クリスマスイブの居候   作:ポーター

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イチャイチャ要素はほぼありません(技量不足)


昔のこと

私は用事を終わらせ、最上からもらった手袋で寒さをしのぎながら歩き、やっと帰宅することができた。

外は、日が出ているが時折雲に隠れることで白い息が出ない程の絶妙な寒さを保っており、後1時間もすれば日はオレンジ色の光を放ちながら沈んでいくであろうという程の位置に太陽はあった。

部屋の中は暖かすぎる、ということもなく、身にまとった防寒具などを脱いでも寒くはない、といった過ごしやすそうな温度だった。

彼のいるであろうリビングへと向かうと彼はソファに座りながら何らかの本を読んでいた。

 

「超ただいまです それ、何読んでるんです? 漫画ですか?」

 

「お疲れ様ですー 今日暇だったので食べ物なんかと一緒に買ってきたんですよ」

 

(そういえば朝「本棚を使っていいですか」とか聞いてきましたっけ 最上のことですし超唯一私が知ってる趣味である音楽のCDあたりでも入れるのかと思ってました 最上らしいといえば最上らしい気もしますけど)

 

新発見した最上の趣味にどこか納得をしながら彼の隣に座り、邪魔にならない角度でそれを覗き込んだ。

 

「・・・可愛らしい子たちですね」

 

そこには全部がそうとまではいかないものの、可愛らしい、制服を着た少女たちが多く描かれていた。

 

「そうですね すごくかわいいですよ クスっと来るような面白い話もありますしオススメですよ 読みますか?」

 

そう言って彼は題名の横に小さく「2」と書かれた本を閉じないように片手で持ちつつ、またもや題名の横に「1」と書かれた本を差し出してきた。

 

「・・・まあ、いいですけど 読んでみます」

 

(普通こういう状況でそうなりますか? まあ超最上ならあり得てしまいますけど)

 

相変わらずの鈍感さに最上らしさを感じながら差し出された本を手に取り、彼の膝に頭を乗せて横になった。

普段から少し休みたくなった時にもそうしているためか、彼は何も言わずに、少しうれしそうに、それでいて恥ずかしそうにしながら、片手にあった本をまた開き、読み始めた。

・・・いつだか頭が痛くするとダメだから、とか何とか言っていつだかにとったカエルのクッションを頭と膝の間に挟んだ時はそれを投げ捨ててお腹に一発食らわせてやった。

 

その漫画は高校生の少女たちの平和な学校生活を描いていた。読み進めると確かに面白く、癒された。ただ彼がわざわざいくつもの漫画の中からこれを選んだ理由が思いつかなかった。・・・もしかして表紙がかわいかったから、とかだろうか。

 

「超いいものですね でも、なぜわざわざこれを?なんで3冊も買ったんです?立ち読み程度で見たなら一巻だけでいいような気もしますけど」

 

漫画から顔を上げ、表情を変えずにそういうと彼は何でもないような表情で漫画に目を向けながら言った。

 

「実は昔、こういうのを見たことありまして 今はどんな風にやってるのかなーって思ったんですよ ・・・変わってないみたいで何よりです」

 

「はぁ... 昔ですか その昔見た理由はどんなもんです」

 

小さな疑問を片付けた私はついでにそう聞いた。

 

「んー... 人気だったんですよ、自分のところで その時自分も読んで、キャラクター・・・この子がすっごい好きで、覚えてたんです」

 

彼が指さすのは、友達である少女を魔の手から守るため、そしてそばにいるためにつねにその友達のそばについて回る、その友達に関すること以外には冷静であり、時に少女らしい一面を見せる、体が全体的に成長していない女の子だった。

 

「・・・意外ですね超こっちの子かと思いました」

 

私が指さしたのはピアノを弾き、どこか影のある表情で笑う、お菓子関係の料理が得意な、下級生にも敬語で話す程に弱気で、豊満な体を持つ女の子だ。

 

「その子もかわいいと思いますよ でも自分は・・・なんていうんでしょう ・・・誰の助けも必要としなくて、でも一生懸命になれるものがあって、その為に周りを巻き込んだりして、それをやってるときは何より幸せでみたいな... それでいて何もないときにチラッとぐらいこっちを見て「振り回してごめん」とか言いそうな感じの女の子が好きなんですよ」

 

「・・・確かにその子は超そんな感じですね こっちの子はどっちかというと超振り回されるタイプですしね」

 

思わぬところで最上の好みを知り、一石二鳥を感じながら漫画に目を落とした。

 

「でも超えらく具体的ですね ・・・そういう人でもいました?」

 

私が漫画を読みながら、疑いを声に乗せてそう言うと、最上はその意図を何となく読み取ったようで、少し笑いながら答えた。

 

「あはは・・・そういうんじゃないんですよ もっと昔にいろいろありまして...」

 

答えにくそうな、悲しそうな声と顔でそういう彼を見て、私は

 

「そうですか」

 

と一言返して漫画を読むことに集中することにした。

 

 

 

小学六年生の時に困っている人を助けた。何に困っていたかは忘れたけれど、終わった時に何を言われたかは覚えていた。

 

「なんで私だけ助けてくれたんですか...?」

 

どこか期待するような目で自分にそう言う同年代の少女に疑問を抱き、その言葉追及することにした。すろとこう帰ってきた。

 

「だって、皆言ってますよ ●●君は全然人のこと気にしないって」

 

その後に「だからやっぱり」と言葉をつなげようとする彼女にただ「ありがとう」と返してその場を後にした。

 

そこからわかったのは誰かが困っている時に自分がたまたまその横を通り過ぎることが多く、小学生が抱える悩み程の些細なものではあるもののそうしているときに横を通り過ぎていったことを、悩んでいた人間が愚痴として吐き出したものが、いくつも積み重なっていたらしい、ということだ。

 

それを踏まえて、ただ生きることに一生懸命だった自分が周りを見て生きてみると、確かに困っている人がいた。些細な問題だからすぐに解決するだろう、と見逃していたそれは、その人にとっては大事なことなようで、一緒に困り事を解決すると喜ばれた。

問題を解決していくうちにそのスピードが異常であることを感じ、その上で体質か何かだとだと受け止めることにした。

 

しかし人助けを続けても今までのイメージは消えず、さらに男子が思い悩むことが少ないのか、女子がよく思い悩んでいるのかは定かではないが、自分が困りごとを解決するのは女子が多くそのことで酷くからかわれた。

 

別にそれは良かった。 それまでただひたすらに生きてきた自分は息抜きの方法としてそれを選ぶことができるようになった。気を抜いて生きていても別に死にはしないことを覚えた。だから問題はなかった。

 

問題は中学生に上がってクリスマスが近づいたときだ。

中学校でも自分についてのうわさは消えず、人助けも続けていた。困っている人がいたからだが。

その頃には音楽や漫画などあまり現実の人間の関係しないものを好んだ。一人で楽器を演奏していたし、単行本で時間を潰していた。

人の出るところには進んでいきたいとは思わなくなった。それでも困っている人がいることのみを原動力に休みには無理やり外へ出た。

 

そんな中ふと思った。

困っている人にできれば立ちすくんでいるだけじゃなく、自分で立って解決しようとして欲しいとも思った。しようとして欲しいだけだが、思うだけで声には出さなかった。それらを一番できる、やらなければならない場所にいるのが自分だと思ったからだ。

 

一番最初に助けた女子が自分にまとわりついて傍を離れようとしなかった。こちらのことしか見ていないらしく、勉強もせずまっとうに生きることもせずに近づく女子に敵意を振り撒いていた。そんな時に下駄箱に手紙が入っていた。わかりやすく言えば内容はこうだ。

 

「良かったらクリスマスパーティーに来ませんか? 詳しく話が聞きたいです」

 

自分は行く気だった。文末にあった女子の名前にではなく、自分の話を聞きたい、という部分に心を惹かれた。もしかしたらどこかで、この自分の状況に疑問でも抱いてくれたのかもしれない。いや、その時はきっとそうだと感じた。

 

しかしその日が来る前に大きな事件へと発展した。

そうは言ってもただ自分のことを好きな女子が先程の手紙を送った女子を何故か嗅ぎつけたらしく、手紙を送ってくれた女子にカッターを持ち出し右腕をほんの少し切りつけたらしい。

自分はその日は休んでいた。自分が必要とされる時の数分前に起きる、困っている人がよく近くにいる、に次いで、何かをするときに危険な場合にそれを何となく感じ取る事ができ、それで危険だと感じたからだ。

これも万能ではなく、無視しても多少気持ち悪くなるだけ、何かを回避しても、その回避した時に起こした行動による危険は察知できなかった。

車をよけてもその先の自転車には当たってしまうようなものだ。

 

案の定起こった事件に関係するとして自分はそれに巻き込まれ、彼女達の停学、出席停というらしいが、それが1ヶ月だと聞いた。被害者の少女には酷じゃないかと聞いたが、彼女も一応彼女も煽るようなこと、「●●が可哀そうだ」とか「別に●●は君のこと好きじゃない」など言いにくいが、確かにこの自分の本心でもあることを口にしたらしい。自分のことを欠片でも理解しようとして、助けようとしてくれている人がいる。それだけで心が躍り、生きる活力になった。

それに伴って、学校はどちらも悪いことをしたのに期間が違うのはおかしいとカッターを持ち出した少女のほうに期間を合わせたらしかった。

 

腕にほんの少しの切り傷を負った少女の母親は何処かの重役らしく、こんな危険なところに娘は置いていけない、と言ってとりあえずといった感じで三月までの休学を申し出ていた。

 

逆に怪我をさせた方の少女はまた何か問題を起こしたのか、こちらも三月までは出てこないことを知らされた。

 

しかし彼女は現れた。2月14日、バレンタインだ。今度はナイフを持っていた。ついでにチョコも。下校の最中に、彼女はナイフをちらつかせながら現れた。「愛しているの」という言葉とともに突き出されたチョコを、自分は受け取らなかった。愛してないからだ。好きでもない。

・・・実は朝から危険信号は鳴りやまず吐き気でフラフラだった。

それでもわざわざ登校したのは、チョコを渡したい友人と、チョコを渡されたいから明日は傍にいさせてくれ、という微妙にすれ違っている、可愛らしい幼馴染同士をこじれることなくくっつけるためだった。

 

受け取らなかったチョコを彼女は地面に落としてから、両手でナイフを持ち突撃してきた。吐き気はあったが避けられた・・・はずだがその場を動かなかった。

頭をよぎったのだ。あの日、自分は図らずとも彼女を起点に人助けを始めた。そうじゃなく初めから助けて続けていればこんなことにはならなかったんじゃないか。

もしくは二人が争った日と。

そのまま抵抗もせずに彼女にめった刺しにされその生涯を終えることになった。

 

 

 

見た夢の残酷さに比べてあっさりと目を覚ました。今のは自分の前世であり変えようのない自分の過去だと割り切っていた。それでも悲しい記憶として残っているのだろう。整理でもするためなのか数年に一回ほどこんな夢を見る。

でもそれは二日前、あの時に少しでも思い起こそうとしたのが原因なのかもしれない、とも思った。

 

どれだけ辛くてもこの時間に起きたということはそろそろ絹旗さんも起きるころだ、ということ。支度を済ませて朝食の準備を始めた。

妙に胸騒ぎがした。これはこのまま行動をしていると危険なことが起こる、という危険信号でもあった。無視すれば出てくる吐き気に比べれば些細なことだろう。問題は何をすればこれを回避できるのか、だ。

それを考えながら軽い料理を済ませて、起きてきた絹旗さんの前に朝食を置くと、声と同時に額に手が当てられた。

 

「・・・超大丈夫ですか...?顔色悪いですよ 今日は私も超仕事で、夜まで帰りませんし、この後は私が洗い物とかやっておきますから、ゆっくり休んだらどうです?」

 

まったく気づかなかった。自覚した気分の悪さを確かめるように、まだ額に手が置かれているままの顔の右頬を触ると、触った反対側の目から涙が出てきた。

 

「・・・洗い物ぐらいはやっておきます 朝食食べて、洗い物を終えたら休むことにします」

 

あまりにも酷い自分の状況に困惑しながらも、自分に与えられた仕事を簡単に欠くわけにはいかない。そんなプライドの様な何かをたぎらせ、絹旗さん席の反対側に自分の朝食を置いてから座って、何の気なしにカレンダーを見た。

 

 

今日は命日らしい。

 

 

 

それでもただ家にいるわけにはいかなかった。この時期の、この日だ。関係がないわけがない。自分の今日行おうとしていたことを思い出し、その通りに行動することにした。

 

(誰にも何も言ってないから、何もできなければ死ぬんだろうな あの時もそうだ)

 

そう確信を持ち、同時に乗り越えなければいけないものなのではないか、と焦燥感をたぎらせた。

 

足はふらついていないはずだ。顔も・・・まあ大丈夫だろう。問題は調子のほうだ。いつまでも気分が沈む。同時に気分が悪くなっていく。吐いてはいない、おそらく吐くこともない。こういう時は大抵吐き気だけで吐くことはないのだ。

 

自分がそう感じていても周りはそうじゃないらしく、声をかけられた。

 

「おーい... ・・・なあ、大丈夫か? すっげえ気分悪そうだけど・・・あれだったら近くの医務室とかに送っていこうか?」

 

・・・おそらく男の声だ。上手く脳が処理をできていないが、このままベッドの上で何もできないで終わるのはダメだ。やるべきことがあるはずだ。

声をかけられたときに優しくかけられた右手を外しながら、顔も見ずに答えた。

 

「・・・一応タイムセールだから、それまではいい」

 

「うぉっ!忘れてたー!このままじゃまた金欠もやし三昧コースだ!いや、でも... あー、一緒のとこなら肩ぐらい貸すけど・・・どうする?」

 

放っておいてもいいのにそう声をかけてくる彼に甘えてゆっくりと、それでも先ほどまでより早く歩き始めた。

 

 

 

「ホントに大丈夫か? 正直見てるだけで、フラフラしてて、不安なんだけど...」

 

「ああ... ・・・うん 大丈夫 この後は帰るだけだから」

 

買えたタイムセール商品はおひとり様一つ系の油と卵8個入り一パックだけだった。隣で騒ぐ彼にただ安く済ませたかっただけだから、と5000円をお礼として渡すと、遠慮した後、取り出すのに苦労して、また入れるのに苦労することになってしまう自分を前に受け取った後、孫を心配するおじいちゃんのようにスーパーの入り口までゆっくりと付き合ってくれた。

 

彼と別れて、フラフラしてはいないものの、まるでナメクジなのではないか、という程のスピードで歩き出した。

正直今までの会話の内容も覚えていない。かろうじて彼のほうはもう少し他のスーパーをあさってみるといったことぐらいか・・・彼もやっぱり困ってたんだろうか。最近は家にいるからそういう事全然なかったから楽なんだけど・・・やっぱり助けたほうが良いんだろうか。

 

でもこの街で安易に人助けするとなあ・・・なんてことを気を紛らわすために考えていると足音が聞こえてきた。

 

直感だ。これだと思った。いや、間違いない。

 

今まで斜め下に向けていた頭を、もしかしたらこうして歩いていたせいで余計に気分が悪そうに見えたのかもしれない、と考えながら上げると、そこには見覚えのある顔、見覚えのない薄い水色の髪があった。

 

(吐き気が引いた・・・いや、まだあるな でも、大分マシだ。それでもあの死んだときよりも酷いけど...)

 

「久しぶり、雫」

 

それはいるはずのない人間だ。それは別に居てもいい。どうせ大したことはしない。ただ、「実験」で生きている人間がいるはずがない。例え詳細がわからなくてもこの街の「実験」がそんな生易しいものであるはずがない。それでも見た目はそうなのだ。

 

「うん、久しぶり 元気だった? 私もいろいろあったけど元気だよ?今日はお買い物?」

 

ああ、あの時もそうだった。最後がどこ行くの?だったぐらいか。

 

「元気だよ、この通り 怪我一つない 僕は買い物だけど、雫はなんでここに?」

 

彼女の手には何もなかった。彼女の能力からすれば一応些細なものでも武器にはできるから気を付けるべきだ。少なくとも買い物ではないのだろう。ゆっくりと近くにあったベンチに荷物を置いた。

 

「わたし?わたしはアオイお兄ちゃんに会いに来たんだよ?アオイお兄ちゃんに会うなんてこと、「会いたい」って思った時以外にあり得ないでしょ?」

 

危険な動作をしないかに注いでいた集中力をほんの少し割き、彼女がヒーローか何かの手によって安全に保護された可能性を考えたが、無駄だったようだ。彼女はこんな風な子ではなかった。実験の結果か、もしくはまた間違ったことをしたか。

 

「そうかな たまたま会うことだってあるんじゃないかな 何をしに来たの?」

 

絹旗さんを巻き込むのはあり得ない・・・巻き込む気なら教えていたが。それはともかくマンションには行けない。なるべくならこの周辺で終わらせるべきだ。

今いる場所は住宅街に通じる小さな小道だ。低木が植えられており、先の住宅や周りの建物にいるわけではないのなら今は互いに一人だ。

 

「何をしに来たの・・・かあ... やっぱり、そうだよね お兄ちゃんは良く知らないよね うん、良かった」

 

さっきまでの自分のように下を向きぶつぶつと言っている彼女とは自分があの研究所にいたときに知り合った。元気でわんぱくな子だった。争いには向かない性格だと思っていた。

 

「あのさ、お兄ちゃん 覚えてる?わたしに言ってくれたこと わたしの名前、雨音 雫 どっちも雨のことを意味してるんだね、って一緒に笑いあったよね」

 

さっきまで暖かさをくれていた太陽は雲に隠れていた。

 

「・・・覚えてるよ 雫が、わたしは捨てられたんだ、って言って泣き止まなかったから、そう言って、愛されていたことを君に教えたんだ」

 

「うん、そうだよね でもね親に愛されていたってどうでもいいの お兄ちゃんだけいればいいって気づいたの」

 

こんなことは言う子じゃなかった。間違いない。特に母親のことが好きでその人の名前を付けたぬいぐるみを可愛がっていた。

 

「でもね、でもね・・・みんなが言うんだ お兄ちゃんはわたしたちを置いて逃げたんだって どんなことが起こるか知ってて逃げたんだって」

 

それはある意味では本当だ。あの日も危険を感じた。あのままでいたら例え皆で逃げても逃げ切れなかっただろう。

 

「そうだね 僕は逃げたよ 研究なんて危ないものだと思ったから」

 

正直にそう言うと彼女は裏切られたように目を見開いた。

 

「・・・なんで?なんで?なんでッ!やっぱりそうなんだ...みんなの言う通りなんだ!信じてたんだよ?みんながそう言ってもそんなはずないって信じてたんだよ?」

 

「みんなで逃げることなんてできない みんなを説得するのもそうだけど、あのままモタモタしていたら僕も死んでいた」

 

あの時は完全に自分の感覚によるものだったけれど、今はわかる。彼女をこんな風にしたものが死を伴っていないはずがない。

 

「そっか、うん、そっかあ ごめんねわたしが間違ってたよみんな 悲しいけどそうなんだよね でもみんな、一回だけチャンスをちょうだい?わたしがお兄ちゃんを倒したら・・・うん、うん、ありがとう」

 

どういうものか断片的に理解した。人格に関係する物だろう。もしくは記憶。

 

「だからね、お兄ちゃんここでわたしにおとなしく降伏して? そうしたらみんなでまた楽しく暮らせるよ?」

 

「みんなはもういない 死んだ 君のことは信じない」

 

信じられないものを見るような目で見た後顔に笑みを浮かべた。

 

「死んだけど、死んでないよ 私と生きてるの もう、何を言っても無駄だよね 聞こえてないや ・・・ねえ、覚えてる?私の能力」

 

「・・・覚えてるよ 雨を操作するんだよね でも、今雨は降っていないよ」

 

そういうと、彼女は砂漠でオアシスを見つけた人のような喜びを顔に浮かべた。

空は雲ってはいるが今のところ雨は・・・

 

「ねえ、お兄ちゃん知ってる? この街が作った機械、「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム) これはね、天気を完全に予想するんだって 私たちの実験は予想もされずにただ行われたのに、天気を予想してるんだって、おかしいね」

 

笑みを浮かべる彼女にさらなる危機感を抱いた。かなりまずい。

 

「でも、でもね だから今、私はお兄ちゃんとこの力で戦えるんだよ? こうなってからの能力の初披露がこんなのなんて悲しいね でもしょうがないよね」

 

地面に、頬に、道に、広がっていく雨の中から彼女の周りに落ちる雨のみが規則性をもって彼女の周りを飛び始めた。

彼女は大きく腕を広げて言った。

 

「うん、全力を出せる気がするよ アオイお兄ちゃん」




終わらせるために全力を出そうとしたら七千文字どころか八千文字行きました
ここまで読んでもらえるのは本当に感謝の極みです。

ほぼほぼ機能しないと思われた、データとして出すために必要だっただけの最上くんの下の名前が幼女(小三ぐらい)(幼女とは言わないかも)によってそれなりに有効活用されました。
次に最終回が来るといいですね

今回はちょっとあれでしたけど最終回はイチャイチャしていきたいですね

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