グリーングラス「盛岡競バ場でどっちが強いか戦おう……!」
盛岡レース場にて二人のウマ娘が対峙していた。
片や神秘性すら感じさせる青鹿毛のウマ娘、アイグリーンスキーこと二代目。デビュー戦すら終えていないがレースセンスに関しては歴代最高級の素質を持つ新人ウマ娘。
もう片や緑髪が特長のウマ娘、グリーングラス。引退こそしたがTTGと呼ばれたウマ娘の一人であり、その実力は計り知れない。
このウマ娘達が対峙した理由はただ一つ、どちらが強いかを決める。ただそれだけの話だ。
『貸しきっているから当たり前なんだが、閑散としてやがるぜ。向こうの世界だと現役時代の状態で俺とグリーングラスがマッチレースするなんて聞いたら大騒ぎになるというのに』
「まあそれはね……」
無駄にパドックを周っている最中に魂の存在となった先代が話しかけて来る。先代達が現役時代の状態で戦ったら間違いなく盛岡レース場は観客達で埋め尽くされるだろう。
『だからといってGⅠ競走以外で負けるのはシンザンだけで十分だ。それ以外の最強馬は前哨戦でも勝たなきゃいけねえ。最強馬が最強馬たるが所以にだ』
シンザンを除外した理由はGⅠ競走*1以外のレースを調教代わりに使っていた為に負けることもしばしばあったからだ。
しかしシンザンが弱いかと言われればそうではない。シンザンの連対率──二着以上の戦績の割合のこと──および、GⅠ競走の勝率は共に100%という数値を叩き出している。前者はともかく、後者は日本においてはシンザンを除くと無敗馬しか達成していないことからどれだけの偉業かわかるだろう。
「先代、あの作戦通じるかどうか試してみるよ。TTGの中で最も現役生活が長かったグリーングラス先輩にそれが通じたらほとんどのウマ娘にも通じるってことだから」
『二代目の口からその作戦を聞いた時は驚いたぜ。まるで相棒と話しているようだったからな』
先代が相棒と呼ぶ男、それは先代が競走馬時代の時に騎乗した騎手であり、互いに深い信頼関係にあった。
「もしかしたらウマ娘は騎手って人の思考も引き継いでいるのかもね」
『その可能性はある』
先代と二代目がその結論に達し、話しを終えるとゲート入りを促されゲートに入る。
【さあいよいよゲート入りが終わりました。このレースの実況は私伊勢、解説は菊花賞ウマ娘であり栃木県で地方アイドルをしているホリスキーがお送りします】
【どうもよろしくお願いいたします】
菊花賞を勝ったウマ娘であり現在グリーングラス同様に地方アイドルとなったホリスキーが解説の席についた。
「よーいスタート!」
グリーングラスとアイグリーンスキーのマッチレースが始まり、先代のいる世界ならば歓声が沸き上がり黙って見つめるなどということはない。しかしこの世界で二代目ことアイグリーンスキーはデビュー戦前のウマ娘、グリーングラスは引退したウマ娘ということもあり観客達は地方アイドルであるウマ娘達を応援する人々しかいない。
【青森県地方アイドル最強ウマ娘決定戦スタート! さあハナに立ったのはなんとびっくり期待のルーキー、アイグリーンスキー。後方のグリーングラスを三バ身、四バ身、五バ身と離していき……八バ身まで突き放していきます。これは大逃げです。ホリスキーさん、もしかしてかかってしまったのでしょうか?】
勝手にマッチレースの名前まで着けた実況が暴走する二代目を心配し、ホリスキーに目で尋ねる。
【彼女はまだデビュー戦を迎える前のウマ娘でしょ? 引退したとはいえTTGの一角であるグリーングラス先輩に怯えてしまったんでしょう】
【解説ありがとうございます。さあ600を通過してタイムは37秒……? 余りにも遅ぉぃっ!? これは一体どういうことだぁっ!?】
【変ですね。グリーングラス先輩ほどのウマ娘ならその異変に気づいてもおかしくないのですが……】
【役に立たない解説はおいておきます! スローペースに気づいたグリーングラスがぐいぐい詰め寄っていきます!】
「先輩、いいんですか? そんなハイペースで?」
「ハイペース? いい加減なことを言うな。超がつくほどのスローペースなのにハイペースな訳あるわけがねえ」
「流石、先輩。このハイペースをスローペースと言い切るあたりTTGの一角なだけありますよ」
グリーングラスがそれを鼻で笑い、スローペースには付き合えないと言わんばかりにアイグリーンスキーを突き放した。
『どうやら上手くいったな』
先代の声が二代目に響くが二代目はそれを無視した。
『しかし本当にえげつない作戦だ。魔術師の称号を最初に取ることになるんじゃねえのか?』
「さて行くよ、先代」
『おう。グリーングラスに一泡吹かせてやれ!』
【グリーングラスがハナに立って、1000m。通過タイムは61秒……えっ!?】
【速すぎる!! いくらグリーングラス先輩でもムチャだ!】
ホリスキーが思わず立ち上がり、大声を上げる。1000mの通過タイムそのものはやや速いタイムだが、600mから1000mの間の400mを僅か22秒──600m走った時点でグリーングラスは二代目より1秒以上遅く走っていた──で走っている計算になりこのタイムは現役のウマ娘としてもかなり速いタイムで滅多に出せるものではない。それを引退したグリーングラスが出したのだからかなり速いペースと言えるだろう。
【やはり来た! 来た! 来たぁっ! アイグリーンスキーがグリーングラスを差しにやって来たぁぁっ!】
そして残り300m、グリーングラスと二代目がついに並んだ。
「だから言ったじゃないですか。そんなハイペースで大丈夫ですかって」
「小賢しい真似を……してくれるなぁぁぁっ!!」
盛岡レース場特有の急坂に差し掛かり、グリーングラスが二代目を撫できるようにその坂を昇る。有馬記念を勝ったグリーングラスにしてみれば中山よりも少し急な坂程度のものでしかない。
【グリーングラスだ、グリーングラスが粘る!】
「こっちだって本気なのよ! この作戦が通じたのに負けましたなんてみっともないじゃない!」
【しかしアイグリーンスキーの勢いが更に増す!】
二代目がグリーングラスを差そうと並走し、競り合いに持ち込んだ。競り合いに関しては計り知れないほどの強さを持つ二代目と、TTGの中で最も多くのレースに出走経験のあるグリーングラス。その二人がゴールまで激突する。
【TTGの意地と超新人の夢! どっちだぁぁっ!!】
二人がゴールし写真判定に移る。
「……まさか写真判定に持ち込むなんて、やるもんだな」
「先輩こそ引退しているのにやりますね……」
互いに力尽き、倒れた二人が互いに称え、掲示板をみるがまだ判定が終わっておらず、別の話題に移る。
「アイグリーンスキー、スローペースかと思えばハイペースになった仕掛けはなんだ?」
「スローで大逃げした後、グリーングラス先輩が追いかけて来ましたよね。その追いかける最中にペースをかなり上げたんですよ」
「なるほどな。その間にオラはアイグリーンスキーを抜いてしまっただから、ハイペースになっていたんだな?」
「そういうことです。グリーングラス先輩を打ち負かすにはこの作戦しかありませんでしたからね」
「上手くやられただよ。でもその作戦はここ盛岡や中山でしか通用しないから注意するだよ。東京をはじめとしたカーブが少なく直線の長いレース場はその作戦の成功率が落ちるだ」
『グリーングラスの言うとおりだ。俺の世界で魔術師と呼ばれた競走馬は今回の二代目と同じ作戦を取ったせいか東京が苦手でどうしようもなかった。東京レース場で勝ったのはJCの一勝のみだ』
「うへぇ……」
「そういう顔をするな。それだけレース巧者なら何も心配することはねえべ」
「心配していることならありますよ……このマッチレースの結果とチームに所属出来るかどうかの心配をね」
二代目が掲示板を見るとそこには着順が表示されていた。
元ネタ
≫実況者の伊勢
・青き稲妻の物語に出てくる調教師の一人であり先代のトレーナーがモデル。
≫地方アイドル
・グリーングラスは青森県出身、ホリスキーは栃木県出身というのが元ネタ。
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尚、次回更新は西暦2019年2/18です。
青き稲妻に出てくる競走馬が主人公以外で登場して欲しい?
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ぜひとも登場して欲しい
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出さなくて良い。つーかイラネ