–––––気まずい、それがIS学園と呼ばれる女の園に入学する事になった織斑一夏の感想だった。
男女比1:9、全校生徒の中で男子と呼べるのは自分と二人目だけ、異性からの奇異の視線を受けながら平静など装えない。
二人目と会話をして気を紛らわそうとしてもその本人は周囲の目線など気にも止めていない、それどころか話しかけている金髪の少女との会話ですら無言を貫いている。
彼女の様子からすると知り合いらしいが、身近な人との会話すらしないような寡黙な男に話しかけても返事が返って来ることは期待出来なさそうであり、自分以外の男子生徒は四つ年上の彼だけである以上今後の人間関係を円滑にする為にも下手な事はしない方がいい。
そんな風に、一夏が話しかけたい衝動を堪えながら居辛さを感じていると、その二人目が近付いて来た。
「……織斑一夏だな?」
「あ、はいそうですけど……えっとシュウ・スプリングスさん、ですよね?」
「……敬語は不用だ。
「あ、ああ!! こっちこそよろしくな!!」
偽名を名乗りながらシュウは一夏に近付いて握手を行う、コレは彼自身が一夏との接触の機会を狙っていた為だ。
それともう一つ、彼の人生において身内と呼べる存在は同じプロジェクトから作り出された
「もう!! さっきからずっと話し聞いてないと思ったら……いきなりごめんね? 織斑君、シュウはちょっと無愛想なところがあるから」
「いや全然大丈夫、むしろ話しかけてくれて助かったくらだ。……んで、その」
「あ、ごめんね? 私はシャルロット・デュノア、シュウとは−–––」
と、シャルロットが自己紹介をしようとしたところで副担任である山田真耶が教室に入って来た為、彼女は一旦話を打ち切って自分の席へと戻る。
その際、ほんの一瞬だけシュウの目が山田真耶の顔を見つめていたのだが、それはシャルロットの洞察力を持ってしても察知出来ないほどの刹那であり、目に映った色も値踏みをする様な物だった。
(––––山田真耶、以前打鉄を強奪した時に交戦した女か)
シュウは以前戦った彼女の事を思い出そうとしたものの、手傷すら負う事無く圧倒した彼女を気にする事そのものが時間の無駄だと判断、無言で着席する。
その後は騒がしい自己紹介を無心で聞き流して居た彼だったが、遅れて教室に入って来た担任を見た彼は思わず喜びのあまり悲鳴をあげそうになった。
次の休み時間には一夏が知人である少女と教室の外へ出て行った為、一旦シュウはため息を吐いて気持ちを落ち着ける。
そんな時だった、シャルロットが他のクラスメイトと会話をしている間に一人の少女が彼の元へ来ていた。
「ちょっとよろしくて?」
話しかけた少女の名はセシリア・オルコット、嘗て彼が殺害したオルコット夫妻の忘れ形見である。
本来ならば淑女である彼女は目上の人間には敬語を使う、しかし所謂女尊男卑の考え方に毒されている為か四つ上のシュウに対して高圧的に話しかけて来た。
彼自身は特に彼女と話す事は無い、そもそも護衛対象のシャルロットとすら会話のキャッチボールを成立させる気が無い以上、初対面の彼女と会話をする事などあり得ない。
第一彼は彼女からすれば両親の仇、真実を知ればまず間違いなく敵対する事は目に見えている上、シュウ本人も人を煽る物言いしか出来ない為、当時の所業をうっかり喋ってしまう可能性もある。
故に彼は意図的に彼女を無視して目を瞑る、耳から入ってくる彼女の声は意識しなければ問題ない。
だが、プライドの高い彼女はシュウの態度が気に入らなかったのだろう、無視されている事を悟るや否や彼の正面へと回り込んで抗議をしようとしたのだが、その前に彼が立ち上がり、殺気を込めながらセシリアを睨み付けて黙らせると、そのままトイレへと向かう。
包帯によって隠れた顔色は青白く、素顔を晒せば誰もが体調不良を察せるほど苦悶に歪んでいる、人目につく所でこの様なザマを見られるのは不都合であり、それを誤魔化す為には急造された男子トイレへと行くしか無かった。
(––––今朝も薬を服用したにも関わらず発作が起きたと言う事は……今の薬では効かなくなるほど状態が悪化していると言う事だ)
包帯を取りながら素顔を晒す、入学の際は亡国機業のエージェントを通じて様々な偽装工作を行った為、顔の秘密はバレなかったが、その様な事をしなくても
何故なら既に彼の顔は書類上の年齢よりも遥かに年上になっており、それは彼自身の抱える欠陥が徐々に重度の物へと進行している証拠だった。
(––––––俺は後一年も生きられまい、時を刻み始めた砂時計を止める事は誰にも出来ないのだからな)
老化した自分の顔を忌々しく睨みながら彼は懐の薬を服用した後、身体の不調が落ち着くまでその場に座り込むのだった。
シャルロットは男装が不要なので一人称は私のままです。
そして主人公の顔は急速に老化して最早三十代半ば、身体も衰え始めてます。