ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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前回のあらすじ
タマモクロス「胸が小さいのは希少価値や!」


第32R 食堂

 翌々朝、チームマシムの練習後、この日もタマモクロスが覚醒せず二代目は新聞を読みながら悩んでいた。

 

「なんでタマモクロス先輩は覚醒しないんだろう……」

 

『さあな。俺にもわからん』

 

 二代目の疑問をバッサリと切り捨てる先代に顔をひきつらせた。

 

「先代もわからないの?」

 

『競走馬の俺がアドバイス出来るのは所詮競馬や競走馬のことだ。その知識を生かしてウマ娘のお前にアドバイスをしているだけであって、それ以外のことは素人に毛を生やした程度しかない』

 

「それはごもっともね」

 

『ただ一つだけ言えるのはこのままだとタマモクロスは永遠に覚醒しない。むしろ逆に今度の宝塚記念で惨敗するのが目に見えている』

 

 

 

「先代、競走馬のタマモクロスってこの時めちゃくちゃ強かったんでしょ?」

 

『そうだ。天皇賞春、宝塚記念、天皇賞秋のGⅠ三勝に加えJCと有馬記念を二着。間違いなく当時の競馬界の主役の一頭だった』

 

「でもこっちのタマモクロス先輩は天皇賞春で二着、宝塚記念で惨敗したらもうそれはタマモクロスとは言えないんじゃない?」

 

『天皇賞春に関してはお前の責任もあるだろ。何せ競走馬のメジロパーマーが、勝つはずのなかった天皇賞春を勝たせるまでに成長させたんだからな』

 

「全く反論出来ない」

 

『良くも悪くもお前を含めた覚醒したウマ娘に限らずこれからお前はウマ娘を大きく変えていくことになる。それだけは忘れるな』

 

「うん。タマモクロス先輩が一番の被害者だし、宝塚記念前には覚醒する条件を見つけないと申し訳ないよ」

 

『よし、それなら良い』

 

 先代の声が静まると共にナリタブライアンが近づき、声をかける。

 

 

 

「グリーン、姉貴の方は大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。あれはむしろレースに強くなる傾向だから」

 

「そうか……」

 

「ところでチームリギルにジュニアAの期待のウマ娘が入ったっておハナさんから聞いたんだけど、彼女はどうなの?」

 

「エアグルーヴのことか?」

 

「そう、皐月とダービーの二冠をはじめとしたGⅠ競走7勝も視野に入れるほどの逸材なんでしょ?」

 

「トレーナーからそう言われているだけだ、先輩」

 

 ナリタブライアンの後ろから現れたウマ娘が二代目に声をかける。

 

「エアグルーヴ、何故ここにいる?」

 

 そのウマ娘、エアグルーヴを知っていたナリタブライアンがエアグルーヴに尋ねると鼻で笑われた。

 

「ハッ、ナリタブライアンが負けたウマ娘がいると聞いて見に来ただけだ」

 

「先輩を敬う気すらない……」

 

「レースに年齢は関係ない。全ては強いものが勝つ」

 

『それはごもっともだ。レースで年齢序列があるなら長生きした奴が勝つからな。もっともこの学園の最強ウマ娘が最年長のマルゼンスキーなのは皮肉でしかないが』

 

 先代の指摘に二代目は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

「何を笑っている?」

 

「いや、おハナさんも大変なウマ娘をチームに入れたなって思って」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「確かに素質のみなら同世代でもトップクラスだと思うけどそれ以上に環境に弱そう」

 

『良くわかったな、二代目。エアグルーヴは風邪をひいたせいで桜花賞を棒にふって回避してしまっただけでなく、秋華賞でもフラッシュを焚き付けられ動揺したのが原因で惨敗しているからな。風邪はともかくフラッシュごときで動じるとは全く情けない野郎だ。いや情けない女だ』

 

 

 

 競馬場で──正確には馬に向かって──フラッシュを焚き付ける行為はレースに影響が出る為に非常に宜しくない。

 

 競走馬にしてみれば、フラッシュを焚き付ける行為は鉄砲を耳元で鳴らされるようなもので、動揺するのは普通の馬であれば仕方ないことであり、いつ鉄砲が自分に向かってくるかわからない恐怖に震えることになるからだ。

 

 そんな恐怖を感じない先代が異常なだけなので何一つエアグルーヴ(競走馬)に非はないと言える。むしろ非があるのはフラッシュを焚き付けた無知な人間達だ。

 

 

 

「環境に弱そう? 何をバカなことを」

 

「その言葉がわからないのは大人じゃないからね。私くらい大きくなれば自然とわかるようになるよ」

 

「嘘をつくな」

 

「……ふっ」

 

 鼻で笑い、挑発する二代目にエアグルーヴがコメカミを抑え、怒りを溜める。

 

「ナリブー、こんなウマ娘がチームの後輩だなんて大変だね」

 

「大変なのはお前がいるからだ。普段は大人しい」

 

『そういや俺が種牡馬現役の時にエアグルーヴに種付けしようとしたら、奴が暴れて中断されたのをすっかり忘れていたぜ。結局エアグルーヴと交配することなく別の繁殖牝馬と交配することになったが……多分ウマ娘のエアグルーヴがお前に突っかかってくるのは魂レベルで俺の存在が気にくわないからだろうな』

 

 

 

「ナリブー、ビワハヤヒデ先輩の件で貸し作ったんだから私の要望も聞いて貰える?」

 

「言ってみろ」

 

「タマモクロス先輩の併せウマの相手をチームリギルから一人以上用意して欲しい」

 

「無理だ」

 

「無理?」

 

「理由はいくつかあるが、会長やマルゼン先輩は私の発言で動けるほど暇ではない。むしろ調整に必死なくらいだ。他のメンバーだと力不足にも程がありタマモクロス先輩の相手をしてやれるウマ娘はいないんだ」

 

「それは副会長のことも?」

 

「副会長は現在海外遠征でトレセン学園にはいないからノーカンだ」

 

「ノーカンって……」

 

「第一チームリギルのウマ娘でなければならない理由はなんだ? お前のところでも良いんじゃないのか?」

 

「チームカノープスのウマ娘は良くも悪くも秘密主義者が多い。それ故に他のチームのウマ娘とは併せウマをしない……いや、したがらない傾向が強いんだよ。今もっとも勢いがあるヤマトダマシイ先輩は特にね」

 

 ヤマトダマシイはかつてメジロパーマーと併せウマをしたことがあるが、他のチームのウマ娘と併せウマをしたのはその一度きりだけで後は全て同じチーム内のウマ娘としかしていない。

 

 それに対してチームカノープスの他のメンバーは二代目ほどでないにせよ他のチームのウマ娘と併せウマをしており、ヤマトダマシイが一番閉鎖的である。

 

「チームギエナのウマ娘を集めたのだから当然と言えば当然なんだが、それだけでは理由は弱いな。お前が併せウマの相手をすれば良いだけだろう」

 

「もうとっくにしたよ。だけど私だと役不足みたいでね」

 

「そうか……お前がか」

 

 ここでナリタブライアンは役不足の意味を壮大に勘違いしていた。自分の力量に対して役目が不相応に軽いことを役不足という。

 

 しかしナリタブライアンは力不足と思い込み、二代目と言えどもタマモクロスに勝てるほど強くなかったのだと勘違いしてしまった。

 

 

 

「チームマシムにいるハヤヒデ先輩も一緒にやったんだけどね……ハヤヒデ先輩も(ハヤヒデの方が強すぎて)力になれなかったんだ」

 

「姉貴も(タマモクロスに勝つのは)無理なのか……」

 

「そこで少数精鋭のチームリギルならタマモクロス先輩の併せウマの相手が見つかりそうだなって思って」

 

「納得はしたが、現時点では無理だ。チームリギルから紹介出来るのはいないと言って良い」

 

「残念……」

 

 腕を組み、二人が思考していると芦毛のウマ娘が二代目に近づき、声をかけてきた。

 

「二人とも、そのご飯食べないのか?」

 

 そのウマ娘は今年の大阪杯を制したオグリキャップだった。

 

「オグリキャップ先輩」

 

「食べないなら私にくれ」

 

 涎を垂れ流し指を加えながら二人の食事を見つめるオグリキャップ。トレセン学園ですっかりと食いしん坊キャラの地位を確立していた。

 

 

 

『ったく、ヘレニックイメージがそこらにある草すらも食ってしまう食いしん坊なのは知っていたがオグリキャップも食いしん坊なのか?』

 

 先代の声に反応しようにも出来ない。反応したら電波を受信する変人ならぬ変ウマ娘として学園中に広まるからだ。

 

「オグリキャップ先輩ってもしかして食いしん坊なんですか?」

 

 二代目が一言オグリキャップに告げるとオグリキャップが赤面し、首を横に振る

 

「ち、違う! 私は食いしん坊じゃない。ただ勿体ないから先輩である私が責任を持って処分しようとしているだけだ!」

 

「確かにオグリキャップ先輩はトレセン学園の先輩ですけど、同じチームにいるって訳じゃないですよ。ね、ナリブー」

 

「いや私に聞くな。同じチームでもあるまいし」

 

「それに……いや、このご飯食べても良いですよ」

 

「やった。それじゃ頂き──」

 

「その代わり、条件があります」

 

 それを聞いてオグリキャップの動きが止まる。

 

「なんだ?」

 

「オグリキャップ先輩、タマモクロス先輩と併せウマをして下さい」

 

「タマ……タマモクロスとチームは同じなのか?」

 

「いえ、違います。ただタマモクロス先輩には借りがありますからね。タマモクロス先輩の併せウマの相手をセッティングするのは当たり前のことです」

 

「タマモクロス自身は併せウマの相手を探しているのか?」

 

「ええ。私やハヤヒデ先輩とも走りましたが走りが冴えませんのでオグリキャップ先輩なら走りを良くしてくれるのではないかと」

 

「なるほど。だが私がタマモクロスと走るメリットは少ない。むしろ宝塚記念で強力なライバルになりかねない。悪いがこの話、断らせて──」

 

「情けないですね」

 

 二代目が嘲笑い、笑い声を抑えた声でオグリキャップに侮蔑の眼差しを向ける。

 

 

 

「なんだと?」

 

「オグリキャップ先輩、聞きましたよ。タマモクロス先輩に食事の習慣を改めさせられたことを。タマモクロス先輩の指導がなきゃオグリキャップ先輩は大阪杯勝てなかったんじゃないんですか?」

 

「だからどうした。確かにタマには世話になった。だがそれとこれとは話は別だ」

 

「貴女には──」

 

「やめや、アイグリーンスキー」

 

 途中からタマモクロスが割り込んで、二代目を止める。

 

「タマモクロス先輩……」

 

「ウチのことで動かへんのならしゃーない。むしろ動いたら動いたで不都合や」

 

「不都合?」

 

「せや、ウチはあのことを貸しとは思っとらん。あまりにも食生活が乱れとったからお節介焼いただけや」

 

「しかしタマモクロス先輩、それでいいんですか?」

 

「二度も三度も言わせんな。ウチはやるだけのことやってみるだけや。ほな」

 

 タマモクロスがそれだけ告げるとその場から去り、姿を消していく。

 

「……そういうことだ。タマが望んでいない以上、私がやる必要はない」

 

 オグリキャップが二代目の朝食をかっさらい、その場から離れようとする。

 

「オグリキャップ先輩、それなら私のご飯を返して下さい」

 

 二代目がオグリキャップの腰にしがみつき、動きを止めさせた。

 

 

 

「わ、わかった。この朝食は返そう。だから離してくれ」

 

 渋々、名残惜しそうに、後ろ髪を引かれるようにオグリキャップが二代目に返すと残像を残しながら消えていく。

 

「なっ!?」

 

 その光景を見た全員が口を開け唖然とする。

 

「ご馳走さまでした。さて、オグリキャップ先輩、またご縁があればお会いしましょう。ナリブーもエアグルーヴもね」

 

「あ、ああ……」

 

 この中で年長者たるオグリキャップが返事をするがあまりの出来事にそう答えるしかなかった。




後書きらしい後書き
ストック切れ怖い……


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尚、次回更新は一週間後です

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