シュウがシャルロットの護衛として雇われて一ヶ月が経過した。
最初は胡散臭い芝居掛かった口調でシャルロットと接していたのだが、その演技臭い喋りを見抜かれてしまい、普段通りの口調で接する様に彼女からお願いされた為、仕え早々に何時もの無愛想に戻ったのだが、それでもなお一定の信頼関係が築けたのはシャルロットの人の良さだろう。
彼女は普段から様々な事をシュウに話しかけた。学校の事、ISの訓練のハードさ、ファッションや流行りについてなど、彼が不要と切って捨てて来た瑣末事を楽しげに。
普段から生き急いでいる彼からしたら時間の浪費でしか無いのだが、執事として仕事をしている以上その無駄話にも付き合わなくてはならず、最初はその手の話を煩わしく感じていたのだが、最近は不思議とその無駄話に不快感を感じなくなった……相変わらず返事をする事は少ないが。
そして今はシャルロットの通う学校の前に車を止め、彼女が下校してくるところを待っていた。
「ごめんシュウ、HRが長引いちゃって……待った?」
「……五分遅刻だが、別に構わない」
「あれ? 珍しいね、シュウは時間に厳しいのに」
「……無駄話はそこまでだ、早く乗れ」
「はーい」
助手席のドアを開けながらむすっとした雰囲気を出してそんな事を言う執事にシャルロットはくすりと笑いながら席へと座る。
恐らく子供っぽいなぁとでも考えてるんだろう、からかうような柔らかな雰囲気がそれを物語るのだが、それに反応しては彼女の思うツボなのでシュウは無言のまま車を発進させた。
そのまま暫く道を走っていたのだが、反応しない為に普段以上にむすっとしたシュウの様子に思いの外拗ねてる事に気が付いたシャルロットはここぞとばかりに彼をからかい始める。
「シュウってさ、私より五つ上なのに変に子供っぽいとこがあるよね」
「……そんな事は無い」
「ほらムキになってる」
「……それは気のせいだ」
「ふふっ、そうだね」
柔らかな笑顔を浮かべながら横顔を覗くシャルロット、比較的年齢が近いと言うのもあるんだろうが、シュウの人となりを知って放っておけないと言う母性のようなものが生まれていたシャルロットは自分が思っている以上に彼へ心を開いていた。
父からの監視の可能性は捨てられないにしても、シュウは完璧主義に近い気質を持っている為、もしそうなら授業中や就寝中などの私生活も監視されてる筈。
しかし自分の気が付く範囲内ではその気配が無い、部屋を調べて盗聴やカメラの類いも調べたがそれも無かった。
だから彼女はひとまずは信用できる執事として彼を受け入れた、警戒しつづけるには非常に疲れる相手であり、いっそ歳の離れた友人として接した方が気楽で良い。
肩の力を抜いて大きな子供の相手をしていたシャルロットだったが、シュウは逆に姿勢を正しながらバックミラーに視線を向けていた。
––––後方にスモークを貼った車が一台、影の動きから追跡者は2名と言ったところか……思いの外行動が遅かったな。
シャルロット暗殺計画、自分を潜り込ませる為に密かに燻っていたそれを組織の連中が焚きつけたのだが、直接的な手段はこの一ヶ月一度も無かった。
毒殺やその手の方法に関してもシャルロットの行動範囲内では確認できず、このまま無駄に平和ボケしていくかと思っていたところだから丁度良い。
スモーク越しの影が後部座席から銃を取り出した事だし、向こうが白昼堂々と襲撃してくるのなら、俺も堂々と仕事をさせて貰うとしよう。
「……シャルロット、シートに掴まれ」
「どうしたのシュウ?」
困惑するシャルロットに答えたのはシュウの返事では無く、後方から放たれた銃弾によって車のガラスが破壊される音だった。
代表候補生として訓練されている彼女は反射的に頭を下げてその銃撃をやり過ごしながらシュウの顔を見上げたのだが、当の本人は全く銃撃を気にしておらず、シャルロットの安全を確認した後、アクセルを踏み込み一気に街中を駆け抜ける。
そして懐に隠していた銃を引き抜き、まず蜘蛛の巣状にひび割れていたフロントガラスに発砲してガラスを破壊して視界を確保し、バックミラーを使って後方の様子を伺う。
襲撃者は二人組、 人目に付く上に派手過ぎるこの襲撃は正直シュウからしたらお粗末とすら呼べない物であり、本命では無いだろうと彼は判断していた。
目的は精神的追い込みだろう、常に死の危険が付きまとう生活という物は正常な精神をしている者にとっては苦痛以外の何者でもない。
手に取るように分かる相手の思考を鼻で笑った後、シュウはバックミラーを見ながら後方に銃を向ける。
ただの殺し屋如きに遅れを取る気は無い、IS戦の強さばかりを組織に買われているが白兵戦も最強の一角である以上、こんな得るものも無い三下には関わっているだけ時間の無駄だ。
シュウは照準を定めて引き金を引き、ボンネットの留め具を撃ち抜いて開かせて襲撃者達の視界を奪うと、身を乗り出して発砲していた助手席の男の肩を撃って落車させる。
続けてタイヤを撃ち抜いて追跡能力を奪い、他の追跡者が居ない事を確認したシュウはそのまま帰路に着いた。
「……さて、三分四十秒も帰宅時間が遅れてしまったな」
「は、はは、シュウはこんな時も時間厳守なんだ……」
「……時間は有限だ、無駄にはできん」
襲撃者を何事も無かった様に撃退した彼の口から漏れた言葉は酷く切実な感情を含んだ物であり、包帯越しにもかかわらず悲しい顔をしていると何故かシャルロットは感じたのだった。