とあるの世界で八門遁甲   作:快晴

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とあるの世界で八門遁甲 1話

学園都市。

東京西部を開発して作り出された完全独立教育機関。あらゆる教育機関・研究組織の集合体であり、学生が人口の8割を占める学生の街にして、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されてる科学の街。

 

さらには人為的な超能力の開発が実用化され、学生全員に対して能力開発が行われているとんでも都市でもある。

 

そんな場所に、小学生の頃から生活し能力開発の結果、無能力者、つまりレベル0の烙印を押されたのはこの男、転生者、舞戸 龍夜だ。

 

毎日毎日効果の出ない能力開発のカリキュラムをこなし、同級生には進歩のない自分を笑われる日々。

 

そんな辛い思いをしながらも、舞戸は毎日頑張り続けた。能力がダメなら身体を鍛えようと筋トレやランニングをし、警備員(アンチスキル)の先生に護身術を教わった。レベル0でも、落ちこぼれであろうも、頑張って、頑張って、頑張って、頑張り続ければ、いつかはみんなを見返せると信じて。

 

そして、そんな舞戸が実家に帰った中学一年生の夏休み。沈んでいく夕日を見ながら思わず報われない自分の努力に弱音を吐いていたあの時、彼は出会った。この世界にいるはずのない、見た目はただの変態にしか見えないが、最高にかっこいい心を持つ漢に。

 

「まったく!青春してるなー!少年‼︎」

 

 

 

 

 

「1998……1999……2000」

 

昨晩落ちた雷のせいでエアコンが壊れ、うだるような熱気が室内を支配する中、舞戸は日課の鍛錬の一つである片手腕立て伏せを終え、力尽きるようにそのままうつ伏せに倒れた。中学1年の夏から5年。舞戸が今日まで毎日欠かさず続けているこの自己鍛錬だが、いつまでたっても身体が慣れるということはない。

 

「……、上条のやつ今朝はやけにうるさいな」

 

鍛錬の途中一度、ぎゃー‼︎ という悲鳴が聞こえた後、しばらく静かになっていたのだが、再びぎゃー‼︎ と悲鳴が聞こえてからは、ドタバタと天井を通して聞こえる、暴れるような音がやかましい。もちろん不幸に愛された同級生、上条当麻のことなので、よく上から「不幸だーー‼︎」という悲痛な叫び聞こえてきて、うるさいことはわりと頻繁にあるのだが、今日みたいに朝っぱらから暴れまわるような音が聞こえて来るのは珍かった。

 

「シャワー浴びたら見に行ってみるか。どうせあいつも補習だろうし」

 

今日、七月二十日は夏休み。のはずなのだが、舞戸には補習がある。その理由は休学届けを学園都市に申請して、実家の近くの山で2年ほど修行に打ち込んでいたからであり、今日の補習はその2年間分のカリキュラムを少しずつ補うためのものだからだ。ちなみにこの補習も休学開けからの一年間、休日と放課後の全てを費やして行ったこともあり、今日で全て消化しきる。

 

「そうだ、ついでに朝食で余ったサンドウィッチも持っていってやろう。不幸なあいつはエアコンだけじゃなく冷蔵庫も死んでそうだしな」

 

そうと決まれば手早くシャワーと身支度を済ませ、サンドウィッチを詰めたプラスチック容器を片手に、舞戸の部屋の真上にある上条の部屋に向かった。

 

「おーい上条」

 

インターホンを鳴らした後にドアのポストを開けて声かける。

 

「げっ⁉︎ その声、もしかしなくても舞戸か」

「そうだ。お前の真下に住む舞戸だ。

やけにドタバタとうるさいから文句を言うついで、これから補習だろうお前の様子を見に来た。それより、今、げっ⁉︎ という、なんでこのタイミングで⁉︎ みたいな声が聞こえたんだがどうかしたのか?」

「い、いや、今、朝食を食べ終えたところで丁度げっぷをしまして、たぶんそれがそう聞こえたんだろ」

 

苦しすぎる言い訳。なにかを隠していることが丸わかりだ。

 

「そうか。オレの勘違いか」

「そ、そうだぜ舞戸」

「ならいいんだ。しかし、上条はもう朝食を食べ終わったのか……」

「へ? いったいどういうことでせうか?」

「いや、少しばかり朝食で余ったサンドウィッチを持って来てーー「サンドウィッチ‼︎‼︎‼︎‼︎」「あっ、馬鹿!」」

 

上条の部屋から聞こえたまだ幼さの残る少女の声、先程まで聞こえた上条の悲鳴とドタバタという物音、ここから導き出される一つの解。

 

「もしもし警備員(アンチスキル)ですか?」

「ちょっと待って舞戸さん‼︎‼︎‼︎」

「うん?どうした上条(ロリコン)、いきなり部屋から飛び出してきて」

「違う!違うから‼︎ お前は今ぜったい勘違いをしてる!だからお願い!お願いだからその電話を今すぐ切ってください‼︎‼︎‼︎」

「勘違いって、俺がいった何を勘違いしてるって言うんだ?」

「何もかもです!これには山より高く海より深い理由があるんです‼︎」

「へぇ、そうなのか」

「そうなんです‼︎」

「わかった。言い訳は豚箱で聞こう」

「何もわかってないからそれ‼︎お願いだから電話を切って話を聞いてください‼︎‼︎‼︎」

 

地面に頭を擦り付け何度も懇願してくる上条。だがあいにく、いくら友人とはいえ犯罪に手を染めてしまった人間を野放しにしておくつもりはない。

 

そして、電話の向こうの警備員(アンチスキル)に、いよいよ詳しく話をしようとしたところ、舞戸は自身の左手の信じられない状況を目撃し、「すみません、喧嘩があって電話をかけたんですが風紀委員(ジャッジメント)の方が抑えてくれたのでもう大丈夫です」と言い残してそっと携帯電話を切った。

 

「分かった。話を聞いてやる」

「え⁉︎ ほんとですか‼︎」

「ああほんとだ」

「よかった、これで上条(ロリコン)と呼ばれずにーー「だから俺の左手ごとサンドウィッチに食いついてるこの子をどうにかしてくれ」」

 

その姿はまさに、釣竿にかかった魚のようだった

 

「何してんのインデックスゥゥゥウ‼︎‼︎」

 

「不幸だーーーー‼︎‼︎‼︎」という叫びが学生寮に鳴り響く。だがそれは、上条だけに言えたことではない。ただ学友の様子を見に来て、人として当然のことをしようとした結果、なぜか左手を食われた舞戸の心の叫びでもあった。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあさっそく理由を聞かせてもらおうか」

 

必死に左手に食いつくインデックスと呼ばれる少女を上条と二人掛かりでなんとか外し、唾液によってベトベトになったその手を綺麗に洗った舞戸は、部屋の小さなテーブルを3人で囲うように座っていた。

 

「えっと、やっぱり話さなきゃダメか?」

「よっぽど豚箱に入りたいらしいな」

「いや違うんです!その、今から話す内容があまりに突拍子がなさすぎて。俺自身も正確に把握できてないことを説明しても信じてもらえる自信がないんです‼︎」

「いいから話せ。信じられないような不幸が起こるお前のことだから多少のことじゃ驚かない」

 

それを聞いた上条は、俺が部屋に来るまでの出来事を一つずつ説明し始めた。

 

「えっと、インデックスだったか? 上条の言ってることに間違いないか」

「うん、間違いないよ」

「そうか」

 

上条の口から聞かされた魔術という言葉。科学溢れるこの学園都市の常識からすると、そんなオカルトは信じる方が馬鹿らしい。ただ、舞戸は上条に聞かされた話を、笑って一蹴するようなことはしなかった。

 

「あの、自分で話しといてなんだが、舞戸は今のを信じるのか?」

「まあな。結局、俺たちが知ってることなんてこの世界のごく僅かな情報でしかないんだ。

俺たちが知らないだけで魔術とそれに関係する機関があってもなんの不思議じゃない。それこそ、科学で解明できないお前の右手は魔術の領域のものかもしれないぞ」

「確かにそうかもしんねぇが、なんつーか、舞戸は適応能力が高いな」

 

本当のところ、魔術について違和感なく受け入れられたのは、舞戸自身、科学や魔術と違った領域の力を有しているからなのだが、わざわざそれをここで話す必要はない。

 

「それで、上条はこれからどうするつもりだ?」

「どうするって、インデックスをこのまま放っておくわけに行かないだろ」

「もっともな意見だな。でも補習はどうするんだ?」

「そうだ⁉︎補習‼︎‼︎」

 

ようやく自身に補習があることを思い出す上条。慌てて時計を確認するが、今すぐ家を出てなおかつ全力で走った結果、ギリギリ間に合うか間に合わないかの時間だ。

 

「やばい‼︎ インデックス、俺はこれから補習に行かなきゃならないから家を開けるけど、お前はどうする? 魔術師ってのがまだ近くをうろついてんだろ、なんなら鍵だけ渡すけど」

「ありがとう。でもここにいると敵が来るからね。私はすぐに出て行くよ」

「敵が来るって、家でじっとしてたら外からじゃ分からないだろ」

 

だが、上条のその言葉はすぐに否定された。

なんでもインデックスの着ている服が発信機のような役割も果たしてしまっているらしい。

 

「うん? でもその発信機能を魔術でやってるのなら、俺の右手で触った時に消えてるんじゃないのか?」

「だとしても、お前が発信機を追ってる側で、急にその信号が消えた場合手がかりを得るためにその場に向かうだろ」

「ちょっと待て、だったらなおさらお前をほっとけねぇよ」

 

だがこの言葉も結局断られ、最終的にインデックスは部屋から出て行ってしまった。

 

「『じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』か」

 

急いで補習の準備を始める上条をぼんやりと見ながらインデックスが言っていた言葉を舞戸は呟いた。

 

 

 

 

 

最後の補習も終わり、カリキュラムが全て終わったことの最終確認を済ませた舞戸は、夕暮れの学園都市を一人寮へと向かって歩く。

 

「これで補習も終わりか」

 

復学してから今日まで、雨の日も風の日も、基本的に危険な天候でなければ毎日行っていたことが、たとえ補習とはいえようやく終わったのだ。心の中で少し寂しさを感じながらも同時に達成感を感じる。

 

「それにレベル0からレベル3に上がる結果もでたしな」

 

今晩は外食でもするかなどと考えていると、ポケットの携帯が鳴る。

 

「小萌先生?」

 

舞戸の携帯には補習の都合で数人の教師の電話番号が入っている。小萌とはその中の一人で、舞戸の担任であり、身長が一三五センチのどう見ても小学生にしか見えない学園七不思議に指定されるほどの幼女教師だ。

 

そんな幼女教師からの着信に首を傾げるが、大事な要件だった場合に困るのでとりあえず電話に出ることにした。

 

「もしもし?」

『あっ、もしもし舞戸ちゃんですか?長い間の補習おつかれさまなのです』

「はあ、ありがとうございます。それで急に電話を掛けて来るなんて、もしかして確認したカリキュラムに何か不備がありましたか?」

 

少し不安になった舞戸だがすぐに否定された。

 

『いえ、それなら問題ないです。バッチリ舞戸ちゃんは全カリキュラムの補習が完了です』

「よかった……、なら、なんの要件ですか?」

『えっとですね。舞戸ちゃんには直接関係ないのですが、実は上条ちゃんに渡してもらいたいものがあるのです』

「渡してもらいたいもの?」

 

詳しく話を聞いてみると、その正体はただの宿題のプリント。

 

「そのプリントって今日渡さなきゃいけないんですか?」

『今日じゃなくても大丈夫なんですが〜、上条ちゃんはすぐに授業を休んじゃうので……』

「いると分かってる時に渡しておきたいわけですね」

『そうなんです』

「本人に電話は?」

『それがまだお家に帰ってないみたいで』

「土御門への電話は?」

『こっちもおんなじで……』

 

はぁ、と電話に入らないように一度大きくため息を吐いた舞戸は小萌先生に了解のうまを伝えた。

 

『本当ですか!』

「はい。それでどこに向かえばいいんですか?」

 

それはですね、と伝えられた場所は小萌先生の自宅だった。

 

「あの、生徒に家を教えていいんですか?あと、その場所だと俺、完全下校時刻に間に合わないんですけど」

『大丈夫ですよ。先生はいろんな生徒を預かったりもしてますし、完全下校時刻の方も先生が責任持って車で送り届けますから』

 

(車って、小萌先生がいつも乗ってるアレだよな……、不安しかないんだが)

 

舞戸がこう思ってしまうのも無理はない。なんといっても一三五センチの幼女ボディが運転する車だ。ぱっと見は生首が運転してるようにしか見えない。そんな幽霊車に乗って学園都市の新たな不思議に加わるのはごめんだし、学園都市製のものとはいえよく仕組みの分からないあの車に乗るのが普通に嫌だった。

 

とはいえ、もう返事をしてしまった以上、断るわけにもいかない。

 

「わかりました。今から向かいます」

 

覚悟を決めた舞戸は、学生寮への道を逸れて小萌先生の待つ家へと向かった。

 

 

 

 

 

(まさか、学園都市にもまだこんな建物が残っているとはな)

 

舞戸の目の前にあるのは少し、いや、はっきり言ってかなりボロい木造二階建てのアパート。

通路に洗濯機が置いてあったりするのを見ると、風呂場という概念は存在しないのかもしれない。

 

とりあえずいつまでもこうしてボロいアパートに感動していても仕方がないので、小萌先生の部屋だという二階の一番奥のドアに向かった。

 

「つくよみこもえって、平仮名で書かれたドアプレートを見ると、本当にあの人が教師なのか改めて疑問が湧いてくるな」

 

一度、ピンポーンとチャイムを鳴らして中の反応を待つ。が、どういう訳か反応がない。

あまりに無反応なので、とうとう、まさかもう寝てるのでは?と疑問が頭に浮かんできたあたりでドアが開いた。

 

「あっ、舞戸ちゃん。よく来てくれましたね」

「………」

「どうかしましたか?」

 

その場で固まる舞戸に対して首を傾げる小萌先生だが、この場合、舞戸が固まるのも無理はなかった。

 

「先生その格好…」

「格好?何か変ですか?」

 

変、たしかに変だ。自称大人が子供の着るような緑の耳付きフードパジャマを着ており、なおかつそれがとんでもなく似合ってることが。

というか、この人はこの服装で舞戸を車で家まで送るつもりだったのだろうか?

 

(もしそうなら絶対着替えてもらおう)

 

「いや、なんでもないです。それより、お願いされた上条のプリントを貰ってもいいですか?」

「はい。今渡しますから少し待ってくださいね」

 

いそいそと部屋の奥に戻っていく小萌先生、その部屋の中はビール缶で凄いことになっていたが舞戸は見て見ぬふりをすることにした。

 

そんな時、アパートの階段を誰かが登って来る音が聞こえる。

 

アパートの他の住人が帰ってきたのかと思い、何となく玄関から外を覗いた舞戸は、そこにいた上条の姿を見て思わず声をあげた。

 

「上条⁉︎」

「うん?えっ⁉︎ 舞戸⁉︎」

 

上条の方も、当然こんなところに舞戸がいるとは思っていなかったので同じ反応をする。

 

「お前なんでこんなところに」

「いや、それは俺のセリフって、いや、今はそんな話をしてる場合じゃなかった。舞戸、そこって小萌先生の部屋であってるか」

「え?まあ、そうだが」

 

何か切迫した表情の上条に思わず気押されながら答える舞戸。そのままこちらに近づいて来る上条を不思議に思いながら見ていると、彼の背中に何かが背負われていることに気がついた。

 

「インデックス?」

 

上条の作る影に隠れているせいではっきりと姿を確認することはできなかったが、肩越しに見える綺麗な銀髪が舞戸に彼女を連想させた。

 

「おい上条お前ーー「悪い舞戸、説明は後だ」」

 

舞戸の隣をすり抜けるようにズカズカと小萌先生の部屋に入っていく上条。中からは「はい?上条ちゃん⁉︎」と声が聞こえる。

 

「いったい何がどうなって……」

 

中の小萌と同様にいまいち状況が理解出来ていない舞戸。それでもさっきの上条の表情からただごとではないと察し、ひとまず玄関を出て扉を閉めると廊下の柵に体重をかける。

 

しばらく時間が経ち、なんの気もなくふと見た通路。そこに小萌先生の部屋に続くように何かのシミができていることに気がついた。

 

「なんだこれ?さっきまではなかったよな?」

 

来た時の記憶を思い返しながら柵から身体を起こしシミに近づく。どこか黒と赤を混ぜたようなその独特な色。思わずしゃがみ込み、指でそれを触れる。

 

「これは……、血」

 

まだ体温を感じさせるその独特の温かさからようやくその正体に気づく。

 

「……まさか⁉︎」

 

この時、舞戸の中で先程の上条の表情と、朝のインデックスとの出来事が頭の中で繋がった。

 

急いで小萌先生の部屋のドアに手をかけるようとするが、中から飛び出して来た上条によって阻まれる。

 

「おい上条‼︎」

 

そう呼びかけたものの上条はそのままアパートを飛び出しどこかに走っていく。

 

「あーっ、クソ‼︎」

 

この場に残ってインデックスの様子を確認するか上条を追うか。少しの間、迷った舞戸であったが、すぐにアパートを飛び出し上条の後を追いかけた。

 

(俺の予想通りならインデックスがやばいがあそこには小萌先生がいる。それなら今は、あの上条がインデックスを一人残してこの部屋を出た、いや、出なければならなかった理由を知る方が重要だ)

 

 

 

 

 

「上条‼︎」

 

小萌先生のアパートから少し離れた公園、舞戸はそこで上条に追いついた。

 

「舞戸か………、そういやさっき後で説明するって言ったな」

「ああ。だからきっちり説明してもらうぞ」

 

自身の右手を強く握りしめる上条。振り返った際の表情も、いつもの明るさは感じられず強い悔しさが見てとれる。

 

「何があった」

「……、インデックスが俺の家の扉の前で血だらけでぶっ倒れてた」

 

(やっぱりあの血はインデックスの……)

 

「最初は俺も理解できなかった。腹の減ったインデックスがケチャップをぶちまけながらぶっ倒れているのかと思った。でも、インデックスに近づいて、インデックスの腰のあたりの傷口を見て初めて血だって理解した」

 

そのまま上条の話はゆっくりと進んだ。

インデックスを助けようとしたところでステイル=マグヌスという炎を操る魔術師と戦闘になったこと。彼女、インデックスの頭の中には一〇万三〇〇〇冊もの禁書の記憶があり、魔術師(ステイル)たちはそれの回収が目的で後を追って来たこと。

 

「それで、右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)の効果で魔術の邪魔をしないように、あそこを飛び出した訳か」

「………」

 

話が終わり上条が沈黙する。だが、その沈黙も二人を照らしていた街路灯に上条が拳を叩きつける音で破られる。

 

「くそ‼︎ やっぱりあの時止めるべきだったんだ‼︎」

「………やめろ」

「あの時しっかり止めていればインデックスは傷つかずに済んだんだ‼︎」

「……やめろ」

「あの時俺が‼︎ーー「やめろ‼︎‼‼︎︎」」

 

街路灯に叩きつける右手を掴み上条の動きを止める。

 

「今更悔やんだってもう遅い。現に彼女は傷を負ってしまったんだから」

「っ………、悪い」

「気にするな。それにあの時と言うなら、それはお前だけの責任じゃなくて、あの場にいた俺にもある」

 

そうだ。あの時、あの場にいて、インデックスのあの言葉。

 

『じゃあ。私と一緒に地獄の底までついて来てくれる』

 

彼女の儚げな、その叶わぬ夢のような言葉を聞いたのは上条一人だけではない。

 

「上条、インデックスを助けるの、俺も力を貸すぞ」

「それはだめだ⁉︎ あいつらはただの人間じゃない。学園都市なら間違いなくレベル4以上の力を持った奴らだぞ‼︎ そんなやつとレベル0の舞戸を関わらせるわけにはいかない‼︎」

「何言ってんだ、俺はレベル3になった。それに、その理由ならレベル0のお前だって一緒だろ」

「たしかにそうだが、俺には異能を消せる幻想殺し(イマジンブレイカー)がある‼︎ だが、舞戸がいくらレベル3になったからってーー」

 

そこまで言って上条の言葉が止んだ。

なぜなら上条の隣にある街路灯、それが舞戸の拳でグニャリと折れ曲がったからだ。

 

「ちなみにこれ、俺は能力を使ってない」

「えっ⁉︎」

 

嘘はついていない。なにせ使ったのはチャクラと呼ばれるまた別のものだからだ。

 

「じゃあお前のレベル3ってのは……」

「能力を使わない生身の状態での数値だな」

「なんで能力を使わないんだよ。お前、そのために2年も休学してたんじゃないのか?」

 

そうだ。最初はみんなを見返すための力を求めてあの人に修行してもらった。でも………

 

「……休学して、力をつけてるうちに思い出したんだ。原点の願いってやつを」

「原点の願い?」

「ああ。誰かを助けられる力をつけたいって願いだ」

 

それは舞戸がこの世界に来る前から持っていた願い。誰をなぜ、どのように助けるのかも分からない、ひどく抽象的で、感謝されることを望むような偽善的な願い。でもそれは、転生する前の男が病によって命を失う前に唯一願ったもの。

 

毎日毎日、朝起きて、ごはんを食べ、漫画や小説を読み、ごはんを食べ、また漫画や小説を読んで、ごはんを食べて、眠りにつく。そんな生産性のない日常。

 

それなのに両親は自分のために大量のお金をつぎ込み、沢山の機械や薬を使って命を助けようとしてくれた。病院の人たちは必死に治療に取り組み看護師の人は自分を励まし、少しでも楽しい日々を送れるように助けてくれた。

 

だが舞戸は、これに対して何も返すことができず、ただ消費するように日々を生きてそのまま死んだ。

 

舞戸はそんな自分が嫌いで、悔しくて……

 

だから、この世界に転生した舞戸は、誰かを助ける力を手に入れるために、内情も詳しくわからない学園都市で、幼い頃から最先端の教育を受け、まだ見ぬ自分の力を見つけようとした。

 

途中、その目的を忘れてただみんなを見返したいという願いを持つことになったが、それも師のおかげで本当の願いではないことに気がついた。自分が、レベル0といくら馬鹿にされようとも、本当に成し遂げたいものはこれなのだと。

 

これこそ師が、「ガンバル価値のあるいい目標だ」と言ってくれたものなのだと。

 

「だから俺は、レベルの証明なんかに能力は使わない。俺の能力は今、インデックスを助けるための力なんだから」

「舞戸……」

 

黙って舞戸の話を聞いていた上条が、自身の右手を何か考えるように見つめ、そのあとぎゅっと握りしめる。

 

「わかった。なら、俺と一緒に地獄の底にいるインデックスを助けるのを手伝ってくれ」

「当然だ。一度は取りこぼしそうになったが、今度は絶対に助けてやる‼︎」

 

上条の突き出した右手の拳に、舞戸のサムズアップがぶつかった。

 

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