––––それは、授業が始まる直前に織斑千冬が零した一言が発端だった。
再来週から始まるクラス対抗戦、その代表者を決めねばならないと言う話なのだが、その際にクラスの大半が織斑一夏を指名したのである。
理由は少し考えれば分かる。『同年代の男子であり世界で二人しか居ない男のIS乗りだから』たったそれだけの理由。
だが、この指名に異議を唱えたのがイギリス代表候補生のセシリア・オルコットだ。
彼女からすれば男性がクラスの顔と言う時点でも業腹なのだが、それ以上に織斑一夏の致命的な知識不足を目の当たりにしてもなおその様な選出を行った者達にも怒りが募っていた。
直前の授業で彼はその内容に着いて行けていなかった。これは元々別の学校へ進学する予定であり、IS関連の知識を必要とする進路を取っていなかった点を考慮しても必読書である参考書を読まずに捨ててしまう様な認識の甘さが原因なのは明らかである。
彼がISを起動した今回の一件は確かに事件とも言える出来事であり、同情する気持ちも彼女の中には無いわけでは無いのだが、それを差し引いても典型的な女尊男卑主義者彼女の目には粗が目立ってしまう。
「––––いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
更に言えば、彼女は専用機を持つ代表候補生。 シュウの付き添いで入学して来ているフランスの専用機持ちであるシャルロットが選出されているのならばともかく、自分を差し置いて素人をクラス代表に選ぶなど正気の沙汰とは思えない。
怒りと高い自尊心が相乗し合って昂ぶった感情は徐々に過激な内容の言葉を口にし、不満とストレスの溜まっていた一夏を刺激する。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしとっては耐え難い苦痛で––––」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。 世界一まずい料理で何年覇者だよ」
売り言葉に買い言葉、こうして二人の口論は熱を帯びるのだが、その様子を見ていたシュウは果たしてどうした物かと頭を悩ませていた。
彼は一夏と違い推薦されなかった。年頃の少女達にとってコミニュケーションの取り辛く、包帯で顔を隠した青年と言うのは中々気安く触れられる物では無かったのだろう。
その結果割りを食ったのは一夏だったのだが、彼本人はこのクラス対抗戦に出ても良いと考えていた。
勿論、クラス代表になれば生徒会の開く会議や委員会への出席といった時間の浪費をする事になるのだが、
そして、この選出には拒否権が無い。 つまり選ばれてしまった
もう一つ、彼がこの対抗戦へ出る理由を付け加えるとすれば––––様子見をしている間に一夏に対してまるで笑い者にする様な物言いをするクラスメイト達から血の気を引き抜いてやろうと言う冷酷且つ加虐的な思考。
男であると見下す事には何の感慨も湧かない、しかし彼を笑う事はその為に散った
一瞬、自分を推薦するだろうと考えていたシャルロットの方を見たのだが、彼女は二人の喧嘩の仲裁を行なっていた為期待出来そうにない。
それ故に、余計な事を言ってしまうと分かりながらも彼は手を挙げた。
「––––なら、俺も出ようじゃないか。一夏が出ているのだから同じ男である俺も出ない訳にはいかないだろう?」
「ふん! 素性の知れない貴方もですか、身の程知らずとはこの事ですわね。 ハンデは必要かしら?」
「……必要無い。 しかし皮肉だな、セシリア・オルコット」
嘲笑するようにセシリアを見るシュウ、その彼の表情を見てシャルロットは嫌な予感を感じ、咄嗟に彼を宥めようとしたのだが、残念ながらその仲裁は間に合わない。
「––––貴様の両親はISによるテロによって殺害されているそうじゃないか、そんな貴様がISを憎まずそれに乗ってあまつさえそれを誇っているのは非常に滑稽な事だが、それ以上に愉快なのは俺の専用機もラファール・リヴァイヴなのだよ。 確か深紅のラファールが貴様の仇だったな? 貴様との試合では紅く塗装してやろう。 安心しろ、サービスだ」
かつて最強の名を欲しいままにして来た最恐最悪のテロリスト、ラファールの赤い塗装をタブーにするほど暴虐を尽くした『
古傷を抉った上にそれを嘲笑うかのような挑発を行ったシュウに対し、一夏やクラスメイト達への怒りがかき消されるほどの激情に駆られたセシリアは、シュウの発言に絶句した一夏を無視しながら彼へ詰め寄り、襟を掴んで包帯越しの見下した目を睨みつける。
「貴方はッ!! 貴方と言う人はッ!!」
「……時間は有限だ。俺は貴様の怒りに付き合うほど暇じゃないんだよ」
「人を煽る様な言い方をしておいて何を偉そうに……ッ!!」
「……事実じゃないか。何時までも両親の死を引きずり、その為に牙を研いだのだろう? にも関わらずこんな平和ボケした国で学ぶ屈辱が許せない、ククッお前の内心は手に取る様に分かる。 だが、一つ言わせて貰うならば貴様のその感情は時間の無駄だ、死んだ人間など何の価値も無い生ゴミに過ぎない。 いつまでもそれに囚われている事自体が人生の浪費なんだよ」
「シュウ!! もうその辺で––––」
人の尊厳を踏み躙る様な発言をし始めたシュウを止めようと、シャルロットが立ち上がった瞬間、乾いた音が教室に響き渡る。
それは怒りを通り越して殺意を目に宿したセシリアが振り抜いた平手、出来る事ならばこの手で八つ裂きにしたいくらいの殺意なのだが、ISを用いた戦いが控えている以上そちらで思い知らせてやればいい。
「––––楽しみにしていてくださいね、貴方は私がいたぶり尽くして差し上げますから」
「……やれるものなら、な」
その後に及んでの挑発、セシリアは泣いて謝ったとしても彼を許さないと決め、同時にどう血祭りにするかを考え始めた。
––––だが、彼女は知らない。彼こそがまさに自身の怨敵である事を。
途中から一夏は冷や水ぶっかけられたくらいシュウの発言にドン引きしてるので口を挟めませんでした。
シャルロットは止めようとしたけど間に合わなかった。