石垣の上に立つ者への想い   作:ACS

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潜入

織斑千冬との交戦で撃墜されたシュウは乗機を乗り捨てて脱出し、致命傷を庇いながら回収班に収容されてそのまま治療施設へと搬送された。

 

彼の乗機には特殊な細工を施して絶対防御を発動させず、そちらに回す分のエネルギーを他に回す事で他のISよりも機動力とパワーを確保している。

 

絶対防御は搭乗者の致命傷なり得る部分への被弾に対しての発動なので劇的に性能が向上している訳では無かったが、それでも絶対防御が発動しない事で被弾しても大幅にエネルギーを削られる事が無くなり継戦能力が上がっている、尤も生存率は大幅に下がっているが。

 

そんなカスタム機だったからこそ彼は致命傷を負い、治療用ナノマシンと失った血液の補充を行なっていた。

 

当然見舞いは来ない、そもそも今回の一戦は彼の独断行動だったのでそのまま見捨てられて居てもおかしくはなかったのだが、やはり男性IS操縦者は価値が高いのだろう。

 

シュウが姉の一刀で負った傷口を撫でながらその痛みと熱に喜びを感じていると、仕事の話でも持って来たのかスーツ姿のスコールが病室に入ってきた。

 

 

「ごきげんよう、独断の末に織斑千冬に撃墜された気分はどうかしら?」

 

「……最高だ」

 

「案の定ね、男の子ならもう少し悔しがりなさいな」

 

「……俺の事はいい、要件を話せ」

 

「はぁ……貴方には暫く潜入してもらう事になったわ、理由はISを失った事に対する罰、というよりも独断行動に対する左遷や降格に近いわね」

 

 

そう言ってスコールは持って来ていた書類の束をシュウへと手渡す。

 

内容は簡単な作戦概要と人物設定、潜入時の偽りの経歴と身分がつらつらと並んでいる物で、その手の教育も十全に施されている彼はその内容に目を通しながらも横目でスコールに続きを促し、自分が偽る人物像を暗記して行く。

 

 

「貴方の潜入先はフランスのデュノア社、そこの社長令嬢のボディーガード兼執事(バトラー)として勤めて貰うわ。目的は獅子身中の虫を作るってところかしら?」

 

「……簡単に近付ける相手では無いと思うが?」

 

「でしょうね、けれど貴方が思うよりも亡国機業(ここ)は小さくないの、不自然なくらい自然に信用できる相手として貴方を送り込む方法はいくらでもあるのよ?」

 

「……了解、認識した」

 

「貴方が回復しだい執事(バトラー)として必要なスキルと知識を習得して貰う事になるわ、期間は一ヶ月」

 

「……なら今から始めるとしよう」

 

 

シュウはその一言と共に暗記した資料を投げ捨て、自分に刺さっている点滴の袋を握って一気に薬液を体内に送ると、そのまま体に刺さる針を引き抜いて足早に退室してしまう。

 

そんな彼の様子に呆れるような仕草をしたスコールも今更規格外の化け物に驚く事は無く、講師役の工作員数名に連絡を入れた後は、用は済んだと言わんばかりに一足遅れてその部屋を出て行くのだった。

 

––––一ヶ月後、燕尾服に身を包んだシュウはオータムが運転する車の助手席に乗り、茶髪に染めてオールバックにセットした髪と、老化による年齢不相応な顔を隠す包帯を巻いた自分をサイドミラーで眺めながら、今回の護衛対象の事を脳内で整理していた。

 

 

––––まずこれから自分が上部だけ仕える相手の名はシャルロット・デュノア、デュノア社現社長アルベール・デュノアの一人娘であり、社長令嬢と呼べる身分ではあるが本妻であるロゼンダとの娘では無い。

 

愛人は既に死亡しているらしく、その後の身元を引き取る形で庶民から一転して上流階級への仲間入りを果たし、それ故に内部で妬み嫉みを受ける事になった、と言ったところだろう。

 

先日アルベールとは面通しを行い、人格に難はあれど実力に問題は無いと判断されて執事兼護衛として雇わせる事に成功している、まぁ娘への暗殺計画が現実味を帯びて来れば腕の立つ護衛は欲しくなるのが人情らしい。

 

もっとも、そうなるように仕向けているのはこちらなのだが。

 

 

「そろそろ目的地だぞ、分かってんだろうな?」

 

「……問題ない」

 

「ケッ、スコールもコイツを護衛に使うより相手側に売り込んだ方が楽だろうによ、オマエもこんな任務よりはそっちの方が向いてるって分かってんだろ?」

「……無駄口が多いな」

 

「チッ、可愛げのねぇガキだ」

 

 

車中で穏やかとはいえない空気を作りながらもデュノア邸に到着した二人は、出迎えの老僕と挨拶を交わした後に邸内に案内された。

 

オータムは本来の荒々しい性格を切り替えてシュウのフォローをするフリをしながら『腕は立つが口下手で不器用な人間』と言う彼への評価を刷り込み、ある程度性格の悪さのカバーと、包帯に関する『酷く焼け爛れて醜い顔』と言う偽の同情話をした後、多少の世間話してからデュノア邸を去る。

 

そしてそのお膳立てと共に彼は当面の護衛対象兼主人である、シャルロット・デュノアと対面するのだった。

 

彼女は人の良さそうな雰囲気を出しながら部屋の中でシュウの入室を待っていたらしく、多少の緊張感がその表情から読み取れるが、シュウはその表情の中に他の感覚が混じっている事を見抜く。

 

––俺と対面する事への緊張感以外に不信感と警戒心か。

 

劇的に生活が変わったのにも関わらずアルベールからのフォローは無しと資料には書かれていた、成る程俺の事を自分への監視か束縛だと捉えているのだろう。

 

氷のような無表情でシュウはそう考えたが、相手が自分にどの様な感情を抱いていたとしてもやる事は変わらないのでそこで思考を打ち切り、軽い自己紹介と共に一礼する。

 

 

「シュウと呼ばれています、本日よりシャルロット様付きの執事として雇われました、どうぞ今後とも宜しくお願い致します」

 

「えっと、シャルロット・デュノアです、それで私付きの執事って? 社長の執事じゃ無いんですか?」

 

「私めからはなんとも、シャルロット様へお従えする様にと雇われた次第でございますので、真意までは知らされておりません」

 

 

この屋敷で働く使用人達は社長であるアルベールの雇った者達であり、基本的には彼が主人なのだが、シュウに関しては表向きは執事であるものの本命は護衛、更にその裏は工作員なので社長令嬢であるシャルロットに張り付いていた方が裏の意味でも表の意味でも()()都合が良い。

 

その為彼はアルベールに雇われているものの最優先はシャルロットであり、彼女からの命令の遂行や身の回りの世話が主な仕事となる。

 

だが、アルベールからはその旨を伏せる様に言い含められているので少々芝居がかった様な口調でシュウは誤魔化した。

 

 

その結果、更にシャルロットの懐疑心が強くなったが、シュウは何処吹く風、ティータイムに合わせて紅茶とお茶受けを取りに行くのだった。

 

 





以降シュウは顔を隠しながらデュノア社に潜伏する事になります。

狙いはシャルロット・デュノアと言うスキャンダルとのコネクションと、落ちぶれ始めはしたもののネームバリューのあるデュノア社が研究・開発中であろう第三世代機の強奪と言ったところでしようか。
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