2 life / heart   作:弓削

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"それ"が目に入ったのは偶然だった。

「子供達は自分の気になるものに興味を惹かれてしまい、周りが見えなくなります。

親御さんはそういうことがあることをしっかりと念頭においておいて下さい。子供達は自分から迷子になりに行っているのではありません。あまり叱らないであげて下さいね。

また夢中になっている子供達は周りの音も聞こえてはいません。子供達が動かないならと、『お母さんは違うの見てくるから、ここで待っててね。』と言ってその場を離れるのも危険です。子供達の興味がひと段落ついたところで、ようやく周囲に保護者が居ないことに気づき、不安な気持ちになります。

色々なものに興味を持ち、知りたいと思うのはとても大切なことです。時間の許す限り付き合ってあげて下さい。」

アシュトンと一緒に通うことになった幼稚園で先生がお母さん方に話すのを聞きながら、アシュトンが迷子になりそうなら、私が側についていようと決心した。

 

***

 

立春が早々に過ぎ、体感でも春を感じる朝。お父さんが珍しく私だけを買い物に誘った。珍しくと言ったが、双子の兄であるアシュトンを連れずに私一人で何処かに誘われたのは初めてのことだ。

 

「モニカ。一緒に買い物に行かないか?お母さんが好きそうな物を一緒に探して欲しいんだ。」

「うん。行く!お兄ちゃん呼んでくるね。」

「残念だが、アシュトンはハンナと買い物に行く予定なんだ。一緒じゃなきゃ嫌かい?」

「ううん。大丈夫。」

 

そう言えば来週は結婚記念日だった。結婚記念日には両親がプレゼントを交換し合い、家族で外食をするという決まりがジェンキンス家にはある。

ちなみに両親の誕生日には私たちに兄妹を祖父母の家に預けて両親は二人でデートに行く。前世の両親では考えられない、オープンなラブラブっぷりだ。

 

「結婚記念日?お母さんにプレゼントするの?」

「あぁ、モニカ。よくわかったね。僕とお母さんは結婚してから今年で10年経つんだよ。だから”今までありがとう”と”これからもよろしく”と”愛しているよ”の贈り物をするんだ。」

「私もがんばって探すね!」

 

 

10周年記念だったらしい。

__私からも二人に何か贈りたいな。__

とはいえ未だお子様な私はお小遣いも持っていない。

子どもからのプレゼントというのは肩たたき券とか似顔絵とかお手紙の印象が強いがこの歳になって(精神年齢の話だ)肩たたき券というのもどうなんだろう?

 

ふと窓の外をみると庭で愛情いっぱいに育てられたお花が楽しそうに風に揺られているのが見えた。

__アシュトンに似合いそうだな__

脳裏に花を髪に飾って微笑んでいるアシュトンが思い浮かぶ。

__花冠も似合うだろうな。今の私に作れるかな。__

自分の手を見て思う。ぷっくりまるまるとした傷一つ無い小さい手だ。

__指の長さが足りないかも__

でも挑戦して見る価値はありそうだ。後でアシュトンと一緒に野原に行って花で冠を作ろう。

そうだ。アシュトンと一緒に両親へ冠を作って手紙を添えてプレゼントしよう。

両親にはアシュトンから渡す方がいいな。花冠を被った天使のようなアシュトンに笑顔とともに贈られれば喜ぶこと間違い無しだ!

 

***

 

お父さんと向かった先は通り沿いに色々なお店が立ち並ぶ、日本でいう商店街のようなところだった。様々なお店が独自の方法でショウウインドウを飾っている賑やかな通りだ。

なるほど、ここならお母さんの好きそうなものが見つけられる気がする。

 

「さあ!お母さんの好きそうなものを見つけるぞ!」

「うん。私も探す!」

 

お父さんの後ろについて、あちらこちらに視線を動かす。洋服屋、料理道具の専門店、本屋に楽器店、本当に様々で見ていて飽きない。日本とは違いこちらの建物は統一感があることもあって、まるでテーマパークや絵本に迷い込んだみたいだ。

 

 

煌びやかな商店の中に一際目立つお店があった。それは商店街から少し離れた場所にあるお店だった。

周りのお店と打って変わって華やかさのかけらもない店構え。看板には蜘蛛の巣さえかかっている。薄暗いショウウインドウの中に乱雑に置かれた統一性のない品物達。

人形や楽器、箪笥に皿。それらの繋がりをあえてあげるとすれば、どれも古めかしく煤けているというところだけだろう。

ドアノブには掠れて読みにくくなっている『open』の字。潰れた店かと思いきや、まだ営業しているようだ。

__骨董屋かな?__

だとしても酷い。年代物に価値を見出す骨董屋ならもっと商品を大事にすべきだ。古いものは大切に扱わないと、新しいものより簡単に壊れてしまう。

それに古めかしいものが汚らしい状態でおいてあれば、それらに価値があるように見えない。

__リサイクルショップだってもっと気を使っているのに。__

骨董品は仰々しい鑑定書とかをつけて、物より立派にみえる箱に納められているものだとばかり思っていたのに。

__この店にお母さんの喜びそうなものは売ってないよね。__

前の持ち主の癖がついていそうなサックスから目を離し、華やかな商店へ目を移そうとしたその時、

 

目の端に見慣れない、けれど懐かしいものを見かけた気がした。

 

***

 

吸い込まれるように入った店の中は外から見た雰囲気そのままの薄暗い店だった。中に入ると更に乱雑さが増して、ちょっとした異空間みたいになっている。どうやらショウウインドウはああみえて整えられていたみたいだ。

 

ごちゃごちゃした店内を突き進みショウウインドウの裏側へ行く。

__どこだろう?__

外から見えたくらいだから、結構大きなもののはずだ。ショウウインドウの中を見てまわる。

一通り見てみたものの、それらしき形を見かけることも出来ない。

__やっぱり気のせいだったのかな…。__

後ろ髪を引かれる思いで引き返そうとした時に、ショウウインドウの奥の方で引っ掛かりを覚えた。

その引っ掛かりを頼りにずんずんと奥へ進んで行く。

 

その"何か"はショウウインドウの奥でひっそりと存在する私の拳くらいの大きさのものだった。

__こんな小さなものに惹かれたのか。__

ショウウインドウの中で探しても見つかりにくいような小さなものが、店の外から見えたなんて驚きだ。

どうやらあまり掃除がされていないようで、埃に埋もれるようにしてそれは存在していた。

手に取ってみるとモサモサとした触感があった。きっと埃によるものだろう。それが置いてあった場所は埃で縁取りがされていた。

 

それは直径が4cmくらいの円形で1cmくらいの厚みがあるもので、二重丸の内側の円に曇りガラスの様な物が嵌め込まれていて、外側の円と内側の円の間が黒い色をした金属でできていた。金属部分からガラス部分を横断してまた金属部分にまで達するかなりの深いキズがついている。

 

金属部分には四角い6つのなだらかなへこみが等間隔にあって、そのへこんだ部分に草書体で刻まれた"子""丑""寅""卯""辰""巳"。"子"から"巳"までの十二支だ。

 

いままで目を皿のようにして探していた日本との繋がりは諦めた頃にこんな所で見つかった。それも訳の分からないものに刻まれているという形で。これを作った人は十二支をあまり知らないのではないだろうか、"午"から"亥"までの6つの動物が省かれている何とも中途半端なものだ。

__ショウウインドウの外で見たと思ったのは間違いなかったんだ。__

生まれて初めての与えられた日本語(自分以外の日本のもの)に吸い込まれる。

__これは一体何なんだろう?__

 

 

「モニカ!!」

突然の大きな声。力強く引っ張られ気がつけば温かい腕に包まれていた。

 

よくわからない日本っぽいものにだけ注がれていた意識が戻ってくるのを感じる。

先程の大きな声と今も続く温かい体温。

__お父さん。__

「ごめんなさい。」

気がつけば謝罪の言葉が口から零れていた。

「いいんだ、モニカ。何もなかったのなら。」

お父さんは抱きしめていた身体を離し、私の瞳を覗き込むようにして微笑みながら言った。

 

ズキンと胸が痛むのを感じる。

__今、私は迷子になった事を謝ったのだろうか。それともお母さんのプレゼントを探すことを忘れていたことに謝ったのだろうか。__

 

__それとも日本に関するもの(前世の思い出)に時を忘れて、心を奪われていたことに謝ったのだろうか。__

 

手のひらに収まるかどうかという日本っぽいものを見て思う。

埃がかぶるくらい手入れをされていないにも拘らず、黒色の光沢を放つ金属。深いキズと細かいキズで曇って見えるガラス。

 

__これは大人になっても手を出せるものじゃない。__

黒く錆びる金属()に深いキズを負っても砕けることのないガラス(水晶)

手のひらの中のものを元の位置に戻してから、お父さんに笑いかける。

「お父さん、お母さんのプレゼント探しに行こ!」

腕を伸ばしてお父さんの中指と人差し指を掴んで、自分から手を繋ぐ。もう余所見しないように。

 

生まれて初めて見た日本語は、未だ日本に未練のある私に対して日本が既に手の届かない位置にあることを伝えてきた。

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