シュタインズ・ゲート世界線のとあるクリスマスイブ 作:こもれび
「全く……なんで、あんなばかなことをしたの? あんたのあの『設定』を聞かされたら、普通の人ならドン引きするに決まっているでしょ?」
「そんなことを言いつつまったくドン引きしないのは、流石は助手一号。いや、クリス……ティイイイイナッ」
「ティーナいうな!! まったくもう!!」
誰かと一緒なのか? クリスティーナ? 外人か? 言われてみれば、少し日本語のイントネーションも違うような……
錯覚かもしれないが。
岡部がその外人の女と話をしているだけなわけだ。
まあ、ちょこっと財布を取りたいだけだし、このまま入ってしまおうと、扉に手を掛けたところで、俺は誰かに腕を掴まれた。小さくて柔らかくて少し暖かいその感触に思わず心臓がどきりと跳ねる。
慌ててその腕の主を確認してみれば、それは紛れもなく顔を真っ赤にしたにこちゃんマークだった。
彼女は音を立てずにふるふると首を横に振っていた。
どうやら今は行ってはダメだと言いたいようだが。
俺は仕方がないので、その場でもう少しだけ大人しくしていることにした。
中の二人の会話はまだまだ続いている。
「ねえ岡部、私はどうしてあんなことをしたのかって聞いてるの。あんたが意味もなくあんなことするわけないもの。私との約束をほっぽりだして、こんな合コンにまできちゃって」
「怒ってるのか?」
「ぇえっ!! えと……ええと……」
女の声が尻つぼみで小さくなっていたが、次の瞬間大声で言った。
「お、おお怒ってるわよ!! ええ怒ってるわ!! だって、私今日とっても楽しみにしてたんだもの」
「お、おい」
「それなのに、なんで合コン? ほんと信じられない!! あんたが私に言ったことは全部嘘だったというわけよね。そうじゃなかったらこんなことするわけないもの。ほんと、なんで……なんでよぉ……ばかぁ」
女の声が急に掠れ始めた。
泣いているのか。
なんだよ、岡部。彼女居たんじゃねえかよ。
それなのにクリスマスイブに合コンとかマジ最低だな。
うん、誘ったの俺だったけど。
暫く女の嗚咽と、それを宥めようとしているかのようなか細い岡部の声が聞こえていたのだが、大きくひとつ岡部がため息を吐いてから会話が再開した。
「こいつは俺の恩返しみたいなもんなんだよ」
そう言った岡部の言葉のあと、しばらく経ってから女の声が聞こえてきた。
「恩返し?」
「ああ、恩返しだ。だけど、その恩はまだ受けてないんだけどな」
「恩を受けていないって、それって……『β世界線』でってこと」
「ああ、そうだ」
β世界線? なんだそれは。なんの話をしてるんだ?
俺にはまったく理解できなかったが、二人が納得しつつ話していることが不思議だった。
「俺が3000回のタイムリープの途中で知ったことだ。お前さっきこの部屋で起きてたことを少しは見てたっていってたよな」
「そうね……あなたが例の鳳なんちゃらを言い始めた辺りからは聞いてたわ」
「鳳凰院凶真だっ!! まあ、いい。それで、その時俺にくってかかってたとんがり頭がいただろう?」
俺だな。
「そいつは俺の大学の学部の同期なんだが、β世界線の先でも出会ったんだ。俺と同じレジスタンスのメンバーとして。それと、もうひとり奴にとってもっとも大事な存在もそこにいた」
「それって……もしかしてあの薄いブルーのワンピースの彼女? さっき見かけたわ」
このにこちゃんマークのことだな。
「ああ、そうだ。あいつと、あのワンピースの子は……β世界線の先で結ばれるんだ。だけど、その幸せはほんのわずかな期間でしかなかった。あいつらが結婚して数日後、レジスタンスの拠点のひとつで、まゆりやかがり達、民間人がゲリラ狩りに襲われたんだ。あわや全滅かと思われたその時、その民間人をたすけたのがあの二人だった。ただ、あいつらは全身に銃弾を受けてしまって……」
「助けられなかった……の?」
「ああ……助けられなかった……俺達が到着した時には二人とももう死んでいた。二人でしっかりと手を繋いだままな。おかげでまゆりたちは助かった。だが、あいつらが命を失ったという事実は変わらない。この俺の中ではの話なんだが」
「そう……岡部、ひょっとしてその時彼らを見捨ててしまったと後悔しているのではないの?」
「そうだな……あの時俺はすぐに決断したんだ。タイムリープでシュタインズ・ゲート世界線へとたどり着きさえすればきっとあいつらも救えるから……ってな。そして、俺はここに辿りついた。第三次世界大戦もタイムマシンもなにもないこの世界へ。でも……やっぱり忘れることはできなかったみたいだ」
「岡部……」
「なんていうかな、あいつは俺にとっては珍しい普通の友達なんだ。普通に会話して、世間話をして、まるで普通のリア充みたいな付き合いのできるやつで、でもべつにそう言う付き合い方が嫌じゃないし、変に意識しないでも一緒に居られるやつなんだ。そんなやつと一緒にいて、この前俺は心底驚いた。たまたま奴がナンパしたのが、なんとあの子だったんだからな。はは……ちょっとだけ、運命みたいなものを感じたんだよ」
「彼らはいつ結ばれたの?」
「確か俺が脳死状態になる少し前だな。今から約14年後だ」
「それまで二人は一緒にいなかったということ?」
「いや、一緒にはいたさ。俺はそれをずっとみてきたからな。逆方向で」
「そうね? 戻ってきているわけだから逆……になるのか」
「ああ、そういうことだ。ずっと一緒にいたが、あいつはリア充ぶってるくせに奥手で結局誰とも付き合わないままだった。彼女の方も一途にあいつのことを思ってはいても行動には移さなかった。業を煮やしたのはレジスタンスの他のメンバーたちだったんだ。半ば無理矢理に強引に彼らを結婚させた。そうまでしなければ一緒になれなかったんだ。だけど、それは正解でもあった。だってあいつらは……あいつらの最期の数日間は、本当に眩しいくらいに幸せそうだったから」
「…………」
「さて、そういうわけで、俺はあいつらをさっさとくっつけてやりたくなったってわけだ。あのバカは目の前に自分の運命の相手がいるにも関わらず、その周りの女達に目移りしまくりだったし、彼女のことバカにしたりしていたからな。さっきだってスタイルがいまいちだとか言い始めやがったしな。あれでウケると思ってること自体アウトだろ。まったく空気読めてない」
「あんたが言うなと私はいいたいけど、そうね……よくわかったわ。岡部が何を思っていたのか、何をしたかったのか、これでようやくね。でも……出来たら先に教えて欲しかった」
「何から何まで話すのは俺の性分じゃあない」
「でも言われなければ私はわからない。分からないし、悲しい。ねえ岡部。人はやっぱり思いを言葉に乗せて話すべきだと私は思う。言わないですれ違って、結局全部を失ってしまったら、それこそもう後悔も間に合わないもの」
「結婚……してくれ」
「だからね、岡部……思っていることはきちんと言わなければ論理的に解を導いて……え? なに?」
「だから結婚してくれ。俺と」
「け……こん。血痕? いやいやけ、け、けけけけけけ、結婚!? ひゃああああああんた! 何言ってるのか分かってるの!?」
「分かってる!! 分かってるからこうやって言った」
「いいえ、分かってない‼ だってこんな突然に……困る!!」
「言って欲しいと言ったのはお前だ」
「だってそれは、まさかこんな一足飛びに言ってくるなんて思いもしなかったんだもの」
「お前は嫌なのか?」
「嫌……じゃない。嫌なわけない」
「じゃあ、」
「でも、まだ岡部学生だし」
「学生で結婚できない道理はない」
「屁理屈を……でも普通は!!」
「普通なんて関係ない!! 俺はお前と一緒に居たいんだ。この先どうなるのかなんてわからないから、俺はこう考えたんだ」
「岡部!? そ、それって!!」
「こ、こ、ここここここ婚約指輪……みたいなものだ。そんな高い物じゃないが、今日お前に渡すと決めて用意していた」
「困る!!」
「い、嫌ということなのか?」
「嬉しすぎて困るの!!」
「結婚してくれ」
「バカ……」
そして、声が止んだ。
中の様子は見えない。でも二人がどうしているのか手に取る様に分かってしまって……
気が付けば俺は店の外へと出ていた。
ふと左手に温かさを感じてそっちを見れば、薄い青いワンピース姿の彼女の姿。
俺達はしっかりと手を握りあっていた。
俺は彼女を見た。
彼女も俺を見ていた。
さっきの岡部たちの話を聞いたせいなのだろうか、それとも別の理由なのか、ただ単に俺のスケベで薄弱な意思のせいなのかもしれない。
いずれにしても、俺の胸はときめいていた。
運命か……
それがどういうものなのかはまったく分からないし、理解できない。
でも確かに今、それを肌で感じていた。
「あー、財布、取りにいけなかったー」
「だねー」
そう微笑んだ彼女に、俺は告げたのだ。
俺と付き合ってくれませんか? と。
彼女はただ、静かに微笑んで頷いた。
了
最後までお読みくださってありがとうございました。
SFホラー色の強いこの原作ですが、やっぱりラブコメ要素の方が私は好きですね。
完結後の二次なのでありきたりの話ですが、こんな展開もありではないかなあと。
ツンデレクリスさん、やっぱり可愛いですもの。
ではこのへんで。
※私の使用しているブラウザの機能を使用するため、本作を3編に分割しました。