シュタインズ・ゲート世界線のとあるクリスマスイブ   作:こもれび

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【中編】

「ふふふ……ふはーっはっはっは。ふはははっはははは!!!」

 

 カラオケボックスで俺の斜め前のソファーに座っていた岡部が急に笑いだしたのだ。

 いったい何が起こったのか、いったいこいつは何をやっているのか。

 俺は奴のその突然の奇行に目を奪われつつも、このままではせっかくの楽しい雰囲気が壊れてしまうと内心恐怖に駆られつつあった。

 おいやめろ。やめろよ。

 言葉にならない言葉が頭にどんどん浮かぶも、まるで狂ったように笑い出した奴に何をどう言っていいのか分からずにいた。ただ、俺は奴の名前を読んでいた。

 

「お、岡部……」

 

「ふっ!!」

 

 そして奴は立ち上がる。

 立ち上がり、自分の持っていた鞄から白いそれを取り出すと大きく手を振りつつそれを空中で広げた。

 そのまま拡げたそれを、自分の身体に纏わらせていく。

 

「岡部ではない!」

 

「は?」

 

 その場の全員がぽかんとしている中で、奴はバッバッバっと身を捩りながら白衣をはためかせた。

 

「ラボメンNo.001、ふゅーちゃーガジェットラボ創設者にして狂気のマッドサイエンティスト、俺の名は、鳳凰院きょぉぉぉぉ真だ!!」

 

「はい?」

 

 もはや全員の顔がひくついていたのは間違いない。

 こいつの言葉ひとつひとつが本当に……

 

 痛い、痛すぎる。

 

 ブルリと背中に嫌な汗が流れるのを感じて奴を見上げてみれば、さも得意げにニヤリと微笑みを浮かべ、それから掌の携帯をくるりと廻してから、独特なポージングしながら耳へと当てた。

 

「ふっ……俺だぁ。機関の妨害によりオペーレーション・スマスリクの実行に予想外の事態が発生した。対抗策としてスーロクタンサ特別コードの発令を要請する。何? そのコードは選ばれた二名の協力が必要だと!! バカなっ!!」

 

 いったいこいつは何を言ってるんだ?

 お、岡部ってこんな奴……

 とか、俺の考えがまとまる前に、奴は白衣をたなびかせながら少し寂しそうに遠くを見つめて言った。

 

「……ああ、分かってる。無茶はしないさ。俺も命は惜しいからな。エル・プサイ・コングルゥ」 

 

 そして携帯を閉じて俺を見た。

 

「聞いての通りだ。もはやこのオペレーションは破綻している。このまま続けてもなんの成果も得られんぞ――――とんがり!」

 

「誰がとんがりだ!!」

 

 いや、確かに今日は気合を入れてちょっと頭とんがらせて固めてきたけどよ。ベッカムヘアーといえ! いや、古いな。ソフトモヒカンだ。

 

「じゃなくて、何がオペレーションだよ、岡部!! お前いきなりこんなバカみたいなこと始めやがって、これからゲームとかして楽しもうってとこだったじゃねえか」

 

 そう言った俺に、岡部は指を立てて、ちっちっちと舌を鳴らした。

 

「間違えるな! 俺の名は鳳凰院凶真だ!」

 

「うるせえっ!! 誰もそんなこと聞いてねえ!」

 

 うぜえっ!

 うざすぎる。

 なんだ、こいつは!

 なんなんだ!

 

 ゲーム? 芸?

 いったいなんのつもりなんだよ。

 とにかくだ、はっきり言って唐突すぎて、痛すぎて、うざすぎる。

 何の前置きもなしに、いきなりこんな訳の分からないことをおっぱじめやがって。

 見ろよ、この場の空気。

 これじゃ、とてもじゃないが合コンなんて……

 

 と襲る襲る女の子達の方を見て見れば、うっすらと薄く微笑みつつも心底嫌そうな顔をしているかわいこちゃんたち。

 うわああああああ!!

 俺は慌てて彼女達へと話しかけた。

 

「ね、ねえ、面白かったでしょ。この岡部君って、こんな感じのリアクション芸できるんだよ、ははは……」

 

「ふん、だから違うと言ったであろうが。我が名は凶真、鳳凰院凶真!! 数多の世界を紡ぎし、記憶の伝道者(エヴァンジェリスト)にして狂気のマッドサイエンティスト。世界が終わるとき……それはこの俺が真に目覚めた時に他ならない……」

 

「だぁあああああああああ、だあからお前はもう黙ってろ!!」

 

 俺がそう叫ぶも、白衣の岡部は顎をさすりながらの決めポーズの真っ最中。それ決めポーズじゃなくて、キメェポーズだから!!

 そんな俺の焦りの先で、可愛い彼女達が顔を見合いながらポソリポソリ。

 

「ねえ、帰ろ」

「うん……なんか、怖いし」

「帰ろうよ」

「キンモ」

 

 そんなことを口々に言いながら席を立つ。

 

「ちょ、ちょっと……、ちょっと待っ……、ちょま」

 

 岡部以外の全員で帰ろうとしている女子達を止めにかかるが、彼女達はそそくさと出て行ってしまう。

 そして最後までチラチラ俺を見ていたにこちゃんマークも、何か寂しそうに部屋を後にしてしまった。

 残されたのは男ばかり6人。

 全員愕然となっていたそこへあいつの声が響いた。

 

「じゃ、俺は先に帰るからな。それじゃあ」

 

「おい、ちょっと待て、クォラっ!!」

 

 全員で岡部へと掴みかかった。

 当然だ。

 この野郎、急にあんなキモイ芸をおっぱじめやがって、そのせいで女の子達全員帰っちまったじゃねえかよ、マジでふざけんな。

 俺もそうだが、他のサークル仲間も怒り心頭、もう今すぐにでも岡部をボコボコに殴っちまいそうな勢いだった。

 だが、奴は冷や汗を一つ垂らすと慌てた感じで言った。

 

「お、落ち着けよ……あの子達朝まで遊ぶつもりで出て来てたらしいから、すぐに追いかけて事情を説明すればまだなんとかなるだろ? 俺をダシに俺のネタで仲良くなれよ、そうしろよ。簡単だろ?」

 

 おお、なるほど‼!

 と、俺達は納得。

 こいつわざとあんなことをしたっていうのかよ。なんだよ、ネタ提供とか、やっぱいい奴だったんじゃねえかよ。

 一瞬で手の平を帰した俺達は荷物を手に、彼女達を追いかけることにした。

 カラオケボックスに残ったのは岡部ただ一人。

 部屋を出る間際、俺は一人で脱力してチューチューとオレンジジュースを啜る岡部を見た。

 なんだ、まだ帰らないのか? そう思いながら進んだ廊下の先で、俺はどこかで見た、赤髪サングラス女とすれ違った。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 女の子達に追いついた俺達は、その場ですぐに和解することが出来た。

 案の定というか、岡部の気持ち悪さに居たたまれなくなっていただけで、別に他のメンズに文句があったわけではないのだそうだ。

 打ち解けた俺達は場所を変えて、今度はこ洒落たバーへと入ろうとした。

 雰囲気は相当良くなっているし、これはもうお楽しみしかないだろう。

 俺はこの先の展開に胸を弾ませながら店に入ろうとして―—

 

 財布がないことに……

 さっきのカラオケボックスに忘れてきてしまったことに気が付いた。

 

「わりぃ、俺財布忘れてきたからちょっと取りに帰ってくるよ」

 

「あ、わ、私も一緒に付き添います」

 

「え?」

 

 俺の言葉に追従してきたのは、あの薄いブルーのワンピースのにこちゃんマーク。

 俺はそれを断ろうとしたのだが、他の女の子達がいいからいいからと、他のメンバーたちの手を引いて店へと先に入ってしまう。

 結局その場に取り残される形になった、俺とにこちゃんマーク。

 なんというか気まずくて会話もないままに、さっきのカラオケボックスへと戻ってきた。

 二人で受付の人に事情を話すと、どうやらまだ部屋はそのままらしい。

 岡部の奴まだいるのか?

 そう思いながら廊下を歩いてさっきの部屋の前までくると、その扉の下にスリッパが挟まっていて戸が少し開いたままになっていた。

 それをにこちゃんマークと二人で確認してから戸を開けようとして、中から会話が聞こえてきて思わず二人で身を隠した。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

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