ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~   作:ディア

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前回の粗筋
ビワハヤヒデ「天皇賞春を制したのはヤマトダマシイでもスーパークリークでもない、私だ!」
二代目「ヒシアマゾン抑えて一番人気になったよ」


第46R 二代目の大舞台2

【先頭が800mを過ぎタイムは48秒から49秒。これは遅い! 遅すぎる!】

 

 タイムを聞きレースを知るものならば明らかにスローペースであり、前方のウマ娘がスタミナを残している為後方のウマ娘達が不利になるこの展開に二人のウマ娘が解説しだした。

 

「姉さん、このレース展開どう思う?」

 

 ナリタブライアンが隣にいるビワハヤヒデにそう尋ねるとビワハヤヒデが少し考えて口を開いた。

 

「現状を見る限りでは逃げのウマ娘が勝つだろう……最後方に控えるウマ娘がグリーンでなければの話だ」

 

「アマさん……ヒシアマゾンは負けると?」

 

 眉を顰めたナリタブライアンにビワハヤヒデが首を横に振る。

 

「いやそう言う訳ではない。寧ろ逆だ。グリーンの動きのせいで誰にでも勝つようになっている」

 

「一体どういうことなんだ?」

 

「見ろこのタイムを」

 

 ビワハヤヒデが手に持っていたタイムのメモをナリタブライアンに見せるとナリタブライアンが目を丸くする。

 

「末恐ろしいウマ娘だ……とてもクラシック級のレベルではない。我々でもあの場にいたら錯乱してしまうだろう」

 

 ビワハヤヒデが再びメモを取り、タイムを記録する。その数値は11.4と記入されていた。

 

 

 

【3コーナーを曲がって一番人気と二番人気のウマ娘はまだ動かない! それどころか逃げたウマ娘が悠々と逃げている!】

 

「お、おい!」

 

「まだ動かないノカ!?」

 

「冗談じゃないよ。このままだとあのウマ娘達に逃げ切られてしまう! いくら直線が長いっていっても20バ身も離れているんだよ」

 

 このレースに出走していてかつヒシアマゾンに勝ったこともあるビコーペガサスが二代目達に抗議するとヒシアマゾンが冷静に答えた。

 

「だからどうした?」

 

「なっ!?」

 

「アマちゃんはどうかは知らないけどあそこから差し切る自信があるから私はここにいるだけ」

 

「とまあそういうことだ。逃げ切られることにビビっているならさっさと行きな」

 

「くっ、仕方ない……!」

 

 ヒシアマゾンの前をいくウマ娘達が逃げウマ娘達を捕らえに行き、レースの流れが激流の如く変わっていく。

 

「しかしそういうあんたはどうなんだい? まさかアタシを差し切る自信でもあるのかい?」

 

「あるよ」

 

「っ!」

 

「狙われる者よりも狙う者の方が強いってことを証明してあげる」

 

 その瞬間、ヒシアマゾンの背中から寒気を覚え笑みを浮かべた。

 

「へっ、いいね。アタシを舐めているんじゃなくてアタシとタイマン勝負したいからそうしたって訳か。こんなスリルのあるレースは初めてだ」

 

「マゾなの?」

 

「マゾな訳あるかい!」

 

 

 

 

 

「今動いたウマ娘は終わったな」

 

「ああ。ついでに逃げたウマ娘も終わりだ」

 

 ナリタブライアンとビワハヤヒデが頷きそう呟く。

 

「確かに800mの通過タイムはスローそのものだ。しかし最初の200mのタイムが極端に遅かったからでそれ以降はタイムが徐々に速くなっている」

 

「昨年のダービーで私がやられたように彼女達も気づいていない。これが出来たのはヒシアマゾンの存在が大きい」

 

「姉さん、それは一体どういうことなんだ?」

 

 ビワハヤヒデの言葉にナリタブライアンが思わず聞き返す。

 

「彼女は後ろに煽られることに慣れていない。だからグリーンが後ろから煽ればその分だけ加速してしまう……」

 

「そうか! それだけじゃない、アマさんは瞬発力がありすぎて手加減して加速することが出来ない。グリーン、アマさん、そしてその他のウマ娘がドミノ倒しで加速していったという訳か!」

 

 ナリタブライアンが理解し説明するとビワハヤヒデが頷き解説する。

 

「煽られたウマ娘のスピードが上がり、逃げたウマ娘はスローペースだからと言ってセーフティを守る為に無意識に上げてしまった。それが罠だと知らずにな」

 

「これを見れただけでも収穫だ。ダービーでこれをされていたらどうなっていたことか……」

 

「だが逆に言えばそれ便りしかないということで、走りに凄みや気迫がない原因にもなっている。ただ後方をぶっちぎるお前とは真逆だ」

 

 ビワハヤヒデが二代目とナリタブライアンの弱点を指摘するとナリタブライアンがバツが悪そうな顔で尋ねた。

 

「仮に聞くが姉さんならどう対処する」

 

「私なら長く使える脚を使って逃げウマ娘達と共にいく。逃げウマ娘達の被害は他に比べて被害が薄い方だからな。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私があの場にいたらグリーンはヒシアマゾンではなく私を最初に潰すだろう。そうなったら厳格なタイム管理をするしか道は残されていない。恐らく今回のレースはヤマトダマシイ対策の為のレースだ」

 

 事実ヤマトダマシイは日本ダービーにおいて勝ったウイニングチケットではなくビワハヤヒデを警戒しあわや掲示板を外しかねないところまで追い詰めた。その戦法を使われたらビワハヤヒデと言えども分が悪いと言わざるを得ない。寧ろビワハヤヒデはこのレースを見て安堵した程だ。

 

「前走のアーリントンCは姉さんやクリーク先輩といった先行ウマ娘対策ということか」

 

「だろうな」

 

 

 

 

 

【残り300m! スローペースもなんのその、大外からヒシアマゾンとアイグリーンスキーが飛んできた!】

 

「ま、まだまダ……!」

 

 逃げたウマ娘が脅威の粘りを見せるがヒシアマゾン、そして二代目の末脚の前では何も意味がなかった。

 

【残り200mを切ってヒシアマゾン! しかしアイグリーンスキーが並びました! ヒシアマゾン大丈夫か!】

 

「ま、まさかあいつハ本当にアマゾン並みの末脚を持っているト言うのカ!?」

 

「いや、それ以上かもしれない……」

 

 逃げウマ娘達が前をいく二人を見て愕然とすると更に二人の末脚にキレが増す。

 

 

 

「アマちゃん、貴女の好きなタイマン勝負だよ。これで悔いはないでしょ?」

 

「そうだな……それに加えて勝てば尚言うことはねえ!」

 

【ヒシアマゾン! ヒシアマゾンが伸びる!】

 

「こっちは前の併せウマでヤマトダマシイ先輩に先行したままで走っていたんだ! これくらいの逆境苦でもないよ!」

 

「逆境ねえ……それはこういうことを言うんじゃないのかなっ!」

 

【残り100mでアイグリーンスキーがヒシアマゾンを抜いたーっ!】

 

「なんだと!?」

 

「アマちゃんが見せてきた豪脚は所詮幻でしかない。二の脚を使った後に差された経験なんかないんだから!」

 

 

 

【勝ったのは18番のアイグリーンスキー! 善戦も虚しくヒシアマゾン1バ身差で負けました】

 

「アマちゃん、宝塚記念はどうするの?」

 

「……止めておくよ。宝塚記念まで鍛え上げたとしてもあんたには勝てないし、何よりも今のレースで疲労が溜まり過ぎた。今シーズンのレースは見送らせてもらうよ」

 

 二代目の問いに仰向けに寝るヒシアマゾンが答えると別の質問に変えた。

 

「ビコーのヒーローショーは?」

 

「付き合うよ。あいつが楽しみにしているんだ。ダービーの前座には丁度いいだろ?」

 

「私は出走するから見れないけど後でビデオで記録したのを見させてもらうよ」

 

 ヒシアマゾンが笑い、そして真顔になるといつになくシリアスな声を出した。

 

「ダービーと宝塚勝てよ。あんたがトップの状態でリベンジしたいからな」

 

「もちろんだよ。それどころか大きな手土産を持って帰るからね」

 

「秋の盾でも獲る気なのかい?」

 

「惜しい。その時になったらわかるよ」

 

「じゃあその時とやらを楽しみに待っているよ。行こうか」

 

 ヒシアマゾンがようやく起き上がり、二代目の手を引きウイニングライブの場へと向かっていった。

 

 

 

【アイグリーンスキーさん、NHKマイルC制覇おめでとうございます。ヒシアマゾン以上の豪脚が見事に炸裂しましたね】

 

「ありがとうございます。お陰でこれからのレースに備えて不安要素を少しでも削ることが出来ました」

 

【これからのレースといいますと安田記念ですか?】

 

「いえ、日本ダービーです。確かに安田記念はいけなくもないのですが、マイル以下の距離のレースはこれで終わりにしたいと思います」

 

【マイルでこれだけ戦えるのに日本ダービーですか?】

 

「はい。私は本来マイラーではなく、ステイヤー気質な部分があります。なのでスタミナよりもややスピードを要求するマイルで活躍出来るなら2400mでも十分に戦えますので出走登録しています」

 

【では日本ダービーへの意気込みを一言お願いします】

 

「打倒ナリタブライアン、彼女を下せばダービーは取れます」

 

【アイグリーンスキーさん、ありがとうございました!】

 

 こうして二代目の初めての大舞台は勝利を納め終わった。

 

 

 

 

 

 その頃、欧州ではトレーナーリーダーが日本に遠征させるウマ娘を選出していた。

 

「やはり迷うな……」

 

「どうしたのトレーナー?」

 

 体調を回復したラムタラがそう尋ねると口を開いた。

 

「どうしたもこうしたもな、日本に遠征させるウマ娘を考えていたんだ」

 

「遠征させるって言ってもそもそも日本は排他的だから出られるレースなんてほとんどないはず」

 

「ところが奇跡は神憑り! 今年から高松宮記念や安田記念と言ったスプリント・マイル路線やフェブラリーS等のダート路線と宝塚記念はそれぞれのレースに2枠だけ出走が可能になったんだ。それ以外にもJCを勝ったウマ娘は有馬記念にも出られるぞ」

 

「ふぅん……それでトレーナー、この時期の日本ってどんなレースがあるの?」

 

「安田記念と宝塚記念だ。この二つのレースはそれぞれ1600mと2200m──と言ってもわからないだろうから芝8Fと芝11Fのジュニアとシニアの混合レースだ」

 

「だったら迷うことない。ドバイミーティングで勝ったウマ娘達を行かせればいい。8Fの方はマークオブエスティーム、11Fの方はバランシーンが行けばいい」

 

「そういう訳にはいかない。最近ドバイのウマ娘ばかり贔屓していると批判されているからな……」

 

「そんなの気にするトレーナーじゃない。気にしているなら8Fのもう1枠にドバイ以外のウマ娘を送ればいいと思う」

 

「それもそうだな。ありがとうなラムタラ」

 

「ご褒美に頭撫でて」

 

「ほらよ」

 

「ん……」

 

 頭を撫でられラムタラが幸悦の笑みで目を閉じる。その姿はまるで愛玩動物のようだった。




オマケ
もしも先代の長男(カーソンユートピア)と末弟(ボルトチェンジ)がNHKマイルCをみていたなら
「それで我が兄よ。このレースどう思った?」
身長190cmのウマ娘が隣にいる小柄なウマ娘に尋ねると小柄なウマ娘が怒り出した。
「もう、ボルト。兄じゃなくてソンユって呼んでよ!そう言ってくれないと答えないよ」
激おこプンプン丸だよー!などと口にするウマ娘──カーソンユートピアが大柄なウマ娘もといボルトチェンジに怒る。
「ならば聞かぬ」
「ええっ!?ちょっと、そこは聞いてよ!」
「カーソンユートピアよ。前世では父が同じ腹違いの兄弟であり、糞爺が長子と認めた男。故に我が兄と呼ぶのは当たり前のことだ」
「前世がどうとか言っているけど前世は前世、今は今なの!」
「どちらにせよ、我が兄が我が兄と認めぬ限り我が問いに答える必要はない」
「そうだけど!男じゃないんだから姉にしてよ!」
「退かぬ、媚びぬ、省みぬ。このボルトチェンジに後退の二文字はない」
「もぉぉぉぉっ!」
見た目相応にからかわれ牛のように発狂するカーソンユートピアとそれを無視して二代目の方を冷静に見つめるボルトチェンジが口を開いた。
「確かに今回のレース端から見ればあいつがヒシアマゾン以上の末脚を出したレースに見えるが、嵌めただけで対策方法はいくらでもある。ただ準備不足していたのは嵌めた側の方だ。準備して臨んだとしたら、次の日本ダービーはどうなることやら」
そしてボルトチェンジが背を向けるとカーソンユートピアがそれに気づいて慌てて追いかける。
「もー!どこに行くの!?」
「決まっているだろう。トレセン学園の入学手続きだ」


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尚、次回更新は未定です

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