Morning Starter   作:灰の熊猫

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クリスマス記念の特別短編です。


Morning Starter

「で、なんで集まったの?なんかあるならはやく終わらせて、わたし周回したいんだけど」

「せめて”おはよう”ぐらいは言いなさい」

「やだ」

 

 北の大地、寒空から逃れたセーフハウス。そんな事を言いながらもスマホからは視線も手も離す事なく、真魚は蓮へ開口一番に挨拶を抜きにした本音を叩き付けた。

 間に立っているユーリヤがまぁまぁと、お互いを小さく宥める。行動を一緒にする内に、最初に教団から救出した頃にあった真魚の敬語は今は抜け、それぞれのやり取りの距離感と遠慮は比例して縮まっていた。

 情で許されるラインの上を反復横跳びする様な真魚の物言いに、蓮もまた既に慣れきっている。下手に反応を返しても、本気で言ってない相手にやった所で疲れるだけだ。

 

「それで、どうかしたのですか?仕事以外で集まろう、とは」

「あー、うん。まぁ、ほんと大した事じゃないんだけどね――」

「あじゃじゃしたー」

「前置きしか終わってないから。せめて話の大筋を聞いて。マジで席を立たないで」

 

 椅子から腰を数センチ上げ、真魚は持ってきた肩掛けの小さな鞄の紐の位置を直す仕草を見せる。

 蓮から制止がかかると、その体勢のまま留まった。表情に感情を出さない――というより、意図的に出しにくいらしい――真魚は、帰りたいという意志を仕草で表現し、いつでもセーフハウスを後に出来ると言いたげだ。

 しかし本当に聞く気が無いなら、そもそもユーリヤの教会からここまで来る訳も無い。それでいて面倒な話であれば、さっさと帰って電子の海を心置きなく堪能したいという事は、ポーズだけで伝えてくる。

 それを踏まえ、さっさと本題を切り出す事にした。

 

「写真とか、撮らない?私達の」

「かえりまーす」

「ちょっとぉぉぉ!!」

 

 躊躇無く外へ続く扉へと近寄り始めた真魚の肩を、蓮が両手で引き止める。話から帰る為の動き出しまでの二人の瞬発力は互角、しかし蓮が歩幅の分だけ真魚を上回り、結果その足取りは留められていた。

 両肩に縋られた真魚は足を止め、珍しく感情を表情に出しながら振り返って蓮を見つめた。心底面倒だ、やる必要があるのか。そんな不満と億劫さが、露骨に見えている。

 

「んぇー。……そんなJKみたいな提案の為に呼ばれたとか、おもわないじゃん。仕事についての話とか、せめてなんかの相談とかだと思ってきたのに。シツボーしたよ蓮ちゃん、ファンやめます」

「そこまで言う!?辛辣すぎない!?」

「ま、真魚ちゃん、まぁまぁ……まだ蓮さんも話の途中みたいですし、もう少し聞いてからでもいいんじゃないですか」

「……シスターにそこまで言われちゃ、しかたないなぁ。ん、ホラさっさと吐いて、ほらほら」

「あの、真魚ちゃん。私、あの、年上なんだけど」

「しってる」

「…………」

 

 真魚は表情を再びフラットに戻し、椅子に座り直してスマホを触り出す。平淡でありながらその物言いと態度は無礼そのものであったが、蓮としても変な用事で呼び出したという自覚と、本気で嫌がるのであれば強制はしたくないという思いはあり、怒りと謝意の狭間で気持ちの天秤は揺れて傾き切らずにいた。

 オーケー、落ち着きましょう。私は大人だ、この手の心理の揺さぶり合いは広い人付き合いで慣れている。気持ちを抑え、蓮は本題の内にある経緯と心情を話すことにした。

 

「私達、こうして組んで結構になるじゃない」

「そう?……えーっと……ごめんガチャ更新のスケジュールから逆算するから、まってもらっていい?」

「ソシャゲから心を離して現実を明るく見てね」

「ここがわたしの真実(リアル)だよ」

 

 真魚はぽちぽちとゲーム画面を移行させる電子音を鳴らし続ける。その真実を映すと言い張る瞳は明らかに偏り、歪曲しきった視界だった。今の子供って皆こうなのか、蓮がちょっと真面目に心配を始めた。

 さすがにそうはあって欲しくない。真実と現実は、同じ所にあるが別物だ。そう信じる。

 そんな事はともかくとして、話を続けた。

 

「で、お互い結構ヤバい橋も渡って来て。私としては、皆がいてくれて良かったって思ってるのよ」

「……ええ、そうですね。思い返せば”教会”でも、今の支部の規模だけでは到底手に負えないだろう事件ばかりでした」

「まー、しぬよねフツー。わたし、捕まった時は絶対人生終わったって思ったし」

 

 元々、蓮達は全く違う立場で同じ問題に立ち向かっている。蓮は稼業として、ユーリヤは使命として、真魚は復讐として。それぞれの思惑で動き、巨視的には共通の敵と相手取ってきた。

 こうして行動を共にしている大きな理由は、利害関係の一致と戦力の共有化、ただそれだけだ。蓮達は目的も意識も所属も異なる、言うなれば互いが互いで一時の協力相手というだけの関係でしかない。

 しかし、だからといって感情までもが異なり続けるという訳じゃなかった。

 

「私としては、皆の事。……その、結構大事な”仲間”だと思ってるのよ」

「……蓮さん……」

「……そうだね……おカネ、稼がないといけないもんね……」

「ストップ真魚ちゃん、現実を持ち出さないで」

真実(リアル)を見ようよ」

「今は目を逸らすトコなの」

 

 関係の中で多大に絡む金銭問題を突付かれ、蓮は嫌な顔をして目を逸らした。

 ボランティアでは命を賭けられない以上、どうしても”協力”にはそういった問題が関わった。実際、ユーリヤは政次郎や政府を挟んでの金銭での契約関係でこの場に居るし、蓮にしても必要な弾薬や装備などを賄っている事もあり、この関係から金を抜けばたちまちにヒビが入る事は確実だ。

 しかしそこは見たくはない所だった。せっかく共に戦ってきて仲間意識も覚え始めていると感じているのに、何が悲しくてプライベートでまでそれに触れないといけないのか。

 なので蓮は、今この時だけは関係の中にある後ろ暗い金銭の部分を話題から切り離したかった。

 

「話を戻すわよ。で、そう考えると私達、各々ではまぁまぁプライベートでも顔合わせてるけど、皆で集まって何かする、って事はあんまり無いじゃない?」

「それぞれの生活や都合もありますから……揃う時は、殆ど教団絡みの事件の時だけですね」

「でもこの中で一番せわしなくしてて予定合わないの、蓮ちゃんでしょ」

「…………いわないで……」

 

 ユーリヤが話題へ少しずつ同調を見せる中、真魚は一切の遠慮無く、蓮の言葉に対して正しさの塊をぶつけてくる。

 蓮達の中――ここに居ない男衆二人を含め――で、最も忙しいのは言うまでもなくここに姿を見せずに今も別の仕事に取り組んでいるだろう政次郎だろうが、その次は蓮だった。

 現状、蓮は自らの降りかかる借金の清算の為に、休んでいい日などろくに無かった。無所属(フリーランス)最大の武器である自由を全て返済と仕事の発見の為に費やし、顔には浮かばせないように心がけているが、疲労も心労も残りの三人の比にはならない程に背負っている。

 一週間で最低百万円。その上、仕事の度に損耗する装備・弾薬・医療キットの数々。自分は今、裏社会の経済の中心にいるのではないか――そんな思い上がりも過ぎ行く日々を追って東西を駆け回れば、自分がただの一端に過ぎない事を自覚させられてきた。

 ぶっちゃけ、疲れている。疲れ切っていた。かんがえたくなかった。

 

「――こほん。それで一度ぐらいは皆で集まって、仕事と関係無い事とかもしたかったのよ」

「……そうですね。そういった時間は、大事にしていきたいです。この平穏の為に、私達は戦っているのですから」

「あ、スタミナなくなった。どうしよ、キリが良くなっちゃった」

「切って。そこは切って、話を聞いて」

「回復アイテム使ったからむり」

「今の間に迷いが欠片も見えなかったんだけど!?」

 

 神妙すぎる程に聞いてくれるユーリヤとは対照的に、真魚は一切手を止めない。機械の様に効率化されたローテーションの運指は途切れる事を知らず、歯車の如くただ同じ場所を巡り続けていく。

 それでも的確に反応を返す辺り、蓮の話を聞く気は見せている。ただ、掌の中に収まる狭いパネルと自分の想いが等価値に扱われているようで、蓮は凄まじい虚しさを感じ始めていた。

 

「あれ、それなら政次郎くんとおじさんは?」

「政次郎くんに”仕事以外で”って電話してみなさい。刹那で通話が切れるわよ」

「……切られたんですね……」

「……うん……」

 

 昨日こちらからかけた、十秒にも満たない通話記録を思い出して蓮の表情が消える。

 政次郎からの対応も人柄も理解していたし、正直応えないだろうなとは思っていた。しかし、話を始める前から終わらせられるのは、この提案に善意が混じっていた分少し辛かった。

 

「もう片方はなんて?」

「そもそも電話が繋がんなかったわ。……多分、またアレで疲れて寝てるんじゃないかしら」

「…………」

「ん?……あぁ、もしかして」

「言わないでいいわよ」

 

 渋い顔をする蓮を見て、ユーリヤは忘れる事の出来ない十三とのファーストコンタクトを思い返した。

 真魚はその時いなかったが、十三という人物は知っている。あの体力が筋肉に詰め込まれた様な偉丈夫が”疲れて寝る”、その情報と人柄だけでほぼ答えを絞り込み、尋ねようと口に出そうと――出来なかった。

 それはそのまま、答えは間違えようもなく一つしか無い事を意味している。

 

「そんなワケで、ユーリヤと真魚ちゃんにだけ声かけたってワケ」

「……その。わ、私だけは、蓮さんの事、同じ様に思ってますからね!」

「ユーリヤ。有り難いんだけど、それフォローになってないわ」

 

 こうして蓮によって集められた目的と理由が明かされ、ユーリヤは蓮を心配して混じり気の無い本音で同情した。だが、それは蓮の心にとっては寂しさを感じさせるだけの言葉でしかない。

 先も考えた通り、この面子は元々”仲間”と言うには余りにもバラバラだ。背中を預ける信用はある、しかし情を伴う信頼は無いのだろうか。死んだ様な目で、ユーリヤへ視線を返した。

 

「――ん。じゃ、どっち使う?」

「……?どっちって、何のこと?」

「わたしのか、蓮ちゃんの。スマホでしょ?」

「へ」

 

 その時、真魚が指の一連の動きを止め、画面から意識を離して横目で蓮を見つめてきた。

 真魚の言葉と意図が、よくわからない。耳で受け取ってから、遅れて頭の中で言葉を咀嚼して内側にある考えを取り出そうとする。

 それより早く、真魚の言葉が続けられた。

 

「するんでしょ、記念撮影。やるならちゃっちゃとしよ」

「……ま、真魚ちゃんっ……!」

 

 言葉に情は乗っていない。しかし、真魚のそっけなさに反して蓮は確かな温かさを感じていた。

 まさかこれまでずっと帰りたがり、帰れないならせめてゆっくりゲームさせてくれとばかりの――いや実際にゲームをし続けていたのだけど――態度を取り続けていた真魚が、ここに来て初めて賛同の意を見せるとは。

 こみ上げるものがあった。今まで共に戦ってきた中でも感じられなかった何か、全く別の感動。風。そのようなものが、蓮の冷めかけていた心中へ吹き込み、着実に温かさをもたらしていた。

 居たんだ、仲間が。沢山ではない、しかし背中を確実に任せられる。独りではない事を教えてくれる、そんな信じられる仲間が。思わず蓮は顔を綻ばせていた。

 

「じゃ、じゃあね!私のスマホで、いいかしら!こうやって誰かと写真を撮るのって、あんまり無かったから!元データ、私のとこに残しときたいのよ!いい!?」

「……れ、蓮さん……」

「うわぁ」

 

 何故か冷たい目線を向けられるが、それも気にならなかった。若くして両親を失い、蜜柑の下で掃除屋を目指したという経歴上、蓮にはこういった機会も経験も与えられていなかった。

 それもあって、少し高揚感が溢れたのは否めない。しかし、二人の表情には拒絶感は無かった。急いでカメラを起動し、なるべく良い画質になる様に設定を既定のものから変えていく。

 

「……あ、ごめん。さすがに自撮り棒とか無いわ、悪いけどこのままでいい?」

「んー、まぁちょい詰めればイケるでしょ。そんな本格的な撮影でもないし」

「すみません、そういうのあまり詳しくないので全部お任せしていいですか……」

「いいわよ、ちょちょいって撮るだけだし。あ、手前のカメラに設定して……」

 

 蓮が自分のスマートフォンを横に向け、腕を目一杯に伸ばしてカメラの内側に三人を収める。身長差と角度の問題で、真魚が映し辛い。

 いくらか角度を変え、その度に蓮どう写すのが良いかと意見を聞くも、ユーリヤは三人が入っていれば何でも良いと一貫し、真魚は写り方などどうでもいいからさっさとしろと急かしてきた。

 ――が。蓮が四苦八苦する途中、真魚は何かを思いついた様に眉を数ミリ上げた。

 

「あ、ごめん蓮ちゃん、ちょっと希望いい?」

「いいわよいいわよ、なんでも言って!」

「じゃあまず、服のボタンを上から三つぐらい外し――」

「却下」

 

 人差し指で天井を指した真魚は、良いことを思いついたとばかりに蓮に脱衣を提案するも、それは”なんでも受け入れる”という前言を一瞬にして撤回させ、棄却された。

 

「そんなどーり、わたしがこじあけるーっ」

「ギャーッ!ちょ、服引っ張らないで!やめて!この服高いんだから、そうやって開けるもんじゃないから!」

「……ちぃぃ……!おじさん、どうかわたしに力をかしてくれ……!」

「誰も貸さないわよこんな理由で!」

 

 すかさず真魚は身を翻し、いきなり両手で蓮の上着の胸元を掴み、合わせ目を強引に開けようと試みた。が、すぐに蓮の手によって抑えられ、二人の体格差もあって真魚の蛮行は無事止められた。

 渋々と蓮から離れた真魚は、今度はユーリヤに向き合った。

 

「……そういや、修道服ってこれどこから脱ぐんだろ。襟になんかあるのかな」

「ひゃっ!?や、ちょ、真魚ちゃっ」

「あれ、無いなぁ。せなか?」

「ひぅ……っ」

「……案外見えないだけで、前にあったり、とか」

「やっ――ど、どこ触ってるんですかっ!」

 

 そのまま抱き着く様に密着し、服のあちこちを触って――というよりは、(まさぐ)っていく。明らかに服の構造を調べる以外の手付きが前にまで回り、流石にユーリヤも真魚を制止させた。

 肩に手をかけられてぐいと引っ剥がされた真魚は、不服そうに文句を言った。

 

「せっかくの撮影なのにこれじゃおもしろくないじゃん」

「記念撮影に変な要素を入れないでくれるかしら」

「あ、ひらめいた。わたしが入りづらいなら、いっそわたしがカメラ持てばいいんだよ。で、蓮ちゃん達が口元だけ映る様にして、わたしは右手で目を隠せば」

「なんでいかがわしい方向にばかり行こうとするの」

 

 そう言われると、真魚は小首を傾げた。

 

「……ネットにアップして、バズりたいんじゃないの?」

「違うわよぉ!!」

 

 下唇に指を一本当ててわざとらしく疑問を姿勢で表す真魚を、蓮が一喝する。

 何を思いついたのかと思ったら、やはりろくでもない事だった。まるで笑みを浮かべないにも関わらず、愉快犯の様に状況を引っ掻き回そうとする真魚に対し、流石の蓮も堪忍袋のリロードが終わりそうだった。

 

「えー。この三人なら頂点(テッペン)とれるかもって、期待してたのにー」

「勝手に知らない場所に連れて行かないでくれない?」

「……仲間、でしょ?わたしたちは……」

「少なくともネット上での仲間では無いわ」

 

 今度は切なそうな表情を浮かべるも、そんな取って作った様な真魚の顔へ蓮が返したのは冷ややかな視線とツッコミだけだった。

 乗り気になってくれたと思ったら、すぐにこれだ。別に本気で怒っている訳でも無いのだが、少し疲れてくる。最初の真魚ほどではないが、今蓮の心には”早く普通に撮りたい”という想いだけがあった。

 

「……むう、しかたない。シスター――」

「脱ぎませんからね?」

「塩分がきいてる、つらい。……どうせなら、ポーズ取らない?」

 

 同様にユーリヤも真魚を突き放す。が、それは予測済みとばかりに別の提案が取られた。

 

「ポーズ、ですか?」

「ほら、真っ直ぐ立って真面目な顔してるだけじゃ写りが悪いし。記念だったら、見て明るい気分になる方がいいでしょ」

「……確かに」

 

 一転してまともな提案をされ、困惑と納得が胸中に浮かぶ。

 ユーリヤ自身はどう映っても良いと考えていたが、それは自分だけの都合で、写真は自分だけのものじゃない。パスポートの証明写真でも無いのに気を立たせ、表情も変えないのは友人間の撮影としては少々味気ない。

 真魚を見てついつい反対に、真面目にしようと強く思ってしまった結果、姿勢が固くなっていた。それを気付かされ、ユーリヤは自分もまた反省すべきだと真っ直ぐすぎる念を抱いていた。

 

「ん、よし。んじゃ顔から変えよ、はいにっこり」

「は、ハイ。……んっ」

「よーしよし、いいですよー、いいカンジですよー」

「真魚ちゃんは今度は何のマネしてるの」

 

 ユーリヤが笑顔を浮かべたのを見て、真魚はオーバーに両手を叩きながらも言葉には抑揚をつけない。

 似非のカメラマンの様な口調を始めた真魚を見て、蓮は白い目でそれを眺めていた。

 

「じゃあ今度はお茶目さ前にだしてこー。ほら、舌だして」

「え?は、ハイ」

「口も少し開いて、はいそのぐらい」

「は、はい……はい……?」

 

 笑顔が、少しずつ崩れ始める。真魚の誘導を疑問にも思わず、ユーリヤは言われた通りに口元を変えていった。

 

「はい、そこでダブピ。両手を目の辺りにあげて、ぴーす」

「こ、こう……ですか……?」

「ストップ。ユーリヤ目開けちゃダメ、人に見せられないわよそれ」

「え?え?」

 

 その状況で、両頬の近くでピースサインを二つ作らせられる。

 ディレクター真魚によって作らされた表情は、目を薄めているユーリヤには知る由もなかったが、記念写真というには余りにもあられもない顔に仕上げられていた。

 思わず蓮が小さく真魚の後頭部にチョップを落とす。喉から絞り出した様な小さな声が吐き出された。

 

「ぬう。おのれ、またわたしの覇道のジャマをするか、蓮ちゃん」

「そんな道は捨てなさい。ユーリヤ、今真魚ちゃんから言われたこと全部無視して、普通でいいから」

「あ、わ、わかり、ました?」

 

 未だ困惑するユーリヤを誘導から解放させ、蓮は真魚を前へ振り向かせようとする。

 これ以上は無いわよ。そう肩を掴む手に力に込めると、真魚は全く抵抗を見せずに向きを直す。

 やれやれと、蓮の口から溜息が漏れた。

 

「じゃ、今度こそ撮るわよー。ほら真魚ちゃん、背伸びして」

「んー。別にいいのに」

「え、笑顔、笑顔」

 

 これ以上真魚が動く前に、蓮が早々に撮影すべく場を仕切る。

 人に笑顔になる様に指導しながら、いつもの無表情を一切崩さない真魚。一度顔の近くで引き上げたピースサインを中途半端に肩の所にまで下ろし、笑顔だけは意識して作っているユーリヤ。

 ――まぁ、これも”私達らしい”か。結局てんで揃わない自分達の姿を見て、苦笑いを零す。

 それなら、私も自由にしよう。蓮もまた、写真にどう映るかを決めた。

 

「はい、いくわよ。……さーん、にー、いーち」

 

 カウントダウンを始める。二人の姿勢は、そのまま変わらない。

 親指に力を込める。そして蓮も、表情を変えた。

 

「――はい、チー、ズ」

 

 ボタンを押す直前に、小さく舌を出しながらカメラへウインクを飛ばす。

 そうして、模されぼやけた電子のシャッター音がセーフハウスの中に鳴り響いた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「じゃ、二枚目からはそれぞれの下着撮影になりまーす」

「しないわよぉぉぉ!!」

 

 次に響いたのは、蓮の叫び声だった。

 




同人RPG「Evening Starter」、一話完結の短編でした。
自撮りするヒロイン達の画像は原作者様のツイッターにあったから、気になったら検索だ!

短編はな……先や繋がりを気にしなくていいから、他のより滅茶苦茶書きやすいんや……。(正座して反省を始める)
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