とあるの世界で八門遁甲   作:快晴

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とあるの世界で八門遁甲 2話

翌朝。無事に魔術の儀式が成功したらしかったインデックスは、高熱と頭痛に襲われ布団の中にいた。

 

「……、で?何で下パンツなんだお前」

 

上条の疑問に舞戸も同意だった。上は小萌先生のものであろう淡い緑色のパジャマを着ているくせに、布団から飛び出た片足の太ももの根元から下は、目が潰れるぐらいの眩しさを放ち、バッチリ見えている。

 

「だが……、それ以上に小萌先生の服がインデックスにぴったり合っていることに驚きを隠せない」

「……みくびらないでほしい。私も、流石にこのパジャマはちょっと胸が苦しいかも」

 

なっ⁉︎ とまるで少女漫画のワンシーンのような衝撃を受ける小萌先生。

 

「ていうかその体で苦しくなる胸なんかあったんか⁉︎」

 

空気が凍った。レディ二人に睨まれる上条。舞戸に向かって助けを求める視線を送ってきたがそれは自業自得。憐れみの視線だけ返してそっと顔を背けた。

 

「ですです。ところで上条ちゃん、結局この子は上条ちゃんの何様なんです?」

「妹」

「大嘘にもほどがあるですモロ銀髪碧眼の外国人少女です‼︎」

「義理なんです」

「……、変態さんです?」

 

(まあそうなるわな)

 

「舞戸ちゃんもこの子を知ってるような雰囲気ですけどどういう関係なんです‼︎」

「友達以上恋人未満」

「なんですその妙にむず痒い答えは!先生の立場からだと何か言いづらいところがまたタチが悪いです‼︎」

 

とは言え上条も舞戸も小萌先生をこれ以上深く関わらせないためには素直に話すわけにはいかない。

 

「二人とも」

 

先生モードの口調に変わったことで上条も舞戸も黙り込む。

 

「先生、一つだけ聞いても良いですか?」

「ですー?」

「事情を聞きたいのは、この事を警察や学園都市の理事会へ伝えるためですか?」

 

その質問に対する小萌先生の答えはYes。これに対して上条の顔が少し曇るが、その後に続いた言葉ですぐにそれも晴れることになった。

 

「三人が一体どんな問題に巻き込まれてるか分からないですけど、それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私たち教師の役目です。

子供の責任を取るのが大人の義務です。

二人が危ない橋を渡ろうとしてると知って、黙ってるほど先生は子供ではないです」

 

(こんな人に会うのは先生以来だ……)

 

……、この人には敵わないと、隣で小さく呟く上条も舞戸と似たような事を思っているようだ。

 

「先生が赤の他人なら遠慮なく巻き込んでるんですけど、先生には『魔術』の借りがあるんで巻き込みたくないんです」

「むう。何気にかっくいーセリフを吐いて誤魔化そうたって先生は許さないんですよー?」

 

だが口ではそうい言った小萌は、執行猶予と言ってスーパーに出かけていった。しっかり、買い物に夢中になって忘れるかもしれないから、帰ってきたらしっかり話すようにと釘をさして。

 

「完全に気を遣わせたな」

「……そうかもな。でもやっぱりこれ以上迷惑をかける訳にはいかねぇ。悪りぃ、インデックス」

「ううん。あれでいいの。これ以上巻き込むのは悪いし、これ以上あの人は魔術を使っちゃダメ」

 

この言葉に上条も舞戸も眉をひそめる。

そしてそこから始まるインデックスの住む魔術の世界の話。はっきり言ってインデックスの言ってる事がいまいち理解出来ていない舞戸ではあったが、上条の解釈を聞く事でなんとか自分なりにも内容をまとめながら話を聞いている。

 

だが不意に、インデックスがこめかみを抑えて小さく「痛ッ」と口にした。

 

そして、インデックスは知りたい?とこちらに問いかけた。何かを決意したような表情で自分の抱えている事情を本当に知りたいのかと。

 

「なんていうか、それじゃこっちが神父さんみてーだな」

「まあ、神父っていうにはどっちも落ち着きがたりないがな」

 

 

 

 

 

世界の管理と運営のローマ正教、オカルトの検閲と削除のロシア成教、インデックスの所属する、対魔術師のイギリス清教。

 

そのイギリス清教の中には魔術師を討つために、魔術を調べ上げて対策を練る、必要悪の教会(ネセサリウス)と呼ばれるものが存在する。そして、このイギリス清教の『汚れ』を一手に引き受ける必要悪の教会(ネセサリウス)の最たるものこそがインデックスの頭が記憶している一〇万三〇〇〇冊もの魔道書。

 

もともとインデックスがこれを叩き込まれたのは、式のような魔術を上手く逆計算し、相手の攻撃を中和すること。世界中の魔術を知れ

ば世界中の魔術を無効化できるという考えからだった。

 

「けど、魔道書なんてやばいもん、場所が分かってんなら読まずに燃やしちまえばいいじゃねーか。魔道書を読んで学ぶ奴がいる限り、魔術師は無限に増え続けんだろ」

「確かにそうだが、俺たちが学校で授業を受けてるみたいに、師から弟子へとそれが聞かされたら意味がない」

「うん。舞戸が言ってることは間違いないよ。

でもそれは魔導師であって魔術師じゃない。魔術師は魔道書という教科書を元に、そこに自分なりアレンジを加えて新たな魔術を生み出すからこそ魔術師なんだよ」

 

まるで常に変異していくコンピュータウィルスのようだ。そう思った舞戸だがインデックスの話が進むにつれて、彼女の持っている記憶がその程度のもので収まるものではないことが分かった。

 

なぜなら、その一〇万三〇〇〇冊を使えば、世界の全てを例外なく捻じ曲げることができる、魔神と呼ばれる存在にもなれるのだから。

 

「……ごめんね」

 

小さく口からこぼれたこの言葉。それが上条をキレさせた。

 

パカンと軽くインデックスのおでこを叩き、どうしてこんな大切な話を黙っていたのかと口にして、犬歯を剥き出しにしながらインデックスを睨みつける。

 

これに対して、インデックスはなんとか言葉を返そうとするが上手く話せない。それどころかどんどん言葉が小さくなっていき、最後の方はほとんど聞こえないほどに。

 

それでも、きらわれたくなかったから、という言葉を聞いてしまった上条は、口調を強くしながらインデックスが話したことを今でも信じられないような荒唐無稽なお話だと言った。

 

だが……

 

「たった、それだけなんだろ?」

 

そうだ。上条だけではない。舞戸にとってもそれは大した問題ではない。

 

「見くびってんじゃねぇ、たかが一〇万三〇〇〇冊を覚えた程度で気持ち悪いとか言うと思ってんのか!魔術師が向こうからやってきたらテメェを見捨ててさっさと逃げ出すとでも考えたのか?ざっけんなよ。んな程度ならハナからテメェを拾ったりしてねーんだよ!」

 

たった一言。誰かを庇おうとしても、決して自分は守ってもらおうとしないインデックスの、心の奥底に封じ込めた『助けてくれ』という言葉をすくい上げたくて舞戸はここにいる。上条はそれが聞けなくて悔しくて声をあげている。

 

「ちったぁ俺を信用しやがれ。人を勝手に値踏みしてんじゃねーぞ」

 

だかこそ……

 

「そうだぜインデックス。俺たちじゃ頼りないかもしれないが、辛いなら辛いって言えばいい。苦しいなら苦しいって言えばいい。俺たちはそんなにカンが良くないからさ、口に出してくれなきゃ分からないけど、その一言ことさえあれば、俺たちは地獄の底にだってついていくさ」

 

それを聞いたインデックスの目元にじわりと涙が浮かんだ。

 

そしてそれは氷が溶けたように彼女の頬を伝って落ち、大声で泣き出したい気持ちを抑えるように、インデックスは口元まで引き上げた布団に小さく噛み付いた。

 

(いや〜、先生はこんな感じの言葉を躊躇いなく言ってたのか)

 

改めて自分が言った言葉を思い返して一人羞恥に少し顔を赤く染める舞戸。一方、上条は上条で女の子を泣かせてしまった事実にあたふたしてる。

 

「あ、あーっ、あれだ。ほら、俺ってば右手があるから魔術師なんざ敵じゃねーし!」

「……、けど、ひっく。夏休みの、補習があるって言った」

「…………言ったっけ?」

「絶対言った」

 

そこから始まる怒涛の追い詰め。どんどんどんどん上条の立場が無くなっていく。

とうとう追い詰められ、上条が土下座モードへ移行するとなったところ。そこで、上条に補習のことを思い出させた自分が彼を助けないわけにもいかないと、舞戸が口を挟んだ。

 

「あー、なんだインデックス、お前のその怒りは最もなんだが、先にさっきの言葉を聞かせてくれないか?」

「そっ、そうだぜインデックス‼︎ 俺たちが今度こそ同じ間違いをしないようにお前の口から聞かせてくれよ‼︎」

 

必死な上条。さっきまでのカッコいい男はどこに言ったのやら。

 

「えっ………、その……」

「……」

「……」

 

「……わたしを、………わたしを助けて下さい‼︎」

 

「「ああ、任せとけ‼︎」」

 

 

 

 

 

おっふろ♪ おっふろ♪と、ご機嫌に両手に洗面器を抱えたインデックスが歌っている。

パジャマからなぜか安全ピンだらけの修道服を着た彼女を見ていると、会った時の元気な姿を思い出してこちらも嬉しくなってくる。

 

「匂いなんてそんなに気になんねーぞ?」

「汗かいてるのが好きな人?」

「そういう意味じゃねぇッ‼︎」

 

(仲良いなこの二人)

 

インデックスの告白から三日経って、ようやくあちこち出歩けるようになった彼女の願いが風呂だった。

 

小萌先生の家にその風呂があれば良かったのだが、あのアパートにはやはりというか、風呂場という概念が存在せず、風呂に入るには管理人室のモノを借りるか、最寄りのボロボロの銭湯に向かうかの二択となったため、こうして仲良く三人で洗面器を抱えながら夜道を歩いている。

 

「とうま、りゅうや」

「「……なんだ?」」

「何でもない。用がないのに名前を呼べるってなんかおもしろいかも」

 

初めて遊園地に来た子供のような顔を見せるインデックスの姿は非常に微笑ましいのだが、流石にこれとよく似たやりとりを朝から繰り返しやられていると対応が少し雑になりもした。

 

「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。コーヒー牛乳ってなに?カプチーノみたいなもの?」

「……んなエレガントなもん銭湯にはねぇ。

んー、けどお前にゃデカイ風呂は衝撃的かもな。イギリスってホテルにあるみたいな狭っ苦しいユニットバスがメジャーなんだろ?」

 

インデックスは本当に良く分からないという感じで小さく首を傾げた。

 

「私、気がついたら日本にいたからね。向こうのことはちょっと分からないんだよ」

「……ふぅん。何だ、どうりでーー」

 

(気がついたら?)

 

上条とインデックスが会話を続ける中で舞戸はこれにひっかかった。

 

(インデックスはどう見たって日本人じゃない。少なくとも容姿からしてヨーロッパやそちらの方の住人だ。それなのに彼女は今、気がついたと言った。それは明らかにおかしい。その言い方じゃまるで……)

 

「うん。一年ぐらい前から、記憶がなくなっちゃってるからね」

 

(そうだ。記憶がーーえっ)

 

思いもよらぬ言葉に思考が止まる。記憶がないなんて、そんなこと、こんなにさらっと言えることじゃない。

 

それなのにインデックスは笑っていた。

本当に生まれて初めて遊園地にやってきた子供のように。

 

「最初に路地裏で目を覚ました時は自分の事も分からなかった。だけど、とにかく逃げなきゃって思った。昨日の晩ご飯も思い出せないのに、魔術とか禁書目録(インデックス)とか必要悪の教会(ネセサリウス)とか、そんな知識ばっかりぐるぐる回ってて、本当に怖かった……」

「じゃあインデックスはどうして記憶をなくしたのかも分からないのか?」

「うん」

 

「くそったれが……」と夜空を見上げた上条が思わずと言った感じで呟く。舞戸自身もインデックスに対するやるせなさの気持ちがこみ上げ思わず拳を強く握る。

 

「むむ?とうま、なんか怒ってる?」

「怒ってねーよ」

「なんか気に障ったたなら謝るかも。とうま、なにキレてるの?思春期ちゃん?」

「……そのからだにだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント」

 

(おいおい、それは言っちゃダメだぜ上条。そんなこと言ったら……)

 

「む、何なのかなそれ。やっぱり怒ってるように見えるけど。それともあれなの、とうまは怒ってるふひして私を困らせてる?とうまのそういうところは嫌いかも」

「あのな、元から好きでもねーくせにそんなセリフ吐くなよな。いくらなんでもお前にそこまでラヴコメいた素敵なイベントなんぞ期待しちゃいねーからさ」

「………」

 

(あーあ、馬鹿たれが。俺は知らんぞ)

 

「て、あれ?……なんで上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫」

 

明らかに良くない雰囲気を無理やりギャグに持っていこうとしているのが丸わかりな上条。

インデックスは胸の前で両手を組んで、上目遣いの目尻に涙を溜めている。

 

「とうま」

「はい」

「だいっきらい‼︎」

 

頭のてっぺんをインデックスに丸かじりされる上条。同情の余地など当然ない。

 

 

 

 

 

「ふん‼︎ とうまなんか知らないんだから‼︎ばーか‼︎ばーか‼︎」と言い残してさっさと銭湯に向かってしまったインデックス。

 

一方の舞戸は一人でのんびり銭湯を目指している。

 

では上条は?というと、舞戸がすぐにインデックスを追いかけさせたので今頃彼女と合流してるはずだ。

 

「全く世話がやけるな上条は。もう少しデリカシーを持てば彼女の……いや、大丈夫か」

 

上条当麻は天然の女誑しだ。クラスの中のほとんどの女子が彼のことを狙っているし、おそらく今回の件でインデックスにもフラグが建った。こんな男に彼女云々の話は余計なお世話だろう。それに、これ以上いらんことを覚えさせて、よりモテるようになったらクラスの土御門や青ピが面倒くさそうだ。

 

「……記憶がないか」

 

改めてインデックスの言葉を思い出す。

 

自分の名前すら分からない少女が、見知らぬ場所でたった一人、一年間も魔術師たちから逃げていた。もし自分が同じ立場ならどうなっていただろう?

 

少なくとも自分ならインデックスのような笑顔を浮かべることは出来ない。なぜ自分だけがこんな目に合わなければならないかと周りをうらむ。少なくとも自分ならインデックスのように自分より他人を優先することなど出来ない。自分はもっと辛い思いをしているのだからと、迷わず自分を優先する。

 

そんなことをまるで当たり前のようにやっていたインデックスという少女は、舞戸が思っている以上に強く優しい人間なのだろう。

 

「俺は、少しでもインデックスの助けになれてるのかな」

 

もちろん誰かを助けたいと願ったのは他でもない舞戸本人なので、インデックスのために出来ることならこの三日間全力でやってきたし、その成果もあって自分のことを嬉しそうにりゅうやと呼んでくれるようになった。

 

だが、それは今だけの話だ。インデックスを日本にあるイギリス教会に届けた後は、彼女はそのままロンドンの本部へ飛んでいってしまう。

 

そうなると記憶のないインデックスは、またひとりぼっちに戻る。強く優しい彼女のことだから、すぐに友人もできるだろうが、それでも少しの間は、孤独な思いをするのは避けられない。

 

「俺は本当にインデックスを助けられてるのか?」

 

その言葉だけがぐるぐると頭の中で回っていると、気がつけばいつのまにか銭湯の前に着いていた。

 

「あれ?インデックスと上条はまだ着いてないのか?」

 

銭湯の中を軽くのぞいてみるが姿が見当たらない。あの二人が先に入っているとも考えづらいので途中で追い越したかと思いつつ、少しその場で待ってみるもののやはり二人はやってこない。

 

ここでようやく、舞戸の中に嫌な予感が生まれる。

 

次の瞬間、ドン‼︎ という何かが爆発する音が聞こえると、蒼い闇に覆われたはずの夜空の向こうが夕焼けのようなオレンジ色に燃えていた。

 

洗面器を休憩所のベンチに置いてすぐに駆け出す。

 

「クソ‼︎」

 

この三日間、あまりになにも起きないものだから完全に油断していた。上条が倒した魔術師は別に死んだわけじゃない。体制を立て直してもう一度頃合いを見計らって襲撃してくると考えるのは当然だ。

 

身体の中で練り上げたチャクラを足に集中させて一気に加速。そのまま少しでも早く二人の元へたどりつこうと、徐々に足だけではなく全身にまでチャクラを巡らせ先を急いでいると、まだ完全下校時刻まで余裕があるにも関わらず、明らかに周りの人気が少ないことに気がついた。

 

(これも魔術師の仕業なのか?)

 

舞戸の予想通り、この現象は人払いと呼ばれる結界の効果によるもので、人間の無意識下に働きかけ『なぜかここに近づこうと思わない』ようにさせている。

 

もちろん舞戸もこの効果を少なからず受けてはいたのだが、彼の身体全身を流れるチャクラと、魔術に関わるインデックスを強く意識していたことで気づかぬうちにこれを無効化していた。

 

「いた‼︎」

 

とうとう見つけた銀髪碧眼のシスターは、その後ろを魔術師と思われる男に追われていた。上条の姿が見えないところから、理由は分からないが完全に分断されてしまったらしい。

 

もはや道路ではなく、電柱や屋根を跳ねるように進んでいた舞戸は、地面という名のビルの側面を蹴り飛ばし、まるでロケットのようにインデックスと男の間に着地。あまりの勢いに砕けたコンクリートの煙を振り払うように右手を大きく振るった。

 

「大丈夫か、インデックス‼︎」

「りゅうや!危ない‼︎」

 

インデックスの声が跳ねたのもつかの間、魔術師が作り出した炎の剣が舞戸目掛けて飛んで来たが、軽く体を逸らすだけでこれを躱すと、インデックスの隣をすり抜けた炎の剣が電柱に突き刺さった。

 

「今ので死んでればいいものを」

「あいにくあんなトロい攻撃に当たるほどお人好しじゃないんでな」

 

夕焼けのような赤い髪に漆黒の修道服。そして何より特徴的な目の下のバーコードのタトゥー。

 

「お前が上条の言ってた、ステイル=マグヌスとかいう炎を操る魔術師か」

「君に名乗った覚えはないのだけれど、まあ、こちらが一方的に君を知っているというのも不公平だからね、レベル3の能力者、舞戸 龍夜」

 

この返答に対する驚きはない。こうして三人がバラバラになる用に仕掛けて来た相手だ。この三日間、こちらの動向を監視する傍ら情報収集をこなしていたのだろう。

 

「まったく、人払いの結界に反応があったからまさかとは思ったが……、あの右手の男と同様に、君もただの能力者というわけじゃないらしい」

 

心底忌々しそうに向けられる視線からは、一度、上条に負けて撤退していることもあり、こちらを侮るような意思がまったく感じられない。

 

一触即発、そんな空気が流れ始める中で、インデックスにここから離れるように指示をする

 

「そんなのダメだよ!相手は魔術師なんだよ!私もりゅうやと一緒に戦う!」

「ははっ、魔術の専門家のインデックスがいてくれるのは心強いが、相手の狙いはお前だ。今はここから離れてくれ」

 

「でもっ」となおも食い下がってくるインデックスではあるが、自衛の手段がない彼女がここに居ては舞戸自身、本気で戦うことができない。

 

「わかった。なら上条を探してきてくれ。

あいつの右手があるのとないのじゃかなり違う」

「………」

「………」

「…わかった。でも、絶対無理はしないでね」

「ああ。約束だ」

 

背中越しのサムズアップを見たインデックスがその場を離れていく。

 

「長々と話しをする時間をくれるなんて随分優しいんだな」

「別に、彼女を戦闘に巻き込みたくないのはこっちも同じだかね」

 

インデックスを切り裂いておきながら、よくもぬけぬけと言えたものだと感心しながら、半身の姿勢をとった舞戸は、左手の甲を腰の後ろに回し、右手が相手に水平になるように構えた。

 

「ならこれでお互い手加減はいらないってわけだ」

「悪いけど、もうお喋りをするつもりはないんだ。Fortis931。君にはここで死んでもらう」

 

 

 

 

 

敵対するのは魔女狩りの王(イノケンティウス)と呼ばれる炎の化身。近接戦が基本になる舞戸に対して、相手は触れることが出来ず、自分には攻防一体の手段になるそれは、非常に効果的な魔術と言える。現に先程から魔女狩りの王(イノケンティウス)ではなく本体に攻撃を加えようとしても、ことごとくその燃え上がる灼熱の体に邪魔をされていた。

 

(相性が悪い。唯一の救いは機動力の無さか)

 

何度か炎の中に手を突っ込んでいるせいで、軽く焼かれた拳の感覚を確かめながら打開策を考えるが……

 

(結局、あのデカブツを魔術師から引き離さないと話にならないか)

 

実を言えば、魔女狩りの王(イノケンティウス)を突破して、そのまま魔術師を倒すすべを持っていないわけではないが、体力の消耗が激しく、この後またインデックスと合流しなければならないことを考えると、そう簡単に使えるものではなかった。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)‼︎」

 

飛んで来る炎の塊。だがやはり、その攻撃スピードは遅い。攻撃の規模が先程の剣とは比べものにならないため地面を蹴り大きく躱す。その後も連続して炎の塊を飛ばしてきたが同じようにこれをさばいた。

 

「使い魔を前に出させて自分は後ろから見物なんて、随分と臆病なんだなあんた」

 

返答の代わりに炎が飛んで来る。安い挑発に相手が乗ってくれればと思ったが、さっき言っていた通り、向こうはもう話しをするつもりはないらしい。こうなると、本格的に魔女狩りの王(イノケンティウス)は自力では退けるしかなさそうだ。

 

自身の周りが炎塊や飛び散った火の粉による引火が原因で、行動を制限され始めていることも相まってすぐに行動を起こす。

 

一度大きく距離をとったところで、両足につけた枷を外し、拳をカバーするように再び巻きつけ簡易的なガントレットにする。

 

(これで多少は無理ができる)

 

数回片足のつま先を地面にぶつけて軽くなった足の感覚を確認し、今度は舞戸が攻撃に転じた。

 

 

 

今までとは比較にならないほど上がったスピード。ギリギリ目視ができるかどうかのそのスピードとともに繰り出された拳を、魔女狩りの王(イノケンティウス)の炎の身体が防いだ。

 

(化け物が……)

 

内心でそう呟くステイル。だが、なにも彼は急激に上がった速さに対して驚いているわけではない。

 

(もし今のを魔女狩りの王(イノケンティウス)の拳じゃなく、手のひらで止めていたなら間違いなく突破されていた)

 

ただ殴っただけにも関わらず、魔女狩りの王(イノケンティウス)の守りを一撃で突破しかけたことに対してだ。ステイル自身、この学園都市がどういった観点から能力者のレベル分けをしているか、詳しく理解しているわけではないが、間違いなくあれがレベル3なんて枠に収まっていいものではないことだけは理解できた。

 

(……ただ、今の一撃でガントレットがダメになったみたいだ。残るは後一つ。向こうの攻撃手段があのガントレットによる一撃しかないと分かっているならこちらも対処しやすい。あまりインデックスに遠くまで逃げられても面倒だ、舞台も整ったことだし次で決めさせてもらう)

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)‼︎」

 

炎の塊を相手に投げつけながら前進させる。

 

案の定、先程までと同様に難なく避けられてしまうが構わない。同じことを続けさせる。

 

灰は灰に(Ash To Ash)ーー」

 

右手にはオレンジに燃える炎剣を。

 

「ーー塵は塵に(Dust To Dust)ーー」

 

左手には青白く燃える炎剣を。

 

「ーー吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!ーー」

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)が投げた炎の塊、その両脇目掛けて炎剣を投擲した。

 

その狙いは、見事に炎の塊の右脇をすり抜けるようにこちらに向かっていた舞戸に重なる。

 

そしてーー

 

炎剣は身体を回転させるように躱された。

 

そのまま一瞬にしてこちらとの間合いを詰められ、ガントレットのついた拳がステイルの顔面めがけて振るわれる。

 

「なっ⁉︎」

「蜃気楼ってやつだよ」

 

舞戸の拳はステイルに当たることはなく、するりと顔があった場所をすり抜けた。フェイクの後ろから現れる本物。そのままあらかじめ舞戸の足元に仕掛けておいたルーンが起動され、火柱が立ち上がった。

 

「ぐあぁぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎⁉︎」

「とっさに身体を前に投げ出したようだけど、少し遅かったみたいだね」

 

両足を焼かれてその場で苦しむ舞戸に冷ややかなステイルの視線と言葉が向けられる。

 

「これでもう君は動けない。悪いけど手加減をして死にぞこなわれても厄介だから、僕の全力で確実に殺す。恨むなら、力のない自分を恨むんだね」

 

方向転換をした魔女狩りの王(イノケンティウス)がゆっくりとこちらに近づき、ステイルは逆に攻撃に巻き込まれないようゆっくりと後ろに下がる。

 

いよいよ魔女狩りの王(イノケンティウス)の攻撃範囲に入りステイルがその範囲の外に出たところ。その炎の身体が舞戸目掛けて倒れ込み、周辺が莫大な熱に包まれた。

 

ふぅー、と、その光景を見ながら火をつけたタバコをふかす。

 

「なに呑気にタバコなんて吸ってんだ?」

 

だが、まだこの戦いは終わってはいなかった。

 

 

 

殴りつけた拳がするりと通り抜けた瞬間、舞戸は自分が罠にかかったことを理解した。だが同時に、このタイミングがステイルを倒す一番の好機であることも。

 

足元で光を放ち始める文字、規模はステイルとの距離がそこまで離れていないことから、大きくても両腕を広げた程度と推測し、間に合わないのは承知で身体を前に投げ出す。

 

そして、空中に身体を投げ出し、魔術が発動するまでのラグは奥の手の準備に使う。

 

(八門遁甲!第一 開門…開‼︎ さらにーー「ぐあぁぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎⁉︎」ーー第二…休門………開‼︎‼︎)

 

休門の効果で焼かれた足を一気に治療していく。この時、すぐにステイルがとどめを刺していれば舞戸はこうして立っていなかった。

 

舞戸の危険性を理解し、確実に殺せる手段を取るために魔女狩りの王(イノケンティウス)を呼び寄せたのが悪手。その数秒の時間を使って、激痛は走るがどうにか足を動かせるまで傷を回復。開門による脳のリミッターを外した効果で上がった身体能力に、さらにチャクラを足に集中させて魔女狩りの王(イノケンティウス)が倒れこむ瞬間、一気にその場を離脱した。

 

「っつ⁉︎ あの足の怪我で、あの場面でどうやって⁉︎」

「さて、悪いが俺ももうお喋りをするつもりはないんでな」

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)ではなくすぐに通常の魔術で対応するが、すでにステイルがいるのは舞戸の間合いの中。

 

「かはっ⁉︎」

 

爆発的な加速で距離を縮められ、振り上げる形で打ち込まれた舞戸の拳がステイルの腹に突き刺さりそのまま意識を奪い去った。

 

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