私が完全に回復した彼と一緒にお菓子をつまんでいるともともとの予定を思い出した。
「それにしても誘拐した超バカ共のせいで大分時間が食われましたね... 実は午後は最上と買い物に行く予定だったんですよ?」
そういうと彼は少し意外そうな目をこちらに向けながら、
「あれ・・・何か買うものとかあったんですか?そうだったらほんとに申し訳ないです」
とか抜けたことをぬかしやがったので、呆れながらも、
「少なくともあなたの毛布がないでしょう... 余りに寒そうなところで寝ていたあなたを運ぶのが超面倒だったので暖かいようにしてほしいです、という話を朝にしたはずなんですけどねえ... 頭をぶん殴ったら思い出しますか?」
と自分に関することは抜けまくりの彼にわざわざ説明をした。
「ああ... そうでした... すいません それで・・・今から行くんです?」
彼はこちらにわざわざ謝罪しながら、彼を拾ったときよりはましな夕日を指さしてからこちらに尋ねた。
本来なら映画を見てから雑貨を買いに行こうと思っていたから、正直、映画を見てからでは遅くなってしまうこの時間から行きたいとは思えない・・・行く必要はあるのだが...
それに彼も今どんな心境なのかわからないし・・・無理に連れ出して余計な負担をかけるのも面倒だ。
「どうしましょうね...正直予定が狂って面倒なんですけど... あなたはどうなんです?いけますか?いけませんか?」
だから私は彼に全部投げることにした。
彼は少し考えた後、
「自分は全然いけます!何だったら一人でも行ってきますけど・・・?」
と歯切れよく答えた。
この調子なら心労は考えなくても良さそうだ。
「一人で行くとか何超バカなこと言ってんですか また攫われますよ」
一人でここに残るのも嫌だという気持ちともしかしたらという可能性を考えてそういってやると、彼は生意気にも(面倒だという私の気持ちを汲んでのことだろう)私に反論してきた。
「いやあ・・・でも、一回解放されたってことは他の組織にも周知されてるんじゃないですか?そんな問題がある人間をまた捕まえようとは思わないじゃないんです?」
まあ一理あるし、それどころか襲われない確率のほうが高いと思うが、こんなクリスマスの日に女の側から「買い物に行きましょう」と誘われて、「一人でできますよー」と答えるとは、彼は自分のことだけじゃなく女心も理解できないようだ。
「いいですから、行けるならもう行きますよ 時間が本当になくなります」
私がそういって準備をしに行き、戻ってくると先程まで食べていたお菓子などの食べ物のゴミがきれいに片付けられていた。
(相変わらずの手際の良さですね)
入ってきた私に気付いた彼は、
「準備できましたー」
と笑みを浮かべながら私を待っていた。
(抜けてるとこさえなければこれも超素直に素晴らしいといえるんですけどねえ...)
まあそんな彼は彼ではないとも思うのだが。
「大分そろいましたかね?」
私はそういいながら私の三倍くらいの荷物を持ったことで、両手がふさがったまま歩いている彼を横目に、荷物とは反対の手に持ったタイ焼きを頭からかじった。
「そうですねー 毛布にシャンプーハンドタオル、バスタオル、食器とコップ、歯ブラシ、寝るときの服なんかも買いましたからから大体大丈夫だと思います」
買ったのはそれだけではないが、それらのものの名前を聞いて不足はないと思った。
ちなみに昨日はそれでどうしたのかと聞くと、ハンドタオルと歯ブラシは予備のものがあったらしい。
正直私も予備があるのか覚えていなかった。
それとハンドタオルだけで体を完全に拭いたというのは少し驚きもした。
わざわざそんなことするぐらいなら私が使っていようが、バスタオルぐらい使うと思うのだが。
潔癖なのか余程の恥ずかしがり屋なのか、見ていないんだから使えばいいのに、と思いながらかじったタイ焼きを飲み込むと、
「・・・よくそんなに食べれますね... さっきピザも食べてたんですよね・・・?」
とどこか恐れるような口調と目で彼がこちらを見てやがったので、
「あれ、女のスイーツは別腹、というのを超知りませんか?・・・それにこれだけが目的じゃないですから、そんな目で見てると超ぶん殴りますよ」
と私は言いながら「それ以外の目的」を考えている彼にその目的の行動を行うことにした。
「はい、どうぞ」
と私がいきなり荷物で両手がふさがっている彼の目の前にタイ焼きを突き出すと彼はムダに反射神経の良さを見せながらこう言った。
「そ・・・それさっき絹旗さんが食べてたやつじゃないですか?さすがに人のは食べませんから!自分も買ってきますから!」
「・・・その格好でどうやって食べるのか超教えてほしいものですね ですがそもそも私があげるといっているのだから食べればいいじゃないですか?」
そういって彼の口元にぐいぐいとタイ焼きを近づけると、
「イヤ・・・でも・・・わかりました食べます...」
と彼もさすがに断り続けると脅されるということを学習したようで私が口をつけただけのタイ焼きを真っ赤になりながら小さく一口食べた。
「・・・あー... 美味しいですね...」
と私から目をそらしながら歯切れ悪くそう言った。
(これぐらいで超ここまで恥ずかしがるとはやはり初心すぎるというか・・・いや、そもそも超私が荒みすぎてしまった・・・?・・・そんなことあるはずありません・・・よね?)
と彼の恥ずかしがる顔をみながら私はまた一口タイ焼きを食べた。
(・・・あと二口ぐらいでしょうか?残りは全部最上に食べさせてしまいましょう)
ともともとお腹はすいていなかったがこれをやるためだけにタイ焼きを買った私はそう思った。
「ほら、あと二口ほどです 頑張ってください?」
まだ別方向を見ていた彼に呼び掛けてこちらを向かせると
「・・・絹旗さんが食べるために買ったんじゃないんですか・・・?」
私の思惑にようやく感づいたらしい彼がそういってきたので、食べさせてまたどこかへ視線をそらしたのを見てから
「さあどうでしょう?何にしても全部食べるのが今のあなたの役目です」
と、とても楽しめているという内心を隠しながら、私は答えをぼかした。
ふと最早尾だけ、といってもいいくらいのタイ焼きを見てさらにいいことを思いついた。
「さあ!超最後の一口です!超全部味わって食べてくださいね?」
とわかりやすく声を上げると彼は訝し気な顔になってタイ焼きと私の顔を見て、この糸が分かったらしく、先ほどまでよりさらに顔を赤くして、
「いや、いや... それはさすがにやりすぎといいますか...暴走してますよ・・・?正気に戻ってください・・・?」
ととてもうろたえながら懇願するようにこちらを見た。
(ふふん 察しがいいと大変そうですね うろたえてて、超最高です)
と思いながらもいくらこういうことでしか弄れないからと言ってこんなことばかりやっていたら頭真っピンクの変態女と思われるのではないかという思考が頭をよぎったが、そこはしょうがない、口に出したしこれでしか弄れないんだから、と自分を納得させつつ次はもっと別の何かを考えることにしようと思った。
ただ今はそれより目の前のこれだ。
「やりすぎ?超面白いことを言いますね?ただタイ焼きを全部食べるだけですよ?超かけらも残さずに・・・ですよ?」
私がそういって心からの楽しさで笑うともう何で赤くなっているかもわからない彼が覚悟を決めたようで
「・・・どうぞ...」
と私にタイ焼きをねだった。
一応彼のほうに近づけていただけのタイ焼きを食べに顔を動かしてくれたほうが私としては良かったがまあ及第点、ということでゆっくりと開いた彼の口の中に手を近づけていった。
「フフッ ほら、待ち望んだタイ焼きですよー?しっかり食べてくださいね?」
もう指先も口の中ではあるが未だにタイ焼きを放さずに次の彼の行動を待った。
これで手が空いていれば無理に奪い取って終わりなんてことになっていたかもしれないが、今の彼の両手には荷物がある。
この状況でどうすればいいかなんてわかりきっている。
少しの間の後、彼は指ごとタイ焼きを口の中に入れた・・・ちなみに窒素装甲はタイ焼きを挟んでいる指には使っていない。
何となくそうしたほうがいいと思ったからだ。
それと彼への素直にお願いを聞いてくれたことへのささやかなお礼のようなものも含んでいた。
指先・・・というより彼の口の中で私は二本の指を固く閉じタイ焼きを簡単に離さないようにしていた。
彼は最初に食べやすい私の指の反対側からタイ焼きを食べていった。
多少潰れていてもこのままで終わらせて私が許すわけもないことを理解しているらしく最早タイ焼きではなく指をしっかりとくわえて二本の指の間に残った潰れたタイ焼きのために舌を滑らせた。
そのどの動作の中でも私は生暖かい舌の奇妙な心地よさに安堵すら覚えていた。
指の中のタイ焼きを攫うのが終わるとすぐに彼は口を指から放してしまった。
妙な名残惜しさを感じながら多少濡れてはいるが滴るものは何もない、きれいに舐めとったわけではないからタイ焼きのカスがまだ残っている指を見た。
(まだ残っていますよ?とか言って、これを舐めさせるのも悪くはないと思いますけどちょっとこれは超やりすぎましたね...まあ後悔は微塵もしてませんが)
顔を赤くして呻いている彼を見ながら罪悪感どころか高揚感や達成感すら味わいながら自前のハンカチで指についたものをふき取った後、彼に
「早く帰らないと日が暮れちゃいますよ」
と声をかけてから帰りの道をスキップになりかける足を抑えながら速足で帰った。
(でも人が通る道であれをやったのはさすがに超変態的な気も...)
「ふうーごちそうさまです 今日も美味しかったですよ」
と一緒に夕ご飯を食べ始めたのにもかかわらず、私よりも量が多いはずなのに私よりも早く食べ終わって適当な話をしてくれていた彼に、ねぎらいの言葉をかけた。
「そりゃあお仕事みたいなもんですしこれくらいはできて当然ですよ それに絹旗さんにも少し手伝ってもらいましたから!」
と帰ってきてから真っ赤でほとんど会話にならなかった彼は料理や食事をしたことで大分持ち直したらしく軽快にそう答えた。
「そういった心持ちも含めて、ありがとうございます それはそうと先程も言った通り明日は昼前ごろから深夜まで超クソったれな「お仕事」が入りましたので、朝食と軽めに夜食を作っておいてもらえると助かります」
と持ち直してはいたが私が横にいるだけで顔が赤くなる、料理をしていた彼を弄りながら私も少し手伝っていた時に、突然届いた電話とその内容に誰が見てもわかるほど顔が歪んだことは記憶に新しい。
(にしてもいくら報酬が多くてもこのタイミングでほぼ丸一日費やさなきゃならない仕事とか・・・超憂鬱です...)
しかもこのこちらに持ちかけられる類の仕事というのは断っても一つも得がない。
重要性がなくても今後回される仕事の量が微妙に減るうえ、重要性のあるものだったら依頼主に命を狙われることもある。
(幸い攻めてくるらしいという情報が入った過激派の武装無能力者集団(スキルアウト)から依頼主とそれに連なるものを守るだけですし、時間が無駄に超広いのもそれが理由なんでしょう ですから終われば解散 こなければ少額でも何もせずに報酬ゲットってことですし超悪いか悪くないかで言えば悪くないんですけど...)
明日から二週間近く仕事はなく、入る予定もなさそうだからとゆったりしていたのにこの始末はあんまりではないか。
せっかく彼を映画漬けにして完璧なC級映画中毒者(ジャンキー)にしてやろうと目論んでいたのに初日がこれでは台無しだ。
(そういえば今日も最上に超買い物のついでに映画を見せようとしていたような・・・超気のせいですね)
ほんのちょっとした偶然だと自分に納得させていると食事の洗い物を終えたらしい最上が
「お風呂はもうつけておきましたー」
と私の近くに寄ってきた。
おそらくもう大してやることもなかったはずだからと自分の座っているソファのすぐ横をぺたぺたとたたくと、意図を察したようで少し躊躇しながらも隣に座ってきた。
「・・・まだ慣れませんか?」
と彼に聞くと、
「いや―・・・アハハ... なれるとかなれないとかの話じゃないといいますか...あれです!美人は三日じゃ飽きないみたいな・・・・・・」
といいながら彼にとっては失言だったらしく語気をだんだんと弱めていった。
「別にそれぐらいじゃ超怒りませんし何もしませんよ・・・私を何だと思ってるんですか・・・むしろ褒められたのですから嬉しいぐらいですよ?」
と彼の発言を肯定してあげると
「そ・・・そうですよねっ 良かったです!」
と本気で何らかの勘違いを起こしていたらしい彼は元気になった。
(いったい何考えてたんでしょうこのバカは・・・どうせ超ろくな事じゃないので聞かないでおいてあげますけど)
私が暇つぶし程度につけていた過去の名作映画に彼は目をとられながら、
「どうして慣れだのなんだのって聞いたんです?」
と私に聞いてきた。
なので私はそれなりに正直に答えることにした。
「あなたがこの家に情報を盗みに来た輩に女だからと気を許さないかが心配だからです 今もこうしているだけで超動揺してますし。」
これは確かに心配なことだ。
大したものはないがそれでもなくすと困るものはあるのだそんな時に女にうつつを抜かして大事なもの全部取られましたとか、たまったもんじゃない。
とありうるかもしれない未来を嘆いていると、
「・・・絹旗さんみたいに過激なことしなければ動揺も何もしませんよ・・・」
とか何かを思い出したのか顔を赤くしながら抜かしてきた。
それはつまり...
「それはつまり、私以上に過激なことをされれば何があるかわからないと?これは驚きました それなりに信用できる、という程度の位置にはおいていましたがこれは評価を見直さないといけませんね?」
と言葉が口をついて出た。
さすがにたった二日目とはいえなんだかんだで私のほうを優先すると言うかと思えばこれだ。
多少不機嫌になる自分の心を感じながらさらなる言葉をかけた。
「そういうことには超興味なさそうなふりをしててもやっぱりそうなんですか ・・・この変態」
「いや・・・興味がないといえばうそになりますけど、今のはそういう意味じゃないんです! ただ・・・過激なことをされた後に隣にいられると動揺するってだけの話です!」
先程とは違って青くなり始めている顔を見ながら、
「そうですか・・・それで?」
今すぐにでも言葉を取り消したくなりながらもそれでもほしい言葉があった。
「別に過激なことをされればそちらに協力するという話でもないんです だから・・・」
私の待ち望んだ答えが出ることがなんとなくわかり、世界が止まるような感覚がした。
「何があっても絹旗さんのことを優先します!絶対に!」
その言葉を聞いて自分でも訳が分からないほど安心した。
他にも何か言おうとはしていたみたいだが私にとってはそれだけで十分だったので、胸のあたりに抱き着いて言葉を止めた。
自分の思っていた回答とは違うものが来て、しかも他の誰とも知れない奴に気を許すかもしれないというものだったから、柄にもなく動揺してしまった。
見捨てても、笑って戻ってきてくれたから気を許せた。
初めてできた気を許せる人間だったから、どうしても離れたくなかった。
明日ほぼ丸一日離れるのが嫌だった。
そんな不満たちが思わず爆発してこんなことをしてしまった。
自分の不甲斐無さに思わず涙が出そうだった。
それでも一言
「ごめんなさい」
というと、わかってないのかもしれないが多分わかってくれたのだろう彼はかすかな微笑みの音をだして、
「いいですよ」
と言ってくれた。
優しすぎて、いろんな感情があふれてきそうで、抱きしめる力をもっと強くした。
彼も弱弱しくはあったけれど、それでも固く抱きしめてくれた。
落ち着くと私は彼に膝枕をするように言った。
「超勘違いしないでほしいですけど、ただ一緒にいてほしいってだけです 調子に乗ったりしたら頭が割れますからそのつもりでいてくださいね?」
無事に涙を出さずに済んだ私は優しく笑いかける彼にそう言った。
こうして弱みを見せた私の手を握ることも、頭を撫でることもしない彼だから、こんなことを言ってもしょうがないのかもしれないが、これで情けないことを開口一番に言ったのならば私は一生彼に対して優位に立てない。
だからこんなに幸せな気分であることを隠すための言い訳なんかじゃないし、散々彼を恥ずかしがらせた私が今更彼と黙って見つめあうと恥ずかしいからそれを隠すためとかでは断じてない。
「最上・・・超今何時ですか?」
「…自分で見たほうが早いと思いますけど、8時です」
今の私に起き上がらせるつもりなのか。
「そうですか 映画が見たいです 持ってきてください」
「はあ・・・?何がいいですか?」
私がいない間にここにある映画の種類を覚えたらしい彼がそう言う。
正直なんでもいい。
わざわざ記憶媒体化しておいてあるものなどどこか物足りないし。
「なんでもいいです 最上が見たことないヤツなら 早く持ってきてください」
「わかりました... 手を放してください・・・えーと・・・すぐ戻ってきますから」
私の考えることがだんだんわかってきたらしい彼がすぐ戻ってくる、の言葉を付け足したので仕方なく手を離した。
「20...19...18...」
「カウントダウン!?準備の時間とかありますから、もうちょっとゆっくりとお願いしますー!?」
そういいながらもいそいそと準備をして
私のわがままをかなえてくれる彼はまるでサンタのようだった。
きれいにかけそうだから締めちゃった(無計画が原因の事故)
なんか書いてたらこうなった感があふれ出た(見切り発車の恐怖)
でも絹旗は知り合いに依存するタイプって言ってたし多分これでおっけー