ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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ふと思い付いたネタ
セントサイモン「魔女狩りじゃぁぁぁーっ!」
スイープトウショウ「ちょっとちょっとなんでこうなるのよーっ!」
人を殺すほど気性が荒いとまで言われたセントサイモンは猫嫌いであり、黒猫は魔女の象徴とされていた。つまり魔女に憧れるスイープトウショウも粛清対象になる。ちなみにSSの母系の祖先ラフレッシュはセントサイモンの娘とは思えない程大人しかったとのこと。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「敵は東京レース場にあり!」


第40R 丸善と二代目の併走

 トレセン学園某所にて、朝日杯FSをナリタブライアンが勝利を納めている丁度その頃、今この場で騒然とするものは誰もいない。むしろ厳粛とした程でウマ娘三名しかいない。

 

「……行くわよ」

 

「マルゼン姉さん、全力で行かせてもらいます」

 

「それじゃ、フジキセキ。スタートの合図よろしくね」

 

「はい」

 

 そのウマ娘はマルゼンスキー、二代目、そしてフジキセキの三名だった。フジキセキがここにいる理由はサンデーサイレンスが呼び寄せ、フジキセキに勉強させる為だ。朝日杯FSを見るだけでも勉強になるがこの二人はシニアのGⅠ競走でも十分に勝てるだけの実力がある。しかしマルゼンスキーは怪我の影響等が重なり出走出来ず、二代目はそもそもジュニア級で出走する権利すらない為に実績がない。

 

 

 

 ──実績こそないが超一流の実力ウマ娘達の併せウマを見る機会などそうはない。はっきり言って朝日杯よりも余程有意義だ──

 

 

 

 そうフジキセキが思うのは無理なく、フジキセキは他のクラスメイトに混じらずにこちらに来た。

 

「用意、スタート!」

 

 フジキセキの合図により二人が駆け抜けるとマルゼンスキーが先行し、二代目がその後ろについていく。

 

 

 

『流石スーパーカーと呼ばれるだけあって速いな。だが勝てない訳じゃねえ』

 

 先代がそう助言すると二代目は無言で頷く。

 

『マルゼンスキーはスピードにものを言わせて勝つが、実際の所はステイヤーだ。尤もそれに気づいているのは極少数でマルゼンスキー自身も気づいていない……』

 

 聞くだけでどれ程絶望的な情報か、と二代目が思う。短距離のスピードでしかもそれが延々と続く。勝てる要素がないと言われたも当然だ。

 

 しかしそんな二代目の思いを無視して先代が話しを続ける。

 

『だが俺の知るマルゼンスキーは短距離が多く長くても1800m。こっちのマルゼンスキーの最長距離であるWDT(ウィンタードリームトロフィー)でも2400mだ。400mも違えばもはやそのレースは別物になるのに今回の距離は3200mだ。走り方どころかペースすらも乱れる可能性もある。いくらスピードのあるステイヤーと言えどもペースも走り方もわからなきゃ隙が出来る。その隙を付けるのはウマ娘の中ではペースも走り方も熟知しているシンボリルドルフくらいしかいない』

 

 ──尤もそのシンボリルドルフですらギリギリだが──

 

 と付け加え、更に絶望させて走らせる。しかしこの程度で二代目の心は折れずマルゼンスキーについていく。

 

 

 

 その一方でフジキセキは自分の前世とも言える魂──フジキセキ(競走馬)の声に耳を傾ける。

 

『……どうやらこの勝負見えたな』

 

「何故そう思えるのかな? もう一人の私」

 

『スピードで劣るはずのシンボリルドルフがWDTでマルゼンスキーに勝てる理由はシンボリルドルフが完璧な立ち回りをしてこそだ。所謂頭脳戦にある。しかしその頭脳戦をするにも土台となるスピードがなければ意味がない』

 

「それが先輩が足りないと?」

 

『そうだ。もっともこのレースは勝ち負けを競うものじゃなく課題を見つける為のものだから勝ち負けに拘る必要は何処にもない。ニジンスキーは、マルゼンスキーやラムタラにあってアイグリーンスキーにないものを身に付けさせる為にこの併せウマをセッティングしたんだろう。だがスピードは簡単に身に付くものじゃない。リギルのトレーナーはそれを見抜いていたからこそ完璧な立ち回りで捩じ伏せたアイグリーンスキーよりもスピードのあるナリタブライアンやヒシアマゾンを取った。立ち回りさえ理解してしまえばあいつらの方が上だ』

 

「……なら聞くけどそっちの世界のナリタブライアンとヒシアマゾンはアイグリーンスキーに勝ったのかい?」

 

『いやヒシアマゾンは勝てなかった。しかしナリタブライアンはダービーで勝ってみせた』

 

「今の私達の状況同様に先輩も当てはまるんじゃない?」

 

『かもしれないな。だが今のままじゃあいつが勝てないのば事実だ。それこそ何か切り札でも隠し持ってない限りはな』

 

 

 

『一流の走者は距離によって走り方が違う。マルゼンスキーはそれがわからないのに対してお前はそれを理解している。つまり一瞬のキレならお前の方が上だ。そのキレを活かせかつ、マルゼンスキーのスピード調整が難しい距離にしたんだからな』

 

 ──はっきり言ってセコい上に敗北フラグが立っている──

 

 二代目が一瞬だけそんな感情を出てしまうがマルゼンスキーを打ち負かすことに集中する。

 

「──っ!?」

 

 残り400mを切り、二代目が怒涛の追い上げを見せるとマルゼンスキーが息を呑み、汗が二倍に増え、マルゼンスキーが思わず息を呑む。しかしこの世界のマルゼンスキーはシンボリルドルフに敗北しているという経験もあり動揺も僅かなものですぐに平静になる。

 

 

 

「冗談はよし子ちゃんよ!」

 

『そんなんだから中古のスポーツカーだの何だのと呼ばれるんだよ』

 

「誰が中古ですって!」

 

 何故か先代の発言にマルゼンスキーが反応し加速する。

 

『俺の声が聞こえるのか不明だが長いことご苦労だったな。いい加減殿堂に入っちまいな』

 

「この私を舐めるんじゃないわよ! ましてやグリーングラス先輩に負けたウマ娘に負けたなんてことになったら長距離向きじゃないって証明するのと同じよ!」

 

 確かにここで二代目がマルゼンスキーに勝てばグリーングラスが頂点になりマルゼンスキーが最下点となりTTGが揃った有馬記念*1に出たとしても4着だっただろうと永遠に言われることになる。それだけは何としてでもマルゼンスキーは避けたかった。

 

 しかし二代目にはそんなことは関係ない。むしろ二代目はこの場にグリーングラスがいようが、TTG全員いようが勝てないレースをするつもりでありマルゼンスキーが勝てないのか仕方なかったと言わしめるレースをするだけだった。

 

 

 

 マルゼンスキーが差し返し、二代目に差をつけ始めると二代目が呟いた。

 

「確かに私単体じゃマルゼン姉さんには手も足も出ない……だけどマルゼン姉さん、私は一人じゃない。今までの走りはトウショウボーイ先生と私の二人分でしかない!」

 

 二代目の叫びが響きそれと共に二代目が加速した。

 

「そしてこれがテンポイント先輩とグリーングラス先輩の分!」

 

 更に加速しマルゼンスキーに並んだと同時に前傾姿勢を取る。

 

「最後に初代アイグリーンスキーの分!」

 

 その宣言と共に二代目がマルゼンスキーを更に差し返した。

 

「初代だかなんだか知らないけど、私にも思いがあるのよ……! これが奇しくも私と戦えなかったシアトルスルー*2の分よ!」

 

 マルゼンスキーが加速し、二代目をあっさりと差し返すと二代目に動揺が走る。

 

「なっ……!」

 

「ナリタブライアンやヒシアマゾンに勝ったのに関わらず貴女がトレーナーに評価されなかった一番の理由、それはどんなに突き放しても諦めない勝負根性に恐怖したから。ギエナのトレーナーは競り合いに強くさせるトレーニングをさせていたけど貴女にそれはない。何故なら貴女は立ち回りが完璧過ぎるから底力が出せず私やシンボリルドルフの領域までたどり着けないってことよ!」

 

 それからマルゼンスキーが徐々に突き放していくがそれは停滞した。

 

「それはマルゼン姉さんも一緒でしょう!」

 

 目が血走り、二代目がマルゼンスキーに必死に食らいつく。その様子はフジキセキがドン引き程であった。

 

「天まで駆け抜けるなら地の果てまで追いかけてやるぅっ!」

 

 その姿はまさしく執念そのものであり突き放された差を徐々に取り返していった。

 

「アイリちゃん、後5m長ければ勝っていたかもしれないわね。でも私の勝ちよ!」

 

 マルゼンスキーが二代目に1バ身差をつけてゴールし、併せウマという名前の模擬レースは終わった。

 

 

 

 

 

 そして有馬記念はヤマトダマシイとタマモクロスが急に発熱した為に回避し、イナリワンが勝ち、ビワハヤヒデが二着に食い込み三着にスーパークリークが入り終えたが、観客や一部のウマ娘はそれどころではなかった。最有力候補のオグリキャップは5着と散々たるものだったからだ。

 

「金返せイナリ!」

 

「うるせえっ、あたしを信頼しなかったてめえらが悪いんだろうが!」

 

「オグリが可哀想だろうが!」

 

「じゃかましい! オグリが可哀想なんてただの同情じゃねえか! あたし達ウマ娘はな、同情の応援はいらねえよ! それだったら悪役としてブーイングされた方がマシだ!」

 

「おう上等だこらぁっ! 何度でもブーイングしてやるよ! ブーブー!」

 

「子供かお前ら! ブーイングってのはこうやるんだよ! ファ(差別的表現の為、削除されました)」

 

 中指を立てイナリワンが観客のブーイングに応える。ちなみにイナリワンはこの後シンボリルドルフに滅茶苦茶説教された。

 

 

 

 ウイニングライブが終わり、オグリキャップが影を落とし顔を伏せているとタマモクロスが声をかけた。

 

「……オグリ、安田記念の勝負根性はどこに行ったんや?」

 

「JCだ。JC以来何故か食欲が出ないんだ。だから力が出ない……」

 

「食欲がない?」

 

「JCに出走したホーリックスのことを考えると手が止まるんだ。あの時、もっと少し太っていて見映えが良くなかったのでないのかとか大食いのウマ娘は嫌われるのでないのかと、後悔することがある」

 

「アホかぁっ!」

 

 タマモクロスがオグリキャップをどつき回し、手を出した。

 

 

 

「な、何をするタマ!?」

 

「それで良い結果が出せるならええよ。だけど無茶はあかん! ましてやレースの為じゃなくみっともない姿を改善する為のダイエットやろ。そんな舐めた態度でレースに挑むんはウマ娘全員を侮辱しとることになる」

 

「あっ……!」

 

「ええかオグリ。次のレースまで治しておけや。治したらあんたが出禁になっていない食べ放題に連れていったる」

 

「本当だな!?」

 

「ホンマや。約束したる」

 

「……待っていろ、今すぐ改善してみせる! じゃあな!」

 

 オグリキャップがその場を去り消えるとタマモクロスが呟く。

 

「まあ来年はハヤヒデの時代になるけどな。こればかりはどうしようもないでオグリ」

 

 オグリキャップが立ち去った方に顔を向け、呟くタマモクロス。

 

 

 

 タマモクロスがそう告げたのには理由があり、オグリキャップの食事に関する改善は長くなり不調が見込まれるのと、ビワハヤヒデ本人が中距離でも力を見せたスーパークリークを抑える程の実力を持っているからだ。

 

 今回勝ったイナリワンは偶然によるものが大きく、ビワハヤヒデはその点不安はない。イナリワンともう一度走れば十中八九ビワハヤヒデが勝つ。そう確信させる力がビワハヤヒデにはある。

 

『本当にそうか? 俺の知るビワハヤヒデの奴はあの後GⅡ競走しか勝てなかった』

 

「でもそれはセイザバラットちゅう馬がおったからやろ? メジロパーマーがこの世界で大暴れしたように勝てへん理由にはならん」

 

『それ以上にスーパークリークが活躍する。奴はイナリワンが勝利を納めた有馬記念の後、大阪杯、天皇賞春を勝っている。ビワハヤヒデの最大の障害はそこだ』

 

「確かに……」

 

『それでお前はどうするつもりだ? 国内のレースには出ず海外遠征でもするのか?』

 

「そやな。ハヤヒデの邪魔をしたくあらへんし、海外遠征しかない。まずはドバイや!」

 

 翌日タマモクロスのドバイ遠征の話が学園中に知れ渡り騒然となるがそれはまた別の話だ。

*1
第22回有馬記念参照

*2
史上初めて無敗のまま米国三冠を制した馬でマルゼンスキーと同期である




後書きらしくない後書きというかもはや宣伝と愚痴
「皇帝、帝王、そして大帝」の主人公マグナデルミネがウマ娘になったときの口調が普通すぎて没になる……設定を考えろバカめと過去の自分に言ってやりたい。

それはともかくこの第40Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は未定です

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