「うわっ」
サマンガン樹界を一行が進んでいると、カロルが咳き込んでいた。
「ったくガキんちょ。あんた気をつけなさいよね」
「ううっ、ごめん。」
リタが半眼で睨みながらカロルに文句を言う。
「しっかし、あちこちに生えてんのな。まったく迷惑だな」
「しょうがねーよ。この森はケムリダケの群生地なんだからよ」
ユーリの愚痴にアルヴィンが肩をすくませる。
「ケムリダケって……あのキノコの……ことですか?」
「うん。あれは強い衝撃を与えると周囲に催涙性の胞子をばら撒く性質があるんだ。煙みたいにね、だからケムリダケって名前が付いたんだ」
「そうなんですか?」
「ジュード君、物知りー」
エリーゼが質問するとジュードがケムリダケについて説明をする。そして、話しながら進んでいると
グルルルルルルッ!と唸りながら複数のウルフが現れた。
「こいつら……」
「森に入った時のっ!?」
アルヴィンとカロルが周りを見渡しながら表情をこわばらせ。
「今度はやる気になったようだな」
「どこからでもかかってこーい!」
ミラと何故か自信満々のティポが構えたとき、ガサゴソと茂みが揺れて皆そちらを向くと、そこにはハ・ミルの村で会った大男、ジャオが現れた。
「あんたは……」
「おっきいおじさん……!」
「おうおう。よう知らせてくれたわ」
ジャオは驚いているミラたちを見るとウルフの頭を撫でながらそう言った。そして、ジャオは再度ミラたち、正確にはエリーゼを見ると
「うむ……。おいっ! 何故娘っ子が村から出ていることを知らせなかった!」
顔を上げ森に向かって怒鳴った。すると
「そんなこと言われてもねぇ。俺の仕事はマクスウェルちゃんたちの監視とその報告。むしろエリーゼちゃんに関してはあんたの個人的な問題でしょ?」
「うむむ……」
と、木々の上の方から男性の声が返ってきた。それにジャオは言い返せずに唸る。
「……ねえ、今の声って」
「あ・の・お・や・じ・はッ!」
「あはは……。まあ、らしいっちゃらしいがな」
そして、上からの声に困惑気味なミラたちに対し、カロルは呆れたように、リタは怨嗟の如く低い声で、ユーリは苦笑いで顔を上げる。
「まあいい、さあ娘っ子。村に戻ろう。少し目を話してる間に村を出てるとはのう。心配したぞ」
ジャオは言い返しても言いくるめられると思ったのか会話をやめてエリーゼに手を差し出すが
「いやー! カロル君かばってー」
「ぬう……」
エリーゼはカロルの後ろに隠れてしまい、ジャオは困ったふうに頭を掻く。
「あんたが、ジャオか?」
「ん? お前たちには名乗っておらんはずだがのう」
「ハ・ミルのひとたちにな。んで? 見て分かるとおりエリーゼは嫌がってるわけだがどうするんだ?」
「どうすると言われてものう」
ユーリはそうジャオに話しかるがジャオは困った顔をしながらもエリーゼを連れ戻したいと言う感じで言い返す。
「ねえちょっと、エリーゼが村で放って置かれて、どうなったと思ってるのさ!」
「……すまんとは思っておる」
カロルがジャオに文句を言うとジャオは素直に謝り
「あんたって、エリーゼとどういう関係なの?」
「その子が以前いた場所を知っておる。彼女が育った場所だ」
リタがエリーゼとの関係を聞くとこれもまた素直に教えてくれた。
「じゃあさ、チビッ子の故郷に連れて行ってはあげられないの?」
「……………」
しかし、エリーゼの故郷のことを聞くとジャオは顔を逸らし黙ってしまった。
「……また、あの村に戻すの?」
「……お前たちには関係ないわい! さぁ、その子を渡してもらおう!」
カロルが聞くとジャオは急に大きな声を出して強気な態度になって武器を構えながら言ってきた。
「おいおい、いきなり力ずくかよ」
「おいっ! お前も手伝え」
アルヴィンが呆れたように言いながら武器を構え、他の皆も戦闘態勢になる。ジャオはまた上に向かって声を張り上げる。すると
「まったく。俺は荒事は好まないんだけどね~っと」
木の上から紫色の服を羽織り、髪を無造作に後ろで結わえた男が降りてきた。
「よっ、青年たちひっさしぶりってのわぁぁぁ!」
男が振り返りながらユーリたちに挨拶をしようとするが、途中でリタの魔術を食らい吹っ飛ぶ。
「ちっ、避けられた」
「ちょっとリタっち! いきなりなにすんのよ~」
「うっさい黙れ! あんたこそ何してんのよ」
「え? 俺様は見ての通りよ」
「うわ……答える気ゼロだよ」
男は不機嫌なリタに対してヘラヘラしながら受け答えし、カロルはそれを見て呆れ顔で男を見た。
「へぇ、ふ~ん、そう、わかったわ。つまり……敵だから容赦なくぶちのめしちゃっていいってことよね。ふふふふふふふふ」
「ちょ、リタっち? 目が怖いんでけど。青年っ!」
リタは妙な敵意で男を睨みつけ、男の方は少々たじろぎユーリに声をかけた。
「これはおっさんが悪い」
「うん。レイヴンが悪い、リタの相手頑張ってね」
ユーリとカロルは男……レイヴンに対して素っ気ない態度で言い返した。
「ガウッ!」
「おっと。ラピード助かったぞ」
一方、ミラとラピ-ドはジャオの操る魔物と戦っていた。
「おりゃっと、すまねぇ。加勢する」
「まったく。なにを遊んでいるんだ」
「ホントわりぃって」
「まあよかろう。ところであの男はユーリの仲間だったヤツなのか?」
「ああ。レイヴンっつってな。まあ、あっちはリタがどうにかするから大丈夫だろ」
「そうか。なら私たちもこいつらをとっとと一掃するぞ」
ミラとユーリは会話しながらも周りの魔物達を倒していった。
「エリーゼ、わしと一緒に帰るんだ!」
「わ、わたし、帰りたく……ない」
「エリーをあの村に無理矢理連れ帰ろうとするなんてひどいよ」
「エリーゼは渡さない」
エリーゼを守るようにカロルとジュードがジャオの前に出る。
「……仕方あるまい!」
ジャオは持っている大槌を振り上げカロルたちに向かって振り下ろす。
「なんのっ!」
ガッ! とカロルはジャオの攻撃を受け止め、その隙にジュードはジャオの後ろに回りこみ攻撃を繰り出す。
「ぬうっ。甘いわ!」
しかし、ジャオはカロルを直ぐに吹き飛ばしジュードの攻撃を防ぐが
「ティポ戦吼!」
「ぐっ!」
エリーゼが後方から追撃をしてきた。
「……何故だ娘っ子。その者たちといても、安息はないぞ?」
「……ともだちっていってくれたもん!」
「もう寂しいのはイヤだよ!」
ジャオは攻撃してきたエリーゼに驚きながら聞くと、エリーゼとティポがそう言い返した。
「……エリーゼ」
「おっさん。こいつが嫌だって言ってるんだ。無理強いはよくないぜ」
「そうだな。それにエリーゼ自身があの村から出ると決めたんだ。放って置いたお前にどうのと言われる筋はないと思うが」
ジャオがなんで分かってくれないというような表情でエリーゼを見ていると、魔物を退けたユーリとミラがエリーゼの後ろから歩いてきた。
「正直に言おう。わしも、連れて行くのは本意ではない。しかし、そう簡単な問題ではないのでな」
ジャオはそう言い返すと、再度武器を構える。
「そうかい。なら、ゴリ押しさせてもらうだけだ」
ユーリたちも武器を構える。が、その時
「うおおおっ! ちょ、ちょっとリタっち!? ギルド仲間のよしみで手加減してくれたっていいじゃないのよ~!」
「知るかっ! あんたのそのヘラヘラした感じが昔からムカついてたのよ。それに、せっかくだし私の憂さ晴らしの的になれっ!」
「い゛っ!? なにそれっ! 八つ当たりってっぇぇぇぇぇ!」
ジャオとユーリたちの方にレイヴンとそれに向けて放ったリタの術が飛んできた。
「ぬうっ!?」
リタの放った術がレイヴンと共にジャオとユーリたちのいた場所を吹き飛ばし、衝撃で飛び散った大小の土岩石があちこちに群生しているケムリダケに直撃、胞子がばら撒かれ視界が遮られた。
「チャンスッ。おい、今の内に行くぞ!」
「戦わなくていいのなら無駄に戦う必要はないな」
ユーリとミラは他の皆に声をかけて走り出す。
「えっ? ったく、なんなのよ?」
「ほれ、こっちだ」
「うわっ。いきなり引っ張んないでよ!」
いきなりの事に戸惑っていたリタはアルヴィンに手を引っ張られて、
「エリー、こっち!」
「はい」
「逃げろー」
エリーゼはカロルに手を引かれて、
「ワウッ」
「ラピード。ありがとう」
ジュードはラピードの後を追い、ジャオから遠ざり樹界を出て行った。しばらくし、煙が晴れるとジャオは寂しそうな表情をしながらユーリたちが出て行ったであろう樹界の出口を見つめ
「寂しいのはイヤ、か……。お前にとっては、奴らといる方が幸せなのかもしれんのう……」
そう、呟いた。
「いててて。まったく、最近の若もんはひどいねぇ」
「それは、仲間を裏切っているお前の自業自得ではないか? それと、少々ワザと過ぎるのではないのかのう」
「ん~。何のことやらさっぱり」
「ふん、まあいい。では引き続きあやつらの監視をしておけ」
「了解了解っと」
二人は軽く言葉を交わし合うと、ジャオは森の奥へと去っていきレイヴンもまた別の方向へと歩を進めていった。