雪が降り積もり、大地は真っ白に染まっています。木々は全ての葉を落とし、動物も姿を見せません。
そんな旅を続けるのも難しい冬の間、1人のキノと一台のエルメスはとある国のとあるホテルで過ごしていました。
ある日、キノがホテルのレストランで朝食を食べていると
ピンポンパンポーン
かなり注意を引く音色が当然響き渡り、
『おはようございます!寒い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?』
というアナウンスが流れだしました。とっても元気な、若い女性の声でした。
朝食を食べていた人々は手を止め、口を閉じ、アナウンスに集中し始めた様子で、キノもとりあえず耳を傾けてみました。
『さて、当ホテルで毎年恒例となっているクリスマスパーティーですが、今年も開催される事となりました!!』
「おぉ!」
「今年もやるのか!なかなか発表しないから、今年はやらないんじゃないかと心配だったぞ!」
「私、去年初めて行ったけど、とっても楽しかったわよ。料理も美味しくて!」
「芸能人とかも来るらしいじゃない。私も参加しようかしら……」
『どうやら皆様、楽しみにして下さっていたようで、我々もとっても嬉しいです!開始は午後7時から、場所はホテル内のレストランを予定しております。今年のクリスマスは、当ホテルで過ごしてはいかがでしょうか?きっと幸せな思い出にしてみせます!!詳しくは当ホテルの従業員に気軽にお尋ね下さい。支配人からその辺の清掃員まで、全員に情報は行き渡っておりますのでご安心下さい!」
ピンポンパンポーン
最初とは音程が逆の音色を最後に、アナウンスは終わりました。手を止めて聞いていた人達は食事を再開しましたが、どのテーブルでも、アナウンスで言っていた『クリスマスパーティー』の話で盛り上がっていました。
「で、何なの?その『クリスマス』って」
「ホテルの人に聞いたら、もともとは『神様が生まれた』っていう神聖な日で、それを祝う行事だったらしいんだけど、そんなのは大昔の話で、今ではただ家族や友人で集まって食事したり遊んだりする日なんだって」
「じゃあそのパーティーも、ただ踏めや砕けの兄ちゃん触り?」
「…………………『飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ』?」
「そうそれ」
「なんかだんだん酷くなってきてる気がするけど………まぁいいか」
「でもそんな『神様の誕生日』なんて大事な日イベントなのに、それを祝うパーティーとかの方が重要視されたんなら、それだけ楽しいって事なのかな?」
「そうなんだろうね。パーティーの他に、何かプレゼントを貰えるらしいから、今から楽しみだよ」
「どうせなら絞れるだけ絞り取っちゃえば?食べ物もプレゼントも」
「そしたら次の日の朝食が無しになっちゃうかも。それは困る」
「さいで。じゃあほどほどに。ところで1つ質問なんだけど」
「うん?」
「神様ってどうやって生まれるの?」
「……………さぁ?」
クリスマス当日、キノは色々な期待を胸に、パーティー会場のレストランに向かいました。会場にはたくさんの人がいて、たくさんの飾り付けがされ、たくさんの料理が置かれてました。
ホテルの支配人のスピーチやら、プロの演奏家による演奏やら、他にも様々な出し物が行われ、人々は大層楽しんでいました。
そしてキノは、主に食事に集中していました。
パーティーが終わり、部屋に戻るキノの前に、
「メリー、クリスマーース!!!」
「うわっ!」
曲がり角から、突然男が飛び出して来ました。白いシャツの上に黒いジャケットを着た、キノより少し背の高い青年でした。
「やあ、旅人さん。クリスマスは楽しめた?」
「え、えぇ。ホテルのパーティーは、とても楽しかったです」
「そりゃあ良かった。じゃあそんな旅人さんに、ハイこれ」
「え?これは……?」
「いわゆる苦しますプレゼント」
「……えっと、『クリスマスプレゼント』では?」
「そうそれ」
青年が渡したのは、透明な袋でした。中には5、6個のクッキーが入っていて、袋の口は赤いリボンで結ばれています。
「まぁまぁとにかく、今日は神様も生まれちゃうような奇跡の日なんだからさ。『見知らぬハンサムからプレゼントを貰う』っていう奇跡があってもいいんじゃない?それにほら」
青年はリボンを解いて袋を開け、中からクッキーを1つ取り出すと、自分の口に入れました。
「毒も入ってないし」
しっかりと噛んで飲み込んで、笑顔でそう言った青年と、再び口を結ばれて、元の状態で突き出された袋を交互に見た後にキノは、
「…………じゃあ、せっかくなので………貰っておきます」
その袋を受け取りました。
すると青年は、まるで子供のように、本当に『心の底から嬉しい』と言わんばかりの満面の笑みを浮かべました。
「ありがとう!!あ、じゃあ僕はこれで!」
何か思い出したのか、いきなり現れた青年は、またいきなり去って行きました。
出てきた角を曲がって姿が消えたかと思えば、
「絶対食べてね!絶対だからね!」
角から顔だけを覗かせて、キノに念押ししました。
「ただいま」
「ん?あう?………ああキノ、おかえり〜。どうだった?苦しますパーティーは」
「『クリスマス』……あれ?」
「ん?どーしたの?」
「…………いや、何でもない。パーティーは楽しかったよ。料理も美味しかったし、お菓子の詰め合わせのプレゼントも貰えたしね」
「へぇ、良かったじゃん。ってあれ?そっちの小さい袋は?それも貰ったの?」
「あぁ、確かにこっちも貰ったけど、何というか………『見知らぬハンサム』から貰った」
「はい?何それ?どゆこと?」
「いや、僕も何がなんだか………まぁ、今日は
『奇跡の日』でもあるらしいから、僕にも奇跡が起きたってことなのかな……?」
「随分小さい奇跡だねぇ」
「お菓子が貰えるのは悪いことじゃないし、僕はそれでも嬉しいよ」
「ふ〜ん、そっか……………」
「…………? エルメス、どうかしたのかい?」
「……いや、なんでもないよ。眠くなってきただけ。もう寝るよおやすみキノ」
「あぁ、おやすみエルメス」
いつも通りに、キノはパースエイダー片手に眠っています。何の音もしない静かな世界の中、
「…………本当、奇跡様様だね………………」
エルメスはそんな事を呟きました。
叶わぬ願いも叶えてしまう奇跡に溢れたクリスマス
貴方もどうか、奇跡の1日を
「メリークリスマス、キノ」