真・恋姫†無双 秋の夜長の夢   作:shizuru_H

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1話 自動販売機に触れて

…騒々しい音が聞こえる。

 

今までに聞いたことが無いような音だ。

戦の先陣に立った時のような音の大きさだが、今はそんな時代ではないはず。。。

 

ズキッ

 

「っつ」

痛む頭を抑えて、体を起こしてみる。

その時に初めて自分が寝ていたことに気づく。

 

じゃり。。

体を支えるために着いた手が冷たい。石畳のような感触だが、石畳とは思えないほどに表面がきれいだ。

その上、継ぎ目もない。

周りを見渡すと森なのか木が連なっている。

そして気づく。空が黒いのに、周りがはっきり見えていることに。

周りを見渡すと灯りが、高い位置に置いてあった。しかし行灯でもなければ見たことのない光だ。

揺らめきもしないその光を見ながら呟く。

「我が名は夏侯…淵。真名は秋蘭。」

確かめるように、一つ一つ噛みしめるように。。

 

なんとか立ち上がり、近くにあったベンチに腰掛けるとだんだんと周りが見えてくる。

祭りのように明るい夜。

それなのに人の気配の感じられない静寂。

見たこともないような遊具?らしきもの。

遠くからは聞いたこともない低音。

「ここは一体。。。」

 

キコ…キコ…

 

揺れるベンチに体を預けながら考える。

しかしいくら考えてみてもここがどこだか分からない。

ふむ、今朝までは普通に過ごしていたはずだが、どうも夕方からの記憶が曖昧だ。

昼過ぎに姉者に強引に街に連れ出され、城に戻った後華琳様に今後の事を相談。

風に軍備を相談され、部屋にて書類整理。。。

「ふっ」

とりあえず記憶喪失にはなっていないようだ。

仲間の顔を思い浮かべられたことで、少し安心できた。

一瞬でも仲間を、愛すべき二人の顔を忘れるなど、耐えられそうにない。

 

「愛する人か。。」

 

星も見えない空を見上げて、一人の青年を思い出す。

私が興味を持った男、私の愛する人の手助けをしてくれた男、くだらないことで笑いあえた男、

愛する人たちが愛した男、愛している国が愛した男、

存在をかけて私を助けてくれた男、そしてありがとうを言わせてくれなかった男、

きっとまだ愛している男。

 

「北郷…一刀」

 

 

 

 

あれから一年経った。

あれからというのは、天の御使い事北郷一刀が現世に帰ってきてからだ。

驚いたことに現世での時間はたいして経っておらず、学校に遅刻するぐらいで済んだ。

それからはあの世界を忘れないように鍛錬したり勉強したりで気づけば、フランチェスカを卒業していた。

俺は卒業し、大学生になった。

1人暮らしをしながら、学業に勤しむ毎日。

特に変わりはなく、今日も昔を思いながらの平凡な日々の欠片だと思っていた。

 

帰ってきてから鍛錬の他に日課ができた。

夜の散歩である。

昼間の喧騒は魏の国とは桁違いに大きく、ここが魏ではないのだと強く意識させられるが、夜の静けさや不気味さは似たものがあり、郷愁もあってか気が付けば日課になっていた。

最初のころは不振がられたが、トレーニングだと言えば何となく納得してくれた。

 

1人暮らしのアパートからは、若干山付近にある公園。

そこが最近のお気に入りの散歩コースだった。

山が近いこともあってか、自然が豊かだし、散歩コースが整備されるぐらいの大き目の公園だから鍛錬にもちょうどいい。

 

ということで今日も、のんびりと歩いていた訳なんだけど、

 

きこっ、、、きこっ、、

 

「ひっ!」

 

一瞬心臓が止まるかと思った。

だって夜中にブランコが揺れてるんだもん!

そりゃ今までだって風で揺れることはあったけど、明らかに人が座ってるし!

秋にもなろうかという夜は冷え込む時間帯に人がブランコで遊んでたら怖いって!

しかも逆光のせいか顔はよく見えないけど、シルエットからして女性っぽいし。

失恋して、意気消沈状態です。とか言われても困る!!

 

…と言う訳で何も見なかったことにして帰ろう。

い、一日ぐらい日課やらなくてもOKだよね。。。

 

そう言って身をひるがえした瞬間、体が硬直した。

 

「愛する人か。。」

 

そう言って呟いたのは、ブランコに座る女性だろう。

綺麗な声だ。

だがそれ以上に懐かしい声。

聞きたい聞きたいと願って、忘れないように夜彷徨うぐらい懐かしい声。

よく見れば恰好も少しおかしい。

どちらかと言うと、昔の人、特に昔の中国大陸で着られていそうな服。

「しゅ。。」

 

まさかね。そんなことあるはずが。。

 

「北郷…一刀」

 

ビクッ、

ぱきっ

 

お決まりのごとく小枝を踏んでしまったらしい。

だって仕方ないだろう?いきなり自分の名前が呼ばれれば、それはねぇ。。

 

「誰だ!」

 

反射的に叫んだのであろうその声が、一瞬弓を探そうとした仕草が…ないと分かり徒手空拳に切り替えたときの型が…

すべてがここにいないはずの人を思い出させた。

 

「しゅう。。。らん?」

 

 

 

「誰だ!」

 

横からの音に対して、条件反射的に弓を構えようとするが、手が空を掴む。

人の気配を感じ取れないほどに動転していたらしい。

あまり素手は得意じゃないんだがな。

相手は構えていないところを見ると、敵ではないのかもしれない。

暗闇で顔は見えなかったが、その男はなぜか私に近づいてきた。

おそろしい言葉を放ちながら。

 

 

「しゅう。。。らん?」

 

途端に体が動かなくなった。

真名は、心許した者にしか授けぬ名前。

逆に言えば授けた者は多くなく、そう呼んでくれる者の声は大体頭に入っている。

一年間呼んでもらっていない声だ。。。

でも、そんなはずはない。だって彼は天の国に、帰ってしまったのだから。

 

だから、きっとそんなはずはない。

きっと夢だ。

でも、もしかしたら。

 

「かず、と。。?」

 

 

 

その声を聴いた瞬間駆け出していた。

「秋蘭!」

思いっきり抱きしめる。

「えっ?え?」

記憶にある凛々しく冷静な顔はなく、鳩が豆鉄砲をくらったような。

更に言えば春蘭に、小難しい話をして暴れだす手前のような。

そんな驚愕に彩られた顔が、徐々に泣き顔へと変わっていく。

「本当に、本当に?」

疑問と安堵と歓喜とに彩られてそれはもうぐちゃぐちゃだった。

 

 

 

 

「忘れてくれ。。」

そういう秋蘭の顔は赤く、耳まで赤く、とてもとても可愛かった。

でもそれを言ったら間違いなく鉄拳が飛んでくるので、言うのはやめた。

 

「その恰好では寒いだろ?とりあえずジュースでも買ってくるから待ってて」

ぐいっ

「「えっ?」」

二人の声が重なった。裾をつかんだ本人も驚いていることから望んだことではないのだろう。

「いや、すまない」

そういう秋蘭の手は少し震えているように見える。

本人の意思に反して、指を離せないようだ。

ぎゅっ

そんな震えを隠すように俺は秋蘭の手を掴み立たせる。

「二人でいこっか」

心細いとかいろいろあるだろうけど、何より自分自身も出来るだけ触れていたかった。

 

「なんだこれは。。?」

まぁ言うとは思った。

七色に光る不思議な箱、24時間営業の頑張る子!日本人で良かったと思う便利屋さん!!

つまるところ自動販売機にあの夏侯淵が慄いていた。

財布から小銭を取り出し入れると

「いらっしゃいませ!」と声を出してくれる最新機!

そんな機能よりsu●ca対応してくれ。。。

「秋蘭って何が好き?って言ってもわからないか、とりあえずはこれで」

ココアを選択。女の子ならきっと好きなはず。

がたん!びくっ!

あの冷静な秋蘭が挙動不審になっている。まぁそりゃそうか、俺だってそうだったし。

かこっ

「とりあえず飲んでみてよ、温まるから」

「う、うむ」

程よい温度の缶を持ち、おっかなびっくりココアを啜る美少女。

ごめんよ華琳、俺は一人でこんな珍しい秋蘭を堪能してます。

今はいない覇王様に心の中で謝ってみる。

不機嫌そうな華琳が想像できた。

 

 

「おいしい。。」

不思議な味だった。餡子などとも違う味。

でも甘くて、よく分からない緊張で疲れていた体にはすっと染み渡った。

「落ち着いた?」

「あぁ」

一刀が心配そうにこちらを見てくる、

あぁ、一刀なのだ。間違いなく。夢でもなく。

また声が聞けた。また話ができた。それだけで、心が一杯になる。

あの時のお礼を言わなくては。

「かず、」

ゆっくりと体が傾いていくのが分かる。

「秋蘭!」

一刀が叫んでいる。

待ってくれ、まだお礼を言っていな。。。

 

「秋蘭!」

「…」

急に倒れたことにびっくりはしたが、支えてみると気を失っているだけのようだ。

規則正しく胸が上下している。

きっと知り合いに会えたことで、緊張の糸が緩んだのだろう。

「よっと」

秋蘭を背負うと地面に落ちてしまったココアを拾う。

ほとんど飲んでいなかったが仕方ない。

それにしても。秋蘭はこんなに軽かっただろうか?なんとなく知っている秋蘭より痩せている気がする。

とりあえずは

「家に帰るか」

 

 

空を見上げて思った。

「…一人暮らしで良かった」

 

 

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