――最近ネビルが少し変わった。
おどおどしたり言葉につっかえたり、授業で失敗することが減った。そして失敗しても落ち込むだけで終わらず何が悪かったのかと分析するようになった。ただしハーマイオニーにアドバイスを求めるという形でだが……
特にルフ魔法の授業では変化が顕著だ。授業がある日はとても嬉しそうにしているし、授業中は積極的に質問をしたりしている。一体何がネビルを変えたのかが気になって直接聞いてみたのだが、本人には変わった自覚はないらしくキョトンとした表情を返されてしまった……とはいえルフ魔法の授業に関していえば、みんなそれなりに積極的にだったりする。
理由は魔法の実践練習が始まったからだ。
まだ自由自在に魔法を使うことは出来ないが、何もないところに水や風、電気を発生させたり操ったりするのは純粋に楽しいと思っている生徒が多い。ロンなんかは見た目が派手な『炎』の属性と相性が良いものだから、調子に乗ってみんなに自分の魔法を見せびらかそうとしてよくハーマイオニーに窘められていたる。
つい先日も言い合いをしていた。
「無闇に炎を出したら危ないわ。それに万が一魔力が切れたらどうするの?」
「なんだよ、小さい炎だし魔力切れなんて起こしてないんだからいいじゃないか」
「炎であることに変わりはないでしょう。あと魔力が切れてからじゃ遅いのよ。最悪命に関わるって先生が言ってたじゃない」
「うるさいな!」
そこまででリアンが間に入って喧嘩を止めた。ただ、あの件に関して言えばハリーはハーマイオニーの意見に同意していた。小さい炎とはいえローブに燃え移ったら大変だし、魔力切れが原因の死亡はリアンの世界ではそこそこある話らしく決して他人事では無いので自身の限界を知るまでは調子に乗って魔法を乱発しないようにとも言われた。
最初は話半分に聞いていたがルフ魔法の授業の後は、全力でスポーツをしたかのような怠さを感じるので、実感はわかないもののリアンの言っていることは本当なのだろうと思うようにもなった。だから一応魔力切れには気をつけたほうが良いかもしれないとロンに言ったのだが……
「なんだよ君まであいつの味方するのか?」
「違うよ、ロンが心配なだけだ。そりゃあハーマイオニーの言い方がムカつくのはわかるけど」
「大丈夫だって!今まで一度だって倒れたこと無いんだし、それに君は自分の心配した方が良いんじゃないのか?」
その台詞には腹がたった。実のところハリーは実践練習で苦戦していた……とはいえこれはハリーが落ちこぼれだからではなく、ハリーと相性の良い『力』の属性魔法が少し特殊だからである。
重力や衝撃といった『力』そのものを操る『力魔法』はコツを掴むのに少し時間がかかるのだ。実際にハリー以外の『力』と相性の良い生徒たちもみんな苦戦していて、つい先日やっと全員が『力』属性の基礎魔法をまともに発動させられるようになったばかりだ。
ロンは親友が苦戦している様子を間近で見ていたくせに、茶化すようなことを言ってきたのだ。それを受け流してロンを諭せる程ハリーは大人ではない。
「なら勝手にすればいいさ……いまに魔力切れで卒倒しても知らないからな」
「ご心配どうも、そんなことにはならないさ」
これは痛い目に遭わないと治らないなと思ったので自分のことに集中することにした。
ハリーには箒を使わず空を飛ぶという目標がある。実践練習を始める際に重力魔法のお手本として箒なしで空を飛ぶところをリアンに見せてもらったのだが、その姿は純粋にカッコいいと思った。箒で空を飛ぶのも最高に気持ちよくて好きだが、折角なら箒無しでも空を飛べるようになりたいのだ。ロンはあんなことを言ったが、リアンには「クリスマス頃には重力魔法を習得していると思うよ。ホグワーツの生徒の中では習熟ペースが早いね」と褒められているのだ。
見てろよ、早く空を飛べるようになってロンを驚かせてやる――
そう決心した数日後、フリットウィック先生の授業で物を飛ばす練習をすることになった。ルフ魔法でも同じことが出来るのにわざわざ習って何の意味があるのかと思ったのだが……
「ふん!こっちで覚えられなくても『ルフ魔法』の方で使えれば問題ないだろ!」
授業で上手く羽根を飛ばすことが出来ずに癇癪を起こしているロンもハリーと同じ考えだったようだ。
「そうだとしても、こちらの魔法の方が身体的な負担も魔力消費もずっと少ないのよ?同じことが出来るのならエネルギー消費量が少ない方を選ぶのは当然じゃない。あとロンの属性は『炎』なのだからルフ魔法の方が覚えるのは大変だと思うわ」
ぐうの音も出ないほどの正論を言われロンの機嫌は更に急降下し、授業が終わった後はずっとハーマイオニーの悪口を言っていたが、しまいにはハーマイオニーは泣いて女子トイレにこもってしまい、ロンはバツの悪そうな顔をしていた。
――ファルク先生の姿が見えない。
その日の夜、ハーマイオニーのことも忘れて大広間でハロウィンのご馳走に舌鼓を打っていると、ふと生徒の誰かが口にした。そう言われて職員席を見てみるといつもはハグリッドの隣で楽しそうに会話をしている見慣れた姿がそこにはない。ついでにいうとハグリッドの姿も見あたらない。
「そういえば日暮れ近くにハグリッドの小屋へ行くのを見たよ。ファルク先生ピリピリしていて少し怖かった……」
一緒になって職員席の方を見ていたネビルが言う。いつも穏やかな笑みを浮かべているリアンの姿からは想像が出来ないが、何か急ぎの用事でもあったんだろうかとその時、大広間を揺るがすような大きな音とともにクィレル先生が駆け込んできた。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思い……」
言い終わらぬうちにクィレルが倒れ込んだ瞬間にあたりは大混乱に陥ったが、ダンブルドアによってすぐに宥められ、その後は寮監の先導により各寮へと戻ることになったのだが……
「ハーマイオニーはこのことを知らないよ!」
ハリーとロンは大急ぎで女子トイレへと走った。
必死に廊下を走っていると悲鳴が聞こえ、やがて無残にも破壊された女子トイレと恐怖に縮こまっているハーマイオニー、そして巨大なトロールが今にも彼女に棍棒を振り下ろそうとしている姿が目に入った。
「こっちに引き付けろ!」
ハリーは言葉とともに床に散乱していた木片を力いっぱいトロールの頭目掛けて投げつけ、続いてロンが炎の弾をいくつも打ち込む。するとトロールは標的を変え、ハリーとロンに向かって歩き出す。
「やーい、ウスノロ」
挑発しながらも攻撃の手は緩めないロンだが大して効いていない。それどころか怒らせてしまったようだ。
トロールは憤怒の唸り声を上げて棍棒を振り上げる。ハリーは咄嗟にロンの前に出てボルグを展開し、トロールの攻撃を防いだ。
トロールはハリーたちが潰されていないのを確認すると一撃、二撃と連続で棍棒を振り下ろす。
その衝撃によって床がどんどんひび割れていく。このままじゃ床が陥没する!
そう思った瞬間、激しい閃光と共に大気を割くかのような雷鳴が轟いた。
「全く、今日はイレギュラーなことばかり起きるね」
視界が晴れると、ハーマイオニーの前で彼女を守るように立っているのリアンが目に入った。
「ファルク先生!?」
「ん?どうしてポッター君とウィーズリー君がこんなところにいるんだい?」
それはこちらのセリフだがそんなことを言っている場合ではない。攻撃を受けたトロールは激怒し、棍棒を振り回しながらリアンへ襲いかかる。
「危ない!」
棍棒が振り下ろされたと同時にリアンはハーマイオニーを抱えてその場から飛び退いた。
「やれやれトロールは乱暴だな……グレンジャー君、下がっていなさい。念のためボルグを展開しておくように」
ハーマイオニーに指示を出すリアンは相変わらず笑顔だ。ただいつもの柔らかい雰囲気のものとは違って、どこか刺々しい。
「は、はい……」
素直に指示を聞いて後ろへ下がるハーマイオニーの一方でトロールは激昂の雄叫びを上げ、覆いかぶさるかのようにリアンへと攻撃を繰り出す。
対するリアンは剣を構えるかのように杖を持つと、高く跳躍し、渾身の力を込めてトロールの横っ面に叩き込んだ。
骨と肉がすり潰されるかのような鈍い轟音。
直後、受けた衝撃が如何に激しかったかを物語るかのようにトロールは勢いよく地面へと倒れ伏した。
うつ伏せに倒れたトロールはピクリとも動かない。どうやら気絶したようだ。
「ひとまずこれでよし、三人とも怪我は……」
リアンが声をかけようとした時、急に複数のの足音が聞こえ、マグゴナガル先生、スネイプ、クィレルが駆け込んできた。
「これは……いったいなにごとですか?」
マグゴナガル先生は気絶したトロールを視界に入れると一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに冷静さを取り戻してリアンに向き直った。
「私はハグリッドのところで用事を済ませて大広間に向かっていたところ、トロールに襲われている生徒を見かけたので助けただけですよ。むしろ何故トロールが校内に入り込んでいるのかを知りたいのですが……」
「そういえば、リアン先生はパーティーに遅れてくると連絡がありましたね。後ほど経緯は説明いたします。先に寮にいるべき貴方たちがここにいる理由を聞きましょうか」
マグゴナガル先生は生徒三人に向き直る。
ハリーは言い訳に困った。正直に話せば、それはそれで問題が起きそうだ。
「あ、あの多分二人は私を心配して探しに来てくれたんだと思います!私、トロールが入り込んだことを知らなかったから」
「ミスグレンジャー『知らなかった』とは?パーティーに参加していなかったのですか?」
「あ、いえ、その……」
その先の言い訳を考えていなかったのかしどろもどろになるハーマイオニー。
「マグゴナガル教授、この場所から推測するとその先は……」
言葉に詰まっているハーマイオニーに見兼ねたのかリアンは苦笑しながらフォローの言葉を入れる。するとマグゴナガル先生はあたりを見回したあと合点がいったかのように頷いた。
「そういうことでしたか、すみませんミスグレンジャー」
気まずそうに咳払いをして謝罪するマグゴナガル先生、対してハーマイオニーは少し顔を赤くして縮こまってしまった。二人ともどうしたというのだろうか……
「ですが、ポッターとウィーズリーは話が別です。グレンジャーを心配したのならば私たち教師に報告するべきでした。一年生だけでトロールに挑むなど危険すぎます。したがってグリフィンドール5点減点です」
マグゴナガル先生の言っていることは正論なので減点も仕方ないが、あの時は無我夢中だったので情状酌量の余地が欲しい。
「しかし、友人を助けたいと思ったその心、トロール相手に無傷で生還したことは評価に値します。グリフィンドールに10点あげましょう」
ハリーはマクゴナガル先生の言葉に思わず顔を上げた。まさか加点をもらえるとは思わなかった。
「貴方たちへの幸運に対してです。
さあ、怪我がないのなら寮に戻りなさい。生徒たちがさっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」
そう言われてハリー、ロン、ハーマイオニーは急いで寮への道を進んだ。階をいくつか重ねるまで誰も口を開かなかった。
「リアン先生すごかったな。呪文が言わなかったってことは魔法を使わず倒したってことだよな」
やがて寮への入り口付近に差し掛かった頃、口を開いたロン。その言葉に深く頷く。まさか魔法を使わず杖だけでトロールを倒すとは……
「いえ、リアン先生は魔法を使っていたはずよ。だってトロールの顔と同じ高さまでのジャンプも杖で殴っただけでトロールを気絶させることも魔法を使わずにできるわけないもの」
しかしハーマイオニーはそうは思わなかったようて、ロンの言葉を否定した。
「え、でも先生はなんの呪文も言ってなかったよ」
「おそらく無言呪文よ。私見てたけど、トロールの気をそらすための魔法を使ったときも詠唱なんてしてなかった。だから倒したときも何かしらの魔法を使っていたはずよ」
思わず質問したロンに対しハーマイオニーは感嘆の混じり答えた……思い返してみると確かに最初の一撃では呪文は聞こえなかった。
「となると、何者なんだろうね。リアン先生って」
ハリーの呟きに二人も皆目見当がつかないといった風に首を振った。
プロットから書き直していたせいで思ったより仕上げるのに時間が掛かってしまいました。
主人公の立場的なこともあって現状あまりオリジナル要素入れてないんですが、オリジナル要素あった方がいいですかね?
例えばホグワーツ教師陣と主人公の関係性とか……