主人公はとある欠点以外は千冬に匹敵するスペックを所有しています、身体能力に問題はありませんが……ある部分が致命的な欠陥を持った所為で不良品扱いされていました。
公然の秘密としてヒントを出すならラウ・ル・クルーゼリスペクト。
後年齢は一夏達より三、四歳年上です。
––––シュウがスコールに拾われて暫くが経過した。
彼女はまず意思疎通の難しい彼と会話を成立させる為にある程度の感情を与える事を考えたのだが、頭を撫でようが年頃の少年が持ち合わせる性への興味を利用しようが一言も発する事無く微動だにもしないシュウに最初は手を焼いていた。
動物に対する調教の様に物理的な恐怖を与えようにも感情をオミットされた様な少年には効果が無く、寧ろ超人的な反応速度と人間離れした腕力で左腕を千切り取られ、それに激昂したスコールの恋人オータムが彼を強奪したばかりのISで叩きのめすという一件以来、物理的な調教も出来ないと来た。
脳内に反逆防止用のナノマシンを投与していると言うのに命など御構い無しと言わんばかりの戦いぶりに当初はどう首輪を付けたものかと考えていたスコールだったが、ある日幸運にも彼女の手に『織斑』が手に入る。
強過ぎる故に捨てられた哀れな妹と織斑殺しの織斑、この二つを並べた時スコールは冷酷な笑みを浮かべて隔離した部屋に居る二人に命令を下す。
––––二人とも、『きょうだい』なんだから死なない程度に戦ってあげなさい。
それはシュウに対するちょっとした嫌がらせ、拾ってあげたのに中々懐かない彼に対する当て付けだった。
捨てられた妹––––マドカはその命令に無言で返し、織斑殺しの織斑––––シュウは了承の意を告げる。
「了解、認識した」
「…………ふん、来い死に損ない」
普段返答以外で口を開く事の無い男だ、その様な安い挑発には見向きもしない、このまま織斑同士の殺し合いが始まると思っていたスコールだったが、一つ意外な事が起きた。
「–––––辛辣だな『きょうだい』俺はお前を知っている、
同胞への情なのか機械的な彼らしくない感情の滲む声、二人の様子を別室でモニターしていたスコールは嬉しい誤算に上機嫌となる。
だが、言いたい事はそれだけだったのか話し込む事も無くシュウはマドカへと襲い掛かった。
しかし、モニターの映像ではその瞬間以降彼らの姿を捉える事が出来ない、いや正確には戦闘が開始して数分で映像機器そのものが耐えられなかったのだろう、画面には砂嵐だけが虚しく映る。
やれやれとため息を吐いたスコールはベッドで眠る恋人を起こさない様に軽く上着だけを羽織ると、彼らが戦闘しているであろう隔離区画に足を運ぶ。
その道中、彼女は生贄にしたマドカの処分をどうしたものかと考えていた。
シュウは織斑殺しの織斑だ、成功体のマドカとは言え身体が未成熟な少女であり、生身でISを撃墜する程戦場慣れしている男に勝てるとは到底思え無い。
だが、彼女のその考えは意外な光景によって裏切られた。
「あら、意外ね? 手足の一、二本でも落ちてるんじゃないかって心配してたのに」
思ってもない事を言いながらもスコールが驚いたのはマドカが五体満足な事だった。
命さえ奪わなければ良い、そのような意味で指示を出したのだが、まさか手足が揃い指が全て残っているとは。
今更同胞への情が湧いたのだろうか? そう考えたが、今の状況を考えるにそれも違いそうだ。
「ふふっ私は乱暴な子もキライじゃないけれど、妹にはもう少し優しくしてあげたらどう? レディーの扱いは0点よ?」
マドカは五体満足ではある、しかし両腕は力無く垂れ下がり、両足も反対方向に捻れている。
身体の至る所から血が滴り、本人の意思とは関係なく血尿まで流れている、今の彼女で生きている部分と言えば怒りと憎しみが入り混じった瞳ぐらいだろう。
だが、対峙しているシュウも無傷では無かった。
まず左頬から額まで真上に切り裂かれたのかその整った容姿の左半分が赤く染まっている。
そしてマドカを持ち上げている右腕とは反対の左腕、それは彼女と同じように力無く垂れ下がって居たが、よく見れば半ばまで断たれているらしく、遠目からでも骨の断面図がよく見えた。
身体中にもナイフが突き刺さったままになり、無数の弾痕も致命傷である事を物語っている。
––––
「コレが織斑と言う訳ね、究極の人類を通り越してモンスターになってる様に見えるけど」
返事を期待したものではない、単なる皮肉として投げた言葉だったが、意外にも彼から返事が帰って来た。
隠し持っていた治療用ナノマシンを妹と自分に打った彼は左腕の断面同士を合わせながら、スコールに向き直って口を開く。
「……俺は石垣の一つに過ぎない」
「へぇ、貴方身内の話になると饒舌なのね」
「たった二つの成功例と計画外の成功体、俺達はその為の石垣、死んだ『きょうだい』は皆その為の礎、朽ち果てるのを待つばかりの
チラリとそう言って言葉を区切り、血溜まりの中に横たわる
自分達の上に立つ三つの内の一人、自分と戦い刺し違える一歩手前まで戦った破壊のプリンセス。
「––––その内の一つと出会えた、感謝しているぞスコール」
その一言と共に彼は部屋の外へと出て、与えられた部屋へと戻る、目に宿る光には羨望・嫉妬・怒り・憎しみ・親愛・侮蔑……、あらゆる正負の感情が濁流の様に最早何色かも分からぬほどに入り混じり、彼自身も自分を抑えられないほどの激情となって燃え盛っていた。
––––まだ見ぬ『きょうだい』よ貴様らは
マドカとは違った感情で千冬・一夏に敵愾心を抱きました。