マジカル☆ベルExtraEpisode   作:タク@DMP

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最終話。今回で完結です。消えかかったブラン、そして過去のブランの行方。彼女に取り付いたクリーチャーを、小鈴達は振り払えるか──!?


EX4話「タイムスリップだよ(Fin)」

 駆け付けてみると、成程確かにブランさんの身体が消えかけている。

 切羽詰まった表情で駆けつけてきたわたし達に、至ってあっけらかんとした様子でブランさんは「あ、アカル! シヅク! やっと揃いマシタ!」と笑いながら呼びかけている。

 どうしよう。霜ちゃん曰く、この状態、ブランさんは何とも無いみたい。

 だけど、わたし達からの視点で言えば既に彼女は消えかかっているようにさえ見えた。

 

「何か消えかかっているとか皆言ってマスけど……そんなにおかしいことになってるんデスか?」

「たりめーだろ、ブラン!! お前鏡見てみればわかる!! 何でそんなにあっけらかんとしてるんだよ!!」

 

 まだ辛うじて触れることが出来るからか、ブランさんを揺さぶる耀さん。

 

「ブラン先輩、この時代のブラン先輩にワイルドカードが取り付いたんです。だから、このまま放っておいたらこの時代のブランさんが死んで、そのままわたし達の知っているブランさんは居なかったことになってしまうんですよ」

「全くもう、2人共大袈裟デス。そんなの、クリーチャーを倒せばいい話デショ? いっつも私の事を迷探偵だなんて言って邪険に扱ってる癖に」

 

 な、何でこんな時まで笑っていられるんだろう。

 わたしだったら、絶対に耐えられないよ。自分が消えちゃうなんて、そんなの……。

 そこで、爆発したように耀さんが叫んだ。

 

「ふざけんな!! 絶対に俺は嫌だかんな!! 勝手にお前が消えるなんて、絶対にさせねぇぞ!! お前はウチの部員なんだぞ!!」

「そうですよ。絶対に、嫌です。先輩と、ブラン先輩ともっと、お出かけに行ったり、デュエルがしたいのに……!」

「……2人共」

『……探偵。この時代のヌシの死亡は、現代のヌシの存在抹消を意味するぞ。この時代のヌシが死ぬということは、現代にヌシがいないという命題が真になってしまう』

「分かってマスよ、ワンダータートル。私だって、このままは絶対嫌デス。だけど、皆と一緒なら解決できるって信じてマス!」

『……フン』

 

 何かを見透かすかのように亀さんは呟いた。

 

「とにかく、足踏みしていられないのは確かみたいだ」

「ハイ! このままじゃ、ブランさんが消えちゃいます! ユーちゃん、絶対止めます!」

「だけど、どうするのかな。肝心のこの時代のブランさんには逃げられちゃったし」

「……場所特定するの……正直、無理」

「鳥さんも来ないし、どうしよう」

 

 捜査は完全に打ち止め状態。

 ここからどうやって進めばいいのか、わたしも分からない。

 何より、ブランさんがこのままだと死んでしまうという事実が、わたしの胸に焼き付く。

 当の本人が呆れるほどあっけらかんとしているから、皆はそこまで悲観していないような気がするけど……ある意味、その場の空気を和らげているのかも。

 

「小鈴!」

 

 その時、凄い勢いで鳥さんが飛んできた。

 何やってたんだろう、今まで。

 

「大変だ。この街に、大量のクリーチャーが沸いている! その中にとてつもなく巨大な気配を感じたんだが……生憎、追い回されていてね。大変だったよ」

「って、ことは……」

「恐らく、それを叩かないと他のクリーチャーも消滅しない。そして、街の中を出歩こうとすれば、すぐに僕たちのことを襲ってくるだろうね」

 

 どうしよう。他のクリーチャーに構ってる暇は無いのに……。

 

「クソっ、俺だけでも止めに行く!! もう居ても経っても居られない!!」

「待つデス、アカル!」

「何でだよ!? お前の身体のことなんだぞ!?」

「こんな時こそ、冷静さを欠いてはいけまセン! ただでさえ、皆戦闘で消耗してるのに」

『そして、こんな時こそ、ワシの出番じゃな』

 

 言ったのは亀さんだった。

 ブランさんの頭に乗っかった亀さんは誇らしげに言った。

 

『この街は、ワシが”迷宮化”した』

「め、迷宮化!?」

『そうじゃ。ワシの能力は、あらゆる地形を攻略すること。そして、地形を迷宮化し、掌握すること。この街は既にワシの領域(テリトリー)じゃ』

「な、何だかよく分かりません……?」

『つまり、この街はいま、ワシが作った迷路になっておる。幻覚と嘘の道でクリーチャー共はワシらに目もくれず徘徊しとるじゃろうな。そして、本体も含めて、この迷路から絶対に出ることは出来ん。ここまでやるのにかなり時間が掛かったわい。流石に、ワシも魔力不足で索敵に割くマナのリソースはちと足りんが……』

 

 つまり、この時代のブランさんがこの街から出ることは出来ないし、他のクリーチャー達もわたし達を襲うことは出来なくなったってこと。

 そういえば、此処に来るまでもクリーチャーに出会わなかった。

 

『そうだな。久々に俺達の出番ってわけだな? 俺達、魚人族のムートピアは魔力には他のクリーチャーより過敏なのさ。それで、本体を探す』

「シャークウガにしてはなかなかやるじゃないですか」

『そして、最後に……我の出番でありますな。やっと魔力が回復したであります!』

 

 あれ? そういえば新幹線さんは何が出来るんだろう。

 能力って確か、条件付きのW・ブレイカー、そして場に出たターンに相手を攻撃できる、だよね?

 

連結合体(トランスフォーメーション)!』

 

 次の瞬間、何処からともなく新幹線型のロボットさんが飛んでくる。

 そして、一瞬のうちにパーツが分解、それが新幹線さんと合体して――刀を持った巨大なロボットになった。

 

「ロ、ロボット……になった?」

「凄いぜ、お前こんなことが出来たのか!?」

『ダンガンテイオーの力が目覚めてから、であります。とにかく諸君、早く我に乗るであります』

 

 見ると、胸の部分に新幹線の乗り口みたいなドアが開く。そしてこっちのほうまで梯子が降りてきたよ。

 

「……乗って行け、ってことだろうね」

「テレビでこんなロボット見たことがあるような……」

「とにかく、出発、デスね!」

 

 こうして、迷宮はショートカット。

 わたし達は、新幹線さんことダンガンテイオーに乗り込み、最短で目的地まで向かうことになったのだった。

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

 

 辿り着いたのは、広場。

 だけど、何故か空は歪んで斑模様。

 とても不気味で、肌寒い。

 

『此処が、わしのマッピングでも攻略できなかった、所謂”棲地”じゃ。もっとも、不自然に浮いとるから、却って居場所を教えておるようなものだったがのう』

「この先に……ブランさんが」

「それじゃあ、早速Lets Goデス!」

 

 本当に明るいなあ、この人は。

 自分が今にも消えそうだって言うのに……あれ?

 わたしは、ブランさんの右手を見た。震えてる。

 左手でそれを必死に抑えてるけど、確かに震えていた。よく見ると、首筋にも汗が何本も伝っている。新幹線さんの中は暑くなかったのに。

 

「……どうやら、そうもいかないようだ」

 

 鳥さんがふと、呟いた。

 その時、空中から何体ものクリーチャーが降りてくる。

 どれも、禍々しい光を放つ悪魔や、鉱石のクリーチャーだった。

 

「嘘だろオイ!? 待ち伏せされてたのか!? 《偽りの羅刹 アガサ・エルキュール》に《偽りの悪魔神 バロム・ミステリー》、《悪魔聖霊 アウゼス》、《赤攻銀アサラーム》、《陰陽の果て 白夜》……!!」

「5体も一気に……!」

『侵入者に気付いて、一気に召喚された可能性が高いのう、コレは!!』

「……やれやれ、仕方がないですね」

 

 前に進み出たのは紫月さんだ。

 さらに、それだけじゃない。ユーちゃんやみのりちゃん、霜ちゃんに恋ちゃんもクリーチャーの前に立ちはだかった。

 

「先輩。此処は私に任せてください」

「つっても紫月、お前だって――」

「1戦だけなら、まだできます」

「小鈴。君は耀さんとブランさんと一緒に、奥に行くんだ」

「結局いつも、何だかんだで頼りになるし、鳥さんも一緒にいるからね」

「だから、ここはユーちゃんたちがやります、って!」

「……死亡、フラグだけど……やらないのは、もっと後味がわるい」

 

 そう言うと共に空間が開いた。

 そのまま、クリーチャーさん達と皆のデュエルが始まってしまう。

 脇を通るようにして、わたし達は抜けた。

 

「絶対に、絶対にブランさんを助けてみせるよ」

「アカル。私達も」

「ああ。勿論だ」

 

 目指すは広場の奥。 

 わたしでもびりびりと、強いクリーチャーの気配が感じられた。

 もう、目の前だ。

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

「はぁーっ……はぁーっ」

 

 息を切らせてうずくまる金髪碧眼の女の子。

 その背後にはあまりにも巨大すぎる異形の姿があった。

 

「何で皆……Meを、私を、いじめるの……? 私の、私の友達をいじめるの……?」

 

 その形相は酷くやつれていて、枯れてしまいそうだった。

 ぎりっ、とこちらに憎々し気な目を向けている。

 

「ブラン……これって」

「……この頃の私は、引っ越しの繰り返しで友達なんか碌に出来ませんデシタ。おまけに、金髪碧眼と日本人の名前が合わさって、髪を染めただの、気持ちが悪いだの皆は言って」

「待ってよ、ブランさん。さっき、辛くなかった、って」

「ハイ。辛くは、ありませんデシタ。友達は居なかったけど、私には本が……シャーロック・ホームズが居たから」

 

 だけど、今の彼女の瞳にはシャーロック・ホームズは居ない。

 ブランさんをずっと支え続けてきたものではなく、明らかな異形を手に抱えていた。

 どろどろとした気味の悪いもの。

 あれって何なの……!?

 

「いいかげん、正体を現してよ! ブランさんから、離れて!」

「げげげげげげっ」

 

 悍ましい音と共に、ゲル状のそれは象られた。

 時計を幾つも握りしめた触手。ふあああ、と眠たげに開かれた口。

 それは、何とも形容し難い怪物の姿だった。

 

「《アーク・ビエジェル》……! 成程な。こいつが今回の事件の元凶か!」

『しかも、こいつ、何体もクリーチャーを食ってマナが肥大化しているでありますよ! これで、何体もクリーチャーを召喚していたのであります!』

「道理でトークン共の数が多いと思ったぜ……おまけに無差別的に何体も、だ!」

 

 げげげげげ、と笑い声をあげるそれはようやく眠たげに語り始める。

 

「ふぁああああ、ねみぃ。お前達人間共。こいつは今、俺が友達を作ってやったんだよ。その証拠に、こいつはコレ(シャーロック)に魔力を貢いでくれてるだろーが」

「貢ぐなんて……! そんなの、友達じゃないよ!」

「こいつは俺が居ないと一人ボッチだったんだぜ?」

 

 ブランさんの顔に動揺の色。

 

「な、なにを勝手に言ってるデスか」

「皆からいじめられて、孤独のハブさ。自分ではあたかも辛くないようにふるまってはいるが」

「黙れ……黙れデス」

「それ以上言うんじゃねぇ!」

 

 どすの利いた耀さんの声が響いた。

 とても怒っているようだ。こんなの、わたしだって許せない。

 

「1人。1人の奴に、俺は寄り添ってやったんだ。お前を分かってやれるのは俺だけだ。他にいねぇ。お前は1人。1人なんだよ、或瀬ブラン!」

 

 がくり、とブランさんが膝をついた。

 

「そ、そうデシタ。私は、いつも1人……傍に居るのは、本、だけ」

「ブラン!?」

 

 いきなり、ブランさんの顔が青褪めていく。

 どんどん、身体が薄くなっていくよ。

 

『まずい!! この時代の自分の影響を受けておる!! このままでは本当に消えてしまうぞ!! 気をしっかり持てい!』

「っ!」

 

 ブランさんの身体がどんどん薄くなっていく。

 本当に、消えてしまいそうだ。

 それと同時に、この時代のブランさんの背後にあった異形の姿が変化していく。

 もっと禍々しく、もっと巨大に、そして輝く巨石が中心部に埋め込まれていった。

 翼を広げ、咆哮するそれは、最早別のクリーチャーへと変貌していた。

 

「《「呪」の頂 サスペンス》……!! 変化、したのか!?」

『まさに、過去の因縁がらみの”呪い”というわけじゃな……!!』

「呪い……!」

「しかも小鈴。あれはワイルドカードじゃない。紛い物は紛い物でも、別の方法で”召喚”されたものだ!」

「ひどい……!」

 

 くかかっ、とアーク・ビエジェルは笑みを浮かべた。

 

「こいつは孤独。だが、それを埋める手段が、本って何だ、笑えるぜ!! だから根暗で陰キャラ、おまけにマイナス要素のてんこ盛りの此奴のオトモダチになってやったんだよ、あまりにも可哀想だったからなぁぁぁ、ふぁーふぁっふぁふぁっふぁ!!」

 

 違う。

 そんなわけない。 

 どんな時だって、ブランさんは笑っていた。

 わたし達に心配を掛けまいと怖さを押し殺して笑っていた。

 耀さんも紫月さんも、そんな優しいブランさんのことが大好きで、友達で、なのに――何でそれを奪おうとするの。

 この時代のブランさんだって、そうだ。わたしだって、あまり人と打ち解けるのが苦手で、本ばかり読んでたから分かる。本は色んなところに連れて行ってくれる。いろんな人に会わせてくれる。

 人の趣味はそれぞれだよ。それは分かってる。理解されようだなんて、思ってないよ。

 だけど――

 

 

「シャーロック・ホームズ……だっけか? その本を触媒に、見事召喚出来たのが此奴だ!!」

 

 蠢く異形。

 悍ましい咆哮。

 ふーん、そうなんだ。

 そんなに凄いんだ。

 だけど、そんなの関係ない。

 それは、とても悲しく、とても胸が苦しい方法で呼び出されたもの。

 そしてそれは、彼女自身を蝕む毒。

 利用し、踏み躙り、冒涜の果てに生まれたそれを、わたしは心の底から軽蔑する。

 

 

 

「踏み躙ったんだ」

 

 

 

 気が付けば、前に進み出ていた。

 この感情は、疑問だけじゃない。

 身体の奥底から湧き上がる――

 

 

 

「そうやって、ブランさんの、一番大好きな物を利用して、踏み躙ったんだ!!」

 

 

 

 純粋な、怒りだ。

 一度だけ感じたことのあるこの感覚。

 倒す。あのクリーチャーだけは、絶対に。

 

「小鈴!!」

「!」

 

 耀さんの声が響いた。

 

「下手に飛び出すな。それに、怒りのままあいつを倒したって何の解決にもならねぇ」

「だ、だけど!」

『あいつは、ブラン殿の願望を糧に実体化したのであります。つまり、あいつを倒してもその願望が解消されなければ、再びエネルギーが充填される。それほどに凶悪でありますよ!』

「その”怒り”は、俺が請け負う。お前は、お前にしか出来ない、この時代のブランにしてやれることをやってくれ!」

 

 ざっ、と進み出る耀さん。

 そして、その傍に新幹線さんが歩み寄る。

 掲げられたエリアフォースカード。

 そこには、さっきこそ気にも留めなかったけど、他の2人のものとは決定的に違う点があった。

 絵柄だ。タロットカードのⅣ番の数字と、銃を掲げた皇帝のイラストが描かれている。

 

「小鈴! こっちも行くよ!」

「う、うん!」

 

 わたしの身体も、光に包み込まれる。

 そして、フリルのついたスカートの衣装。

 手に掲げられたステッキ。魔法少女の姿に変身した。

 

「私は……わたしは……!」

「Meの友達……いじめないで!!」

 

 怯え、戦く2人の”或瀬ブラン”。

 最初は対照的だと思った。

 だけど、だけど――やっぱり、二人は”或瀬ブラン”という人間なんだ。

 そうだ。わたしにしか、出来ない事。それは――

 

「この時代のブランさんに、いやブランちゃんに寄り添うこと……! そして、クリーチャーを引き剥がすこと!」

「そうだね。それが君にしかできないことだ。小鈴、行くよ!」

「ムカつくヤローをぶちのめすのは、俺の本分だ! 俺の部員に手を出したこと、後悔させてやるぜ!!」

『超超超可及的速やかに、敵を排除するであります!』

「ああ!!」

 

 エリアフォースカードの光。

 それと共に、空間が現れる。

 

 

 

『Wild……draw、(フォー)……EMPEROR(エンペラー)!』

 

 

 

 機械的な声がカードから響き渡り、わたしの意識は一瞬だけ宙に浮いた――

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

 

 俺とアーク・ビエジェルのデュエル。

 時を止めたり、超えることが出来る凶悪なワイルドカード。

 おまけにブランを傷つけた……こいつは絶対に倒さないといけない。

 さて、現在は4ターン目。俺は、巨大フィニッシャーに繋げるため、どんどんマナを増やしていた。

 場には、《ニヤリー》だけだが、ここからどんどん展開だ。

 

「3マナで、《パーリ騎士(ナイト)》召喚! その効果で、墓地の《ピクシー・ライフ》をマナに置く! 2マナでもう1発、《ピクシー・ライフ》だ! 効果でマナを加速し、《ジョリー・ザ・ジョニー》を手札に!」

「ふぁあああ、俺のターン。《アクロアイト》でコストを1軽減し、《太陽の精霊マルシアス》を出す! ターンエンドだ!」

 

 さて、早速出てやがったな、絶対にバトルに勝つクリーチャー、《マルシアス》。序盤に倒しておきたいが、序盤の除去に乏しいのが災いして、それを止めることが出来ないのが悲しいし、そもそも倒すのが難しい。無視するのが手か。

 

「俺のターン。5マナで《Dの花道 ズンドコ晴れ舞台》をバトルゾーンに出す!」

 

 浮かび上がるDの紋章。

 それが演歌のコンサート会場となる。

 

「こいつの効果で、自分のクリーチャーが場に出た時、マナを1枚増やせる。ターンエンドだ!」

「げげげっ。まあいいや。お前の時間なんか俺が止めてやるぜ」

 

 そう言ったビエジェルのマナが4枚、タップされた。

 

「俺のターン。4マナで、《マルシアス》を《聖霊王エルフェウス》に進化!!」

 

 しまった。確かこいつは、相手のクリーチャーをタップインさせるエンジェル・コマンドの進化クリーチャーだ。

 まずいな。ジョーカーズは、場に出たターンに効果を発揮するものが多い。だから、この効果で動きを止められると能力が死んでしまう。

 長引かせるのはまずい。さっさと殴って倒すか。

 

「げげげっ、ターンエンドだ!」

 

 仕方がない。此処はパワー負けするわけにはいかない。こっちも切札を切る。

 

「俺のターン! 7マナをタップだ! これが俺の切札(ザ・ジョーカーズ・ワイルド)、《ジョリー・ザ・ジョニー》!」

「な、なんだぁ、そいつは!」

 

 現れた西部のヒーロー。

 孤高のガンマン、《ジョリー・ザ・ジョニー》。俺の切札だ。

 

「《ズンドコ》の効果で1枚マナブースト! 次のターンに、殴り返してやるぜ!」

 

 白単は除去手段に乏しい。

 単純にブロックされない上に、パワーが1万と高いこいつを置かれるだけでも苦しいはずだ。

 ワンダータートルみたいな大型さえ来なければ、の話だけど……。

 

「げげげげっ。俺のターン。お前、本当に愚かだな。次のターン、起き上がれると本当に思っているのか?」

「何だって?」

 

 次の瞬間、光が差し込む。

 

「まどろみの果てに、全てを飲み込む。俺は特異点、時間を止めるも操るも自由自在――」

 

 タップされたのは6枚のマナ。

 出てくるのは――

 

「――《アーク・ビエジェル》、《アクロアイト》からNEO進化!!」

 

 巨大な触手を持った異形であった。

 

「コスト7、パワー9500、しかもW・ブレイカー持ち……!」

「そして《ビエジェル》でシールドをW・ブレイク!」

 

 割られる2枚のシールド。

 だけど、次のターンで反撃できればなんてことは無い。

 はずだったのだが――

 

「な、何だこれ!?」

 

 辺り一面が時計に覆われる。

 そして、チクタクチクタク、と音を立て始める。 

 ピタリ、と石のようにジョニーが固まって動かなくなった。

 

『マスター! 《ジョニー》が動かないでありますよ!』

「どうしたんだ……!?」

「《アーク・ビエジェル》の効果発動! 俺がタップされている時の効果で、お前のクリーチャーはアンタップしねぇ!!」

「なっ!?」

「もっとも、俺がアンタップする時、一緒にお前のクリーチャーもアンタップさせてやるがな」

 

 げげげげっ、と不気味な笑い声がその場を支配した。

 くそっ、好き放題やりやがって。マナは溜まっている。だけど、下手にクリーチャーを出せばタップインした上に殴り返されるじゃねえか。

 

「なら、もっとでかいやつを出すだけだ! 9マナで、《燃えるデット・ソード》を召喚! その効果で、お前は場、手札、マナからカードを1枚ずつ手札に戻してもらうぜ!」

「げげげげっ。それだけか? 《エルフェウス》を山札に戻すが、《マルシアス》は場に残る」

「そして、カードを3枚ドロー。さらに、《ズンドコ》の効果でもう1枚加速だ。ターンエンド」

 

 時が経ち、再び起き上がる《ジョニー》。

 《ビエジェル》の効果で、アンタップできるが……、また次のターンにタップが飛んでくる。

 おまけに、場には《マルシアス》がいる。此奴の所為で、俺のタップされたクリーチャーは容赦なく破壊されるだろう。

 

「さあ、俺のターン!! 6マナで、呪文・《マスター・スパーク》! 効果で、問答無用! 全員タップだ! さらに、《マルシアス》で《ジョニー》を攻撃し、破壊!」

 

 全員タップされてしまった。

 しかも、次のターンにアンタップすることが出来ない。

 じわじわと、追い詰められている。

 

「さらに、《ビエジェル》でシールドをW・ブレイク!」

 

 シールドの破片が降り注いだ。全身がボロボロだ。

 切り傷塗れになった身体だが、それでも何とか立てていた。

 クリーチャーは揃っているが、何にもできないこの状況。

 だけど――

 

「S・トリガー、《フェアリー・ライフ》。効果でマナを1枚加速する」

「もう諦めろ! お前は、どうしてそこまでして足掻くんだ!?」

 

 そんなの決まっていた。

 俺は、あの子の怒りを請け負った。

 俺は、彼女の悲しみを背負っている。

 俺は、部長である責任を背負っている。

 

「諦めるには、色々背負い過ぎたからだ!! それに俺は、てめぇをぶちのめすって決めたんだ。俺らを変な時代に飛ばした挙句、ブランを滅茶苦茶にしたお前を、俺は決して許さねぇ」

「げげげげっ!! 何言ってるんだァ、お前!!」

「さっきので、お前が《エルフェウス》を山札に戻してくれたのは幸いだったぜ。おかげで、もう全力で殴れる」

 

 手元に表れるスイッチ。

 それを拳で潰すように押した。

 

 

 

「ターン開始時、《ズンドコ晴れ舞台》の(デンジャラ)スイッチ、起動(オン)

 

 

 

 次の瞬間、歌謡ステージに拍手喝さいが巻き起こる。

 そして、その中央に降り立つ影。

 

「――効果で、自分のマナゾーンのコスト以下のクリーチャーを1体、場に出せる。これが俺の超切札(ワイルドカード)、起動しろ、皇帝(エンペラー)のアルカナ! 《超絶特Q ダンガンテイオー》!!」

 

 刀を掲げた侍のような新幹線ロボット。

 浮かび上がる、皇帝(エンペラー)のタロット。

 そして、Ⅳ番の文字を潜り抜け、それは確かに実体を得た。

 

『超超超可及的速やかに、貴様を成敗する!! 覚悟!!』

「げげげぇーっ!?」

「悪いが、此奴の効果で、俺のクリーチャーは場に出たターンにお前を攻撃できる。下手に《エルフェウス》をどかせたのがアダになったな」

 

 カードを引いた俺は、続けて3枚のマナをタップする。

 

「呪文、《魂の呼び声》! もうここまで来たら、手加減とか出来ねぇぜ。山札の上に積み込むのは、順番に《ジョリー・ザ・ジョニー》、《燃えるデット・ソード》、《ダンガンテイオー》の3枚組!」

 

 さらにこれだけじゃ終わらない。

 いや、終わらせない。

 

「8マナで《バレット・ザ・シルバー》召喚! その効果で、山札の上を捲って、それがジョーカーズなら場に出す! 出すのは《ジョリー・ザ・ジョニー》だ!」

「げ、げげげげ!?」

「ヒーローは何度でも現れる! 日曜朝のお約束だ! 《ジョリー・ザ・ジョニー》でシールドをマスター・W・ブレイク!」

 

 撃ち抜かれるシールド。

 同時に、跳弾を繰り返した弾丸が、《マルシアス》と《ビエジェル》を破壊した。

 

「シ、シールド・トリガー!! 《幸弓の精霊龍 ペガサレム》でシールドを1枚増やす……!」

「お仕置きの時間はまだ終わってねぇよ。《バレット・ザ・シルバー》でシールドをW・ブレイク! その効果で出すのは、《デット・ソード》だ!」

 

 場には当然、《ペガサレム》しかいない。

 そのため、真っ二つに切り裂かれるという寸断だ。

 これでアイツのシールドは残り2枚。

 

「《デット・ソード》、追撃だ! W・ブレイク!」

「し、S・トリガー!! 《マスター・スパーク》! そして、《プロテスト・ミスト》の効果で、《ラ・クルスタ》を場に出す!」

 

 くっ、ここでトリガーかよ。

 本当に運がいい奴だな。しかも、その効果であいつのマナは2枚増えている。

 

「も、もう起き上がらせないぞ!! 俺のターン、7マナで《ラ・クルスタ》を《アーク・ビエジェル》にNEO進化!! ふぁっふぁっふぁっふぁ!!」

「……」

「さあ終わりだ!! 《ビエジェル》で攻撃!!」

 

 しかし。

 何も起こらない。

 それどころか、どさっ、と音を立てて倒れ、動かなくなってしまう《ビエジェル》。

 

「な、何故だぁ!?」

『峰打ちだ。安心せよ』

「何度も言わせんな。《ダンガンテイオー》の効果で、お前のクリーチャーは場に出たターンに攻撃出来ない」

「ぎ、ぎいいいいいいいいいいいい!?」

『この痛みは、お前が苦しめて傷つけた人達の痛みと知れ!』

 

 もう、こいつは何も出来ない。

 本当の1人ぼっち、ってのは向こうから離れちまうんだよ。

 そりゃそうだよな。人の心を利用し、踏み躙り、弄び、挙句の果てにゴミの如く使い捨てる、今までのワイルドカードの中でも屈指の下衆野郎!

 本当に、こんな奴……あの子と戦わせなくて良かったぜ。

 

 

 

「《超絶特Q ダンガンテイオー》でダイレクトアタック!!」

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

 

「2マナで、《エール・ライフ》! 効果でマナを1枚増やすよ! ターンエンド!」

 

 わたしと、ブランちゃんのデュエル。

 巨大な異形、《サスペンス》はブランちゃんを蝕むようにして覆いつくしている。

 このままじゃ危ないよ。ここで勝たないと……!

 

『我は、憤怒にして呪われた災厄なり……選べ。従属か、絶滅か』

「Meのターン。2マナで、《ピクシー・ライフ》。効果で、マナを1枚を増やす」

 

 うう、いつ見てもおどろおどろしいクリーチャーだよ。

 でも、負けられないんだ!

 

ターン3

 

小鈴

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:1

山札:28

 

ブラン(過去)

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:4

墓地:1

山札:27

 

 

 わたしのターン。

 カードを引いて……よし。繋がった。

 

「4マナで、《王立アカデミー・ホウエイル》! 効果で、カードを3枚引くよ!」

 

 これで、一気に手札を増やせた。

 このデッキのポイントは、手札。そして、呪文。

 これを上手く引き込めれば、優位に戦うことができる。

 ブランちゃんが、どうやって戦ってくるのかは分からない。

 だけど、色んな人達の力を借りて作ったこのデッキで、負けるわけにはいかない!

 

「お願い! 戻ってきて! 皆、ブランちゃんのことを心配してるんだよ!?」

「……誰が?」

「えっ……?」

「はっ、誰が……Meの心配をしてくれるわけ?」

 

 冷たい声。

 凍てつく眼差し。

 げっそりと削げ落ちた頬。

 すべてが虚無。わたしの目にはそう映った。

 

「昔から、引っ越してばかりで友達はできない。そればかりか、どこに行っても、みんな髪や名前、そして日本人とイギリス人の混血(ハーフ)って理由で敬遠してきた」

「そ、そんな」

「おまけに、両親の仕事で引っ越してばかり……こんなんじゃ、せっかく仲良くなったって、意味がない。Meはこんな性格だし、人に話しかけることも出来ないし」

「そんなことない……! きっと、きっと友達はできるよ……! ブランちゃんは、一人じゃないよ!」

 

 だって、未来のブランちゃんには、あんなに沢山、仲間がいるのに……!

 今ここで諦めちゃ、いけないんだよ!

 

「Meのターン。4マナで、マナ爆誕! 《絢爛の超人(ゴージャス・ジャイアント)》を召喚!」

「マ、マナ爆誕……!?」

 

 どうやら、指定のコストを払うことでクリーチャーをマナから召喚できる能力みたい。

 だけど、コスト7のクリーチャーが出てきた割に、そんなに強くなさそう。

 

「わたしのターン、5マナで《超次元 エナジー・ホール》! 効果で、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに!」

「そんなの出したって無駄……無駄だから、無駄なの」

 

 これで、マナをタップインできる。

 次のターン、ブランちゃんはマナを3枚しか使えない。

 まだ、何もしてこないはず。

 

「……Meのターン。ソウルシフトでコストをマイナス7して、3マナをタップして、《絢爛の超人(ゴージャス・ジャイアント)進化(エヴォリューション)!」

 

 ソウルシフト!? ということは、元のコストは10!?

 一体どんなクリーチャーが出てくるの!?

 

 

 

「Unknown、《真実の大神秘(トゥルージャイアント) 星飯(ドカベン)》に!」

 

 

 

 わわわ、とても大きなクリーチャーが出て来た。

 星雲さえも飲み込まんとばかりに膨れ上がった、巨人、《星飯(ドカベン)》。

 見たところ、パワー11000でW・ブレイカー。

 よ、良かった。思ったよりも強くなさそうだよ。

 

「……そして、《星飯(ドカベン)》で攻撃(アタック)するとき、アタック・チャンス―アンノウン発動!」

「アタック、チャンス……!?」

 

 それって、帽子屋さんが使ってた《ナッシング・ゼロ》みたいな呪文、なのかな?

 で、アンノウンの攻撃に反応したという事は――

 

「《極頂秘伝ゼニス・シンフォニー》――!」

 

 次の瞬間、空に大きな穴が開く。

 

「効果で、アンノウンとゼニスを持つクリーチャーを”コストを支払わずに”召喚(サモン)する。ターンの終わりに出したクリーチャーを手札に戻す」

 

 今まで見たことがないほど、途方もなく大きなクリーチャー。

 それは絶対的にして頂点に立つべき頂上たる化身。

 神々しくも禍々しい、驚異にして脅威。

 

 

 

「――《「(のろい)」の(いただき) サスペンス》」

 

 

 

 全身が骨で出来たドラゴンさんみたいだった。

 三角形の結晶が幾つも埋め込まれており、その竜の顔のような両腕からは炎と目玉が吹き出ている。

 異形にして異質。

 まさに頂上の支配者。

 その姿がわたしに不安を抱かせた。

 

「《サスペンス》の効果発動。相手のシールドか手札を2枚選び、相手はそれを見せる。シールドと手札を1枚ずつ見せて」

 

 言い終わらないうちに、シールドが1枚、そして手札の中の1枚が飛んで行き、表向きになった。

 手札は《龍覇 グレンモルト》、シールドは《超次元 ボルシャック・ホール》だよ。

 

「……片方は呪文、片方は違う……まず、シールドの中身の呪文を唱える。《ボルシャック・ホール》で《勝利のリュウセイ・カイザー》を場に出す」

「わ、わたしの呪文なのに……!」

「相手の呪文を盗む。これが、《サスペンス》の戦い方よ。そして、見せたカードは全て墓地送りに!」

 

 結果的に、シールドを1枚、手札を1枚破壊されてしまいました。しかも、ブランちゃんの場には《リュウセイ・カイザー》がいるよ……。

 

「そして、《星飯(ドカベン)》でW・ブレイク」

「っ……うぅ!」

 

 シールドは、残り2枚。

 そして《サスペンス》は手札に戻るんだよね。どうしよう。

 どうにかしなきゃ……!

 

「わたしのターン! 5マナで、《天守閣 龍帝武陣》! 効果で、《リュウセイ》を破壊! マナ武装でもう1体破壊したいけど、コストが1足りない……ターンエンド!」

 

 1ターン遅れちゃったけど、これで次のターンにトドメを刺されることは無い。

 よくて、シールドがなくなるだけで済むはず。

 

「おねがい! もう、こんなことはやめようよ! 死んじゃうんだよ!?」

「死んでも、構わない」

 

 ぞくり、とわたしの肌が泡立った。

 

「だって、この子(サスペンス)はわたしの友達だもの……! こんな理不尽な世界、要らない。Meは、この思い出だけを胸にして死ねるなら、それでいいよ」

「そんな……!」

「本の中のヒーローなんか、所詮まやかしなんだから!!」

 

 心が痛む。

 まやかしなんかじゃない。

 本の中の主人公に、憧れたり、心を支えられたりするのは、決して幻なんかじゃない。

 

「コスズ!」

 

 声が聞こえた。

 振り返ると、息も絶え絶えの様子で、ブランさんがわたしに呼びかけていた。

 

「ワイルドカード……どのカードも、持ち主を依存させてしまう効果を持ってるのデス……!」

「ブランさん……!」

「目が、覚めたようデス……コスズ、あのカードを、サスペンスを倒してくだサイ!」

 

 分かってる。

 一方的に搾取する、されるだけの関係なんて、友達じゃない。

 

「そんなの、友達じゃないよ!!」

「っ……! 黙りなサイ! Meのターン。《デ・バウラ伯》を召喚して、墓地の呪文の《ゼニス・シンフォニー》を回収!」

 

 しまった。

 油断した……!

 飛んでくる。また、あの呪文と共に呪いの称号を持つゼニスが。

 

「――《星飯(ドカベン)》で攻撃! アタック・チャンスで、《ゼニス・シンフォニー》を唱える! 効果でもう1回出て来なサイ、《「(のろい)」の(いただき) サスペンス》!」

 

 今度は、その炎はわたしのシールド2枚を容赦なく焼き尽くす。

 その中身を見て――ブランちゃんは笑みを浮かべた。身が凍るような狂気の笑みを。

 

呪文(スペル)、《目的不明の作戦》! 効果で墓地から《ピクシー・ライフ》を唱えてマナを増やす! そして、残りのカードを全部墓地へ!」

 

 シールドが全て燃え尽きたその時だった。

 

「……《疾風怒濤(スパイラルアクセル) キューブリック》の効果発動だよ!」

「Why!?」

 

 ごめんね、ブランちゃん。

 最後に墓地に置かれたシールド。

 それは、どこからでも墓地に行ったとき、マナに水のカードが3枚以上あれば相手のクリーチャーをバウンスできる、《キューブリック》だったんだよ。

 狙ってできることじゃなかったし、本当に運が良かったと思ってるけど……。

 

「効果で《星飯(ドカベン)》をバウンス!」

「届かなかった……! そんな、どうして! 信じられない!」

「わたしのターン!」

 

 ここからは、わたしの番だ。

 一気に巻き返すよ! シールドは0、相手は5枚。

 クリーチャーの数は互角。

 なら、勝ち目はある!

 

「6マナをタップして……出てきて! 《龍覇 グレンモルト》!」

 

 そこに現れたのは龍の剣を装備する、剣士。剣崎先輩のカードだよ。

 

「装備するのは、《銀河大剣 ガイハート》! 効果で《グレンモルト》はスピードアタッカー! だけど、まだ殴らないよ! ターンエンド!」

「くっ……! Meのターン……!」

 

 そう、今のままじゃ打点が足りなくて攻めきれない。S・トリガーでクリーチャーが出た時点でアウト。リスクを減らすには、ワンショットキルしかない。

 カードを引くブランちゃん。

 そして、4枚のマナをタップしてきた。

 

「やめてよ……! やめてって言ってるデショ! 4マナで《デ・バウラ伯》召喚! 効果で《ゼニス・シンフォニー》を手札に! ターンエンド!」

 

 守りを固めてきた。

 このままじゃ、《ガイギンガ》を龍解させても、勝てないかもしれない。

 だけど、まだ勝ち目がなくなったわけじゃない!

 むしろ、最初から想定内。守りが硬いなら、こじ開けるだけ!

 

「わたしのターン! 2マナで《熱湯グレンニャー》を召喚して、さらに残りの6マナで進化!」

 

 まやかしだって言うなら見せてあげる。

 わたしの、わたしの中の憧れを。ヒーローを。

 

「響け、清き鈴の音。小さな調べが大火となって、魔法の鐘は龍を呼び覚ます!」

 

 重ねよう。わたし達の力を。

 繋げよう。この大きな炎へ。

 この龍に捧げる、芝居がかった英雄への名乗り口上。

 

 

 

「進化、《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 翼を広げ、咆哮する灼熱の龍。

 

「要らないなんて、ことない。ブランちゃんの中のヒーローは、ずっとブランちゃんの中にいるよ。友達だって、勇気を出せばきっと出来るよ。遠く離れたって、関係無いよ!」

「っ……!」

「これで届ける! 《ドギラゴン》で攻撃!」

「なに、そのカードっ……! 《デ・バウラ伯》でブロック!」

「ごめんね。このクリーチャーは、バトルに勝てばアンタップするよ!」

「それじゃあ、ブロックする意味(ミーン)なんか、無いじゃない……通す!」

 

 障壁を一つ破壊し、再び起き上がる灼熱の龍。

 再び、起き上がった彼は、シールドを3枚、焼き尽くした。

 

「S・トリガー無し! どういうこと!? 答えてよ、Meの友達!!」

 

 サスペンスは答えない。何も。

 そう。本当にまやかしだったのは、一方的にブランちゃんから力を奪い取っていたクリーチャーだったんだ。

 

「《グレンモルト》で攻撃!」

「通す!」

 

 どっちみち、この攻撃はブロックされてもされなくても関係ない。

 シールドブレイクが通ると共に、《グレンモルト》の剣が銀河を取り込み、龍となった。

 

「ターンに2回攻撃したから、《グレンモルト》に装備した、《ガイハート》の龍解条件成立だよ! 

龍解、《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 宇宙を包み込む大剣を手にした星の龍。

 その炎が、全てを焼き尽くすよ。

 

「《ガイギンガ》はパワー9000のW・ブレイカーでスピードアタッカー。しかも、選ばれたらもう1回自分のターンになるよ!」

「も、もう1回……!?」

「《ガイギンガ》が龍解したから、パワー8000以下の、《デ・バウラ伯》を破壊!」

「っ……そんな!」

「そして、《リュウセイ・カイザー》でシールドをW・ブレイク!」

 

 砕け散る残り2枚のシールド。

 そこから出てきたのは――

 

「S・トリガー……《罠の超人(トラップ・ジャイアント)》……ダメだ、選んでもThe・End!?」

「いくよ!」

 

 大剣が、悪しき化身を切り裂かんと飛び上がった。

 これでおしまい。

 わたしの、勝ちだよ!

 

 

 

「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

 サスペンスを切り裂いた大剣。

 その衝撃が、ブランちゃんを巻き込もうとする。

 空間が崩壊すると共に、渦を巻くような巨大なエネルギーが大穴となり、完全に身体が崩壊したサスペンスを飲み込んだ――

 

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

 

 俺は白銀耀。デュエマ部部長であること以外は、至って普通な高校生――でもないのが最近の現状だ。

 まあ、それは追々話すとして、とある夏休みの日のこと。俺はクラスメイトの或瀬ブランと涼んでいた。当のあいつは携帯電話で何か話してるけど。

 そういやあいつ、最近携帯でメールしたり電話したりが増えたような気がするな。

 全く、気楽なもんだぜ。昨日だって、学校に大量に湧いてきたクリーチャーを倒して――

 

「倒して……何だっけ? 俺ら、あのあと、どうやって帰ったんだっけ?」

 

 いや、具体的にどうとは言えないんだけどな。

 

『何かあったでありますかぁ? んー? でも具体的には覚えてないよーな』

『さーのぅ。世の中には不思議なこともあるもんじゃて、ほほほ』

「……何かおめー、知ってるような顔してんな」

『年よりを疑うなんて、心が狭い若者じゃ』

 

 ふぅ、と溜息をつく宝石亀。

 ったく、何があったのか分からねぇぜ。まあいいや。こうして全員無事なんだし、大したことではなかったのだろう。

 

「ああ、読みマシタ、その本! また面白い小説が出たら、教えてくだサイ! そっちのMomにもよろしくデス!」

 

 ぴっ、と通話を切るブランは笑顔でこっちを向いた。

 

「お前最近、電話多くなったんじゃね?」

「気の所為じゃないデスか?」

「ところでブラン。お前、昨日の事何か覚えてるか?」

「何にも覚えてないデスけど?」

 

 きょとん、とした表情で彼女は言う。

 やはり覚えていないのだろうか。

 

「……そうか。ところで、電話は誰からだよ」

「別に、友達デース。中学の頃は、ぽつぽつと知り合った友達が居たのデスよ。まあ、結局私の帰国で皆離れ離れになっちゃって……音信不通になってしまったのもあって、私はかなり落ち込みマシタ。日本に帰ってきたのは良いけど、知らない高校で誰も知ってる人は居ませんデシタし……後は知ってるデショ? アカル」

「俺がお前をデュエマ部に誘った」

「そういうことデス。アカルには感謝してるデス」

「……大丈夫だ。お前は一人じゃねえよ」

「分かってるデス。デモ、音信不通になってた子の一人と最近連絡が取れるようになったのデス」

 

 彼女が見せた携帯の着信履歴には、知らん名前が書いてある。この学校の生徒じゃねぇみたいだな。

 

「……やっぱり、私が孤独だって思いこんでただけで、私は昔から一人じゃなかったんデスね」

「そういうことだ。連絡をくれる友達がいるってのは良い事じゃねえか」

「ハイ!」

 

 ブランの笑顔は輝いていた。

 

「先輩!」

 

 次の瞬間、部室の扉が勢いよく開いた。

 紫月だ。ここまで走ってきたんだろうが、真夏にそのパーカーは暑いだろう。

 

「大変です。桑原先輩が失踪しました」

「はぁ!?」

「事件、デスネ!」

「やれやれ……詳しく話を聞こうぜ。また、忙しくなりそうだな。受験勉強に疲れて自殺したんじゃなけりゃいいんだが」

 

 真夏の日々は過ぎていく。また、新たな事件のきっかけを残していきながら。

 そういえば、ブランがやけに機嫌よく話していた相手の名前……何か見覚えがあるような……気のせいか。

 まあいいや。とにかく、失踪した桑原先輩の事も気になるしな。取り合えず、置いておくとしよう。

 

 

 

                    ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ねえ、隣いいかな」

 

 びくん、とその子は肩を震わせた。

 昨日の事とかはどうやら完全に憶えていないみたい。

 亀さんが記憶を消してくれたようだ。わたし以外は、皆昨日の事は忘れてしまっている。サスペンスが倒れたことで開いた大穴から帰っていったあの人達については分からないけど。

 で、何故わたしだけ記憶を消されなかったのかというと――

 

「その本、シャーロック・ホームズの”赤毛聯盟”でしょ? 面白いよね」

「……何の、用?」

 

 怯えた表情だった。

 だけど大丈夫。怖くないよ。

 

「わたしも本を読むの、好きなんだ」

「そう、なの?」

「うん。貴女は?」

「……だい、すき」

「そっか。良かった」

 

 カタコトな日本語で、彼女はわたしの顔を恐る恐る見上げた。

 離れ離れになってもいい。遠くにいてもいい。 

 例えそれが短い間の出会いでもいい。

 ゆっくり、歩み寄りながらでいい。

 何時かまた会えるから。

 きっと友達は何処かで繋がっているから。

 わたしも、そうだった。

 皆の時も、そうだった。

 だから――

 

 

 

「――ねえ、友達に……なろう?」

 

 

 

               ExtraEpisode1「タイムスリップだよ(Fin)」




どうも、作者です。作者の頼んだ無茶振りを快諾してくださったモノクロさんには感謝するばかりです。本当にありがとうございました。
 さて、今回の企画、元々は単なるギャグみたいな話を自分は考えていました。それこそ1話完結の。しかし、それだけではマジカル☆ベルの魅力的なキャラ達の魅力的なデッキを動かすには足りなさすぎる! ということで、このような集中連載の形になりました。いや、本当長くなり過ぎた。自分でもつくづくそう思います。
 それはともかく、デュエ魔法少女マジカル☆ベルの魅力的なキャラ達を自分の技量で上手く書けたかどうかは正直、自信がありません。 
 それどころかモノクロさんに書いていただいた、こちらの短編を読んだ時、(あれ? これ作者要らない? 全部あの人で良くない?)と思ってしまったくらいには面白く、そして素敵な作品に出来ていました。本当、感服するばかり……というか感謝が先行するばかりです。
 また、今回はいつも作品ではあまり扱わないカードやキャラを動かすのが楽しかった、というのが第一感想。実際に書いてみて、とても勉強になりました。マジカル☆ベル本編の毎回魅力的なあのデッキの数々……こちらも見習いたい限りです。
 さて今回、こちらはクロスオーバーという番外編になりましたが、皆さんに少しでも楽しめていただけたなら、そしてマジカル☆ベルという作品のことについて知っていただけたなら幸いです。小鈴ちゃんを始めとした可愛いキャラ達が、カッコよくデュエルで戦っていく様を、これからも楽しみにしていってください。特にユーちゃんは作者のお気に入りです。ドイツっ子は最高だぜ。
 というわけで、これからもモノクロさんの「デュエ魔法少女 マジカル☆ベル」を応援よろしくお願いします。
 また、失踪した桑原先輩の行方はモノクロさんが執筆したWildCards番外編「主役になりたい」で明らかになるので、そちらにもどうぞ。こちらはピクシブに投稿されています。
 ではでは。 
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