Morning Starter   作:灰の熊猫

5 / 7
Feting Starter

 唐館真教会。唐館市の住宅地の一角にあるこの教会の中には、気持ちばかりのささやかな花の飾り付けが教会内のあちこちに施されていた。

 クリスマス。かの聖人の誕生を祝う祝祭の日を迎えたユーリヤは、ここを訪れる信徒の為に朝早くに起き、信者へ渡す為の蝋燭を準備し、教会の門戸を開いた。

 クリスマスは家族と過ごす為の日だが、同時に教会へ祈りを捧げに来る信者もそれなりに居るだろう。そう考えたユーリヤは、普段は訪れる人の少ない寂しい教会故に、今日という日を期待に満ちた心境で過ごしていた。

 ――が。

 

「……誰も、来ませんね……」

 

 辺りが冬の早い暗がりに包まれる頃、ユーリヤはただ一人で教会の先頭にある講壇で立ち尽くす。

 正確には、いつもと比べれば礼拝する信者は多かった。唐館市には教会が少なく、住宅地に近いという事もあって、近所で馴染みの主婦や子供連れなど、それほど参拝の多いとは言えない人々も昼には訪れていた。

 だが、夕方以降からは全くと言っていい程に信者の足は途切れていた。

 本来、クリスマスの夜の教会では、暗闇の中で蝋燭を灯して聖書を朗読する、燭火礼拝という行事があるのにも関わらず、だ。

 

「……やはり、チラシなどを作るべきだったかもしれません……」

 

 手元の蝋燭の明かりが講壇に置かれた聖書とユーリヤを照らす中、独りごちる。

 今の教会は主に行事を執り行う神父が不在な上に、昨今の懐事情による多忙――主に蓮達の仕事の付き合い――によって、ユーリヤはこれまで十分な宣伝を行えていなかった。

 その上、これはユーリヤ自身が気付いていないミスだったが、燭火礼拝に備えてユーリヤは早めに教会の電気を消し、蝋燭の明かりだけで教会内を照らしていた。それによって、周囲からは教会が既に閉じられていると勘違いされていた。

 その結果が、大量の不良在庫と化そうとしている蝋燭と、ユーリヤを厳しく包む静寂と孤独だった。

 

「……これも試練なのですか、神よ……」

 

 修道者の本業の為に費やした出費が無意味に終わろうとしている、そんな残酷な現実にもユーリヤは神を恨まず、ただ自身の至らなさを自省していた。

 神父がこの教会を預かっていれば、この様な事態は無かっただろう。ちゃんとした宣伝を行っていれば、この唐館市に住まう信者達も今日という日を神への感謝と共に過ごせていたに違いない。

 一時的とはいえ教会を預かる身でありながら、なんという不甲斐なさか。ユーリヤが俯く先にある聖書が、泣いている様に思えた。

 

「はぁ……片付けましょうか」

 

 本来予定していた燭火礼拝の予定時刻を三十分は過ぎていたが、教会には人どころか扉を叩かれる気配すら無かった。

 こうなれば、もう誰も来ないだろう。ユーリヤは教会内に点在する蝋燭の明かりを頼りに、設置した大量の蝋燭の回収に取り掛かろうとした。

 

「……ん?」

 

 そんな時、自身の持つ携帯電話から着信音が鳴る。

 ユーリヤに直接連絡を取る人間は限られている。ごく一部の懇意にしている信者を除けば、あとは殆どが仕事関係――つまり、蓮や政次郎からの連絡だ。

 ポケットを震わせる電話を手に取り、発信元を確認する。暗闇の中でも発光する画面には、蓮の名前が浮かび上がっていた。

 

『あ、ユーリヤ?今大丈夫?』

「ええ、大丈夫です。……全く、問題ありません」

 

 通話を繋げてすぐに、蓮の声が聞こえてくる。ユーリヤは本業故に時間を取れない事もある為、必ず蓮からの連絡は会話の可不可を問うことから始まる。

 問題無く会話が出来るという事が、この夜の寂しさを再度思い出させる。その気持ちが、少々言葉尻を落としてしまう。

 

「それで、どうかしましたか?仕事の連絡としては少々遅い時間ですけど……」

 

 それはともかく、ユーリヤは真っ先に浮かんだ疑問を蓮へ問う。

 蓮から仕事が連絡がある時は、基本的には昼より前が多い。仕事に異界の探索が絡む時、一日の殆どを使ってしまう事から、早い段階で連絡しなければいけないからだ。

 とはいえ、夜に連絡が一切来ない訳でも無い。珍しくはあるが、翌朝から早めに行動する際には先んじて仕事の有無を告げてくる事もある。

 今回もその類だろうか。ユーリヤは背を正し、次の蓮の言葉に身構えた。

 

『いや、仕事じゃないんだけど……ええと、ユーリヤ、今夜は忙しいかしら』

「え?いや、そんな事はありませんけど」

『そう?教会って、クリスマスは忙しい印象があったんだけど』

「……諸事情がありまして……」

 

 消え入りそうな声で蓮からの疑問に答える。今夜は忙しいどころか、何をして過ごすかすらもはやわからない程だった。

 それもこれも自らの行いのせいだ。事実の認識が一度は終えた反省がぶり返させ、気分は落ち込みの極致へ至る。

 とはいえ、落ち込んでばかりもいられない。今は蓮の話の最中であり、次の言葉を待つ時だ。気を取り直して、スピーカーへ耳を傾けた。

 

『それなら良かったわ。折角だし、パーティーでもしない?私達で』

「……”私達”、ですか?」

 

  ◆  ◆  ◆

 

「いえーい、めりーくりすまーす」

「よお、ユーリヤ」

 

 蓮との通話を終え、ユーリヤは荷物袋を背負って蓮のセーフハウスにやってきていた。

 そこで待っていたのは、蓮と真魚、そして大型のザックを背負った十三の三人だった。部屋の中央にあるテーブルには大きめのプラスチック容器に盛り付けられたオードブルが置かれ、その奥には華やかな模様が描かれた紙箱と、ジュースが入ったニリットルのペットボトル、そして多めに積まれた紙皿と紙コップがあった。

 

「どうも、皆さん。メリークリスマス、です」

 

 ユーリヤは荷物を横へ下ろし、ぺこりと頭を三人に下げる。誰も来ないだろうとはいえ、この聖夜に教会を完全に留守にする事には抵抗はあったが、結局は蓮の誘いに乗る事を選んだ。

 パーティーというには、セーフハウスの中は寂しい見た目だった。飾り一つ無く、目に見えるのは出来合いのオードブルのみ。奥にある紙箱は、おそらくはケーキを収めたものだろう。

 しかしその大きさはケーキを収めているにしてはいくらか小さく、せいぜいニ・三人用のホールケーキを収める為のものである事が限界だろう事が見て取れる。

 

「……政次郎さんは?」

「来ると思う?」

「思いません」

 

 唯一この場に顔を見せない政次郎の所在は、端的な言葉のやり取りで納得を終える。

 仕事の鬼の様な政次郎に、私用という言葉は似つかわしくない――というより、想像が出来ない。蓮とユーリヤの間で、当然の様な共通認識が固められた。

 

「悪いわね、いきなりに連絡して。てっきり忙しいと思ってたから」

「……私も、忙しいと思っていました……」

「え、何その死んだ目、どうしたの」

 

 蓮が申し訳無さそうに告げてくるが、その言葉を受けたユーリヤの瞳から光が消える。

 教会から離れてみると、前に感じていた情けなさよりも、寂しさと悲しさが浮き上がってくる。

 修道者としての本業を、それも燭火礼拝での朗読という大任をこなす事に期待をしていた身としては、現実はあまりにも辛かった。

 

「でもさー蓮ちゃん、クリパするのはいいけど、ちょっと部屋が寂しすぎない?」

「察して真魚ちゃん。これが私の精一杯だったのよ」

 

 そんなユーリヤをよそに、真魚がテーブルの上を指差しながら蓮へと容赦の無い言葉をかける。

 実際、クリスマスパーティーと言うには部屋内に飾り付けは一切無く、部屋全体はいつもの簡素なセーフハウスのままだった。

 用意された料理も、店で買っただろう冷えたオードブルと小さめのケーキのみ。電子レンジすら無い蓮のセーフハウスでは、そのまま食べるしか無い。

 パーティーの場としてはあまりに寂しく、主催者の限界がはっきりと見えるこの空間を、ユーリヤはどこか他人事とは思えずにいた。

 

「ったく、そんな事だろうとは思ってたぜ」

「勘弁してよ十三さん、そう責められると私の立つ瀬が――」

「責めてる訳じゃねえよ」

 

 真魚に続き、十三もまた蓮に言葉をかける。これ以上責められては、主催者としては心苦しい。

 だが、真魚と違って十三の言葉には他意が無く、純粋な感想として発せられていた。

 

「ちょいと失礼するぜ」

「……何これ?」

 

 十三は背負う大型のザックをゆっくりとテーブルの傍に下ろし、蓮が用意したオードブルの容器をケーキの入る紙箱の横に追いやる。

 十三はザックを開き、その中から大きめの紙箱を取り出した。

 

「ケーキは詳しくなくてな。どれが良いかわからなかったから、ケーキ屋でオススメされた……えーと、ブッシュ・ド・ノエル?って奴買ってきたぞ」

「えっ」

 

 蓮の用意したものより一回り大きい紙箱の中にあるものを説明しながら、十三は蓮のケーキの傍に置く。

 それに蓮が目を瞬かせている間に、十三はさらにザックの奥底から複数のビニール袋を引き上げ、先程空けたスペースの中央にまとめて並べて置いた。

 

「こっちはローストチキン、そっちはローストビーフとミートローフ、あとバランスを考えてサラダの盛り合わせも持ってきた」

「えっえっ」

 

 そしてそれぞれの袋から、十三は順に読み上げながら料理を取り出していく。

 どれもクリスマスに用意される、単体でカバーがかけられた料理。それも肉料理を中心に、空けられたスペースがどんどん埋められていく。

 蓮の用意したオードブルの中に入っている申し訳程度の大きさの肉料理に比べると、それらの大きさは雲泥の差があった。

 

(そっち)のと合わせりゃ多分これで足りるだろ。まだ足りないなら、ピザでも頼むか?」

「――……」

 

 そうして十三が全ての料理を置き終えた時、机の上には余分な空白が殆ど無くなっていた。

 さっきまで寂しかったテーブルの上は、十三が持ってきた物だけで半分以上が埋まり、その存在感は蓮の用意したオードブルが小さく見える程だった。

 何だ、これは。目の前に並べられた大量の料理を前に、蓮の思考は鈍化していた。

 

「ん、蓮ちゃん蓮ちゃん」

「……何、真魚ちゃん」

「主催者として一言どーぞ」

「……アリガトウゴザイマス」

 

 真魚に言葉をかけられて再起動した蓮は、十三に向けて頭を下げる。

 もはや主催としてのプライドは無残にも完全に砕け散り、自分以上にパーティーに貢献している十三に対しては、頭を下げる以外の選択肢は無かった。

 

「よせよ、恩着せるつもりでやってる訳じゃねえんだから」

「いや、でも……凄いわね、これ。全部でいくらしたの、十三さん」

「ん、数える必要あるか?」

「…………」

 

 圧倒的な資産の差から来る純粋な言葉が、蓮の心をざくざくと斬りつける。

 その事に対する嫉妬を通り越した結果、蓮は感情を停止した。言葉を失うとはまさにこの事か、何一つ口は動かない。

 主催としての立場が失われた事で、蓮は自分の身が小さくなった様な錯覚の内にあった。

 

「……お金持ってる人は、違いますね……」

「……そうね……」

 

 これ以上無く落ち込む蓮と近い表情を浮かべ、ユーリヤが蓮に寄り添う。

 金の無い二人にとって、あまりに十三は眩しい――というか、理解を超えた存在だった。本人が見せつける素振りも見せず、ただ行動で示すその様が、逆に辛かった。

 

「でもさーおじさん。流石にこれは多すぎやしない?」

「そうか?まぁ、余ったら蓮かユーリヤに分けりゃいいだろ」

「「…………」」

 

 その上で、こちらの困窮する事情を考えて気を遣ってくる。その言葉には嫌味が全く無く、純粋な善意のみが見えていた。

 蓮とユーリヤは、それまでの寂しさを一転させた豪奢な料理の数々を、共に死んだ目で眺めた。

 

「……そういえばユーリヤ、その荷物何?ユーリヤまで料理持ってきたの?」

「あ、いえ、そういう訳ではないです」

 

 これ以上十三について考えていると悪い思考に陥る、そう感じた蓮は話題を変える事にした。

 ユーリヤが背負ってきた荷物袋は、十三のように嵩張る様な大きさではない、背中よりも幅狭な程度のものだった。もしやユーリヤまでこの事態を想定してきたのかと蓮は身構えたが、それは否定される。

 ユーリヤは床に下ろした荷物袋を開くと、その中身を取り出した。

 

「折角クリスマスですし、ささやかですがこういった物も必要かと」

「あ、なるほど。確かに雰囲気出そうね、さすが聖職者」

 

 袋から出てきたのは、掌ほどの大きさの蝋燭と皿状の簡素な燭台だった。

 パーティーと聞いて、ユーリヤは電話がかかってきた時に回収しようとしていた蝋燭を、そのまま荷物袋に入れてきた。

 燭火礼拝はクリスマスにしか行う予定が無い。このまま不良在庫となるよりは、蓮達と過ごす為に使う方が良いだろう。そう考え、ユーリヤは蝋燭を持ってきた。

 

「おぉー、きゃんどるさーびす?ってやつ?」

「キャンドルサービスっていうのは、元々正教が起源とされているのよ。結婚式で行うユニティキャンドル――新郎と新婦がそれぞれ火を点けた蝋燭を持って、一本の大蝋燭に灯すっていう行事でね」

「蓮ちゃん、別に起源はきいてないよ」

「…………」

 

 ここぞとばかりに人差し指を立てて解説を始めた蓮の話を、真魚がスッパリとぶった切る。

 ちょっとした雑学で場を盛り上げようという気持ちが無意味と化し、蓮は人差し指を立てた姿勢のままフリーズする。そんな蓮を、十三とユーリヤは哀れみの目で見つめていた。

 違う、哀れみが欲しいんじゃない。ちょっとした話を許してくれる優しさが欲しかったんだ。先の十三の行いでやるせなくなっていた蓮は、追撃の仕打ちによって心の中で涙を流していた。

 

「……まぁ、その……蓮さん、蝋燭置いてもらえますか?」

「……うん……いいわよ……」

 

 落ち込んでいる蓮の気分を紛らわせようと、ユーリヤは燭台に刺した蝋燭を蓮へ差し出す。

 感情の凹みを雰囲気(オーラ)として纏っている蓮は、素直にそれを受け取り、何も言わずテーブルの端に置く。続いてユーリヤは二本目を取り出し、それを蓮がまた別の隅に置く。

 三本。四本。四隅に全て置き終えると、さらに五本目の蝋燭が差し出される。蓮はそれをテーブルの中央に置く。

 そして、六本目が差し出された。

 

「――ちょっと待ってユーリヤ。蝋燭、何本あるの」

「え?……ニ十本ぐらい、ですかね」

「多いわよぉ!この狭い中にどうやって置けばいいのよぉ!」

 

 パーティーの雰囲気を出そう、そう考えたユーリヤではあったが、実際にどのぐらいの数があればいいのかはわからなかった。

 足りなくなるよりは、多く持っていった方がいい。そういう考えで、ユーリヤは燭火礼拝で配る為の蝋燭と燭台を、全てまるごと持ってきていた。

 

「え、ええと、蝋燭が消えた時の予備とか……あと、手に持つとかどうですか」

「そんな大量の予備はいらないし、手を塞いでどう料理食べろってのよ!」

「……っ!た、確かに……っ!」

「今気付くの!?」

 

 こういった行事に疎いユーリヤが、蓮からの指摘でようやく自分の思考のズレに気付く。

 なんという事だ。よくよく考えれば蓮のセーフハウスは教会よりも遥かに小さく、燭火礼拝を想定しての量など並ぶ訳が無い。少し考えればわかりそうな、しかし見落としていた事に、ユーリヤは愕然とした。

 

「おじさん、ライターある?」

「あるぞ」

「ん、ふぁいやー」

「もう点け始めてる!?」

 

 そんな蓮とユーリヤをスルーし、十三からライターを受け取った真魚はテーブルの上の燭台に火を点け始める。

 普通こういうのは、全員の準備が整った後にするものではないのか。そんな蓮の考えなど何処吹く風として、テーブルの上の燭台全てに火が灯る。

 まるでまとまりの無い混沌とした状況に、蓮のツッコミは間に合わずにいた。

 

「いやだって、もうおなかすいたし。やるならちゃっちゃとやろうよ」

「風情が欠片も無いわ……」

 

 もはや待ちきれないとばかりに真魚はライターのスイッチをかちかちと指で弾き、真魚の感じる暇を表す様に火を点滅させている。

 態度はともかくとして、実際腹は空いてきている。これだけの料理を前に何もしないというのも確かに生殺しだ、そう考えた蓮はそれまでの話や考えを一旦打ち切る事にした。

 

「ほら、ユーリヤ。もう蝋燭はいいから、こっちの席に着いて」

「わ、わかりました……なんだか、すみません」

「ふーっ」

「なんでもう火ぃ吹き消してるのよ真魚ちゃん!」

 

 蓮・ユーリヤ、真魚・十三と、それぞれがテーブルの二方に着いた瞬間、隅にあった蝋燭を真魚が吹き消す。

 なんで電気を消してパーティーを始めようという時に消しているのか。フライングというにもあまりにも早すぎる行動に、蓮は言葉を荒げた。

 

「ふぁいやーっ。ふーっ。ふぁいやーっ」

「蝋燭で遊んでるんじゃないわよ!点けたままにしなさい!」

 

 そんな蓮の言葉を聞き流し、真魚は蝋燭に火を灯しては消し、さらに点ける事を繰り返す。

 明らかにおちょくりに来てる真魚の行動を、蓮は殆ど怒り寸前の声で諌めた。

 

「ん、これで場があったまったね」

「あったまったのは私の頭なんだけど」

「めでたい日だし、ぶれいこーって事で」

「無礼講は無礼を許す日って意味じゃないわよ」

 

 そこでようやく真魚の奇行が止まり、蓮はため息をつく。

 なんでクリスマスでこんなに疲れているんだろう。そんな渦巻く疑問に捉われる前に、蓮は照明のリモコンを手に取り、さっさとパーティーを開始する事にした。

 

「……どうせだし、最初にケーキからいきましょうか。十三さん、ケーキ出して」

「承知。どっちもか?」

「ええ、お願い」

 

 せっかく蝋燭の明かりがあるなら、ケーキから食べ始めた方が雰囲気が出るかもしれない。そう考えて十三にケーキの箱を取り出させ、蓮は中央の蝋燭近くの料理を移動させる為に持ち上げる。

 蓮の買ってきた白いクリームの乗ったホールのショートケーキと、十三の持ってきた太い薪を模した茶色のロールケーキが十三の手によって中央に置かれる。空いた隅のスペースへ、蓮は手に持った料理を置いた。

 

「はい、小皿と飲み物」

「ありがとうございます」

「おう」

「しょぼい」

「一言余計よ」

 

 そうした上で、蓮が紙コップにジュースを注ぎ、紙皿と共に三人へ渡す。

 まともなコップや皿すら用意出来ないのは確かに落ち度だった為に、蓮はあまり強く真魚を責められない。とはいえ、ようやくパーティーの準備は整った。

 

「それじゃ、電気消すわよー」

「すぅぅぅ」

「電気消した瞬間に火消す、はナシよ真魚ちゃん」

「……やだなぁ、そんな事するわけないじゃん」

 

 蓮が電気を消そうとした所で、真魚は深呼吸をする。これまでの傾向と状況から、真魚がやりそうな事を蓮は予測した。

 一瞬真魚が挟んだ沈黙が、そのまま答えだった。油断も隙もありゃしない、蓮は内心で頭を抱えるも、ようやくこのフリーダムガールに対して一矢報いる事は出来た。

 そうして蓮は真魚が次の行動を思いつく前に、部屋の照明を落とした。

 

「おー、結構雰囲気でるねー」

「ええ。燭台ってのも、こうして見ればいいものね」

 

 真っ暗となった部屋内を、五つの火明かりが暖かさと共に照らす。限られた光が暗闇の中に蓮達の顔を浮かび上がらせ、光の背には影が色濃く出る。

 火の眩しさと夜の暗さが共存する空間に見えるのは、テーブルの上にある料理と蓮達の体だけだった。人工的な電気の明かりでは生まれない明かりの中で、蓮達は互いに見つめ合う。

 

「……さて。皆、今日は集まってくれてありがとうね。危険な仕事ばかりだったけど、皆無事で今日という日を迎えられた事には――」

「そういうのいいから。さっさと乾杯しよーよ、ほら」

「…………」

「れ、蓮さん……」

 

 蓮が挨拶としてこれまでの仕事に関する感謝を全員へ伝えようとするが、その話の出だしは真魚の言葉によって止められる。

 完全に話の頭を潰された蓮は、力を失った目で真魚を見るも、真魚の目には既にテーブルの上の料理しか映っていなかった。どうやら、本当に蓮の話には興味が無いらしい。

 こうなっては、何を口にしようとしても真魚に止められる事だろう。暫くの沈黙を挟んで、蓮は結局パーティーの開始を優先する事にした。

 

「……それじゃ、皆。メリークリスマス」

「メリークリスマス、です」

「おう」

「めりくりー」

 

 まるで揃わぬ挨拶と共に乾杯し、蓮達のクリスマスパーティーは始まった。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「あ゛ーっ!真魚ちゃんそれ私のローストビーフーッ!」

「ん、しょせんこの世は弱肉きょーしょく、遅いからたべられるんだよ」

「おいしいっ……!お肉が……凄くおいしいですっ……!」

「……姦しいねえ」

 

 その夜のセーフハウスは、絶えず賑やかな声が響き渡っていた。

 




蓮ちゃん達のクリスマスパーティー編でした。イブから勢いだけで書き上げました。

色々あって集まりは悪そうないぶすたのキャラ達ですが、それでも仲良くパーテイーとかする機会があったら嬉しいなという願望です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。