタマモクロスが売れる前に潰れたんだっけか? 俺が生まれる4、5年くらい前の話だからうろ覚えなんだよな』

 

 先代が口を挟んだのを聞いた二代目がタマモクロスが何故そんなに小柄なのか察した。

 

 

 

「察しました」

 

「空気読めや。そいでな、ウチの両親は借金の返済に追われて蒸発してもうたんや」

 

「蒸発?」

 

「蒸発言うんは要するに意図的に行方を断っていなくなることや。で、ウチに残されたのは借金だけ。その借金返済の為にウチは今度の宝塚記念勝たなアカン。イナリもクリークも出走せえへん以上、パーマーだけが目の上のたん瘤なんや」

 

「えっ!? スーパークリーク先輩は新聞で前から言っていたからわかりますけどイナリワン先輩もですか?」

 

「それは初耳ですよ、タマモクロス先輩」

 

 タマモクロスがさりげなく自分のクラスのメンバーであるイナリワン、スーパークリークの二名が出走しないことを聞いて二代目とビワハヤヒデが目を見開く。

 

 

 

「知らへんのか? イナリは連敗が続いておるから負け癖を抜く為に帝王賞に出走するらしいんや。そんな理由で宝塚記念には出られへん」

 

「つまり、逃げた訳ですか」

 

「身も蓋もない言い方やけどそうなるな。まあ負け癖を抜くには丁度ええかもしれんな。なんてったてウチが次の宝塚記念勝つんやからな」

 

「メジロパーマー先輩やオグリキャップ先輩は?」

 

「覚醒すればパーマーもオグリも怖ない。ウチは阪神大賞典でパーマーに引き分けているからな」

 

 その後、二人に限らずトレセン学園の関係者がタマモクロスの笑みを見かけることになったのは宝塚記念以降だった。




後書きらしい後書き
今回はタマモクロス中心会でしたね。オグリもタマモも、クリークもイナリも皆主人公やれるだけのドラマがあると思うのは私だけでしょうか?


それはともかくこの第31Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一週間後です

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