なので年代的には第2回モンド・グロッソが開催されるかその前くらいの年ですね。
ラファールを修理し、出撃可能の状態にしたシュウはオルコット夫妻の乗る列車に居た。
目深くつば付きの帽子を被り、口元まで襟がある黒いコートを身に纏い、極力素顔と肌を晒さない様にしたその姿で彼は目標の存在を確認する。
丁度食堂車で二人で会話を交わしながら食事をしている最中だったらしい、顔の確認の為にシュウは隣の席に座ったのだが、目立たないように食事をする事を彼は億劫に感じていた。
そもそも食事は栄養摂取の手段でしか無く、味や食感などに一切の拘りがない彼からすれば完全食のパウダーを摂取するだけで十分な行為と言える。
彼は自身の短命さ故に無駄を嫌う、一分一秒が貴重な人間である以上、注文の言葉も食事が運ばれて来る時間もそれを摂食する事も、全てが無駄に見えた。
だからだろう、彼は周囲に人が居るにもかかわらず様々な異名を付けられた自身のISを展開する。
注文を受けに来た乗務員、食事をしていた客、そして殺害対象であるオルコット夫妻、その場の全ての人間が深紅のラファールに目を奪われ、同時に言葉を失った。
何せ男がISを動かしているのだ、あれだけ女性しか使えないと言われてきたISを二十歳にも満たない少年がである。
だが、それに驚きの声を上げる事は誰も出来なかった、それよりも先に彼の手元に現れたサブマシンガンの掃射で目撃者が悲鳴を上げる間も無く肉片に変わったからだ。
ISを展開する際に吹き飛んでしまった帽子には目もくれず、目標たるオルコット夫妻にその銃口を向ける。
「き、貴様は一体何者だ!! 何故男にもかかわらずISを起動出来る!! 答えろ
妻を庇いながら前に出て叫ぶ夫、だがその叫びには一切答える事無く、返答は引き金を引く事で行うシュウ。
目の前であっさりと弾け飛んだ夫に夫人は悲鳴を上げたが、シュウは余裕を見せるかの如く
ISのパワーと専用の銃ならば生身の人間を撲殺する事など容易であり、殴りつけられた彼女は頭部の中身を床一面にぶちまける。
これにて任務は終了、禍根を断つならばこのままオルコット家の屋敷に向かって、一人娘を殺害すれば完璧なのだがそこまでしろと言う命令は受けていなかったし、彼自身も他の事に興味があったのでそのまま銃撃の余波で吹き飛んだ壁から外へ出た。
そして列車の後部へと向かい、屋根の上を横断する様に飛びながら二丁のサブマシンガンで列車を襲撃する。
先程とは違い僅かながら乗務員の生き残りを作った彼は、彼らが緊急連絡を行って救助を要請した事を確認してからはそれ以上相手にする事無く、その場で静止して自分を討ちに来る者達を迎え討ちに行った。
暫く飛ばして接敵したISは三機の同型機、この紅いラファールを撃ち墜とそうと躍起になってるのか、或いは最強のラファール使いの名を奪おうと考えているのかは定かではないが、どちらにせよ彼には都合が良い。
何故ならば近いうちに始まる第二回モンド・グロッソ、その日本代表に
それがそう遠くない未来に
「クッ、クククッ、アハハハッ!!
誰も聞いていないにも関わらず口から思いの丈が溢れて出る、無駄口を嫌う男が愉快で堪らないと言った風に笑う。
こんな思いはマドカと対峙した時以来でしかもその質はその時以上、平坦な心の起伏が激しくて自分の感情を整理する事が出来ない。
その声は招待を秘匿する為にヘルメットに備え付けられたボイスチェンジャーによって、ノイズ混じりのマシンボイスとなり、不気味な笑い声だけが辺りに響く。
目の前に敵が居ると言うのに腹を抱えて笑う紅いラファール、三対一という数の暴力を前にしてのその態度、三人のIS乗り達は背筋に走る恐怖に生唾を飲み込んだ。
「前哨戦だ、肩慣らしだ、幾らでもこい、深紅の風は此処に居るぞ有象無象共!!」
そう叫ぶと共にシュウは
単なる飛び蹴り、確かに
この一撃で意識が切り替わったのか、三機のラファールは三角形を作る様に陣取り、そのフォーメーションを崩さないように各々のコールしたサブマシンガンを放つ。
包囲された状態からの集中砲火、付かず離れずの一定距離を保ちながら弾数の多い得物で相手を削り殺す単純にして強力な戦術ではあったが、彼女達は自分が相手にしている者が並みの相手では無い事を関連した事件資料から知っている、そう単純に沈みはしないだろうと。
その証拠に目の前の紅い機体は二丁のライフルを取り出しながらその場で回転し、三機の持つサブマシンガンの銃口全てに弾丸を打ち込んで破壊して見せた。
対IS戦でのワンホールショット、ハイパーセンサーがあるとは言え高速で移動できるIS相手にそれを行うのは想像を絶する腕前である。
モンド・グロッソに出場するヴァルキリー達ですら可能かどうか、対峙した三人は相手の恐ろしいまでの才能と実力に戦慄し、その思考の空白が致命的隙となった。
シュウはその瞬間を逃さず、目の前に居た女との距離を詰めて改造した三連装の
絶対防御すら貫通する威力の武装、それは
貫かれた女性はISの生命維持装置によって一命こそ取り留めているものの、一瞬で意識を刈り取られ墜落した。
シュウは撃破したISに目を向ける事無く、威力の代償に一回しか使用出来なくなった
「……その深紅の装甲は返り血の紅とでも言うのか、ふざけるなッ!!」
「よくもッ、よくもあの子をッ!!」
激昂した二人が突っ込んでくる、それは女尊男卑の世の中で自らがその頂点だと驕る者特有の短慮だった。
スモークの下に隠れたシュウの加虐的な表情を知る事が出来ればまだ戦えただろう、だがしかし彼女達にその表情は伺いしれない。
向かってくる二人に対して二丁のライフルを取り出した彼はその銃口を的確に額や心臓へと当てて行く、相手の銃撃は銃口と視線の先を読む事で最低限の動きで避け続け、絶対防御によるエネルギーの減少をまざまざと見せ付けた。
攻撃が当たらない事への焦り、どう避けても一方的に被弾する恐怖、目に見えて減って行くエネルギーはさながら死刑台への十三階段を登っているような感覚であり、間近に迫る死の恐怖が二人を恐慌状態へと陥らせる。
そうなれば最早成すすべは無く、最初に蹴りを入れられたリーダー機が撃墜されると間を置かずに最後の一人が撃墜された。
撃墜した三名を見下しながらシュウは機体の強奪をするか考えたが、そろそろマドカの体力が回復している頃であり、追撃部隊を待ち構えるよりも彼女と殺し合った方が有意義だと判断した彼はそのまま帰投するのだった。