芦毛の怪物&シャドーロールの怪物「悪いなグリ太。私達は別に用事があるんだ」
放課後
チームマシムにてタマモクロスがビワハヤヒデに何度も挑むが結果はビワハヤヒデの全勝。余りの不甲斐なさにタマモクロスが涙を流し始めた。
「何で、ハヤヒデに勝てへんのや……」
「やはり覚醒していないからじゃないでしょうか」
泣きじゃくるタマモクロスにビワハヤヒデが冷静に指摘する。
「なぁハヤヒデ、覚醒するにはどないしたらええんや!? ウチどうしてもパーマーに勝ちたいねん!」
「そう言われましてもこれは当人の問題ですので、私からアドバイス出来ることは精々、覚醒した時はゾーンに入った感覚に近いとしか言いようがありません」
「それ以外でなんかあらへんの……?」
「まるで子供ですね、タマモクロス先輩」
タマモクロスが子供のように泣きじゃくりビワハヤヒデにしがみつく様子を笑うようにタマモクロスに声をかけるウマ娘がいた。
「アイグリーンスキー?」
「どうも。タマモクロス先輩。今日は特別ゲストと併せウマして貰います」
「特別ゲスト……?」
「そう昨年クラシック級で有力視されながらも無冠に終わったウマ娘がここに来ています……カモン!」
二代目以上の巨体を誇る身長と強靭な肉体、そしてその肉体にふさわしいワイルドな顔立ち、尾花栗毛を隠すバンダナとサングラスがトレードマーク、服装は真っ白な褌とサラシ、右手に持つのはニンジンに似せたフランスパン、そうそのウマ娘の名は……
「いや誰ぇぇぇっ!?」
そのウマ娘を見た瞬間、タマモクロスが大声で叫ぶ。
「は? なに言っているんですか、先輩。サッカーboy先輩ですよ。去年のマイルCS見忘れたんですか?」
「こないな奴知らんわ! ウチが知ってんのはウチと同じくらいのチビのサッカーボーイや! それがなんでこんな似ても似つかないゴリラのような奴を用意ってどういうこっちゃ! サッカーboyってなんやねん! そこはサッカーボーイっていうところやないか! 何でボーイが無駄にナチュラルに英語になっとんねん!」
タマモクロスが息切れするほどに突っ込んで、手を膝につけると二代目がため息を吐いた。
「いい加減にしてくださいよ。時間を空けてくれたサッカーboy先輩に申し訳ないんですか?」
「ランイズマネー、ワタシ坂路一本デニンジン1ダース、坂路二本でニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」
空気を読まずサッカーboyが口を開くと芦毛のウマ娘達二人の空気が凍りついた。
「オーケー、坂路三本でニンジン三本、坂路四本で四半分よ」
「何で三本になってから徐々に減っとるんねん!」
二代目の返答にタマモクロスがそうツッコミを入れるがサッカーboy達は無視した。
「オーケー、それではイキマショー」
「え、ちょっ、待てや」
「アイムウマ娘トレーナー」
タマモクロスの抑止の声を出すが無駄に終わり、サッカーboyがタマモクロスを脇に抱え、その場から消えていく。
「だ、大丈夫なのか?」
残ったビワハヤヒデがそう尋ねると二代目が笑顔で答えた。
「これでダメならタマモクロス先輩は何も出来ないウマ娘だったってことですよ。覚醒する方法の確立は他のウマ娘で試すことにします」
さりげなく酷いことを言う二代目にビワハヤヒデが戦慄し、言葉を無くした。
「ゴリラみたいな身体してスタートも坂を登るスピードも速いとか反則やろ!」
サッカーboyに負けたタマモクロスが坂路を一本終えるとそう叫ばずにはいられなかった。
それもそのはずサッカーboyの身体は筋肉が付きすぎて体重があまりにも重く坂を昇るスピードや加速が遅くなる。その点ではタマモクロスの方が有利になるはずだった。しかしタマモクロスの目の前を走ったこのサッカーboyはそれに当てはまらず、サッカーboyは常にタマモクロスの前を走り続けた。
「スイマセン、コレダケッスカ?」
「ノーノー今日はとことんやって頂戴オーケィ?」
「オーケー」
一本目が終わり、サッカーboyが尋ねると二代目が返答し二本目を促す。
「その坂路トレーニング、ちょっと待った」
そこへ坂路にいるウマ娘の声が響き、二代目が目を見開く。そのウマ娘の顔は覆面マスクで覆われており、顔の判別が付き辛く、一目見ただけでは判別がつかない。それ故に二代目や他のウマ娘達が絶句してしまうのは無理もなかった。
「オグリキャップ先輩……?」
それにも関わらず、何故二代目がオグリキャップと判断した材料は声と覆面の後ろから見える髪の毛が灰色かかった芦毛であったからだ。
「本当だ……オグリキャップ先輩だ」
「何でここにおんねん」
ビワハヤヒデとタマモクロスがキャプテン・グレーと名乗るそのウマ娘を観察するとオグリキャップの体格に酷似しており、オグリキャップと判断した。
「違う。私はオグリキャップではない。私の名はキャプテン・グレーだ」
「そのキャプテン・グレーが何の用や?」
「タマモクロス、お前と併せウマをしに来た」
「はっ、さっき断ったウマ娘のセリフとは思えんな」
「だからオグリキャップではないと……」
「アンタ、何でオグリとウチの話を知っているんや? あの場で会話を聞いていたのは数人だけやで」
「………………………………さて、そんなことよりやろうか」
「無視すんな!」
キャプテン・グレーが無理やりコースに入り、そこにいたサッカーboyと並ぶ。
「イツデモイイヨ」
「ではやろうか」
サッカーboyとキャプテン・グレーが顔を見合せ、スタートするとタマモクロスが鬼の形相で追いかけた。
「おい、待てやお前らーっ!」
完熟したトマトの如く顔を真っ赤に染めたタマモクロスが二人を追いかけるが出遅れた差は縮まらない。それどころか広がる一方だった。
「ぶっ殺したるーっ!」
物騒な発言をしたお陰か、それとも殺意を持つ余り、馬鹿力が働いたのかどちらにせよタマモクロスの身体が軽くなり足取りも水切りをする石の如く跳ねていき、その差は徐々に縮まっていく。
「うぉぉぉぉっ!」
しかしサッカーboyとキャプテン・グレーとて黙って見ている訳ではない。雄叫びとも呼べる声を上げ、タマモクロスを引きはなそうとする。
『おい、タマ。てめえの負けたくねえって気持ちはそんなもんかよ。後輩達には負け、同期達にも舐められていんのにそれでいいのかよ!』
「じゃあかしいっ!」
そしてタマモクロスの足場だけが坂路から平坦な道へと変わった。
「何っ!?」
「ホワッ!?」
坂路をまるで平坦な直線を走るかの如くタマモクロスが駆けていく姿にサッカーboyとキャプテン・グレーが目を見開きながら置き去りにされていき、そのまま登り切った。
「へへ……ようやっと出来たで」
それまでキレていたタマモクロスの姿は何処にもなく、晴れやかな笑みがそこにあった。
「覚醒おめでとうございます、タマモクロス先輩」
「グリーン、あんがとな。ウチの為にこんな色物なウマ娘を紹介してくれて」
「だからこのサッカーboy先輩はタマモクロス先輩と同じクラスでしょう? ねぇ、オグリキャップ先ぱ──は?」
二代目がキャプテン・グレーに向けてそう声をかけようとするとそこにキャプテン・グレーはおらず代わりにサンデーサイレンスが居り、間抜けな声を出す。
「だから言ったであろう。余はオグリキャップではないと!」
覆面のせいで汗だらけになった顔でもどや顔は忘れずに行うサンデーサイレンス。余りのどや顔に殺意すら覚えたタマモクロスが目のハイライトと気配を消して、サンデーサイレンスに近づき噛みついた。
「よくも騙したなボケーっ!」
頭蓋骨を砕く勢いでタマモクロスが頭に噛みつき、絶叫する一方で噛みつかれたはずのサンデーサイレンスは叫び声を上げるどころか無言だ。
その違和感を感じたタマモクロスがサンデーサイレンスを見ると木彫りの仏像に変わっていた。
「
「先日夜も寝ず昼寝して作成した身代わり君3号だ」
「夜も寝ず昼寝したことを突っ込めばいいのか、1号と2号はどうしたのかという突っ込みをすればいいのかわからなくなってきた……」
頭を抱えながらビワハヤヒデがそう呟くとサンデーサイレンスが両方の疑問に答えた。
「バカか。夜も寝なかったら昼寝するしかないだろう。それに1号と2号はルナちゃんとたづな理事長秘書の説教の生け贄になったぞ。全く、怒られる筋合いはないと言うのに説教とは非常識にも程がある」
冷めた目でビワハヤヒデに解説すると同時にルナちゃんことシンボリルドルフとたづなに怒られる理由がわからずそれにキレるサンデーサイレンスに、ビワハヤヒデが手を挙げた。
「いや説教の理由なんて単純なものでしょう。こんな下らないものを徹夜でつくった挙げ句、昼寝して仕事をサボるなんてそれこそ非常識そのものです」
身代わり君4号に説教するビワハヤヒデにサンデーサイレンスがそれを撮影する。
「題名、木彫りに説教する堅物……と。むっふっふ。いいものが手に入った」
サンデーサイレンスが笑みを浮かべ逃げるとビワハヤヒデが頭を抱える。
「なぁ、アイグリーンスキー君。いつもあのウマ娘はあんな感じなのか?」
「ええ、残念ながら。しかし有能な特別講師であることに変わりありません」
「……まあ、この身代わりを見ている限りでもスペックが高いのは違いない」
ビワハヤヒデが付け加えるように「もっとも無駄な才能の使い方ではあるが」と呟き、身代わり君4号を叩く。
「それよりか本物のオグリキャップ先輩を探しに行きましょう」
「そらなんでや?」
「サンデーサイレンス先生は意外なところで神経質です。先ほど本物のオグリキャップ先輩が現れないように何かしらの手を打った可能性があります」
「サーチイズマネー、ワタシ一人見つけたらニンジン1ダース、二人見つけたらニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」
「オーケー、報酬はオグリキャップ先輩から剥ぎ取って下さい~」
「マム、イエスマム」
そしてサッカーboyがオグリキャップを探しに向かい、その場から消え去る。
「なあ、アイグリーンスキー。もし良かったら今後も併せウマ頼めへんか?」
「構いませんがいいんですか?」
「構へん構へん。チームマシムは芦毛のウマ娘しか集まらん弱小チームや。重賞は勝ってもGⅠ競走まで届かへんのが実情や」
「芦毛のウマ娘しかいないって……なんでそんなところに所属したんですか?」
「ウチかて大手のチームに所属したかったわ! けどチームリギルには試験で落ちるし、チームギエナ*1は満員で所属不可能だったんや。そいでやむ無しにこのチームマシムに所属することになった訳や」
「それは仕方ないですね。メリーナイス先輩にマティリアル先輩、サクラスターオー先輩と言った去年のクラシック級の三冠レースを盛り上げた面子が揃っているんですから」
「しかもウチ、ダートウマ娘やと思っていたから尚更嫌われたんや。芝で走らない奴はいらない言うてな」
「絶対あいつだ……すみませんね。あいつが迷惑をかけて」
『今だから言えることだがあのトレーナーはタマモクロスに芝で走る様に伝えたかったんじゃないかと思うがな』
先代が口出しするも二代目はスルーしビワハヤヒデの方へ顔を向ける。
「ハヤヒデ先輩は?」
「私はジュニア予備時代に出来た怪我が原因で所属することが出来なかったんだ。木が足の中筋の少し前まで入り込んで、少しでもズレていたら競走生命に関わる大怪我だったんだ。それでチームに所属出来たのがジュニア級の一学期終わり頃でチームマシムしか募集していなかったからここに所属することになった」
「もうその怪我は大丈夫なんですか?」
「そうでなければダービーに出ない。今は傷痕だけだが見てみるか?」
ビワハヤヒデがスカートを捲り、右足の腿を見せるとハヤヒデの指の太さ程の丸い傷痕がそこにあった。
「思ったよりも傷痕が小さくて安心しましたよ」
「それだけが不幸中の幸いだった。もし傷痕が広がっていたらトゥインクル・シリーズに参加出来なかったかもしれない。アイグリーンスキー君、怪我というのは馬鹿に出来ない。一歩間違えれば致命的な物になりかねないから君も気を付けることだ」
「ご忠告ありがとうございます。ハヤヒデ先輩」
二代目がビワハヤヒデに礼を言い、オグリキャップを探すが見つからず、その場で解散となった。
翌日フランスパンを口に押し込まれていたオグリキャップの姿がチームマシムで目撃され、タマモクロスが悲鳴を上げることになるがそれは別の話である。
後書きらしい後書き
ストック切れ……切れなーい! 切れそうなのは事実だけど!
それはともかくこの第33Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。
尚、次回更新は一週間後です
次にウマ娘として出てくる青き稲妻の物語の競走馬はどれがいい?
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