燦々と輝く太陽。
今の時期では珍しい快晴が、この日ばかりは非常に憎らしかった。
「はははは、みんなどうしたんだい?元気がないぞう!」
生徒全員がバテている、中には意識を保っているか怪しい者すらいるにも関わらず、太陽にも負けないほどのキラキラした笑顔を向けてくるリアン。どこか楽しんでいるようにも見える彼の顔を思い切り引っ叩いてやりたくなった。
「ぜぇ……ぜぇ……どうして、僕がこんな目に……」
息も切れ切れに不満を言うマルフォイ。
普段なら絶対同意なんてしたくない相手だが、今回ばかりはハリーも同意した。
最初に聞きはしたけれども、これじゃあまるで……
「ほらほら口より体を動かさないと、授業時間内に筋トレノルマ終わらないよ!」
新兵訓練。
そう、正にブートキャンプだ。
何故こんな目にあっているのか……
思えば、授業が飛行訓練場で行われた時点で怪しむべきだったのかもしれない。
ことの発端は授業冒頭まで遡る――
「あらためまして、私はリアン・ファルク。ホグワーツでは『ルフ魔法』の講師を担当する。これからよろしくね。
さて、堅苦しい挨拶は抜きにして早速授業に入らせてもらうよ」
飛行訓練場に集まったハリー達はリアンから軽い自己紹介を受ける。高くも低くくもない彼の声は聞きやすく、とても心地が良い。女子生徒の何名かはうっとりとした様子でリアンのことを見つめているほどだ。
「まず『ルフ魔法』のことを簡単に説明しよう。ルフが産み出す魔力を糧として人工的に様々な自然現象を引き起こすことができるもの、それがルフ魔法だ。
さて、ルフがどういうものか予習してきた者は……」
リアンが生徒に質問しようするのを察したハーマイオニーがすかさず手をあげた。
「ふふ、ではグレンジャー君に説明をお願いしようかな」
「はい!風、雷、雨などの自然現象を引き起こすエネルギーのことです。またルフは常に世界に溢れていて、生物の中にも存在しています。私たちは体内にあるルフに働きかけることによって、ルフ魔法を使用することができます」
「正解だよ。非常に簡潔にわかりやすくまとめてくれたね、よく予習しているようだ。
グリフィンドールに5点あげよう」
褒められたハーマイオニーは嬉しそうに頬を染める。
「さて、様々な自然現象を人工的に起こすのがルフ魔法だけど、最初に覚えるのは自然を操る魔法ではなく『ボルグ』という魔力で自身の周囲を覆う障壁を作り出す防御の魔法、だ。こちらでいう『盾の呪文』と似ているね」
「い、いきなり『盾の呪文』レベルの魔法から習うんですか?」
驚きのあまり声を上げるロン。
大人の魔法使いでも使えるものが少ない『盾の呪文』の名が出てきたことにより、生徒たちの顔に不安の色が浮かぶが、それに対してリアンは安心させるように優しく言う。
「そう不安がる必要はないよ。発動させること自体は『盾の呪文』よりもずっと簡単だ。
さて、まずはお手本を見せよう」
リアンが杖を構える。ハリーたちが使っている物よりずっと大きく、彼の身長と同じくらいある。
「ボルグ」
リアンが呪文を唱えると金色を帯びた透明な膜が彼の周囲に現れた。
「これが『ボルグ』だよ。ほとんどの物理的干渉および、ある程度の魔法的干渉を防いでくれる。発動中はマグルやスクイブにも視認できるので使いどころは注意が必要だ。
それじゃ、みんな実践してみようか」
その言葉を合図にみんなが一斉に呪文を唱えはじめる、がまともに成功したものはいなかった。ロンやシェーマスも呪文を唱えているのに発動の気配すらしないし、優等生のハーマイオニーでさえ杖から火花が出る程度だった。ハリーはというと成功こそしなかったが金色の靄がを発生させることができたので少し嬉しくなった。
「ふむ、例年通りだね……よろしい、一旦やめ!」
しばらく生徒たちの様子を眺めていたリアンは誰もボルグを発動できないことを確認するとパンッ……と手を鳴らしてみんなを止めた。
「さて、誰も『ボルグ』を成功させられなかったわけだけれど、それはキミたちに才能がないわけでも経験が足りないからでもない」
みんな、そんな風に言われてもにわかには信じられないと言いたげな表情をする。だって誰一人としてまともに発動させていないのだ。
「嘘じゃないよ。何人かは魔法発動の片鱗を見せただろう?それは何故かを今から説明しよう……突然だけど、ポッター君とグレンジャー君は普段から体を鍛えているんじゃないかい?」
突然名指しで質問され少し面を食らう。どうして自分たちが?とハーマイオニーとハリーは顔を見合わせる。
「ええと……はい。軽いランニングと筋トレメニューを朝晩でこなしているくらいです」
不思議に思いつつも素直に答える。ダイアゴン横丁でリアンからのアドバイスを聞いた後、一応トレーニングをしておいたのだ。
「私も軽くですが毎日運動しています。教科書に『ルフ魔法を使用する際に身体には負荷が生じる。体内のルフは魔法使用者の身体を負荷から守るため魔法の威力を抑える。そのため出力を上げるには身体能力の強化が必要不可欠』とありましたので」
ハーマイオニーの言葉に軽く目を見開く。そうか、だからリアンはダイアゴン横丁で身体を鍛えておけと言ったのだ。彼のアドバイスを素直に聞きいておいて良かったとハリーは思った。
「ふふ……グレンジャー君が全て説明してくれたね。そう、成功の片鱗を見せた子には他の子より体力があったんだ。ルフ魔法を使えるようになるため1番必要なものは『体力』だ。つまりルフ魔法を使えるようになるためにはキミたち全員が体力をつける必要がある。よって、最初は体力向上を目的とした鍛錬のみを行う。1ヶ月間己を信じ、鍛錬を耐え抜いた者にのみ、ルフ魔法の叡智を授けよう」
その後、軽いストレッチから始まりランニング、腹筋、背筋、懸垂、腕立て伏せ、スクワット等のトレーニングをすることになったのだが、かなりキツイ……だけどリアンの言葉が嘘でない事はハーマイオニーとハリーが証明してしまっているし、リアンもトレーニングに参加している。しかもみんなの倍のノルマをこなしているものだから面と向かって文句も言えない。精々トレーニング中に不満をこぼす程度だ。
「ほら、あとちょっとだよ!ノルマが終わった子から授業終了としていいから頑張って!それから、今日の夕食は出来る限りしっかり摂るように!じゃないと今後持たないよ!」
晴れやかな表情と声音なのにイラッとさせられる。そもそもぱっと見は華奢なリアンのどこにあんな体力があるんだろう?
ゆったりとしたローブを着ているから分かりにくいだけで、割と筋肉質なのかもしれない……などと思案する程度には余裕がある。そんな自分の状態に、入学前にトレーニングをしておいて正解だったと改めて思うハリーなのであった。
その日の晩、夕食を取るために大広間にきたはいいものの激しい運動のせいで食欲が出ず、夕飯を見つめたままハリーは椅子に座っていた。食べないと今後の授業についていけないことは分かっているが、正直なところ今日はこのまま寮で眠りたい。
「はあ……今日は散々な目にあったよ。こんなことならフレッドとジョージの言うこと聞いておくんだった。すっごいキツイから身体を鍛えておけって言ってたの嘘じゃなかった」
隣に座っているロンも食欲がないのか、食事には手をつけず、ゴブレットに入った果実水をチビチビ飲みながら独りごちている。
「仕方ないわ、ルフ魔法を使えるようになるために必要なことだもの。それと果実水だけでなく食事もしっかり摂らなきゃ、この先やっていけないわよ。先生も言ってたでしょう?」
向かいの席に座っているハーマイオニーも、あの授業は応えたらしく口ではそう言うもののいつもの覇気はないし、食事も口に運んではいるが正直キツそうだ。
「よお、ロニー坊や!元気がないな」
「その様子だとしっかり扱かれたようだな、人のアドバイスは聞くもんだぜ」
「うるさい、いつもからかってばかりのヤツの言葉なんか……」
突如背後から声が聞こえ、ハリーとロンが同時に振り向くとニヤニヤと笑っているフレッドとジョージが立っていた。
「おお、なんと言うことだ!可愛い弟の身を案じ、アドバイスをしたというのに肝心のロニー坊やに信じてもらえないとは!」
「仕方ないさジョージ、俺たちが普段からからかい過ぎたのが悪いんだ……だがいざという時に信じてもらえないというのは悲しいものだな」
ニヤニヤした表情のまま寸劇を始めるフレッドとジョージ。それを見たロンは顔を赤くし、声を荒げながら二人に怒りをぶつけた。
「うるさい!用がないならどっか行けよ。疲れてるんだ」
「つれないこと言うなよ、せっかくルフ魔法の魅力をを伝えに来てやったんだから!なあ、ジョージ?」
「ああフレッド、その通りだ!見てろよ……」
ジョージはフレッドの言葉にひとつ頷くとポケットから杖を取り出した。
「シャラール」
呪文を唱えると、ロンのゴブレットに入っていた果実水が球体となって宙に浮いた。
「これが何だって言うんだよ。物を飛ばすだけなら後で『妖精の魔法』の授業でも習うだろ」
ロンの言う通りだ。まだ習ってはいないけれども、物を飛ばす魔法はこちらにもある。だというのにどうしてこの二人はこんなに得意げなのだろうか?
「ふふん、飛ばすだけじゃないんだぜ!」
ジョージは得意げに杖を振るとただの球体だった果実水が馬や鳥の姿となって宙を駆け巡り、やがてラインダンスを始めた。
「どうだスゲーだろ?こんなのが1年生で習えるんだぜ」
ジョージの言葉にハッとし、こくこくと頷いた。
「更に学年末の試験なんて最高にエキサイティングだぜ!まあ、内容はその時のお楽しみってやつだから教えないけどな」
「なんだよ、勿体ぶらずに教えてくれたっていいじゃないか……」
「ごめんなロニー坊や、試験内容は話すなってファルク先生から言われてるんだ。それに黙ってたほうが面白いだろ?俺たちが」
本音は最後の一言なんだろう。試験内容は気になるけどこの様子だと教えてくれなさそうだ、と思いつつハリーは食事に手を伸ばし始める。まだ釈然としないところはあるけれど、目の前で見せられた魔法には心躍らされたし自分も覚えたい。そのためにはまずは体力をつけなきゃいけないから多少無理してでも食べよう。
ロンも触発されたのか口いっぱいに食べ物を詰め込み始めた。
「おえっぷ……」
急に詰め込んだせいで嘔吐いてしまったロンの背中を擦る。頼むからここで吐かないでほしい。
それはさておき、とにかく1ヶ月間は頑張ってみようと心に決めたハリーなのであった。