––––亡国機業の地下施設、IS同士が戦闘を行うのに十分な広さを持ったその場所は今二人の鬼によって戦場と化していた。
床一面には所狭しとばら撒かれた空薬莢と斬り捨てられた弾薬が山積みとなり、折れたブレードや切断された重火器が無数に転がっている。
そんな硝煙と殺意が充満した部屋で壮絶な殺し合いを繰り広げていたのはお互いに満身創痍となったシュウとマドカであった。
強奪したISをマドカに渡してからというもの、シュウは彼女との殺し合いに一日の大半を費やし徹底的にその力を磨き上げている。
午前中は白兵戦、午後からはIS戦というシンプルな殺し合いと言う名の日課、歪んだ存在が歪んだ環境で育てばそれ以外の行為で物事を図ることが出来ないのは道理であり、お互いのコミニュケーションの為にはそれが一番手っ取り早かったのだ。
シュウは両手のサブマシンガンの引き金を引きながら超高速で全く同じ銃を
その無数の弾雨を突き抜けるように半壊した盾を壁にしながら
そしてシュウが代わりの武器をコールする瞬間を見計らい、出現した銃にサマーソルトを放つと斬れ味の落ちたブレードを投げ捨てて彼の顔面を掴んで壁へと押し当てた。
「……やる様になったな、エム」
「黙れエスッ!! このまますり潰してやる!!」
その言葉通り、彼女は背中から壁に押し当てたラファールを削る様にその壁面に機体を押し付けながら周囲をなぞるように飛ぶ。
金属が削れる音と共にラファールの装甲から火花が散り、
残り少ないシールドエネルギーが見る見る減って行く。
抵抗しようとしても両腕は打鉄の身体で挟み込まれて武器を呼び出す事が出来ず、
このまま一方的に嬲り殺す、そんな殺意が籠もった目でシュウを睨むマドカだったが、ラファールを駆る彼の目は彼女の殺意に反して非常に嬉しそうだった。
「エム、まだ足が残っているぞ?」
そう言うや否や、押し当てられた状態から無理矢理壁を蹴って僅かな空間を開けると、肩から反転する様にして機体に密着したエムを振り払う。
更に彼はその際の回転を利用して打鉄に回し蹴りを放って彼女を床へ叩きつけると、頭部に向かって踵を振り下ろす。
彼女の機体も戦闘によってエネルギーが削れており、普段ならなんでもないこの一撃も残り少ないエネルギーを削る一撃には変わりない。
だが、だからと言ってその一撃は避けられるほど甘い物では無く、震脚と呼べるほどの重さを持ってマドカの頭を踏み付けた。
ハイパーセンサーからはマドカが怒りと屈辱に満ちた瞳で鋭く自分を見つめてくる姿が伝わってくる、圧倒的な力の差に屈すること無く相手を惨殺すると言わんばかりのその目はシュウの空虚な心を満たすのに十分で、それ故に彼は心の内をそのまま写したような歪んだ笑みを浮かべる。
「コレで終わりか? 地べたに這い蹲り、頭を踏まれ、惨めに見下される今の気分はどうだ?」
「貴様、キサマァッ!!」
マドカは常人ならば腰を抜かしそうな声を上げながらシュウの足を振り払い、残り一本のブレードを取り出しながら斬り掛かる。
だがその動きは見切られていたのか、ブレードを握る拳を掴んでその一撃を止め、膝蹴りを叩き込みながら掴んだ拳の上からブレードを彼女の首に押し込む事で打鉄のシールドエネルギーを削り切った。
機能を停止した打鉄を見ながらシュウはラファールを待機状態へと戻し、挑発するように
怒りに染まったマドカが飛び出すように打鉄から降り、目の前のハンドガンとナイフを拾いながらシュウへと襲い掛かるが、鞭のようにしなる蹴りが彼女の脇腹に突き刺ささり、体格差で彼女の身体が一瞬浮いた瞬間、シュウは頭を掴んで自分の方に引き寄せると柔らかな腹に拳を捩じ込だ。
一方のマドカもその一撃を叩き込まれつつも、握ったナイフをシュウの胸に突き立てながら彼の頭に狙いを定めて引き金を引く。
彼は撃たれた弾丸を最小限の動きで掠らせると、胸に突き刺さるナイフを物ともせずマドカの心臓目掛けて膝蹴りを再び突き立てて彼女の身体の自由を奪い、顎を殴り抜いて失神させた。
「また派手にやったものね、エス」
「……スコールか」
戦闘時の饒舌さは何処へ行ったのか、普段の無口に戻ったシュウは自分とマドカに治療用ナノマシンを打ちながら振り返る事無く彼女の声に応える。
「ふふっ、つれないのね? そんなにもエムが大事?」
「……ふん」
「ま、良いわ、それよりも仕事よエス」
そう言って、彼女は紙媒体の資料らしきものをシュウへと手渡す。
内容はISによる襲撃任務、以前の打鉄強奪の一件以降、彼には過激なテロリズムに似た仕事が割り当てられる様になった。
本来ならば裏の裏に存在する組織の人間がこの様な目立つ事をするのは御法度であり、彼は殺処分一歩手前のところまで立場が悪くなっていたのだが、貴重なISを一瞬で強奪する実力やマニュアルを読んだだけで強奪したISを再調整してしまう頭脳を失うデメリットや、そもそも現状唯一と言っても良い男のIS乗りであり、自分達に繋がる証拠を一切残していなかった事からその一件は不問とされた。
むしろその手際を考えるならば自分達と取り引きしている者達への武力として売った方が利益になり、それがきっかけで戦争でも起きれば更に富を稼げる。
本人も命令には従順であり、反逆防止用のナノマシンや延命用の薬もこちらが握っている、万一逃げ出したとしてもその命はないのだから上層部は彼を過激なテロリストとしてデビューさせる事に決めた。
シュウ本人もそれに異論は無く、むしろその戦闘行為で向かって来るIS達を返り討ちにし続ける事でIS戦の経験を積める、そして自分が強くなれば強くなるほどマドカの糧に出来るのだから正に一石二鳥。
今回の襲撃先はイギリス、攻撃目標は名門オルコット家の当主夫妻、殺害対象を確認したシュウは資料の束を投げ捨てるとその部屋を出ようとしたところでスコールに声を掛けられた。
「そうそう、一般人への被害や向かってくるISを返り討ちにし続けてる貴方に遂に賞金が掛けられる様になったの、その金額なんと三百万ドル、貴方の首を持って行けば正に億万長者ね」
「……欲しければくれてやる、残り二つの成功体を見極めた後ならばな」
「そう、ならお金に困ったらそうさせて貰うわ、異名持ちさん」
「……異名?」
「『
「……呼びたい奴には好きな様に呼ばせておけばいい」
そう言って彼は出撃の為に酷使したラファールを修理する為、今度こそ部屋を出て行った。