真・恋姫†無双 秋の夜長の夢   作:shizuru_H

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2話 夏侯淵は花となる

待ってくれ!行かないでくれ!

夢の中の私が叫びながら手を伸ばす。

普段の私からは考えられないだろう。

だが夢の中ぐらい許してほしい。

ただこの悪夢は一年間私を離してはくれなかった。

 

 

「ここは?」

どこだ?

見慣れない天井。見慣れない壁。見慣れない部屋。

見慣れないものだらけの中で、唯一臭いだけが私を安心させてくれた。

これは、一刀の臭いだ。

ゆっくりと枕へと頭を落とす。

まるで一刀に包まれているようだ。。。。

「かず、と?」

頭が徐々に動いてくる。昨日の事も思い出すにつれて、混乱も増してくる。。

疑問が後から後から浮かんでくる。

ただその中でも愛する人に再び会えたのだという充実感は大きかった。

 

がちゃ

「あ、起きた?」

そしてその相手がコップを片手に入ってくる。

良かった。夢じゃない。もし夢でも構わないからしばらく覚めないでほしい。

本気でそう思った。

 

 

 

部屋に女の子がいるっているのは落ち着かないなぁ。

朝食の準備をしながらそんなことをぼんやり考える。

あっちに居たときも部屋に女の子はよく居たが、どちらかと侵入されたというのが正しい気がするしなぁ。

フライパンを暖め、ケトルの電気を入れる。

あちらと違い指一本で火が起こせるんだから、すごいよな。

改めて秋蘭に会ってそう思った。

 

がたっ

 

部屋の方で物音がする。

どうやら起きたようだ。

フライパンを乗せているガスコンロを止め、インスタントコーヒーにケトルからお湯を注ぐ。

途中で気づいて、片方には砂糖と牛乳を入れカフェオレに

昔の人にいきなり飲ませたら毒だと思われそうだしね。。

 

「おはよう」

布団から上半身を起こしている秋蘭に声をかけ、近くのテーブルにコップを置く。

「あ、あぁ、おはよう」

どうやらまだぼんやりとしているようだ。

と言うよりまだ状況が呑み込めていないと言った方が正しいかもしれない。

仕方ないよね、目が覚めたら2千年後でした~とか言われても、普通受け入れられないよね。

。。。俺は受け入れてたけどね!

と一人ノリツッコミをしてる間も、まだぼんやりしているのでとりあえずカフェオレを渡す。

「はい、これ飲んでみて、目が覚めるから」

「あぁ」

素直に受け取って、口に運ぶ。

「少し苦いかも」

こくっ

「美味しいな、それに確かにちょっとした苦みが目を覚ましてくれそうだ」

どうやら好評だったようで何より。

 

ゆっくりと何度かカフェオレを傾けて、だいぶ落ち着いたところで状況について確認することにしよう。

「それで、確認なんだけど本当に秋蘭なんだよな?」

「あぁ間違いない。夏侯淵、真名は秋蘭、覇王である曹孟徳様の家臣にて夏侯惇の妹、魏の仲間と天下統一を果たした。」

「本当に秋蘭なん。。だね。。」

涙が出そうになる。改めて夢にまで見た愛する人に会えるなんて

「逆に私からも聞いて良いか?」

「良いよ」

何となくわかるけどね

「北郷一刀であっているのだな?」

「そうだよ、意地っ張りの華琳の部下でいつも春蘭に殴られて、天の御使いや本郷警備隊隊長なんて肩書だけをもってた、そして魏のみんなの事が大好きだった、そんな男」

「ほんご、う…」

ぽろぽろと秋蘭の目から涙が落ちる。

嬉しかった。どうやら会いたかったのは俺だけではないようだ。

ゆっくりと秋蘭の頭を引き寄せ、ゆっくりと撫でた。

何度も何度も、触れる掌の温かさがしっかりと伝わるように。

 

 

「つまりここは天の国なのだな?」

「そうだよ、秋蘭たちがいた時代の更に先の少し違う世界」

落ち着いた後に状況について整理した。

どうやら気が付いたら、あの公園にいたようだが、なぜこちらにこれたのかは分かっていない様子。

まぁ俺もなんであっちに行ったのか未だに本当のところは不明だしね。

でもこっちに来る前の記憶があいまいっぽいから、何かあったのかも。

考えてもわからないけど。。

そして今の秋蘭が置かれている状況を説明中。

あまり驚いていないところを見ると、何となくは分かっていたっぽい。

さすが文武両道の夏侯淵嬢。

「まぁ、北郷がいる時点で何となくは、な」

それはそうか。

「とりあえず起き抜けに考えていても仕方ないから、朝飯でも食べよっか」

「食事なら私が、」

「大丈夫だから秋蘭は座ってて」

「…そうか?」

…秋蘭の料理は美味しかったなぁ

なんて懐かしくもあるけど、男の一人暮らしの朝食レベルに秋蘭の技術は全くの不要なのである!

まぁトーストと卵とベーコンとかだしね。

ホットケーキとか買っておけば良かったかなぁ。。

 

簡単な朝食を食べて、それから今後の事について話す。

「まず秋蘭にはこっちの世界を知ってもらうのが大切だと思うんだ」

「うむ」

「向こうとこっちとじゃ何もかもが全然違うからね」

「そうなのか?確かに見た事もない物がたくさんあるが」

まぁあの時代からしたら電子機器は全部そうだろうね。

「そうだね、物もそうだし、考え方も何もかも違う」

あの世界で一番初めに死にかけたこととか。。

「呼び方もね」

今思い出してもゾッとする。

本当に一番初めに会ったのが、華琳達じゃなくて良かった。

「呼び方?そういえば、天の国には真名がないと言っていたな」

「そういうこと、かと言って夏侯淵っていう名前はこっちじゃメジャーすぎるからね」

「めじゃぁ?」

「有名ってこと」

「そうなのか?」

「そうだよ、あの時代は後世ではとても有名な時代で、だからこそ初めて会った時に魏や曹操の名前を知ってたぐらいだし」

そのおかげで拾われてあの日常があったんだから、義務教育には感謝感謝。。。

「なるほど、そんなこともあったな」

秋蘭がふっと笑う。

大分調子は取り戻したみたいだ。

「しかし、名前か。。困ったな。いくら天の国とは言え真名を呼ばれることには許容できないな」

「ん~、そうだよね。。」

かと言って全然違う名前じゃ呼びにくいし。。

「じゃあ、とりあえず蘭っていうのはどう?春蘭との同じ字だし、繋がりは思い出せるかな、なんて。」

「…蘭。。。」

さすがに安直すぎたかな?

「姉者との繋がり。。」

あ、少し呆けてる。

姉バカは相変わらずみたいだ。

「分かった。この世界にいる限りは私は蘭と名乗ろう」

とりあえず一番危ない話題が終わったことに安心する。

下手すると秋蘭の場合、変なのが真名を呼ぶと路地裏とかで始末してそうだし。。。

 

「じゃあ次は。。。」

秋蘭がいる世界も悪くない!

そう思った秋蘭がいる初めての朝だった。

 

 

 




気が付いたら、半年以上経ってました。
感想書いてくださった方、本当にありがとうございます。
長編とはいかないものの、もう少し続きますので、
お時間ある時の暇つぶしぐらいになれば幸いです。

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